第85話 新たな尋問の方法
それから少しして、ガラの悪い男が喋れるようになってから、俺はさっそく男に尋問することにした。
リリナが急所をよほど強く攻撃したのか、回復するまで似少し時間がかかってしまった。
トロッコから下ろしてレールの近くに男を座らせると、男は俺を強く睨んできた。
「おまえロイドだろ! くそっ、なんで逆に俺たちが捕まってんだ!」
「逆に捕まる? ていうか、俺のことを知っているんだな」
男は俺が何かを聞く前にそんなことを言ってきた。
俺は男の顔をじっと見るが、その顔に見覚えはなかった。
まぁ、俺が転生してくる前にロイドが出会ってるのかもしれないが、今の発言を聞くにその線は薄いだろう。
「もしかして、おまえら『大蛇の牙』の連中か?」
「はんっ、誰が教えるかよ」
男は鼻で笑って俺から顔を逸らした。
なるほどな。『大蛇の牙』かと聞かれて、そんな組織は知らないとかでなく、教えるかときたか。
でも、なんでそんな奴らがこんな大々的にトロッコを使って誘拐したような子供たちを運んでいるんだ?
もしかしたら、俺が想像しているよりも『大蛇の牙』は大きな組織なのかもしれない。
俺はそこまで考えてから、左の手のひらを男に向ける。それから、アニメのロイド顔負けの悪役顔をしてにやりと笑う。
「な、何のつもりだ?」
「おまえが何も話さないって言うのなら、話し出すまでスキルを奪ってやってもいいんだぞ?」
俺は前に『大蛇の牙』の男を脅したときと同じように、男を脅すようにそう言った。
おそらく、ロイドとして人を脅すのなら、これが一番効果的な方法のはずだ。これで簡単に情報を吐いてくれるだろう。
しかし、そんな俺の考えに反して、男はそっぽを向いて口を開く。
「奪いたければ好きにしろ! どうせ、俺のスキルなんて大したものないからな!」
「あ、あれ?」
俺は思いもしなかった男の反応に間の抜けた声を漏らす。
そっか。スキルを奪われても困らない相手には、この脅しは効かないのか。
まずいな。そうなってくると、この男を脅す方法がないぞ。
俺が頬を掻いていると、男はちらっとリリナに倒されて動かない男を見て眉根を寄せた、
「ていうか、俺の仲間に何をしたんだよ。こいつ、ピクリとも動かないぞ」
俺は男に言われて、視線をもう一人の倒れている男の方に向ける。それから、しばらくじっと見てみたが確かにもう一人が動く気配はなかった。
「そういえば、リリナがこっちの男に何をしたのか聞いてなかったな」
「そこの女が布を当ててるのを見たぞ。な、何を嗅がせやがったんだ?」
すると、男はリリナに脅えるような目を向けた。
俺に対してあれだけ強気だったとは思えないほど、おどおどとしているように見える。
まぁ、急に現れたと思ったら急所を何カ所も攻撃されれば、リリナがただ者じゃないって思うよな。
それこそ、この男からしたら、リリナが裏の人間かなんかだと思うかもしれない。
俺がリリナをちらっと見ると、リリナは小瓶を取り出してちゃぷちゃぷと中に入っている液体を揺らして見せた。
「これを使っただけですよ」
「え、それ毒じゃないか? ワイバーンにも使ったやつじゃないか?」
俺はそこまで言ってから、リリナの持っている小瓶の中身が毒々しい色としていないことに気づいた。
一瞬、驚いてしまったが、普通に考えたらリリナが人間を毒殺なんかするわけないもんな。
「ど、毒⁉」
すると、ガラの悪い男が俺以上に驚いた声を上げた。それどころか、目を見開いて小さくカタカタと震え出している。
俺はそんな男の姿を見て、一つのアイディアが浮かんだ。
「リリナ。ちょっと来てくれ」
俺はリリナが首を横に振ろうとしたのを制して、リリナを男たちから少し離れた所に呼び出した。
「それで、実際の所はあの男に何をしたんだ? 小声で教えてくれ」
俺がそう言うと、リリナは必死な感じで声をひそめて口を開く。
「ち、違いますからね、ロイドさま! 確かに、ロイドさまに危害を加えようとする集団だから、一瞬頭をよぎりましたけど、今回は使ってないですからね!」
「お、おう。何が頭をよぎったのかは聞かないでおこう。できれば、今後俺が何かされても、人に毒は使わないで欲しいけどな」
「……」
「リリナ、ここで黙られると怖いからやめてくれ」
一瞬リリナの目が座ったような気がして、リリナにヤンデレ素質があったことを思い出してしまった。
それから、俺は本来聞くべきだったことを思い出して続ける。
「そうだ。それよりも、あいつに嗅がせたって言うのは何だったんだ?」
「あれは睡眠薬です。無力化するのにいいかなと思ったので」
「なるほどな……というか、リリナって睡眠薬とかも作れたんだな」
「はい、薬の知識はあるので! おかげで、さっき『睡眠化』っていうスキルも覚えましたよ!」
リリナは嬉しそうにそう言って、尻尾をブンブンと振っていた。
……リリナがどんどん裏の才能を開花させていっている気がする。
「お、おい! そろそろ何したのか教えてくれもいいだろ! 一瞬見えたハイライトがなくなった目は何なんだよ!」
すると、男が声を裏返しながらそんなことを言ってきた。
男の方をちらっと見ると、男は歯をガチガチと震わせていた。
どうやら、かなりビビってるみたいだ。
ここまでビビってくれているのなら、さっき思い付いた作戦が上手くいきそうだ。でも、できればもう少しだけインパクトが欲しいよな。
「あっ」
すると、リリナが銀色の耳をぴくっとさせてから、ちらっと洞窟の壁際を見た。
「どうした?」
「いえ、大丈夫ですね。少し小さな魔物がいたので、気になっただけです」
「魔物? どこにいる?」
「あそこですね。こっちから襲わなければ、襲ってきたりはしない魔物です。まぁ、害獣ではありますけどね」
リリナはそう言って、洞窟の壁際を指さした。すると、そこには三十センチくらいの大きさの灰色のネズミのような魔物がいた。
よく気づいたなと思いながら、俺はその魔物が作戦に使えるのではないかと考えた。
「リリナ。あいつを生きたまま捕まえられるか?」
「? 分かりました。捕まえてきますね」
リリナは首を傾げてから、回れ右をして魔物の方に走っていくと途中でスッと姿を消した。
それから、パッと姿を現したときにはネズミのような魔物を抱きかかえて、こちらに走ってきていた。
「ロイドさま、捕まえてきました!」
「ギューッ!」
ネズミのような魔物は何が起きたのか分からないらしく、パニック状態になってしまっていた。
まぁ、突然攫われればそんな反応にもなるよな。
俺は何でもないことをして来たようなリリナと、さっきの一部始終を見ていた男の驚く顔を見てから口を開く。
「リリナ。今回は尋問に付き合ってくれないか?」
スキルが奪われなくても、命が奪われるかもしれないと思えば色々と吐くだろう。
俺はそう考えて、にやりと悪役顔負けの笑みを浮かべるのだった。




