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第102話 ルナの過去

 ボク――ルナが育ったのは、ガランから遠く離れた田舎、モルンという村の山だった。


 早いうちに両親を亡くしたボクは、妹たちと共に山奥の廃神社で質素な暮らしをしていた。


 昔は街の近くに住んでいたこともあったのだが、その際に奴隷商に見つかって追い回されて、田舎の山奥にある廃神社に住むことになった。


お金が必要になれば、山の魔物や素材を集めて近くの店に売りに行く。


 もちろん、そのときは妖狐であることを隠して、人間の姿に化けてから人里に降りていった。


 その際、男に化けた方が舐められないということもあって、気づけば一人称が『ボク』になってしまっていた。


 そんな山奥での生活に慣れたある日、妹たちが私の代わりに山で取った素材をお金に変えてくると言ってきた。


 まだ妹たちに早い気がしたが、妖狐として生きていくための人生経験には悪くないだろうと考え、妹たちを人里に向かわせることにした。


 しかし、いつまで経って妹たちは帰ってこなかった。


妹たちを心配して人里に向かうと、グスタフという貴族が怪しげな男を連れて検問を敷いたらしい。


 そして、その検問に二人の男の子が引っ掛かり、連れていかれてしまったとか。


無理やり連れられていく中で、その子たちのお尻から狐の尻尾のようなものが見えたこともあり、街の人たちは悪さをした妖狐が連れていかれたのではと噂をしていた。


 私はその話を聞くなり、慌ててグスタフという貴族の屋敷に急いで向かった。


 妹たちに経験を積ませよう軽率な考えが、私の人生を絶望に突き落とすことになるのだった。




「くそっ! 放してよ!」


「グスタフ様、連れてまいりました。こいつが屋敷に忍び込んだ狐です」


 ボクは二人の男に押さえつけられながら、でっぷりとしたおっさんの前に無理矢理座らされていた。


 本来なら、スキルを使っておっさんもまとめて制圧することができるのだが、上手く力が入らないでいた。


 ボクはグスタフの屋敷に忍び込むために、使用人に化けて屋敷に忍び込んだ。


順調に忍び込むことができた私は、捕らわれているはずの妹たちを探していたのだが、突然背後から何か針のようなものを撃たれてしまった。それから、体の自由が利かなくなるだけではなく、使用人に化けていたスキルまでも無効化されてしまったのだった。


「ほう、おまえがあの娘たちが助けを求めていた姉か。まさか、他の使用人が誰も気づかないほど化けれるとは、大したスキルではないか」


 グスタフはニヤリと気味の悪い笑みを浮かべて、私を見定めるような目で見てきた。


 ボクはグスタフをきっと強く睨みつける。


「どうやって、妹たちの『変化』に気づいたの!」


「人を化かすスキルがあれば、それを見抜くスキルもある。俺の近くに置くには少し怪しげな男だったが、狐の変化くらいは見破る力がある男のようだな」


 ボクはグスタフの言葉を聞いて大きな舌打ちをした。妖狐は別の人に化けることができる『変化』のスキルが得意で、一番初めに覚えるスキルが『変化』のスキルだ。


 もちろん、そのスキルを見破るスキルがあるのは知っていた。でも、そんなスキルを持っている奴なんてあんな田舎の人里にはいない。


 だから、あんな田舎で生活をしていたというのに……。


「ボクの妹たちをどこにやった!」


「ここにはいない。なに、妖狐の娘だからすぐに買い手がつくだろうなぁ。マニアには大ウケだ」


「くっ! 今すぐ妹たちを解放しろ!」


 ボクが声を荒らげても、グスタフは余裕の表情でボクを鼻で笑った。


「するわけがないだろう。あれは良い金になる」


 ボクはギリッと歯ぎしりをさせてから、顔を俯かせた。


「……それなら、妹たちの代わりにボクを売ればいい。妹たちは『変化』のスキル以外は何も持っていない。それなら、ボクの方がスキルを持っているし、良い値になるはずだ」


「おまえも売りに出すのは決まっている。ただ……そうだな。奴隷商のはしくれとして、俺も一匹くらいは妖狐を飼ってもいいかもしれん。おまえの働き次第では、妹たちを売りに出すのはやめてやろう」


 ボクはグスタフの言葉を聞いて、思わず顔をバッと上げた。


 嫌な笑みを浮かべ続けるグスタフの考えが気にはなるが、それよりも妹たちが売られないということだけでも今の私にとっては朗報だった。


「ほ、本当に⁉」


「ああ、本当だ。ただ、おまえに妖狐二匹の市場価格分くらいは稼いでもらうことになる」


 ボクはグスタフの言葉を聞いて、一瞬言葉に詰まった。


 しかし、妹たちが売られないで済むという魅力的な言葉に引き下がることができなかった。


「それって、一体いくらなの?」


「普通に働いたら一生稼ぐことができないくらいの価格だ」


「そんな額、どうやって稼げって言うのさ」


 ボクはグスタフの言葉を聞いて、グスタフを強く睨んでいた。


 一生かかっても稼げない額を提示してくるということは、どっちみち私の妹たちを売るということなのだろう。


一瞬妹たちだけでも助かるかもしれないと思ってしまっただけに、上げられてから落とされた気がしてすごく不快な気持ちになった。


「簡単なことだ。奴隷商人として俺の下につけ」


「え?」


 ボクは思いもしなかったグスタフの言葉を聞いて、抜けた声を漏らした。


 すると、グスタフは悪巧みをする顔で私を指さして続ける。


「『変化』のスキルで珍しい種族の親にでも化ければいい。故人なんかに化けたら、喜んでついてくるだろ」


「最低過ぎるでしょっ、そんなやりかたっ」


 ボクはグスタフに強い憤りを覚え、再び強くグスタフを睨んだ。


両親を早くに失くしただけに、自分が同じようなことされたら絶対に許せないと強く思った。


 そして、そんな最低な発想をするこの男が許せなかった。


「随分と反抗的な目だな。んん?」


「っ」


 しかし、ボクはグスタフの考えを強く否定することができずにいた。


 強く否定したらどうなるのか、その先の未来を考えたくないという気持ちから、ただ黙り込むことしかできなかった。


 すると、グスタフはニヤリと笑みを浮かべて口を開く。


「それで、どうする? 奴隷商人として、俺の下について妹二人分の金を払い終えるまで働くか、三人とも変態貴族どもに飼われて一生を過ごすか選ぶがよい」


「……奴隷商人になります」


 ボクが歯を食いしばってそう答えると、グスタフのもとに一人の使用人の男が近づいていった。ちらっと見ると、その男は『隷属の首輪』を手にしていた。


 あれを着けられて、逆らえなくなるのだろう。


 ボクがそう考えていると、グスタフが近づいてきた使用人の男を手で制した。


「いや、それはいらん。道具で縛るのもいいが、精神的に縛り付けてやるのも一興だ」


 グスタフはそう言って、愉快そうな表情を浮かべて私を見る。


「おまえは自分の意思で俺の下につくのだ。離れた所にいる妹たちに、死よりも辛い人生を歩ませないためにな」


 無理矢理やらされているわけではなく、自分の意思でグスタフの下について奴隷商人をやる。


 グスタフはボクが自発的に悪事に手を染めさせるということを楽しんでいるようだった。


「……はい、わかりました」


 ボクはグスタフの言葉にただ頷くことしかできなかった。


 それから、ボクはグスタフの下について多くの子たちを誘拐して、奴隷にしてきた。


 ボクも奴隷商から狙われる側だったから、捕まえられることへの恐怖心を知っていたし、故人に化けて誘拐することがどれほど最低なことかは分かっていた。


 分かってはいたのだが、妹たちを守るためには手を汚すしかなかった。


 そんな自分勝手過ぎる考えが嫌になって、何度も泣いて何度も吐きながら、グスタフの下で働き続けてきた。


 そんなふうに心身ともにボロボロになったある日、私はとある噂を聞いた。


それは、とある冒険者が私と同年代くらいの子を無償で助けたという話だった。


 何を思ったのだろうか。気がつくと、ボクはそんな噂の冒険者がいるというある街にいた。





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