第90話 反撃開始
「まさか、ここまでだったとはな」
まさか、ロイドの名前を使って悪さをしていた連中が、ここまで手の込んだことをしていたとは。
こっちが必死に逃げている間も、俺の名前を使ってお金稼ぎをしていたのだろう。そう考えると、さすがに少しイラっとする部分がある。
「……ロイドさまの名前を使って好き勝手なんて許せませんね」
リリナは抑揚のない口調でそう言ってから、ゆらっと捕らえた男に近づいていった。
「ひぃっ!」
すると、捕らえられている男は顔を引きつらせて悲鳴のような声を上げた。
俺はこのままでは男の命が危ないと思い、慌ててリリナの手首を掴む。
「リ、リリナ。待った待った! その人は多分何も知らないから!」
俺が短剣に手を伸ばそうとしていたリリナを取り押さえて揺らすと、リリナは少ししてからハッとしてから、『あれ?』といっていつもの調子に戻った。
……おかしいな。アニメのリリナってここまでヤンデレだったかな?
俺はそう考えながらも、自分の代わりにリリナが怒ってくれたことで、少し落ち着きを取り戻した。
ここで苛立っていても仕方がない。それよりも、俺の名前を使って悪さをしている連中を少しでも早く止めないと。
「ロイド……さん。お礼が遅れてしまいました。この度は、娘を助けてくれていただき、本当にありがとうございました」
俺がそんなことを考えていると、オリスさんが視線を正して俺に頭を下げてきた。
俺は突然頭を下げられて驚きながら、手を横にブンブンと振る。
「いえいえ、ただの成り行きみたいなものでしたから! 頭を上げてください」
すると、オリスさんはちらっと俺を見てから顔を上げて笑った。
「どうやら、色々と誤解をしていたみたいです。まさか、ロイドさんがこんな好青年のような男だったとは」
「いや、それは間違ってはいないと思います。好青年って感じでもないですし」
「随分と謙虚なんですね。噂って言うのは、怖いものだ」
しかし、俺がいくらオリスさんの言葉を否定しても、オリスさんはただ俺が謙遜しているか冗談をいっていると思っているようで、否定すればするほど評価が上がっていってしまった。
いや、本当に少し前までは噂通りの男だったんだけどな。
俺はなんとなく騙している気がして頬を掻く。すると、オリスさんが隣にいるココをちらっと見て真剣な顔をした。
「娘が戻ってきたのなら、奴らの命令を聞く必要もない。すぐにでも冒険者ギルドに魔物の討伐依頼を出そうと思います」
「そうですね。そうしてもらえれば……いや、ちょっと待てよ」
俺は途中まで言葉を言いかけてから考えこむ。
ロイドの偽金事件で商人ギルドが動かない理由は分かったが、憲兵たちが動かない理由はなんだ?
「ロイドさん?」
俺が黙ったのを見て、オリスさんが首を傾げた。それから、俺はちらっと縛られている男を見て口を開く。
「もしかしたら、今回の件で憲兵も動いていないってことは、こいつらが憲兵とか冒険者ギルドの方でも何かしているかもしれません。そうなってくると、下手に動けませんね」
ここまで手の込んだことをやる連中が、標的を商人ギルドだけに絞るとも考えづらい。おそらく、誘拐までしていなかったとしても、商人ギルドだけということはないはずだ。
「このっ、外道がっ」
オリスさんは縛られている男をキッと睨みつけていた。
睨みつけられた男は舌打ちをしてから視線を逸らし、機嫌悪げにしていた。
オリスさんはそんな男の態度に大きくため息を排してから、腕を組んで眉間にしわを入れる。
「だが、そうなってくると、他の街の冒険者ギルドに依頼しないとになるな。少し時間がかかってしまいますね」
「オリスさん。それなら、俺たちに任せてくれませんか?」
「いいんですか? 大量に魔物が発生しているっていう話ですよ?」
「ええ、任せてください」
偽金が広く流通してしまっている原因は、本物の金が入ってこないで価格が高騰してしまっていることが原因だ。
それなら、そこを解決してやれば金の価格も下がって、偽の金が売れなくなるはず。
下手にどこかの街の冒険者を派遣して解決してしまったら、オリスさんや娘のココがまた標的にあるかもしれない。
それなら、冤罪を着せられたロイドが、冤罪を晴らすために採掘場に向かったとした方がいい気がする。
そうすれば、商人ギルドにお願いされてきたとは思わないはずだ。
「それに、このまま舐められたままじゃ終われませんからね」
俺はそう言って、アニメで何度も観たロイドの悪役顔で笑みを浮かべる。
ようやく反撃開始だ。




