第69話 『迷いの森』
それから、俺たちは近くの村に向かって歩き出した。
近くの村と言っても歩いていくには距離が結構ある。本来なら馬車を使って大通りからいくはずなのに、俺たちはあえて森の中を突っ切って歩いていかなければならなかった。
……これ、数日間険しい道のりを歩くの確定だよな。
数時間歩いているというのに、景色は全く変わらない森の中。俺は汗を拭って森を見渡す。すると、ずっと出ていた霧がさらに深くなってきた。
「くそっ、視界が悪くなってきたな」
「ここら辺は『迷いの森』ですからね。気をつけて進んだ方がいいかと」
「『迷いの森』?」
俺は初めて聞く言葉に眉をひそめてアリシャを見る。
あれ? そんな森、アニメに出てきてないぞ?
「一般的に人や魔物が入ると、方角を見失ってしまうと言われている森です。木々がどれも似ていて、目印になるようなものが少ないので」
顔を上げて木々を見てみると、確かにどれも似たような木が多かった。というか、どれも同じにしか見えない。
それに加えて深い霧があるとなると、いよいよ方向が分からなくなりそうだな。
「もしかして、結構まずい状況だったりするか? こういうのって、森の案内人がいないと進めないイベントだろ」
他のアニメとかで何度か見たことがあるが、この手の森を抜けるには案内人を雇う必要がある。
そんな準備をすることなく、追われて来ていいような場所ではないような気がするんだが……。
俺が顔をしかめていると、アリシャが俺の服の裾をちょいちょいっと引いてきた。
「ロイドさま、ご安心を。私の種族をお忘れですか?」
「そっか! アリシャがいれば大丈夫じゃん!」
リリナはアリシャの言葉に小さくガッツポーズをして、口元を緩める。
そうだ。森の案内人といえば、エルフ。つまり、エルフのアリシャがいれば、迷いの森を迷うということもないのか。
すると、アリシャは大人びた笑みを俺に向ける。
「ロイドさま。『迷いの森』の道案内は私にお任せください」
「お、おう。任せる」
至近距離で見せられた笑顔に少しだけ鼓動が速くなってしまったのは、アリシャがこのアニメのヒロインだからだろう。
俺はそんなふうに言い訳を作って、アリシャに案内してもらいながら森を歩いていくことにした。
しかし、それからしばらく歩いていていったのだが、中々霧が晴れることはなかった。
「アリシャ。なんかさっきよりも霧が深くなってきてないか」
「そうですね。道は間違ってはいないはずなんですが……」
アリシャは近くにあった木に触れながら眉根を下げる。
まぁ、アリシャが道を間違えるようなことはないだろうし、ただ霧が深い場所を通っているってだけなのか。
俺がそんなことを考えていると、リリナの銀色の耳がピコピコっと緊張感のある動きをした。
これまで何度も敵の襲来を察知してきたときと同じ耳の動き。
すると、次の瞬間、リリナが斜め右方向を指さして睨んだ。
「ロイドさま! アリシャ! こっちの方から勢いよく何かが来てます!」
俺はリリナの言葉を聞いて、二人の前に立ってリリナが指さしている方を見る。しかし、霧が深すぎて、何が迫ってきているのかが分からない。
俺が剣を引き抜こうとしたとき、深い霧の奥から鋭い足の爪が勢いよく俺の顔目がけて迫ってきた。
うおっ! 速っ!
「『鉱石化(魔)』!」
俺が『鉱石化(魔)』のスキルを使うと、俺の左の腕の肘から下が鉱石が連なったようなもので包まれた。
それから、俺は鋭い爪をスキルを使った左腕で弾く。
ガギィンッ!!
「くっ! うおっ!」
俺はそのままその爪で力強く押されて、軽くよろめいてしまう。
俺を強く押した脚がそのまま霧の中に消えていってしまったが、俺はそこに向けて長剣を振り下ろした。
「『竜風(魔)』!」
俺が剣を振り下ろしてスキルと使うと、渦の中心を相手に向けるようにした竜巻が地面をえぐりながら飛んでいった。
すると、さっきまで深かったはずの霧が竜巻と一緒に吹っ飛ばされ、霧が随分と薄くなった。
……なるほどな、さっきまで俺たちの周りにあったのは、自然発生した霧じゃなかったってことか。
目の前にいたのは白い毛をした俺の二倍以上の大きさをしたコウモリのような魔物だった。
その周りにはそれを小さくしたような白いコウモリが五体ほど飛んでいる。
以前、こいつに似た魔物と戦ったことはあるけど、白いのは初めてだな。
「まぁ、倒し方は変わらんだろ。『嵐――』」
「「ロイドさま、ストップです!!」」
「ぐえっ」
俺が以前コウモリのような魔物を倒したときと同じスキルで魔物を屠ろうとすると、首のあたりを後ろに強く引かれた。
振り向くと、リリナとアリシャが眉尻を下げていた。
「リ、リリナ? アリシャまでどうしたんだよ?」
「ロイドさま! あんまり激しい戦い方しちゃうと、追っ手に居場所がバレちゃいますよ!」
「ロイドさまのスキルは技の威力も凄いですが、少し目立ち過ぎてしまいます」
俺はリリナとアリシャにそう言われて、自分が追われている身であることを思い出した。さっきの一撃もそうだが、俺のスキルは少し威力が強すぎる。そのせいで、追っ手に居場所を知らせてしまう可能性がないとは言えない。
俺はこっちに襲い掛かってくるタイミングを計っている魔物に切っ先を向けながら、口を開く。
「確かにそうかもしれないが……それじゃあ、あの魔物はどうする」
すると、後ろにいたリリナとアリシャが俺の前に立った。
「ロイドさま。私たちがいますよ」
「ロイドさま。ここは私たちにお任せください」
二人は得意げな笑みを浮かべて、各々の武器を構えた。
俺はそんな二人の表情を見て、そっと切っ先を下ろして口元を緩める。
どうやら、今回は『支援』に徹する他ないようだ。
そんなことを考えながら。




