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第71話 慣れない道のり


 それから、俺たちはリリナとアリシャを中心とした戦いをしながら、森の中を進んでいった。


 しかし、どれだけ進んでいっても『迷いの森』を抜け出すことはできず、程々まで進んだところで野営をすることにした。


 さすがに、暗くなっている『迷いの森』の中をこれ以上進むのは得策ではないだろう。


 とはいっても、咄嗟に逃げてきたから野営の道具などは持っていない。マジもの野宿をすると言うことになる。


 冤罪をかけられただけで、随分と過酷な状況に追い込まれたものだ。


 俺は薪に火をつけて灯りをつけてから、雑にその場に腰を落とした。


「はぁ、随分と歩いたよな。本当は『迷いの森』を今日中に抜けたかったが、さすがに無理だったか」


 すると、俺のすぐ近くにリリナがちょこんと座ってきた。そして、その反対側にアリシャがリリナと同じくらいの距離で座った。


「よいしょっと。でも、今日だけで結構進んだ気がします!」


「『迷いの森』を抜けるのには五日はかかると言われてます。魔物を簡単に倒しているとはいえ、一日で制覇するのは距離的に難しいですね」


 そう言ってきた二人の声色は、疲れ切った俺と違って少し明るいような気がした。それどころか、顔にも少し余裕があるような気がする。


「二人は結構元気に見えるな。無理してたりしないか?」


 同じ距離を歩いているのに、こんなに疲労感が違うものだろうか? 俺に心配させないようにとか考えているのかもしれない。


 少し不安になって聞いてみると、二人は首を横に振った。


「無理なんかしてませんよ! 私は獣人ですから、山道とか森の中は慣れています!」


「私もエルフなのでこういう道は慣れています」


リリナとアリシャは何でもないようにそう言って、余裕のある笑みを浮かべていた。


 確かに、獣人のリリナと森で生活するエルフのアリシャと比べたら、特に筋力もあるわけでもないロイドが一番最初に根を上げるわけだ。


「なるほどな。一番やわなのは俺ってことか。はぁ」


 リリナとアリシャに迷惑をかけているという状況なのに情けない。


 そう考えてしまい、俺は深いため息を吐いてしまった。それから、俺は眉根を下げて二人を見る。


「申し訳ない。二人には苦労を掛けてしまっているな。本当なら、今頃街でゆっくりできていたはずなのにな」


 せっかくの休みの日。祭りという楽しい状況だったはずが、そこからいきなり冤罪をかけられて共に逃げる羽目になってしまった。


 それでいて、戦闘でもあまり役に立てないとなると、申し訳なさが半端ない。


 そんなことを考えていると、俺のすぐ隣にいたリリナが肩を預けて腕を組んできた。


 俺はあまりの突然の行動に鼓動を微かに速くして、リリナを見る。すると、リリナは銀色の耳を機嫌よくぴょこぴょこと揺らしていた。


「私は気にしてませんよ! それに、なんか逃避行みたいでドキドキしますっ」


 すると、そんなリリナを見たアリシャも、リリナに倣うようにピタリと腕を組んできた。俺はまた微かに鼓動を速くして、今度はアリシャを見る。


すると、アリシャは大人びた笑みを浮かべて俺を見つめていた。


「私も気にしてません。ロイドさまと一緒にいられるのなら、どこまでもお供いたします」


 俺はそんな二人の言動を前にして、確実に鼓動が速くなっているのを感じた。


 これが、ヒロインの力というやつか。


 俺は交互に二人を見てそんなことを考えてから、咳ばらいを一つする。


「……あの、二人とも。そんなにくっつくと臭いと思うぞ。俺、今日凄い汗かいた気がするし」


「それこそ、気にしません。全然――スンスンッ」


 すると、リリナはにへらっと笑ってから、思い出したように自分の匂いを嗅ぎだした。


 それから、ぱっと俺から手を放して無言でススッと距離を取ってから、両手をブンブンと横に振った。


「全然気にしてませんから!」


「いや、とても気にしていない奴の反応ではないだろ」


 そんなツッコミを入れてからアリシャを見ると、アリシャはすでに俺から距離を取っていて、眉尻を寄せて自分の服の匂いなんかを嗅いでいた。


 それから、俺の視線に気づいて何でもないフリをして、俺から目を逸らす。


「私も全く気にしてませんよ」


 ……二人とも言葉はさっきと同じはずなのに、距離がぐっと遠ざかったな。


 別に二人は俺ほど疲れてもいないし、そんなに汗もかいてないだろ。あれだけ近づかれても全く気にならなかったんだから、気にすることないと思うだが。


 まぁ、二人とも年頃の女の子ということなのだろう。


 俺はそう考えながら、念のために自分の服の匂いを嗅ぐ。


 匂いはともかくどこかで汗でも流したいが、『迷いの森』でゆっくり水浴びなんてできるはずないよな。


 俺は歩き疲れてだるくなった足を揉みながら、ため息を漏らすのだった。




それから、俺たちは野営の道具なしの野宿をしたり、魔物との戦闘を繰り返して数日の時を『迷いの森』の中で過ごした。


 数日間整備されていない森の中を歩き続けたことで、疲労の蓄積も相当なものになってきており、道中にかいた汗で頭が痒くなり始めていた。


 ……そろそろ全身を洗いたいし、服も洗いたい。


 そんな事を考えていると、いつもよりも少し距離のある位置で歩いていたリリナの耳がピコピコっと動いた。


 どうしたのだろうと思っていると、リリナが興奮した様子でどこかをバッと勢いよく指さした。


「今水の音がしました! もしかしたら、近くに湖か川があるかもしれません!」


「水……本当か⁉」


 『迷いの森』に入ってから、飲み水などは基礎魔法で確保をすることができていた。しかし、ロイドに浴槽もない状態で水浴びをするほどの水を出し続けることは難しいと思い、水浴びをすることはできずにいた。


 だからこそ、水浴びができるかもしれないというリリナの言葉には強い魅力があった。


 すると、アリシャが控えめに俺を見上げる。


「ロイドさま。少しでいいので休憩していきませんか?」


「ああ。そうしよう。早く『迷いの森』を抜けたい気持ちもあるが、今の状態で村に向かうのは得策ではないだろうしな」


 俺はそう言って汗を拭って自身の服をちらっと見る。


 さすがに、汗と泥で汚れた服で馬車に乗せてくれと言われたら、俺の手配書のことを知らなくても断られる可能性がある。


 アリシャの話ではもうすぐ『迷いの森』を抜けられるという話だし、一旦身なりを整えておく必要があるだろう。


「リリナ。案内してくれるか?」


「任せてください! こっちです、ロイドさま!」


 リリナは尻尾をフリフリとさせると、上機嫌に先頭を切って俺たちを見ずの音がすると言う方に案内してくれた。


 それから少し歩いていくと、遠目でも分かるくらい大きな湖が徐々に見えてきた。


 日の光を反射してキラキラと光る水面を見ながら近づいていくと、そこには底が見えるくらい透き通っている湖があった。


 俺は感動の声を漏らして、片膝をついて水を掬って頷く。


「まさか、ここまで綺麗な湖があるとはな」


「ロイドさま、ロイドさま! 水浴びしていきましょう! お体流しますよ!」


「ああ、そうだーーな?」


 俺はリリナの言葉に頷こうとして、ピタッと止まる。


 今? 体を流すと言ったか?


 聞き間違いな気がしてリリナを見ると、リリナは首を傾げて目をぱちぱちとしていた。


 いや、なんで首を傾げているんだ。こっちがおかしいみたいな反応をされるのは違う気がするんだが。


「ロ、ロイドさま。リリナがするなら、私も一緒に……」


 そんなことを考えていると、アリシャが微かに頬を染めながらそんなことを言ってきた。


 ただ純粋にご奉仕しようとしているリリナと、少し恥ずかしがっているアリシャに体を洗ってもらう。


 ……いやいや、普通に色々とアウトだろ。


「待て待て、さすがにみんなで入るのはマズいだろ。気持ちだけ受け取っておくから、二人で一旦入ってきなさい。火を起こしておくから、服が乾いたら教えてくれ」


 俺は手を横に振ってから、立ち上がって少し湖から遠ざかるように歩き出した。


「ロイドさま、どこに行くんですか?」


「えっと、とりあえず、薪を集めてくる。魔物が現れたりしたら、すぐに教えてくれ」


 年頃の女の子達が水浴びをしている所に、男の俺がいるのもマズいだろう。俺はそんなふうに考えて、濡れた服を乾かす用の薪を集めることにしたのだった。




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