推しストーリーマー(Vtuber)を見つけよう!
「そもそも『すとりーまー』っていうのは?」
何もわからず僕が尋ねると、二佳はすらすらと説明してくれた。
「...ストリーマーっていうのは配信者のこと。生放送を個人で行なってゲーム実況とか、雑談とかを配信するの」
「えっと…、脱法天使ちゃんみたいなこと?」
「...ちがう!私は配信はして......あ」
「ん...?」
「...と、とにかく、私は本業は配信じゃないからストリーマーじゃないの」
この反応...、配信はやってみたことはありそうだな...。
とはいえ、二佳なりに隠そうとしているみたいだし、ここは気づかないふりをしておいたほうがよさそうだ。二佳には絶対に嫌われたくないからね。
「ゲーム実況者とかは聞いたことあったけど、今では総じてストリーマーっていうんだね。Youtuberとかとはまた違うの?」
「…Youtuberは特定の配信サイトで動画コンテンツを提供するのがメインのイメージだけど、ストリーマーは配信サイトにこだわらず、生放送をする人たちだから。動画は長いと見てもらえないから短いものが多いけど、ストリーマーはその人の体力次第ではとても長くなるし、あとからアーカイブとして見返せるから、全部追おうとすると時間が解ける。…だから堕落させるにはこっちがぴったり」
「…なるほど」
二佳も日ごろから色々なストリーマーを見ているのか、説明にも熱が入っていた。
「...いろんな人がやってるから探せばきっとにいにも推しの人が見つかると思うし、基本的に全部無料で見られるからこれならにいも楽しめると思う、よ?」
ソシャゲはガチャ石の値段を意識してしまってどうしても楽しめなかったからね...。
「ありがとう。僕のために色々考えてくれて」
「……百奈にも考えてもらったから」
それでも、きっと一緒に考えて欲しいともちかけたのは二佳なんじゃないかと思う。
二佳の恥ずかしそうな反応からそう思った。
「…それじゃあ早速、にいには好きなストリーマーを見つけてもらうわけだけど」
「うん」
「…にいの好きなタイプを教えて?」
「え?えっと…」
そこからおすすめのストリーマーを二佳が紹介してくれるっていう事なんだろうけれど、好きなタイプと言われるとどうにも答えるのが恥ずかしい。
「僕の好きなタイプ…、えっと、好きになりそうな配信者のタイプでいうと、ゆっくりと落ち着いて喋るようなタイプがいいかも。ゲーム実況動画は前に学校の友達に勧められて見たことがあったけれど、みんなテンションが高くて疲れちゃったから…」
「…わかった。それじゃあ『癒し声 生配信』っと…。たぶん、これでにいが好きな配信者さんの候補がいくつか出てくると思うから、気になったものを再生してみて」
そう言って、PC前の椅子を二佳が僕に譲った。
マウスを操作して検索結果を見ていくと、ライブ配信中のマークがついた放送がいくつかと、二佳が説明してくれたアーカイブと思われる2、3時間くらい尺がある動画がたくさん出てきた。
「なんだかアニメキャラみたいなのがたくさんいるのだけれど、これもストリーマーさんなの?」
「…それはVtuber。元々は、三星ステラっていう人が火付け役になって、そこからみんな後を追うようにしてたくさん増えたんだよ」
「そうなんだ。…なんとなく実写の人の配信を見るのって恥ずかしい気持ちがあるから最初はこういうのから見てみようかな…。とりあえず火付け役になったっていう三星ステラさんを見てみてもいいかな?」
「…う、うん!その人も癒し系だからにいにはぴったりだと思う!」
二佳が前のめりになって教えてくれる。この反応からして二佳も好きなのかもしれない。
見たい理由がまた一つ増えた。
「…あ、でも…」
「ん…?」
「…二年くらい前に突然更新しなくなってるからアーカイブを追うか、初期のころの動画を見るくらいしか出来ないと思う」
「そうなんだ。でも、まずは試しに見てみるだけだから…」
そう思ってひとまず検索してみると、三星ステラさんのアカウントを見つけることができた。見るとチャンネル登録者の数が300万人を超えている。さすが火付け役と言われている人だ。
ひとまず2時間くらいある最新の生配信のアーカイブを再生してみる。
すると、キャラが愉快に踊るオープニング映像が流れてきた。
「すごい、本当にアニメみたいだね」
「…うん、Vtuberさんは、生放送が始まる前はこういう映像が流れることが多いよ。…あ、あと、最初から全部を見るのは大変だから、コメント欄でタイムスタンプを貼ってくれている人を探すといいかも」
「タイムスタンプって?」
「…ファンが多い有名なストリーマーなんかだと、動画の特定の箇所を指定して、ここでこういう話をしているとか、そういうのをまとめてくれる人がいるの。最初はそれで気になる話題の所から再生するといいと思う。貸して…」
二佳は僕のマウスの上に手を置くようにして操作してコメント欄を開いた。
コメント欄を見ていくと、ステラさんの復帰を望む声がたくさん投稿されている。
本当にみんなから愛されていたんだな…。
まだ声も聴いてないというのに、僕の中にもなんとなくスタラさんに復帰してほしい気持ちが湧いてくる。
そんな中、二佳の言う通り、タイムスタンプを貼ってくれている人を見つけた。
「…あった。これ」
二佳がコメントの全文を表示させると、動画の特定の箇所を指定して複数のリンクが作成されていた。
その横には、その時にあった出来事が書かれている。
『16:56 んっ♡ 17:23 はくちゅ♡ 23:45 オ゛オ゛ン゛♡』
「二佳、この人はどういう話題をまとめてくれてるの…?」
「…女性ストリーマーのファンにはよくこういう人がいるの」
「どういうこと?」
「…だから…、あ、喘ぎ声っぽく聞こえる箇所をまとめたり、くしゃみした個所をまとめる人…!…はぁ、この人は外れだった」
「そ、そっか…」
なんとも気まずい空気が流れ、さらっと流すことにする。
すると、ずっと再生していたOPから映像が切り替わり、チャンネルのアイコンと同じキャラクター、三星ステラさんが動画上に現れた。
金髪ショートカットで星形の装飾がたくさんついた髪型に、瞳の中には☆マークがついていた。
『みんな~、こんステ~!三星ステラだよ☆今日も一緒に雑談していこうね』
「あ……」
三星ステラさんの声は、初めて聞いたとは思えないくらいスッと胸の中に入ってきた。
キャラの見た目は元気いっぱいといった感じだが、実際に聞いた声は、さすが癒し声と言われるだけあって落ち着いた大人の上品さのようなものがあった。
ゆったりとしたスピードで話すステラさんの声や間の取り方からはどこか懐かしさも感じられ、一瞬で心を掴まれる。
さすが登録者300万人超えのVtuberだ。
「二佳…この人、すごくいいかも」
「…そ、そう?ふへへへ、まさか一発でにいが好きなVtuberさんを見つけられるとは思わなかった」
僕のポジティブな意見に、二佳もご機嫌になる。
やっぱり二佳も三星ステラさんのことを好きだったようで、それから二佳は三星ステラのおすすめの動画を紹介してくれた。
PC上ではそのままステラさんの配信を聞きながら、二佳が自分のスマホを操作して僕におすすめ動画のサムネイルを見せてくれる。
「…この切り抜き動画は200万再生を超えるくらい再生されてて、ここから生まれた名言がネットの流行語にもなったんだよ」
「えっと、切り抜き動画っていうのは?」
「…最初に言ったけど、アーカイブの動画って結構長いでしょ?だから、見どころとなる所だけを切り抜いて発信する人がいるの」
「それって、権利的に大丈夫なんだ」
「…詳しいことはわからないけれど、ちゃんとガイドラインに則って許可とれば大丈夫みたい。それで稼いでいる人もいるって聞くし…」
稼いでいる人がいる…、その言葉を聞いた途端にチクリと胸が痛んだ。
今もどこかでこうやってお金を稼いでいる人がいるのに、僕は本当にこのままでいいのだろうか。
インターネット料金だって払わないといけないし、貯金も目減りする一方だ。
やっぱり今すぐにでも働いた方が…。
「…にい、にい、大丈夫?」
「あ、ごめん。ぼーっとしちゃってた」
「…ふへへ、ステラさんの声を聞いていると眠くなるから」
「そ、そうだね…」
二佳の前にいる時は今の時間を楽しむと決めていたのに、ついお金のことを考えてしまう。
けれども、二佳には出来るだけ悟らせないように笑顔で誤魔化した。
それからは内心では色々なことを考えながらも、ステラさんの配信を二佳と一緒に静かに聞いていた。
二佳は僕が新しい趣味を見つけてくれたのが嬉しかったのか、終始ご機嫌な様子だった。
※※※
数日後。
「やっと準備が整った…」
僕は自分のパソコンにフリーの編集ソフトをダウンロードし、切り抜き動画を作るにあたっての許可どりやノウハウについて一通り勉強をし終えた。
まだ心が言うことを聞かず、就活をすることは難しい。それでも少しでもお金を稼いでおきたいと考えたのが、趣味をお金にする方法、切り抜き動画の作成だ。
二佳も脱法天使ちゃんの活動で収益を得ていると言っていたし、このまま本当に何もしないでいるのはどうにも耐えられなかった。だから、二佳から話を聞いた切り抜き動画で少しでも収益が得られないかと調べて、ようやく今日全ての準備が整ったのだ。
それからの日々は、昼から深夜の間は二佳とオンラインゲームをしたり、たまにアニメを見たり、また別の趣味を探したりしながらも、二佳と解散した後は、Vtuberの配信を見て、切り抜き動画を作り続けた。ステラさんは最新のアーカイブがないため今から切り抜き動画を作るのは難しいと考えて、ガイドラインを出して切り抜きを歓迎しているVtuberを選定した。
完成した動画はすぐに公開し、収益化を目指して毎日投稿を続ける。
そんなことを一週間続けた日。いつものように二佳と解散した早朝の時間に、動画の編集をしていた時だった。
「…にい、なに、してるの…?」
「え?」
いつの間にか後ろに立っていたらしい二佳から話しかけられた。
その声は、聞き取るのがやっとな程にかすれ、震えている。
声に混じる感情に怯え、二佳の顔を見るのが怖くなった僕は、ただ手を止め、じっと黙ることしか出来なかった。




