第89話 冤罪の裏側
洞窟を抜けてガランの街に向かう道中、山小屋を見つけたので向かってみると、知らない男が縛れていた。
そして、まるで俺に何かを命令されたかのような言葉を口にした。
それから、男はハッとしてから小屋の入り口の方を見た。
「娘は生きているんだろうな! 早く会わせてくれ!」
「娘? というか、あなたは一体――」
「おとうさん!」
すると、小屋の入り口からココが走って中に入ってきた。そして、泣きながら縛られた男に抱きついた。
ん? お父さん?
ココのお父さんってことは、この人が商人ギルドのギルド長?
俺は久しぶりの再会を果たしたような二人の姿を前に、目をぱちぱちとさせる。しかし、二人はすでに俺のことなど眼中にないのか、ぽかんとしている俺をそのままに再会を喜び合っていた。
「ココ! 無事だったか!」
「うん! ロイドさんたちが私を助けてくれたから」
「助けてくれた? ロイドが?」
すると、一通り再会を喜び合ってから、商人ギルド長がココの言葉に首を傾げた。それから訝しげに眉根をひそめる。
「ココ。ココはこいつらに誘拐されたんじゃないのか?」
「ううん。ロイドさんは誘拐犯を倒してくれたんだよ」
商人ギルド長はここの言葉を聞いて、首をさらに傾げて眉間にしわを入れる。
「ココを誘拐して色々命令してきたくせに、誘拐されたココを助けた?」
商人ギルド長は眉間にしわを入れたまま、そんな独り言をしばらく呟いて考えこむ。それから少しして、商人ギルド長は眉間に力を入れて細めた目で俺を見上げる。
「一体、どういうことだ?」
「……こっちのセリフですよ」
それから、俺は拘束された商人ギルド長を解放して、商人ギルド長のオリスさんから話を聞くことになった。
そして、一通り話を聞き終えた俺は頭を抱えてうな垂れていた。
「つまり、採掘場に魔物が大量発生していて、金を採掘できない状態になっているのを放置するように言ってきて、市場に流している偽金の問題も放置するようにロイドが脅してきたことになっていると」
「あ、ああ。そうでないと、娘の命はないと言われたんだが」
なぜ偽金の件を商人ギルドが放っておくのかと思ったら、偽物のロイドが商人ギルド長の娘を誘拐して脅してたからだったのか。
大量発生した魔物を放置することで、新たに金を採掘することもできなくなるし偽物を流通しやすい状況まで作ってやがる。
ていうか、偽物俺の名前を使って悪さし過ぎだろ!
「これ、今から収拾吐くんかなぁ」
俺は偽物が随分と派手に動いているという状況に、大きなため息を吐いた。
「えっと、それで何がどうなっているんだ?」
顔を上げると、オリスさんはまだ事態を把握できていないようで眉間にしわを入れたままになっていた。
もしかしたら、ロイドの名前を使って誘拐されて命令されて、そのロイドが娘を助けてきたという状況は、俺が置かれている状況よりも複雑なのかもしれない。
頭がこんがらがるのも仕方がないだろう。
俺はそんなことを考えて、うな垂れながら口を開く。
「それ、全部俺の偽物ですよ。俺は偽物のせいで懸賞金かけられてるから、真犯人を捕まえに来たんです」
「に、偽物?」
それから俺が本当の話を伝えると、オリスさんはしばらくぽかんとしてしまった。それから、目をぱちぱちとさせてから、独り言を漏らすように口を開く。
「偽物だったのか? ロイドといえば悪逆非道な冒険者で、奴隷商にも手を出してるって聞いたものだから、まったく疑いを持たなかった」
「いや、悪逆非道な冒険者でしたけど、奴隷商に手を出したのはケインの方でして」
俺は信じられないといった目で見てくるオリスさんを見て、頬を掻く。
まぁ、これまでのロイドの悪行を知っている人からしたら、信じない方が普通ではないのかもしれないが。
「ん? あれ? 待てよ」
色々と一気に聞かされてパニックになっていたが、頭が落ち着いてきたおかげか徐々に現状が見えてきた。
「ロイドさま?」
リリナがきょとんと首を傾げているのを見てから、俺は再度状況を整理する。
「ココを誘拐したのが『大蛇の牙』で、偽金騒動を広めたのも『大蛇の牙』。それで俺を追っているのも『大蛇の牙』……ん? そうなると、『大蛇の牙』は俺が犯人じゃないことを知っている?」
いや、『大蛇の牙』は俺のことを必死になって追っていたのは確かだ。
とてもすべてを知ったうえで演技で俺を追っていたようには思えない。そうなってくると、考えられることは……。
俺はそこまで考えてから、捕らえておいた眠っていない男の前に立った。
「おい、おまえに聞きたいことがある」
「ああ? なんだよ?」
男は不機嫌そうに俺を見上げるが、ろくに反抗してくるような様子はなかった。
捕まった時点で、ある程度諦めているのかもしれない。
「おまえら、俺が偽金の犯人じゃないって知ってるんだろ。なんで必死になって追ってくるんだ?」
「ああ? 知らねーよ、そんなこと。俺たちはお前を捕まえろとしか言われてねーっての!」
「なるほど……採掘場の件におまえらは関わってるのか?」
「だから、知らねーっての! 採掘場だかに魔物がいたって言うのも知らねーよ!」
「本当か? 本当なんだな?」
「しつけーな! そうだって言ってんだろ!!」
俺が何度もしつこく聞くと、男は声を荒らげながらそう言った。
俺は男の言葉を聞いて、深くため息を吐く。
どうやら、考えられる最悪の事態が起こってしまっているらしい。
「ロイドさま。もしかして、これって」
アリシャは眉尻を下げて、なんとも言えないような顔をしていた。
どうやら、アリシャも俺が置かれている事態に気づいたようだ。
「ああ。『大蛇の牙』ともう一つの組織が手を組んでえぐいことをしてやがる」
「ロイドさま、どういうことですか?」
リリナはまだしっくり来てないようで首を傾げたままだった。
俺は腕を組んで軽く下を俯く。
「別の組織がロイドの名前を使って偽金で金儲けをして、『大蛇の牙』が偽金に騙された人たちの留飲を下げるために、ロイドに懸賞金をかけてる線が高い。多分、下っ端は知らないような話なんだろう」
ココを誘拐した組織が『大蛇の牙』で、偽金を流行らせようとしていたので、全て『大蛇の牙』の犯行かと思ったが、それだとあれだけ必死に俺を追いかけてきていた理由がつかない。
そうなると、下っ端は知らない別の組織がこの計画に絡んでいる可能性が高い。
「二つの組織がロイドさまの名前を使って……」
リリナは俺の言葉を聞くと、ぎゅっと握りこぶしを強く握って顔を伏せていた。
「おそらく、『大蛇の牙』がロイドを捕まえれば、懸賞金は別の組織と山分けするつもりなんだろう。あれだけ必死に追いかけていたのは、それが理由だろうな」
ビラを配りながら、自分たちも俺のことを必死に追っていたことから考えると、俺を捕まえた場合に特別な報酬でも貰えるのかもしれない。
まぁ、そこら辺はさすがにまだ分からないがな。
俺がそう考えていると、アリシャが眉根を寄せて不快な表情を浮かべる。
「一般人が捕まえても、最悪踏み倒せますもんね。正式な手配書ではないので、支払いの義務がないはずです」
「ああ。どうやら、見事なまでにロイドの名前は金儲けのために利用されたらしい」
俺たちが追っ手に追われて野宿をしたり、橋から落とされたりと散々だったのに、自分たちはリスクを最小限にしてお金儲けときたか。
……これは、随分と舐められているみたいだな。
俺はロイドの冤罪の裏の事情に気づき、ギリッと歯ぎしりをするのだった。




