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103話 グランドトーナメント (2)

『見えた!』


周囲のすべての音が聞こえなくなった。プルックと息を吸い吐くレスカの息遣い、観客たちの声、自分の心臓の鼓動さえも聞こえず、まるで別の世界に迷い込んだような感覚がレーベンの全身を包み込んだ。


澄み渡った意識が全身に広がっていく。ゆっくりと動いているデュラードの姿に、彼が持つ盾の下の小さな隙間(すきま)がレーベンの目に飛び込んできた。


レーベンに向かって駆け寄るデュラード。


自分より低い位置にいるレーベンが盾を高く掲げて頭を守ろうとした瞬間、馬上(ばじょう)からわずかにためらったが、答えはすでに決まっていたかのように迷いの時間は長くはなかった。


『盾ごと押し倒してやる』と判断を下したデュラードのランスが、レーベンの盾に向かった。そして自分のランスに跳ね返ってくる鈍い衝撃を感じ、デュラードはにやりと笑った。


しかしその笑みも束の間、自分のランスが触れた瞬間、レーベンが盾をそのまま下ろし、ランスの先端を滑らせるように流したのを、デュラードは驚きの目で見つめた。


わずかな上下動の合間にできた極めて小さな隙間。(かぶと)の中で目をぎらりと見開いたレーベンが体をさらにひねり、右手のランスを長く突き出した。


『俺のランスが先に届く!』


―クワジャクッ―


「ぐええっ!」


折れて飛び散るランスの破片、重々しい金属音と馬の(いなな)き。そしてデュラードが短く吐いた苦痛の声とともに、彼は馬上から転げ落ちた。


デュラードの盾を掠め、体躯(たいく)の脇腹に深く突き刺さったレーベンの鋭い一撃に、鉄壁のような重装の騎士はバランスを崩し、倒れた。


―うおおおおおおおお!―


勝者を讃える大歓声が響き渡った。


「ははっ! 勝ったぞレスカ! 俺たちの勝利だ!」


兜のバイザーを上げて振り返ったレーベンは、明るい笑みを浮かべ、緊張が解けた笑い声を上げながら言った。


激しく太い雨粒が降り注ぐような拍手が、競技場全体を満たした。


「あの巨漢が吹っ飛ぶなんて!」


「素晴らしい! 紫の花の騎士!」


「騎士様~、おめでとうございます!」


観客席からは無数の拍手と歓声が湧き上がり、特別席の高台では貴族たちが優雅に手首を軽く叩く拍手とともに、勝者の高揚に体を軽くし、競技場を回りながら観客たちからの応援と勝利の祝福に応えるレーベンとレスカの姿を見つめていた。


両目を閉じ、両手を大きく広げて顎を上げた姿勢で、自分に向かって降り注ぐ拍手喝采(かっさい)を全身で味わう。


勝者だけが享受できる至上のごちそう。この瞬間だけは誰にも譲りたくない極上の喜び、この世で唯一、酒よりも甘いその味を、レーベンは叫んだ。


「そうだ! この気分だ! 俺が永遠に感じていたい、勝者が受ける歓声! 熱狂する観客たちの声!」





<ディベルテ>


ヴェス・ディナスの外れ、新市街地。祭りの雰囲気に浮かれる人々の声が満ちた通り。吟遊詩人(ぎんゆうしじん)が指先で奏でるリラの音が響き、肉を焼く煙が立ち込める食堂や、大きな果物を手に通り過ぎる人々に声を張り上げる商人の呼び声が聞こえてくる。


大都市の通りは常に騒がしく賑わう場所だが、グランドトーナメントが開かれるこの時期は、いつもとは少し違う人々が通りを埋め尽くしていた。


騎士たちとそれに従うスクワイアや召使い、従者たちが、彼らを象徴する紋章(もんしょう)の描かれた旗と盾を掲げ、王国内の各地からそれぞれの理由を抱えてヴェス・ディナスに集まってくる。


新市街の隅に位置する一軒の酒場。建物の入口には重武装の騎士たちが酒場の入り口とその周辺を固めていた。


明るい黄色で描かれた城門を象徴する紋章の上に、高い城壁を象徴する紋章が重なったカビル家の紋章だった。


カビル家門の騎士たちが眼光を輝かせて守る酒場の内部では、二人が会話を交わしていた。


大きなテーブルの片隅に腰を下ろし、向かいに座る相手に微笑みかける、濃い赤褐色(せっかっしょく)の髪の男。


カビル家の紋章が金糸で刺繍された赤いタバードをまとい、黄金の酒杯を手に持つこの男の名はアード・カビルである。


獅子穴(ししあな)の南 、ウェイルドの獅子。カロブディフの主であるカビル家で最も若い四男として生まれたこの高貴な生まれの男は、幼い頃から受けた教育と管理のおかげか、容姿も立ち居振る舞いも落ち着きと気品に満ちていた。


急遽用意されたアード・カビルの宿である酒場の内部には、粗末な床を覆うための毛皮製の毯子(たんし)が敷かれていた。酒場のホールに染みついた食べ物と酒の臭いを消すための香炉(こうろ)があちこちに置かれ、細い煙を上げていて、室内は視界をぼんやりと曇らせる空気で満たされていた。


「ディベルテ。曲剣(きょっけん)の狂人。お前をこのヴェス・ディナスまで連れてきた理由は、よく分かっているだろう?」


「は、は、はい……よ、よくわかっています。」


アードと向かい合って座るディベルテという名の男が、どもりながら答えた。素早く目をきょろきょろさせ、絶え間なく首を振りながら周囲を警戒する頭と、びくびくと体をよじる異様な仕草に、アードは不快げに顔をしかめた。


ディベルテの外見は、貴族として生きてきたアードにはあまりにも異質だった。ところどころ抜け落ちた髪、揃いのない長さで伸びた髪に、顔を横切る傷跡。震える唇、一瞬たりとも静止しない手。小さな声で独り言を呟くディベルテの姿は、誰が見ても精神が正常でない人間そのものだった。


そんな彼の外見の中で、アードの目にも唯一美しく映ったのは、青く透明なディベルテの瞳だった。素早く動きながらも時折動きを止め、ぼんやりと焦点を失うその瞳にだけ、アードの視線がわずかに留まっていた。


「そうだな。高く買った分、相応の働きをしてもらわねば。とはいえ、人を殺せとは言わないから、そこは気をつけてくれ。バナスどもの街のど真ん中で人が死ねば、面倒が大きすぎる。」


「は、はい、はい、はい……人は殺しません。人は殺しません。ヒヒヒ。よくわかっています。レアベッラがとても残念がっていますが、大丈夫です。私が……もっとたくさん愛してあげればいいんです。」


不気味な笑みを浮かべてディベルテが答えた。そしてアードがレアベッラについて聞く前に、彼がテーブルに置いたエメラルド、ルビー、サファイア、トパーズ、ダイヤモンド、無数の宝石が埋め込まれた過度に華美な短い曲剣の(さや)に顔をすり寄せ、恋人を愛でるような仕草をしたことで、レアベッラの正体がその曲剣であることがわかった。


「ふむ。まずは金に見合った働きをするか、試しに簡単な仕事を一つやってもらおう。次の相手はナチェル家の男爵だが、あのつまらない男爵の馬を殺してくれ。できれば首を切り落として、奴の寝台の中に置いておいてくれたらなお良い。」


「ナ、ナ、ナチェル男爵の馬。首を切って寝台の中に。わかりました。わかりました。」


アードの指示を聞いたディベルテは、抱えていた鞘を下ろし、口角が耳まで裂けそうな大きな笑みを浮かべて答えた。


「ナチェルめ。小さな村一つを領地に持つだけの男爵のくせに、俺が今度のトーナメントに参加すると聞いたら、その馬を俺に売れと言ってきたんだが……」


『私の長年の友人を売るわけにはいきません。それに私も今回のグランドトーナメントに参加しますので。この子がいないと困るんです。』


アードの脳裏に、自分の提案を拒否するナチェル男爵の顔が浮かび、思わず胸がむかつくような表情を浮かべ、自分の手のひらに爪が食い込むほど強く握りしめた。


「ふさわしい主に巡り会えぬ馬など、それだけの価値もない。任された仕事をしっかりこなせ、ディベルテ。拒否を許さぬ提案者の伝言を、きっちり届けてこい。」


「へへへへ。は、はい。がっかりさせません。」


ディベルテが片方の頰をテーブルにくっつけ、大きく見開いた青い瞳でアードを見上げながら言った。


「これからトーナメントが進む間、やることは山ほどある。一つの方法だけで相手を落とすのはつまらないからな……。毒を盛ってもいいし、耳元で俺の代わりに何言か伝えることもあるだろうし。ふむ……腕や足くらいなら、目立たない程度に傷つけてもいいか? ハッハハ。」


アードが笑いながら、いつしか懐から取り出した小さな花が刺繍された手巾(しゅきん)で、大切なレアベッラの入った鞘を拭いているディベルテを見て言った。


「ああ、仕事を始める前に。これを贈り物にやる。」


アードは着ているタバードの襟元に手を入れ、小さな袋を一つ取り出し、その中から小さな球体を二つ取り出して、ディベルテの座る場所へ歩み寄り、目の前に置いた。


「こ、これは何ですか?」


ディベルテが目の前の白い球を震える指先でそっと触れながら、顎はテーブルにくっつけたまま、目だけを動かして高く見上げ、アードに尋ねた。


(あめ)だ。ただし材料が特別でな。ロンデラ島の砂糖と、パゴスの聖なる木、ロータスの実の汁を混ぜて作ったものだ。二つやったから、愛する恋人と一緒に食べればいいだろうな、ククク。」


アードが小さく笑いながらディベルテに言った。『恋人と分け合え』という自分の言葉とともに嘲笑を込めて、ディベルテがどんな反応を見せるか興味深げに、再び席に戻り、笑いじわの浮かんだ目で向かいに座る青い目の男を見つめた。


「では……いただきます。レアベッラも喜びます。レアベッラはきっと大喜びしますよ。ヒヒヒヒ。」


静かな声で礼を言っていたディベルテの声が次第に大きくなり、酒場のホールに不気味な笑い声が響いた。


―カリッ―


親指と人差し指で小さな白い飴をつまみ、ディベルテの口の中へ入った飴が砕ける音を立てた。


「おおうううむ!甘い!こんな甘い味は初めてです!」


口の中を痺れさせる甘さに、ディベルテの目が大きく見開かれ、口内に残る甘さを探すように忙しく舌を動かしていた。


「ふん。お金があっても味わえない味だから、その味をよく覚えておけよ。ハハハハ。いやいや、まだ一粒残ってるじゃないか。さっきレアベッラの分として渡したのを食べれば、また一度味わえるぞ。」


アードが乱れた前髪をかき上げながら、からかうような口調でディベルテに言った。

お読みいただき、ありがとうございました。

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