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第73話 『迷いの森』の異変

「魔物が弱い気がする?」


 水浴びを終えてさっぱりした俺たちは、少し湖から離れた所で野営をすることになった。夕食を食べ終えた後、リリナとアリシャが気づいたことがあるというので話を聞いてみると、二人はそんなことを言いだした。


 俺は道中で戦ってきた魔物達のことを思い出して、首を傾げる。


 確かに、俺は直接的に戦闘に参加することはなかったが、それでも道中の魔物が特別弱かったような気はしない。


 それに、俺も『支援』を使って二人の能力を底上げしていた。だから、そこを加味しても、道中の魔物が弱いと思うのなら、思い当たる理由は一つくらいしかない。


「単純にリリナとアリシャが強くなったからじゃないか?」


 リリナもアリシャも本来のアニメとは違う方向ではあるが、力を着実につけて言っている。しかも、リリナの場合は本来はパワー型だったのが暗殺型に、アリシャの場合も魔力で押すパワー型だったのが狙撃手型に変わってきている。


 そして、それと俺がケインから奪った『支援』のスキルの相性が良すぎたせいか、二人の実力はアニメの進行具合と比べて強くなりすぎているような気がする。


 だから、そこから生じるギャップのようなものだろう。そんなふうに考えたのだが、リリナとアリシャは首を横に振った。


「確かに、それもあるかもしれません。でも、『迷いの森』にいる魔物というにしては、手ごたえがなさ過ぎる気がします」


「『迷いの森』に迂闊に入らない方がいいという理由は、大きく二つあります。一つは案内人がいないと道が分からなくなること。そして、もう一つは『迷いの森』にいる魔物が強すぎるからです」


 リリナとアリシャの言葉を順々に聞いて、俺は眉根をひそめる。

「強すぎる?」


「はい。なので、小さな村に行くための大通りができたと聞きました」


「それ、私もお母さんから聞いたよ」


 アリシャの言葉に頷くリリナを見て、俺は深く考え直す。


 二人の言葉を聞く限り、『迷いの森』の魔物が強いというのは共通認識らしい。正直、道中の魔物は『支援』のスキルがなくても、俺が普通にスキルをぶっ放していれば、そこまで苦戦するような相手はいなかった気がする。


 そうなってくると、道中で出会った魔物が強すぎるというのは少し過剰だよな。


 いや、ロイドのスキルがチート過ぎるって言うのもあるかもしれないけど、それを差し引いてもそこまで強い魔物はいなかったな。


 それこそ、少し前にケインがザードに『デコイ』を使わせて生態系を狂わしたときに出会った魔物の方が強かった気がする。


「強い魔物がいるんじゃなくて、強い魔物がいなくなっているってことか。ケインの時とはまるで逆の現象だな」


 正直、偶然強い魔物と出会わなかったという言葉で片付けてしまえば楽ではあるが、以前のケインの事件がある以上、あまり軽視はできない事態が起きているのかもしれない。


 でも、強い魔物だけごっそりいなくなるっていうのはどういう現象だ? ケインの時みたいに『デコイ』が使える奴が大暴れしているなんて現象は、こんな立て続けに起こるような気がしない。


 そうなってくると、何か他の原因があるということになるのか…….


「だめだ。今の情報だけだと、何が起きてるのかまるで分らないな。でも、何かが起きているかもしれないということは覚えておこう。ありがとうな、二人とも」


『迷いの森』に関する情報がほとんどない俺にとって、二人のこの気付きはかなりありがたい。


 二人がいなければ、こんなものなのだろうと思ってスルーしていたことだと思う。いや、それ以前に俺が一人で行動していたら、『迷いの森』を抜けることもできなかったか。


 俺がそう言うと、リリナがふわふわになった尻尾を振りながら、俺の右腕に抱きついてきた。


「ロイドさまの役に立てたのなら嬉しいです!」


 そして、リリナはスンスンっと軽く俺の服の匂いを嗅いでから、顔をぐりぐりと俺の腕に擦りつけてきた。自然と密着してきたリリナに、俺は一瞬つばを飲み込む。


「えっと、リリナ。それはいいんだがーー急に距離が近すぎないか?」


 ここ数日いつもよりも距離が離れていただけに、急に詰められた距離に俺は少ししどろもどろとする。


 すると、リリナはいつものにへらっとした笑みを浮かべて俺を見上げた。


「せっかく汗も汚れも落とせたので、またロイドさまに私の匂いを付け直さないとと思いまして」


「付け直す? え、今までリリナの匂いが付けられていたってことか?」


 俺は右腕に強く抱きついてくるリリナを見て、思わずそんな言葉を漏らしていた。


 ……そういえば、犬とか猫が好きな玩具を洗濯されると匂いを付け直すとか聞くけど、その現象か?


 俺がちらっとリリナを見ると、リリナは銀色の耳をピコピコっとご機嫌そうに動かしていた。


 いや、これはその現象で片付けていいような感情ではない気がする。


「私の匂いに気づかないくらい、ロイドさまにとって私の匂いは日常になっていたのかもしれませんね」


 リリナは嬉しそうにそう言ってから、ちらっと勝ち誇ったような表情をアリシャに向けた。


 すると、今度はアリシャが俺の左腕に勢いよく抱きついてきて、俺を見上げた。


「ロイドさま。私の香りも感じてください」


 そして、そう言うとリリナに倣うように俺の左腕にぐりぐりと頭とか顔を押し付けてきた。


「ああっ! ロイドさまにアリシャの匂いつけないで‼」


 リリナがそう言ってむくれるが、アリシャはお構いなしで俺の左腕にぎゅうっと抱きついてくる。


 そして、それに対抗するように、リリナが右腕に抱きついている力を強めてきた。


 ……なんかどこかであったようなやり取りだな。


 そんな事を考えながら、いつもの戻ったパーティの距離間に少しだけ安心するのだった。


 『迷いの森』の中では追っ手に追われることはなかったが、『迷いの森』を抜けた明日からどうなるか分からない。


 気を引き締め直さないとな。


 そんな事を考えながらも、俺にピタリとくっついて離れない二人を見ると、何とかなるような気がしてしまうのだった。


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