第91話 いるはずのない魔物
それから、俺たちは捕らえた男の乗ってきた馬車に乗って、そのまま金の採掘場に向かうことになった。
憲兵が偽金騒動で動かない件については、オリスさんが信頼のできる憲兵がいるとのことだったので、その人に探ってもらうことになった。
洞窟の件も伝えておいたし、憲兵の裏切り者が炙り出され次第、一気に色んなものが片付く気がする。
俺は馬車を走らせながら、ちらっと後ろを振り向く。
「……それにしても、随分と多くポーションとか食事とかもらったな」
馬車にはオリスさんが一度ガランに戻ってから、俺たちに使ってくれと色々と持ってきたくれた物が積まれていた。
さすが、商人ギルドというだけあって寝心地がよさそうな寝袋や、高そうな携帯食まで色々と積んでくれた。
「これならしばらくは食事のために魔物を狩ったり、石がゴロゴロしている地面で寝ないで済みそうです!」
リリナは御者台に座る俺の右隣で、嬉しそうに銀色の尻尾をフリフリとさせていた。
「本来はこのくらい準備してから、街を出るべきだったんだよな」
ガランの街に来るまでの道中、トロッコでショートカットできたからよかったが、本来はあの洞窟になっている山をぐるっと半周近くしないとだったらしい。
「あのときは追われていましたからね。仕方ありませんよ」
アリシャは俺の左隣でそう言って眉根を下げていた。俺はすぐ隣の距離にいる二人を見て頬を掻く。
「……なぁ、御者台に三人は狭くないか?」
「「いいえ」」
すると、二人はすぐに首を横に振って微笑んでいた。
普通に考えて、御者台に三人で乗るのは結構無理がある。だから、誰か一人が俺の隣に座る予定だったのだが、結局二人とも折れることなく俺の隣に座ることになった。
正直、アニメでヒロイン二人に挟まれるケインのことを羨んでいたのだが、こうして実際に挟まれるとあまり心臓に良くないかもしれない。
「そ、そうか? まぁ、窮屈に感じたら後ろにいっていいからな」
俺は一瞬声を裏返しながら平然としている風を装って、馬車を走らせていくのだった。
それから採掘場近くまで順調に馬車を走らせて言ったところで、俺はとあることに気がついた。
「魔物が大量発生しているっていう割に、魔物いなくないか?」
オリスさんからの情報では、採掘場付近には魔物が大量に発生しているとのことだった。しかし、採掘場に近づいているはずなのに魔物が見当たらない。
「おかしいですね。大量発生する魔物って繁殖力が高いですから、これだけ近づけばたくさんいそうなものですけど」
アリシャも俺と同じく不思議に思ったのか、顎に手を置いて現状を前に眉根をひそめていた。
……確かに、大量発生するということは繁殖力が高いのか。
俺がアリシャの言葉に頷いていると、隣にいたリリナの銀色の耳がぴくぴくっと動いた。
「ロイドさま! 少し先に魔物の反応がたくさんあります!」
リリナは斜め右方向をピシッと指さして、緊張感のある表情でじっと遠くの方を見ていた。
リリナ、いつも以上に警戒しているように見えるな。
俺がいつもと違うリリナにそんなことを考えていると、アリシャがリリナの指を刺した方を見て目を見開いた。
「あれって……」
スキルか何かを使ったのか、アリシャはしばらく言葉を失っていた。
……アリシャには何が見えてるんだ?
俺はリリナが指さす方をじっと見てから、アリシャに視線を向ける。
「アリシャ。一体、何がいたんだ?」
「ト、トレントの群れがいます」
「トレント? トレントって、木の形をした魔物だよな?」
確か、一見普通の木みたいに見えるのに、実は魔物って言う奴だった気がする。RPGのゲームなどで見たことがある。
それから、俺は再び採掘場の方に視線を向けた。すると、そこにはさっきと変わらず採掘場付近に木々が生い茂っていた。
ん? もしかしてあそこにある緑って……
「え、あそこにある木が全部トレントなのか?」
「はい。おそらくそうじゃないかと」
「マジか。なるほど、大量発生って言うのはトレントのことだったのか」
勝手に魔物が大量発生しているといえば、爬虫類か哺乳類かの魔物を想像してしまったが、植物系の魔物だったらしい。
「……おかしいです」
「おかしい? 数が多すぎるってことか?」
俺が聞くと、アリシャは静かに首を横に振る。
「それもそうですけど。本来、トレントは『迷いの森』にいる魔物です。こんな採掘場なんかに大量にいるはずがありません」
「『迷いの森』に?」
なぜこんな『迷いの森』から離れた所に、『迷いの森』にいるはずの魔物がいるんだ?
そう考えたとき、以前にアリシャとリリナが『迷いの森』にいるはずの強い魔物がいなくなっていると言っていたことを思い出した。
何かがおかしい。そう思わずにはいられなかった。




