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兄妹喧嘩

やっと動揺から立ち直って後ろを振り向く。

二佳は下を向いていて表情を窺うことは出来なかった。

それでも、何か言わなくちゃと思って、必死に言葉を探す。


「これは動画の編集だよ。ストリーマーさんを見ているうちに自分でも動画を作りたくなっちゃって…」

「…なんの、動画?」


二佳にはそう問われたが、僕のPCモニターを見れば答えは一発だった。

有名なVtueberの配信画面にテロップをいれているところだったのだから、誤魔化しようがない。


「切り抜きの動画、だよ。長く見ているうちに、自分も発信したくなっちゃって…」

「…本当に、それだけ?収益とかは考えてない?」


二佳がそこで初めて顔を上げた。

不安そうに僕の顔をのぞき込む二佳は、すごく不安そうで、僕が答えを間違えれば壊れてしまいそうに見えた。

だから、とっさに僕は二佳を安心させられる言葉を選んでしまった。


「…考えてないよ。本当にこれは趣味なだけだから」

「嘘つき」


しかし、僕の姑息な答えは二佳には通用しなかった。

こちらを窺うような表情から、きっと睨め付ける怒った表情へと変化する。

二佳に嘘をついてしまった罪悪感に胸が苦しめられる。


「…私はただ、にいがまた新しい趣味に没頭してくれたんだと思って、すごく、嬉しかったのに…」

「す、好きで配信を見ていたのは本当だよ!それは嘘じゃないから!」

「…そんな…、……っ……!」

「二佳?」


二佳は必死に何かを言おうとしているけれど、たくさんの言葉が詰まって、うまく声にならないみたいだった。

感情が高ぶるとこういうことは昔からよくあった。

だから、僕は二佳の言葉を、何を言われるのかと恐怖しながらもじっと待っていた。

だけど…。


「……もう知らない」


二佳は僕に何かを伝えることを諦めた。

背を向けて部屋を出て行く二佳。

それがひどく寂しくて、苦しくて、見捨てられたような気になって。


「待って…!ごめん、二佳。ごめん…!」

「……」


ひたすら情けなく謝っているとドアの前で二佳が止まってくれた。

二佳がどうしてこれほど感情を高ぶらせているのか、僕に何を思っているのか、正直な所よくわかっていない部分も多い。

だけど、一番の問題は二佳に隠し事をしたことだと思い、必死に弁明の言葉を考えて…、考えながらも言葉を紡いでいった。


「その…、隠しててごめん。会社を辞めた時と比べると、今ではだいぶ元気になった方だけど、二佳に知られたら心配をかけちゃうと思って…。今度からはちゃんと相談するから…」


何の反応も示さない二佳に、だんだんと言葉に自信が失われていく。


「…にいは、悪くない、よ」


最後にそんな言葉を絞り出すようにして言ってから二佳は今度こそ部屋から出て行った。


最悪だ…。

思い出すのは、1年近く二佳に避けられて、僕からもできるだけ干渉しないように過ごしていた日々の記憶。

またあの日常に戻ってしまうんじゃないかという恐怖心に駆られた。

そんな自分を守るために、別に元に戻るだけ、これまでが奇跡だったんだと、情けない慰めの言葉ばかりが頭に浮かんでくる。

心の中が暗い感情でいっぱいになりそうになったところで、僕は頭を左右に振って無理やり感情を誤魔化した。

…ダメだ!

ここで引きずり込まれたら本当に二佳との関係が修復できなくなる。

今考えるのは、自分への慰めの言葉でも言い訳でもない。

二佳になんて言って謝るかだ。

こういうのは時間が空けばあくほどよくない。放置すればするほど声をかけにくくなることはあの1年間の経験からよく知っている。

早く、早く、しないと。

しかし、焦燥感が募るばかりで具体的な言葉は何一つ浮かんでこない。

次第に、じっと座っていることも耐え切れなくなり、僕は部屋中を歩き回った。

すぐにでも二佳の部屋へ行って謝るべきだろうか。でもまだ謝罪の言葉は考えられていない。

いっそのこと百奈さんに相談してみるのもありだろうか。二佳が何に対して一番怒っているのか百奈さんならわかってくれるかもしれない。

あと頼れるのは零先輩か。会社では誰とでも仲良くしていたし、コミュニケーション術みたいなのには長けていそうだ。

あとは、あとは…、母さんや父さんにも話を聞いてもらえたら…。

って、僕は何を考えているんだ。二人はもう…。


「……はぁ、はぁ」


あれ、なんだ、身体が熱い…。

自分の身体の異常性に気が付いた途端、目の前が真っ白になり、身体に力が入らなくなった。


「あ、れ……」


部屋の中を歩いていた僕はそのまま受け身も取れずに床に転がってしまう。

瞼が、重い。身体が、重い。

もう自力では立ち上がれそうになかった。

なんだか、ものすごく眠たくなってきた。

……そういえば、最後にちゃんと寝たのっていつだったっけ。

えっと……。

………………だめだ。もうなにもかんがえられそうにない……。

僕の意識はそこで途絶えたのだった。

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