第101話 まだ未解決な事件
俺たちは門番から話を聞き終え、オリスさんの家に向かった。
すると、オリスさんは驚きながら俺たちを招き入れてくれて、俺たちはオリスさんの家のリビングに通された。
俺はリビングのソファーに腰かけながら、頭を下げる。
「オリスさん。門番の方に聞きましたけど、色々動いてくれていたみたいで本当に助かりました」
「もともと、この街の問題ですからね。それよりも、こんなに早く魔物の群れを倒してくれるとは思いませんでしたよ」
それから、オリスさんは俺たちと分かれた後のことを色々と話してくれた。
門番から聞いた話とオリスさんの話をまとめると、オリスさんは俺たちと分かれてから信頼のできる憲兵とともに、前に小屋で捕まえた『大蛇の牙』の男たちから色々と話を聞き出したらしい。
そして、それを基に賄賂を貰って偽金の被害報告をもみ消していた憲兵を逮捕してから、『大蛇の牙』の逮捕に動き出したらしい。
『大蛇の牙』は、誘拐及び脅迫やその他諸々の罪があるので、トロッコを使って奴隷を運んでいた連中もまとめて捕まえるとのことだった。
そして、オリスさんが偽金騒動の犯人は俺でないこと、逆に俺がその解決に動いていることなどを街に広めてくれたおかげで、俺に掛けられた偽金の製造販売の冤罪も晴らしてくれたとか。
俺はそれらの話を聞いて、深くため息を吐く。
「……なんか一気に色々解決しましたね」
「彼らは誘拐と賄賂で我々手を動けないようにしていただけですからね。ロイドさんがココを助けてくれたおかげで、その片方が解消されたので、そこからはとんとん拍子でしたよ」
オリスさんはそう言ってから、眉根をひそめて続ける。
「ただ『大蛇の牙』と協力関係にあった、偽金騒動の黒幕の姿がまだつかめていません。そいつらを捕まえるのにはまだ時間がかかりそうですね」
「あっ、そのことで新たに分かったことがありました」
「分かったこと?」
それから、俺は採掘場にいたルナのことをオリスさんに報告した。
おそらく、『大蛇の牙』と協力関係にある組織を見つけるには、ルナを追うことが一番の近道になるだろう。
そう考えてルナの情報を伝えると、オリスさんは腕を組んで深く考え込んだ。
「なるほど。そんな女の子がいたんですか。とりあえず、頂いた情報を基に色々と調べてみようと思います」
「ありがとうございます。そうしてもらえると助かります」
俺たちだけで情報を集めるのは難しいだろうと思っていたので、オリスさんからそのことを提案してもらえたのはでかい。
俺がそんなことを考えていると、オリスさんはぽろっと言葉を漏らした。
「妖狐の少女か……」
「オリスさん?」
「ああ、いえ。昔ここから離れたモルンという村で、悪さをした妖狐の子が捕まったとかいう話を聞いたことがあったので、思い出してしまっただけです」
「悪さをした妖狐? そんなことがあったんですか?」
「ええ。ですが、結構前のことなので、今回採掘場にいた妖狐の少女とは別でしょう。すみません、忘れてください」
オリスさんはそこまで言うと、思い出したように三本の鍵をポケットから取り出して、机の上に置いた。
「色々あってお疲れでしょうから、しばらくこの街で休んでいってください。魔物討伐の報酬の他にも、個人的なお礼も色々したいですし」
「報酬? いや、俺はただ自分の冤罪を晴らした方だけなので、そこまでして貰わないで平気ですって」
俺は思いもしなかった言葉に手をブンブンと横に振る。
自分の冤罪を晴らすために行ったことの一環なので、そこでお金を貰ってしまうのは悪い気がした。
というか、悪名高いロイドのことだから、オリスさんがなんとも思わなくても、他の人たちにロイドの自作自演だと疑われかねない。
しかし、オリスさんは折れることなく机の上に置いた三本の鍵を俺体の前に差し出してきた。
「そういうわけにはいきませんよ。ただちょっと忙しくなりそうですので、お時間をいただきたい。宿も一週間ほど取っておきましたので、そちらでゆっくりしていってください」
結局、何度も断ったのだが断り切れず、俺たちはオリスさんから貰った鍵と地図を基に街にある宿へと向かうことになったのだった。
宿に移動した俺たちは、各々の部屋で分かれて少し休むことになった。
俺は宿のベッドの上で横になって、俺の冤罪の一件のことを考えていた。
「『大蛇の牙』が捕まって、指名手配が撤廃されて、俺に掛けられていた疑いが冤罪だったことが広まって問題解決、か」
俺に罪をなすりつけている奴を掴めようとガランまで来たわけだが、ココを助けて、採掘場にいる魔物を倒しているうちに色々と解決したらしい。
黒幕はまだ捕まえられてはいないが、金の採掘がまた始まれば金の価格も安定するだろう。
「……本当にこれで終わりなのか?」
終わってみれば呆気ない事件だったが、改めて考えてみるとまだ解決していないことが多い。
俺は体を起こしてベッドの上で腕を組む。
「さっきのオリスさんの話が気になるよな」
俺は採掘場の道中にアリシャから聞いた言葉を思い出し、そんな独り言を漏らす。
アリシャの話では、妖狐というのは数が少ないらしく、奴隷商が放っておかない種族らしい。
人を化かすことに優れており、顔が整っている種族ということもあり、いろんなジャンルの人から人気とのことだった。
なんで狙われる側のルナが奴隷商人なんかをやっているのだろうか。
『何も知らないくせに……』
そんなことを考えていると、採掘場でのルナの言葉を思いだした。
リリナがルナに向かって最低だと言った時、ルナは悔しそうな表情をしていた。それに、時々漏れる意味深な言葉からも、好んで奴隷商をやっているようには思えなかった。
そして、そこまで考えたときに一つの可能性が浮かび上がった。
「昔捕まった妖狐と、ルナが同一人物だとしたら……捕まった先で無理やり、奴隷商の仕事を手伝わされている? そうじゃなくても、捕まった妖狐がルナと関係のある妖狐って可能性もあるか」
捕まった先で脅されているのか、捕まった人質のために働かされているのか分からないが、仮にそうだとしたらルナは悪者でないのに、奴隷商のせいで悪者にさせられたってことか?
そのことに気づきかけたとき、ふともう一つの疑問が頭に浮かんできた。
「なんでルナが呼び寄せた魔物は、『迷いの森』の魔物だったんだ?」
強い魔物を連れてくるというのなら、わざわざ遠い『迷いの森』から魔物を連れてこなくてもいいはずだ。
わざわざ遠くて、森のことに詳しくないと出入りができないような森から魔物を連れてくる理由が分からない。
そもそも、俺はケインの件で近くの山で起きた異変を解決している。ルナも少しの間はあの街に住んでいただろうし、知らないことはないだろう。
俺が住んでいる街の近くでそんなことをしたら、また俺がしゃしゃり出てくると考えるのって考えるよな?
それなら、余計に迷いの森の魔物を大々的に運び出すなんてことは避けるはず。
そうじゃないと、俺にバレてーー
「俺にバラすため? 俺に、助けてもらうため?」
いやいや、考え過ぎだ。俺にバラしたところで、俺がルナを助ける保証なんかない。
俺とルナに接点はなかった。普通はそんな奴に助けを求めたりはしないはずだ。
仮に、俺に助けを求めて、あえてバレるように『迷いの森』の魔物を運び出したとして、俺がルナの前に現れるなんて可能性はゼロに等しい。
そもそも、俺がガランの街に来れたのは奇跡に近いだろ。
偶然追っ手に追われて橋から落ちて、滝の裏からは入れる洞窟を見つけて、そのトロッコが偶然ガランの街の近くまで繋がっていて……偶然、オリスさんと小屋で会って。
いや、これってさすがに出来過ぎてないか?
助けて欲しいと思って、そこに実際に助けてくる人が現れるなんてこと、アニメのヒロインぐらいだろ。
俺はそこまで考えて、ぽろっと言葉を漏らす。
「ヒロイン補正?」
以前、リリナが言っていた。
俺を助けなくちゃと思ったら、一気に色んなスキルが増えたことがあったと。普通ならありえないことだが、ヒロイン補正が働いたのならそれも考えられると思っていた。
もしも、それがルナにも起こっていたとしたら?
いや、でも、ルナはこのアニメのヒロインじゃない。それでも、もしもルナにヒロイン補正がかかっているとしたらーー
「このアニメの、隠れヒロイン?」
アニメでは語られなかった、ケインが助けることのできなかったヒロイン。
ルナそんなゲームなどにいる隠れヒロインだったら。そう考えると、色々と上手く繋がるような気がした。
悪役にさせられてしまったヒロイン。そう考えると、なんとなくだがロイドと近いものがあるような気がしてしまった。




