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第72話 水浴びイベント

俺は火を起こしてから、二人が水浴びをしているキャッキャという声を聞きながら、辺りに簡易的な罠を張っていた。


 せっかくゆっくりできそうな状況なのだから、道中ずっと戦ってきた二人にはリラックスしていた欲しい。


 そのためには、魔物との戦いを忘れてもらう必要がある。それに、二人も服を脱いでいる状態で魔物と戦いたくはないはずだ。


 だから、二人が水浴びをしている間は、俺たちを襲ってきた魔物は俺が相手をしようと考えた。


 そうはいっても、派手なスキルをバンバン使って戦うわけにはいかない。なので、俺は木々に『硬糸(魔)』を巻きつけた罠を辺りに張り巡らせていた。



 俺はリリナたちの声が聞こえる位置に座って、ピンと張った『硬糸(魔)』に軽く触れる。以前、このスキルを奪ったクモの魔物も、俺たちにこれと似た罠を張ってきた。あのクモの魔物も少し罠に触れただけで気づいていたし、きっと俺たちのもとに魔物が近づいてきたらすぐに分かるはずだ。


 俺がクンクンッと『硬糸』を引きながら魔物が来ないか見張っていると、クンッと強く糸が引かれた感覚があった。


「かかったか。いくぞ、『雷痙』!」


 俺が『硬糸』に触れながら相手を痺れさせる中級魔法を使うと、糸を伝ってビリビリっと電気が糸を伝って流れていった。それからしばらくして、糸がグンッと強く引かれる感覚があった。


「ブモオオオ!!」


 そして、そんな魔物の野太い声と共に大きなものが倒れたような物音が聞こえてきた。急いで野太い声が聞こえた方に向かうと、そこでは大きなイノシシのような魔物が体を痙攣させて倒れていた。


「やっぱり、『硬糸』のスキルは便利だな」


 俺はそんな言葉を漏らしてから、鞘から剣を引き抜いて動けない魔物に振り下ろした。


 もしかしたら、これまで奪ったスキルを上手く使えば、大技ではないスキルで魔物を倒すことができるかもしれないな。


「うわあぁっ! 変なやつが出た!」


 そんな事を考えていると、湖の方から緊張感のあるリリナの大きな声が聞こえてきた。


「『硬糸』に反応はなかった……ていうことは、水の中にいる魔物か!」


 水の中だとリリナもアリシャも武器を置いている可能性がある。


 俺はあまり離れていないリリナたちのもとへと急いで走り出した。

 



 俺がリリナの声がした方に急いで向かうと、湖の中央には大きなクラゲのような魔物がいた。


 そして、湖の浅瀬には微かに霧で隠れている二人の後ろ姿が見えた。傷一つない真っ白な背中を前に一瞬ドキリとしそうになり、俺は慌てて頭を横に振る。


 魔物と戦闘中なのに、そんなこと気にしている場合じゃないだろう。


 リリナとアリシャはクラゲのような魔物の攻撃に対応しているようで、バシャバシャと水音を立てながら動き回っていた。


「やあっ!」


 リリナはクラゲのような魔物が勢いよく伸ばしてきた足を短剣で簡単に斬り落とす。ぼちゃんっと湖に落ちた足はそのまま水に溶けるが、切ったはずの足はまたすぐに再生していた。


「『瞬風』……『狙撃』!」


 バシャッ、バシャッ!


 アリシャもクラゲのような魔物の本体に向けて矢を放つが、透明な足を何重にも重ねてガードをされてしまい、本体に矢がたどりつく前に矢が失速してしまっていた。


 どうやら、二人とも少し苦戦しているようだ。


「リリナ、アリシャ! 無事か!」


「「ロ、ロイドさま⁉」」


 俺が駆け付けると、リリナとアリシャは慌てたように声を裏返した。俺は咄嗟に視線を二人から逸らして、クラゲのような魔物の方に向ける。


「だ、大丈夫だ。この距離なら霧で見え……にくいから」


 見えないというにしては無理があったので、俺は言葉を適当に濁してクラゲのような魔物の方を見る。


 本来であれば目を完全に逸らしてやりたいところだが、魔物を前にしてそんなことなどできるはずがない。


「あれ? あの魔物は見覚えがあるぞ。確か、水浴びシーンに出てきた魔物だ」


 俺は透明なクラゲのような魔物に見覚えがあった。


 アニメの一期の何話目かにあったサービスシーン回みたいな回で、リリナとアリシャがあの魔物に一時的に捕まるシーンがあったんだ。


 確か、体が水でできていて弱点である本体の魔石のような赤い鉱石を破壊しないと、倒せない相手だった気がする。


 俺がそこまで思い出すと、リリナとアリシャが少し上擦った声で言う。


「じゃ、弱点は分かっているんですけど、中々攻撃が届かないらしくて」


「み、水みたいな体をしているので、矢の勢いを殺されてしまいましてっ」


 俺は明らかにいつもと違う二人の反応を前にして、頬を掻く。


 これ、俺が見てると戦いにくい感じだよな?


「えっと……『支援』をかけた後は、十秒目をつぶっているから一気に倒せるか?」


「は、はい。それなら、お任せください」


 少し調子の戻ったアリシャの声を聞いて、俺は二人に向けて左手を向ける。それから、ぐっと左手に力を入れて『支援』を発動させた。


「『支援』」


 すると、俺とリリナとアリシャの体が緑色の光に包まれた。俺はその瞬間、目をつぶって顔を俯かせる。


「『瞬風』、『瞬風』、『瞬風』……『狙撃』!」


 シューーンッ!! バシャンッ!!


 すると、凄まじい勢いで矢が飛んでいく音と、水が弾け飛ぶ音が聞こえてきた。『支援』の有無を除いても、さっきまでの攻撃の比ではない攻撃がさく裂した気がしたのは、気のせいではないのだろう。


 それから、水しぶきの音を聞きながら十秒経つのを待ってから、俺はゆっくりと顔を上げて目を開けた。


 すると、なぜかリリナとアリシャがこちらを向いて恥ずかしそうに立っていた。頬を朱色に染めて、濡れた髪がどことなく色っぽく見える。


「あの、やっぱり、ロイドさまも入られますか?」


 リリナが控えめにそう言うと、アリシャも何も言わずに俺を見上げていた。


 そんな通報されそうな状況を前に、俺は咄嗟にブンブンと首を横に振る。

 

 アニメなどでは湯気や霧を邪魔だと何度も思ったが、こうして見るとその重要さというものを痛感させられた。


 ……色んな意味で心臓に悪すぎる。


 ずっと見ていたアニメのヒロインから誘いを受けるという状況を前にすれば、そんな事を考えてしまうのも仕方がないことだろう。


 俺は動揺している心音を隠しながら、少しだけ湖から離れた所で引き続き魔物の見張りをすることにしたのだった。


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