第97話 妖狐の少女
ケインのパーティにいた荷物持ちの男が、目の前で少女になった。
そんな光景を前に固まっていると、アリシャが何かを思い出したように声を漏らす。
「妖狐……もしかして、珍しい種族の子たちを攫っている犯人もあなたなの?」
「アリシャ。あいつのことを知っているのか?」
俺がアリシャをちらっと見ると、アリシャは頷いて口を開く。
「村の子供たちが誘拐されたとき、色々と情報を集めたんです。そのときに故人に化けて、珍しい種族の子供たちを攫って行く誘拐犯がいると聞きました。」
「なんだそのえげつない方法は」
俺はアリシャの言葉を聞いて顔を引きつらせた。
誘拐といえば、無理やり子どもなんかを攫うイメージだったが故人に化けることができれば、自ら近寄ってくることもあると思う。
連れ去られた先で、故人が偽物であったことをばらされて、奴隷として売り飛ばされる。さすがに、倫理観が疑われる方法だ。
アリシャがきつくルナを睨むと、ルナはクスッと笑う。
「そうだよ。子どもは姿を変えるだけで簡単についてくるからね」
「最低じゃん、そんな方法使うなんて」
リリナはルナの言葉を聞いて、ルナに冷たい目を向けてそう言った。すると、ルナが眉をぴくっとさせてから口を開く。
「それがなに? 一番効率的に攫って何が悪いの?」
「悪いに決まってるじゃん! 人の心を弄んでるんだから!」
「何も知らないくせに……」
すると、ルナは顔を俯かせてギリッと小さく歯ぎしりをした。
どういう意味だ?
俺はルナの言葉に小さく首を傾げてから、後ろにいるマンティコアをちらっと見る。マンティコアは特に暴れることなく、じっとしていた。
「ルナといったな? おまえに聞きたいことがある」
「なに? 答えられる範囲でなら、答えてあげるよ」
「おまえ、ここで何をやってるんだ?」
マンティコアが大人しすぎるのが気になって聞くと、ルナは考える曽部襟をしてから口を開く。
「採掘場で新たな金が発掘されないように妨害交策中。苦労したんだよ。『傀儡化』のスキルもそこまで万能って訳じゃないんだから」
『傀儡化』? 初めて聞くスキルではあるが、ここまで戦ってきた魔物たちの統率の取れた動きから、そのスキルがどんなものなのか大体想像がついた。
いや、今は魔物がどうやってここに運び込まれたかとか、コントロールしていたのかとかはどうでもいい。
「……つまり、俺の名前を使って偽金を売ってる連中と見ていいんだな?」
「そうだよ。時に君の名前を使って奴隷商をやって、時に君の名前を使って偽金で稼いでるの。まぁ、偽金の売買はボクの担当じゃないけどね」
ルナは何でもないようことのようにそう言って、口元を緩める。
どうやら、ルナの口ぶりから察するに、採掘場に魔物を呼び寄せたのは偽金を売りさばいている組織と見て間違いないようだ。
やっぱり、自然に『迷いの森の魔物』がここに集まるなんておかしいもんな。
俺は色々と納得してから、深くため息を吐く。
「なぁ、なんで俺の名前を使ってこんなことをするんだよ。いい迷惑なんだが」
「君が悪者として有名だったからだよ。ケインがちゃんとした悪者に育てばそっちの名前を使ってもよかったんだけどね」
「ケイン? そういえば、なんでケインのパーティで荷物持ちなんかやってたんだ?」
俺はケインの名前を聞いて眉根をひそめる。
本来、アニメではロイドのパーティに加入していたが、今回はケインのパーティに一時的に加入していた。
ロイドとケインに何か共通点があるのかと考えてみるが、思い当たる節がまるでない。
すると、ルナはガックシと肩を落とした。
「いつでも切れる駒が欲しかったんだよ。でも、彼は素質がなかったね。奴隷商のことを教えてあげたのに、すぐに捕まっちゃったし」
「教えてあげた?」
「そうだよ。儲かるよって言ったら、すぐに興味を持ったから色々とね」
俺はルナの言葉を聞いて、色々と合点がいった。
いくらケインが昔のロイドのようになったからと言っても、ロイドが手を出さなかった奴隷商に手を出すのが速すぎる気がした。
知識がない状態でいきなりできることなのかと思っていたが、
なぜケインたちが奴隷商なんかを始めたのか気になっていたが、ケインたちを導いた奴がいたという訳だったのか。
きっと、本来のアニメでも新加入したルナにそそのかされて、ロイドたちも奴隷商に手を出したのだろう。
アニメのロイドと、この世界のケインの共通点は、ただ良い使い捨ての駒になるかもしれないという点のようだ。
「つまり……ケインたちが奴隷商に手を出したのは、おまえのせいってことか?」
「人聞きが悪いな。ボクは少しだけ知恵を与えただけだよ」
俺がルナを強く睨むと、ルナはパッと俺から視線を逸らした。リリナとアリシャが睨んだときと比べて、少しだけ弱気な反応のような気がした。
「ロイドさま。もういいです。あいつを捕まえてから、色々吐き出させましょう」
「私もリリナの意見に賛成です。あまり話していていい気分がしません」
リリナとアリシャは一歩前に出て、各々武器を構えた。俺はそんな二人を見てから頷く。
「それもそうだな。そうした方がよさそうだ」
ルナには聞きたいことが多すぎるし、一度捕まえてからゆっくり話を聞くことにしよう。
「……っ」
すると、なぜかルナは俺の言葉を聞いて言葉に詰まったように黙り込んだ。それから、ルナは顔を上げて余裕のある笑みを浮かべる。
「そうはいかないよ。マンティコア、暴れちゃって」
「ガアアアアアア!!」
そして、ルナの言葉を聞いてマンティコアが大きな咆哮を上げた。俺は空気を振動させるほど大きな声を前に怯みそうなりながら、剣を引き抜く。
どうやら、ルナを倒す前にマンティコアをどうにかしないとらしい。




