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試験終了とそれから


「龍真…それに従者の者達よ、見世物にするような真似をして苦労掛けたな。あれならば異論を唱える者もそう出ては来ないだろう」


「いえ、気になさらないで下さい陛下。ですが臣民でもない我々がリオン様の護衛となるのを反対する勢力はどうしても出てくるでしょうね…」


日取りを決め、貴族や重臣を集め派手に執り行った護衛認定試験を無事終えた龍真達は皇帝とリオンの皇族親子と共に"白帝殿"…謁見の間の奥、"対談の間"へと通されていた。

勿論外部に音が漏れないように防音処置を施して…である。


龍真達の実力を事前に知りつつ、尚強大な存在だと突き付けられた皇帝は龍真達に労いの言葉を掛けた。

闘技場で皇帝が纏めた言葉は無論建前だった。三帝とあのまま戦ったところで龍真達の勝利は明白だったが、リリーファルナ最強の三帝に勝る存在ともなれば立場が危ぶまれ行動も制限されるだろう。

龍真が頼まずとも皇帝が配慮したのだ。


見世物とされるのは正直勘弁して欲しかった龍真だったが今後の絶えず突っ掛かって来られることを思えばまだ良かったと思うしかなかった。

三帝との戦いの後起こった拍手の中にも悪意が混ざっているのを【識別眼】で視ていた龍真からすれば、安心するのは未だ早いというのが本音だった。


「うむ…。とはいえ力を知った上に私の決定となれば表立って事を起こすことはあるまい」


「それは確かにそうですね」


「龍真様、リオンの為に色々してくれてありがとうございます。正式に護衛として傍にいてくれるのは凄く嬉しいですっ」


"龍真様を護衛に縛り付けてしまうのは申し訳無いですけど"と謝罪するリオンの表情はやはりというか何というか、安堵と喜びに満ちていた。


「身分を確約する証書は間もなく出来るだろう。龍真よ、この後はどうするつもりなのだ?」


リオンの安堵と共に皇帝の方も安堵の表情を見せる。

純粋に喜ぶリオンとは違い龍真達が暫く護衛としてリリーファルナに滞在するからというのが理由だが。

公的にリオンの護衛と認められたとはいえ龍真達は皇帝から行動の制限を受けていない。だから皇帝は身分証を受け取った後の龍真達の行動を尋ねたのだった。


「ありがとうございます、陛下。そうですね…出来上がった物を戴き次第アルティスに冒険者登録をしておこうと思います」


"アルティス"

…それはこの世界の"冒険者ギルド"の名称を指す。


龍真達が過ごしていた"勇滅の森"に成人の儀を行う為に訪れていたリオンを助け、帝都リリーファルナにやって来る前…龍真はリオンを襲った盗賊団を壊滅させた後近くの村や街に赴き、盗賊団から得た資金や物資を元手にこの"アルティス"で冒険者登録することで最低限の身分を作り実績を重ねた上で活動範囲を広めようと予定していた。


当初の予定とは大幅に違いが出てしまってはいたが護衛の報酬で得た身分とは別にしても、やはりギルドというのは欠かせない存在なのだ。


「成程…アルティスで冒険者の登録、か。それは今後活動の幅も増えるかも知れんな。そうだリオン、お前も彼等に着いて行って冒険者登録して来ると良い」


「え?リオンも…ですか?」


(…急に何を言ってるんだ陛下は)


龍真達の行動予定を聴いた皇帝が妙に納得した顔を見せ、続いて隣のリオンにもアルティスでの冒険者登録を薦める。

リオン本人は驚きながらも満更ではなさそうだったが龍真から見れば信じられない話だ。

リリーファルナの未来を担う自分の愛娘をわざわざ危険と隣り合わせの冒険者にさせる意味が分からなかったからである。


「その方が龍真達の動きについて行き易いだろう?」


「…父様」


「陛下…寛大な処置をして戴いて大変有難いのですが、色々と宜しいのですか?」


皇帝が下した判断は極めて破格で異例な対応である。

本来、護衛対象の皇女であるリオンの行動に合わせて護衛側が付き従うのが常識的だった。

龍真達の行動にリオンが合わせ、行動の制限も設けず好きなように振る舞えるとは龍真自身思ってもみなかったのだ。


龍真は皇帝に礼を告げると共に、自分達の行動や娘の安全など様々な意味合いを込めて"色々"と使い大丈夫なのか確認する。


「……帝都直轄の騎士や兵士ではないそなた達が護衛してくれるのだ、そしてその潜在能力は三帝を凌駕するとなれば我々側が譲歩する価値は充分過ぎる程ある…ということだ」


「成程、では重ねて確認なのですが、皇女であるリオン様がアルティスで冒険者登録するのなら偽名か何かの処置をなされるのですか?」


言葉を濁して確認した龍真に対して皇帝は万事問題無いと即答する。

リオンに関しては城に残るより龍真達と行動した方が遥かに安全だというのと、行動に制限を掛けないのも一応納得行く理由であった。


龍真は納得すると次の疑問を皇帝に投げ掛ける。

続いて知りたかったのはリオンのアルティス登録に関してのことだ。

リオンは皇女として公に姿を晒しているのだから、冒険者登録するとなれば嫌でも暫くは注目を浴びるだろう。

そうなれば興味本位で近付く者も少なからず出てくる筈だと予測を立てた上で、"似ているが別人"程度のカモフラージュは必要ではないかと進言したのだ。


「ふむ…龍真の意見を取り入れる価値は充分にあると思うが、リオンの顔は臣民に知れ渡っているのだし隠していても仕方ないだろう。堂々と登録して行動するのが得策だと思うが」


「陛下がそれで宜しいのでしたら我々は構いませんが、皇族の決まり事などには影響はないのですか?」


「大丈夫だ。過去にもアルティスで冒険者をしていた皇族は多数存在するし、私自身もやっていたのだからな。だからリオンが登録しても特別なことではないのだ」


「分かりました、でしたら何の憂いもなく登録出来ますね」


龍真の意見を尊重しつつも皇帝が堂々と身分を明かして登録すれば良いと応えれば、龍真は重ねて皇族としては問題ないか確認する。

見落としがあって面倒事が増えるのは御免だからだ。


慎重に憂いを無くそうと会話を進める龍真を見た皇帝が自分自身もアルティスで登録した冒険者だと明かすと、そこで漸く龍真も納得したのだった。


「陛下、彼等の証明が出来上がりましたので入室しても宜しいでしょうか?」


(タイミングが良いな…ずっと門前で待ってたのか…?)


防音措置が施された"対談の間"での会話が一区切りして皇帝が解除すると同時に扉の向こうから龍真達の身分を証明する物が完成したと報告が入る。

解除したのを見計らったかのようなタイミングだった為それまで待っていたのかと予想した龍真だったが、正にその通りで解除の少し前から待機していたのだった。


「うむ、入室を許可する。龍真達に出来上がった物を渡すのだ」


「…失礼致します」


皇帝の許可を経て入室してきたのはリオンやミアティスと差の無い年頃の侍女であった。


(…獣人のメイドか)


侍女が入室すると龍真は視線を侍女に向ける。

明るい金髪の髪をツインテールに纏めておりスレンダーな身体なのは大して物珍しくもないが、頭に這えて上を向く獣耳と同色の揺れる尻尾には嫌でも視線が行ってしまった。


「僭越ながら陛下、私などが渡すよりも陛下が彼等に手渡した方が良いかと思われますのでこちらをどうぞお納め下さい。では私はこれで…」


獣人のメイドは凛とした態度で"対談の間"に脚を踏み入れ皇帝の傍まで近付くと、龍真達の身分証が入っているであろう金属製の箱を皇帝に手渡し、営業スマイルさながらの柔らかな笑顔を向けて進言し忠義を示す礼を現して身体を反転させ再び龍真達の前を擦れ違おうと接近する。


「………──────────、─────。─────さい…」


「………」


静観していた龍真の真横で止まった侍女は龍真にしか聴こえないような静かな声量で一言告げるとそのまま城内へ去って行ったのだった。




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