第86話 尋問と商人ギルド長の娘
それから、少し準備をしてからリリナと共に男の前に立った。
リリナはネズミのような魔物を逃げないように抱えており、その右手には眠っている男に使ったのと同じ布を持っていた。
「ギューッ!」
「な、何のつもりだ? そんな魔物に俺を襲わせるつもりか?」
男はリリナにじっと視線を向けられたのが怖かったのか、すぐに視線を外した。
やはり、この男にとっては俺よりもリリナの方が怖いらしい。
俺はそんな男に笑みを浮かべてから口を開く。
「そんなまどろっこしいことはしないさ。リリナ」
「はい、ロイドさま」
リリナは返事をしてから、さっき使ったのと同じ睡眠薬に浸した布で、ネズミのような魔物の口元を塞いだ。
「ギュッ!」
「ひっ!」
すると、ネズミのような魔物は悲鳴を上げてパタンと動かなくなった。おそらく、悲鳴を上げたのは突然口元を塞がれて驚いただけだろう。
俺は動かなくなったネズミのような魔物を指さして、にやりと笑う。
「これはさっきその男に嗅がせた毒と同じものだ。その男と同じで動かなくなっただろ?」
リリナが魔物を下ろすと、魔物は力なくその場に倒れてしまった。
ただ『睡眠化』が効きすぎているだけだと思うが、まるで死んでしまったような魔物の姿を見て、男はガタガタっと震え出した。
……なんか思っていた以上に脅しが効いているな。
俺はなんだか少しだけ申し訳なく思いながら、アニメのロイドのような悪役顔で続ける。
「さぁ、何も話さないのなら次はお前の番だな」
俺がそう言うと、リリナが睡眠薬を浸しておいた布を持って男に近づいていった。
すると、男は拘束された状態でバタバタと暴れ出した。そして、徐々に近づけられてくる睡眠薬を浸した布に脅えて涙を流し始めた。
「話す! 何でも話すから、殺さないでくれ!」
「……少しでも嘘だと思ったら、命はないと思えよ」
「嘘なんか言わない! 全部だ、知ってることは全部話す!」
男は初めに反抗していたとは思えないほど、こちらの質問に全て素直に答えるのだった。
「つまり、おまえたちは『大蛇の牙』のメンバーで、奴隷の運搬を任されていたと」
「ああ。そうだよ。上を使うと何かバレる可能性があるから、物資輸送で使っているここを使わせてもらってるんだ」
「使わせてもらっている? どうやってだ?」
「詳しいことは知らないぞ。ただ奴隷を数人乗せた後ろのトロッコは普通の炭鉱が入ってる。物資輸送のついでに奴隷を送ってるようなもんだ」
「なるほどな。ついでに輸送できるから輸送費はかからず、それでいてバレにくいってことか」
俺はちらっとアリシャの近くにいる運ばれてきた子供たちを見る。
トロッコで運ばれてきた子供たちは色んな種族の子たちが2人と、人間が1人。
勝手なイメージだが、奴隷商が運ぶにしては数が少ないような気がしていたが、輸送費がタダなら少しずつ運んだ方がバレたときを考えるといいのかもしれない。
「それで、このトロッコに乗ってればガランに行けるっていうのは本当なんだろうな?」
「ほ、本当だって! 途中で何度か分岐する必要はあるが……ほら、俺のポケットに紙が入ってるだろ! そのとおりにいじればたどり着く!」
「紙……これか」
俺は男のズボンのポケットから一枚の紙を取り出した。それに目を通すと、そこにはどこで分岐させればいいのかなどが書かれていた。
多分、ここに書かれている通りに操作すれば、ガランに向かうことができるのだろう。後は、俺がトロッコを操作できるかどうかだが
「『ライド』のスキルがあればトロッコも乗れるのか?」
「乗れるに決まってんだろ! なんでそんな基礎的なこと聞いてくんだよ!」
男は少しでもリリナから距離を取ろうと、バタバタと暴れていた。
トロッコなんて運転したことがないからどうしようかと思ったが、『ライド』のスキルがあればどうとでもなるようだ。
俺がそんなことを考えていると、男が必死の形相で口を開く。
「なぁ、もう聞くことないんだろ? だから、そんなこと聞くんだろ? ほら、もう拘束を解いてもいいんじゃないか?」
「それもそうかもな」
確かに、これ以上聞いても大した情報が出てくることはなさそうだ。それなら、一刻も早くこの場を去った方がいいだろう。
「リリナ。もういいぞ」
「わかりました。ロイドさま」
俺がそう言うと、リリナは睡眠薬を浸していた布を男の口に押し付けた。
「話がちがーーうっ!」
男は目を見開いてバタバタと暴れた後、力なくパタンと倒れて眠ってしまった。
……本当に凄まじい威力だな。
俺は眠った男と魔物をリリナと共に端の方に移動させてから、アリシャと子供達がいる方を見る。
「とりあえず、ガランに向かうとするか。この子たちの保護もガランの憲兵か誰かに引き渡すのが無難だが……今の俺が憲兵の所に向かうのもな」
正直、この子たちのことはすぐにでもどうにかしてやりたいが、偽金の件で追われている俺が向かっても事態が良くなるような気もしない。
どうしてやるのが一番いいのだろうか。
俺がそんなふうに考えていると、アリシャが人間の女の子と手を繋いでこちらにやってきた。
どうしたんだろうかと考えていると、アリシャがちらっと女の子を見て口を開く。
「あの、ロイドさま。この子、ロイドさまに話があるみたいです」
「俺に?」
俺が首を傾げると、その子供はアリシャの手を放して一歩俺に近づく。
「お兄さん、私たちを助けてくれるって本当ですか?」
「ああ。もちろん、そのつもりだけど」
俺が少し屈んでそう言うと、その女の子はぐっと前のめりになる。
「それなら、商人ギルドまで私を連れて行ってくれませんか? お父さんなら、この子たちも保護してくれるかと思います!」
「お父さん? ああ、ギルド職員さんかなにかなのか」
女の子は首を横にブンブンと振ってから、俺を見上げる。
「私のお父さん、商人ギルドのギルド長なんです!」
「商人ギルド長? ガランの?」
俺は少女の言葉を聞いて、眉根をひそめる。
前に尋問した『大蛇の牙』の男から、ガランの街では偽金の被害に遭った店が多いのに、商人ギルドがなぜか動かないと聞いた。
そこで、『大蛇の牙』が被害に遭った店からロイドを捕まえるための資金を募って、勝手に手配書を作成したんだよな?
そして、目の前には『大蛇の牙』の連中が誘拐した商人ギルド長の娘がいる。
なんだか少しきな臭くなってきてないか?
少しずつではあるが、今回の偽金の一件の真相に触れてきているような気がした。




