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豪運の持ち主?

深夜3時。学生や社会人の多くが明日に備えて寝ている時間に、僕と二佳、そして百奈さんはひたすらMMORPGをプレイしていた。


「や、やっと4章クリアできた!じゃあ、キリもいいし今日はこの辺で…」

「お兄さんも結構レベル上がって来たよね~、あと少しで俺たちと一緒に高難易度クエストに挑戦できるじゃん!」

「…まだまだやることはたくさん」

「ということで、そのままストーリー進めよっか。メインクエが一番経験値美味しいしね」

「…………」


僕がMMORPGを始めてから数日。僕が面白いと言ったことで遠慮のなくなった二佳からぐいぐいと迫られ、朝から晩まで…、というより今では生活リズムが完全に狂って、晩から朝まで延々とプレイすることになった。

情けないことに就職活動にはいまだに着手できていない。というか、二佳に監視されてさせてもらえないというのが現状だ。貯金の心配や不安は募るけれど、二佳と毎日お話しできる今の時間も大切なので、言われるがまま二佳に付き合うことにしていた。

百奈さんも今は学校が夏休みということで、遅い時間にもかかわらず毎日参加してくれている。一応アルバイトはしているそうなのだが、一体いつ寝ているんだろう...?


「ふわぁぁ……」


と、小さな口を開けて可愛いあくびをしたのは二佳だ。

僕と同じ時間に寝ているならそこそこ睡眠時間はあるはずだけど、二佳は最近、いつも眠そうにしている。僕が眠っている間も何かやっているんだろうか?


「眠いなら無理にやら」

「やる」

「…う、うん」


さりげなく寝かしつけようとしたら、即答で拒否されてしまった。

健康には気を付けてもらいたいけれど…って、言っても、少し前までは僕の方が寝れていなかったし、説得力はないんだろうな。

今でこそへとへとになるまでゲームをしているからちゃんと眠れているけれど。

その時、スマホが震え、百奈さんからメッセージが届く。


『今の二佳ちんのあくび超かわいくなかった?』

『てか、あくびってエロいよね?あんなんほとんどフェ』


最後までメッセージを読まずに、既読スルーをしてスマホを閉じる。

百奈さんと連絡先交換してから、時折、というかしょっちゅうメッセージが飛んでくるようになった。今みたいに二佳に関するゲスい感想のほか、二佳へのポエムが送られてくることがほとんどだが、ゲーム会が終了した後は、今日も楽しかったといった感想を伝えてくることもあった。

そういった感想の中では必要以上に僕のことを褒めたたえることが多いので(ナイスヒーラーだった、とか、あの時超かっこよかった~、とか)、たぶん百奈さんも二佳の堕落計画を積極的に応援しているんだと思う。僕をゲームの沼に堕とすためにそう言ってくれているに違いない。

…違いないのだけど、実際、褒められるのは素直に嬉しかった。楽しい気持ちで同じ時間を過ごしてくれたんだと思うと安心できるし...。


その後も、二佳と百奈さんに連れられてサクサクとストーリーを進めていると、新しい国に入る。

中央には大きな城が立っており、町の中には獣人と呼ばれる獣の耳をつけた人が住んでいた。


「やってきました『わんにゃん王国』!これってぷるるんクエストにも出てくる国で、ユーザーからも一番人気が高い国なんだよね~!」

「…うん、そっちはソシャゲだけど。リセマラが終わったらにいも是非やってほしい…」


妹にそう上目遣いでお願いされて拒否できる兄がこの世にいるだろうか。いや、いない。


「うん、もちろん。でも、ぷるるんクエストって実はガチャだけなら回したことがあるんだよね」

「…え!?」


雑談しながら国の中をえっちらおっちら移動していると、なんやかんやあって、王様と謁見することになった。

そこでは、僕にとって見覚えのあるキャラクターが王様の護衛として控えていた。


「このキャラは知ってる。ワンドレッド・ニャンターンだよね」


確か、見た目はものすごく強そうなマッチョ犬なのに、語尾はにゃんでお魚も大好きっていう、犬と猫の両方の特徴を兼ね備えたキャラクターだったはずだ。


「お、正解!ぷるるんクエストでもちょ~人気のキャラだから、さすがに知ってた感じ?」

「というより、会社の先輩が大好きなキャラクターだったので。ピックアップガチャというものをよく回されていたんですよね」

「…会社の?」


二佳が少し苦い顔をしたので、慌てて誤魔化すように付け加える。


「えっと、異動になる前の部署の先輩で、その先輩はすごく親切にしてくれたんだよ」

「ふーん。でもさ、ガチャを回すって言っても人のでしょ?なんでその人はお兄さんに回させてたの?すり抜けた後に『何してくれとんじゃい!』ってパワハラするため?」

「ち、違いますよ!本当にその先輩はよくしてくれてましたから!…その人が言うには、自分には運がないから、代わりに回してほしいって頼まれたんです。僕がガチャを回すと絶対に当たると言ってくれたので」

「…絶対に、当たる?」

「え?実はお兄さんって豪運属性持ちだったの!?なにそれ面白そう!二佳ちん、ちょっと試してみない?」


そうして百奈さんからの提案で、一時ゲームを中断し、二佳がリセマラ中という、『ぷるるんクエスト』の最初のチュートリアル終了後のガチャを引かせてもらうことになった。


「もしにいが本当に豪運の持ち主だったら、今度から俺のガチャも引いてもらおうかな」

「…私もお願いしたい」


も、ものすごい期待のまなざしで見られている...。

プレッシャーが重い。

けど、もし本当に僕に豪運の力が備わっているのなら、こんなに嬉しいことはない。

これまでもたくさんよくしてもらったし、できることなら二人に恩返しがしたいから。


「じゃあ、引くね」

「…うん、お願い」


緊張が張り詰める中、10連ガチャのボタンをタップする。

そして出てきたキャラクターは…。


「ゴミ、だね」

「…うん」

「…僕は、無能だ」


どうやら、僕は役立たずだったらしい。


「…に、にい?そんなに落ち込まないで?」

「ふつうこんなもんだし!気に病むことないって」

「会社の先輩からは運がいいってよく褒められていたのに…」

「まぁ、今回引いたのはたった10連だしさ。99パーセントあたるけど、たまたま1パーセントのハズレを今引いただけかもしれないじゃん?」

「…その先輩の時はどれくらい引いてたの?」

「200…」

「…え?」

「毎回、200回くらいは引いてたと思う。早ければすぐにあたりが出て、200回目には絶対に当たりが出てたんだ」


僕がそういうと、二佳も百奈さんもキョトンとした顔で僕を見てきた。


「……にい、それって天井だよ」

「天井?」


二佳の説明によると、ソーシャルゲームのガチャのほとんどには天井というシステムが備わっており、規定回数以上のガチャを回すと必ず当たりがでる仕組みがあるらしい。


「それじゃあ、僕が回すと絶対に当たるっていうのは…」

「…天井まで引いてるから絶対に当たるっていうことだね」

「そんな…。じゃあ、1000回、回して完凸っていうやつの手伝いをした時も、別に僕の運がよかったわけじゃなかったのか...」

「…1000回で完凸っていうと平均より、ちょっと悪いくらいかも……」

「てか完凸ってどんだけその先輩は金持ってんの!?」

「やっぱり僕は無能なんだ…」


結局、僕の豪運で恩返しすることは諦めて、ぷるるんファンタジーオンラインの方に戻ってくる。

淡々とストーリーを進め、住民からの依頼を達成し、敵を倒してレベルを上げていく。ふふ、楽しい...。

やっぱり僕は、不確定な物事よりも、確実な努力を一歩一歩積み重ねていく作業の方が好きだ。

それから二佳たちとも楽しくお話しするうちに、ガチャを外したショックも次第に癒えていくのだった。

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