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第68話 尋問のお時間


 それから、俺たちは『潜伏』のスキルを使って、街の方に引き返そうとしているガラの悪い男の跡を追った。


「くっそ、どこにもいないじゃーかよ」


 男は俺たちの接近にまるで気づいていないらしく、そんな独り言を漏らして不機嫌そうに雑草を蹴っていた。


 俺たちは木陰に身を潜めつつ男との距離を詰めていく。


 俺は後ろにいる二人の方に振り向いて、声を潜めるようにしながら口を開く。


「リリナ、アリシャ。二人とも声は出すなよ。あと、顔も見られないこと。あくまで、俺一人の犯行だと思わせるんだ」


 まだ指名手配されているのはロイドだけ。もしも、同伴者がいたとバレれば、リリナやアリシャも指名手配されてしまうかもしれない。


 そんなことにならないためにも、男を拘束するときも二人の正体がバレてはならないのだ。


 俺がそう考えて言うと、リリナとアリシャはこくこくと頷いた。


 それから、俺はリリナの準備ができたのを確認して、上げていた片手を下げた。その瞬間、リリナの姿が消えた。


 ……物音まで聞こえないぞ。リリナ、どんどんそっちの才能を伸ばしているな。


 俺がそんなことを考えていると、木陰から見ていたはずの男がバタンッと倒れた。


「いてっ、いてててっ! な、なんだっ⁉」


 男の情けない悲鳴を聞いて、リリナが男を捕らえたのが分かった。


「よっし。いくぞ、アリシャ」


 俺はアリシャに一声かけて男が倒された場所へと向かう。すると、男がリリナに汲み伏せられていた。


「『硬糸(魔)』」


 俺はリリナと場所を代わり、男を『硬糸(魔)』でぐるぐる巻きにしていく。


「うわっ! なんだこれは!! 魔物か!」


 俺は男が取り乱しているうちに、リリナとアリシャを退避させる。二人には視覚と嗅覚で周囲の監視をお願いしている。


 尋問中に仲間が追ってきたら面倒だからな。


「……魔物だと? あんな低俗な連中と俺を一緒にするんじゃねーよ」


「は? ま、まさかっ!」


 男は俺の声を聞いて顔を青くさせてバッと俺の方に振り向いた。それから、俺の顔を見て俺を強く睨んだ。


「ロイド! やっぱり、この街にいやがったな!」


 俺はそんな男の言葉を聞いて、にやりと悪役顔負けの悪い笑みを浮かべる。


 それから、俺は極力アニメで観たロイドの口調を真似て口を開く。


「随分と舐めたことしてくれたじゃねーか。あぁ? 俺を指名手配するなんてどういう了見だぁ?」


 俺が凄んだ表情で男を睨むと、男は小さく『ひっ』と情けない声を漏らした。


 ……正直、ここまで男をビビらせるのは気が引ける。だが、これから情報を聞き出す以上、ある程度相手をビビらせなければらないのだ。


 俺はそんなことを考えながら、言葉を続ける。


「おまえら憲兵じゃないだろ? 個人的にやってるにしては規模が大きい、何かの組織の人間か何かか?」


「は、はんっ、なんでそんなことをお前に言わなくちゃいけねーんだよ」


 しかし、男は虚栄を張るように俺を睨んでそんなことを言ってきた。


 まぁ、そう簡単に口を割るとは思っていなかったけどな。


 俺は男の近くに屈んで右手を男の顔の近くに近づけた。それから、にやりとアニメで見たロイドのような笑みを浮かべる。


「情報を吐かない、嘘の情報を言った。俺がそう判断したら、おまえのスキルを一個ずつ奪ってやる」


「は、はぁ⁉ おまっ、冗談じゃねーぞ! ていうか、スキルを奪うって本当だったのかよ!」


 男は俺の言葉を聞いて、分かりやすく取り乱し始めた。しかし、体をどれだけバタバタさせても、『硬糸』の拘束から逃れることができずにいた。


 俺は悪い笑みを浮かべたまま、男に向けた手の平をさらに近づける。


「嘘だと思うなら試してみるか? おまえが情報を全部吐くまでに、おまえは何個のスキルを失うんだろうなぁ」


「や、やめてくれ! 言う! 全部知ってること言うから、スキルを奪うのはやめてくれ!!」


「……いい子だ。一から全部話してもらおうか」


 それから、男はつらつらと知っている情報を話し始めた。


 男は『大蛇の牙』という犯罪グループの末端らしい。そして、ガランという街からここに来るまでの道中で手配書を配りながらやってきたとのことだった。


 俺は男が持っていた簡易的な地図を見ながら、『大蛇の牙』の手が回っている可能性のある街にバツ印をつけていく。


『大蛇の牙』の追っ手を考えると、ガランに行くには遠回りして山を登っていくしかなさそうだな。


 ガランの街では偽金の被害に遭った店が多く、詐欺被害を憲兵や商人ギルドに報告したが、なぜか動こうとしないらしい。


そこで、『大蛇の牙』が被害に遭った店からロイドを捕まえるための資金を募って、勝手に手配書を作成したとのことだった。


 被害に遭ったとはいえ、普通の店が犯罪グループに手を貸すか? 被害額が大きすぎて、なんとしてでもロイドを捕まえて金を取り返したいってことなのだろうか?


 ……それって、ロイドの冤罪が凄いことになってるってことだよな。


 俺はため息を吐いて男をじろっとにらむ。


「普通、出所の分からない金なんか買うか? おまえ、何か他に知ってて隠してることあるんじゃないだろうな?」


「隠してることなんかねーって! 偽物の方が安いんだから買うだろ! 金の価格が高騰してるんだから!」


「金の価格が高騰してる? なんでだ?」


「俺は商人じゃねーんだ! そこまでは知らないぞ! ほ、本当だ!」


 俺が男に向けている右手に力を入れようとすると、男は必死な表情でそう言ってきた。


 金の価格が高騰したから、偽金が売れるようになった。


 ……なんか少し色々と出来過ぎているような気がするな。


「あとは自分で調べるしかなさそうだな」


「お、おい! どこいくんだよ!」


 俺は簡易的な地図を見て、ここから遠く離れたガランと対極にある『サンステッド』という街の名前をちらっと見る。


 それから、俺は少し考えてから思ってもいないことを口にする。


「『サンステッド』の方に行くんだよ。おまえらの追っ手が来ない方に逃げれば、捕まることはないだろう。まぁ、おまえらごときに捕まる俺じゃないからな」


 俺は最後に男を煽ってから、男をそのままにしてその場を後にする。


「くそっ、せめて解いていけよ! おい! 絶対に捕まえてやるからな!!」


 これで、本当に『サンステッド』の方に向かってくれればいいんだが……あとは、祈るしかないだろうな。


 俺がそんなことを考えていると、男から俺たちが見えない距離まで遠ざかってから、『潜伏』を解いたリリナとアリシャが俺の両隣に並んだ。


「さすがロイドさまです! 凄い名演技でしたね!」


「ロイドさま、本当に悪い人みたいでしたよ」


 二人はさっきの俺と男のやり取りを思い出したのか、嬉しそうに笑っていた。


「いや、演技と言うか本当の俺がこっちというか、なんというか……」


 俺がそこまで言うと、二人はありえない話を聞いたかのようにまた笑い始めた。


 どうも、俺が悪役であるということは信じてもらえないようだ。


 俺はこれ以上言っても仕方ないかと諦めて、言葉を続づける。


「とりあえず、必要な情報は聞き出せた。遠回りにはなるが、歩いて近くの村に向かって、馬車を拾おう」


 その村にまだ手が回っていないことを願って、ガランに向かう。そして、俺の名前を使って偽金を売っている奴を捕まえてやる。


 そんな決意と新たに手に入れた情報を手に、俺たちはガランに向かうことにしたのだった。


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