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面倒になったら試験は終らせてしまおう



「無礼な、離して貰おう!」


「衝撃を殺して受け止めた相手にそのような物言い…どちらが無礼でしょうか」


ミアティスに小突かれ龍真の方に弾き飛ばされた武帝の接近を感知し受け止めた龍真だったが、受け止めた相手が龍真だと気付いた武帝は慌てて龍真から距離を取ると龍真に向けて放った言葉がこれだった。

三帝が如何に皇帝直属の護衛だろうと助けに入った者を邪険に扱うのは上に立つ立場の人間として道理に反するのではないかと納得出来なかった龍真が言及する。


その言葉はスレイモンスターのミアティスとシオンにも届いており、ミアティスが武帝へ飛び掛かろうとしたがシオンがそれを制した。


「……三帝が龍真の前に揃ったか。どう見る?」


「人数的な優劣を見れば三帝の皆さんが有利な様に見えますけど、恐らく龍真様が全部受け止めると思います。攻める三帝をどう納得させるかは想像付きませんけど」


「ほぅ…やはりそれ程か」



戦況を眺めていた皇帝はそれぞれ相手をしていた三帝が龍真の前に並んだのを見て、隣で見守るリオンにこの後どうなるか戦況予測を試みる。

儀式の神殿で創られた存在とはいえ此方で言う竜種の魔物ゴラムゾッドカイレンを単独かつ迅速に撃退した龍真を見ている親子だ、三帝が纏まり連携攻撃を繰り出したとしても問題無いのは容易に想像出来てしまったのである。


剣帝と魔帝の攻撃に武帝の攻撃も加わり、端から見れば一層熾烈な猛攻を龍真が受けている様に見えるのだ。

状況を正確に捉えられているのはミアティスやシオン、戦っている三帝を含めごく一部だけだった。


「…っく、こいつ…」


「僕達が揃った連携でも命中しませんか…っ」


「皇帝陛下推薦というのも頷ける…だが終われんな!」


武帝が放つ【熔塵(マグナダート)】の手甲を盗賊団の剣で凪ぎ払い、魔帝が隙を突いて放った筈の氷の矢を最小限の動きで回避し、姿勢が崩れて命中する筈の剣帝から放たれる剣撃を受け流し、龍真と三帝は対峙していた。


開始当初、闘技台の周りで成り行きを見定める見物客は三帝の戦いを見られるという目的の為に集まった者が大半で、龍真達の愚かさを嘲笑おうとしていた者も少なくはなかったが三帝と龍真の戦いを見て考えを改める者も出てきていた。


「始めは三帝を相手取ろうとするなど愚か者でしかないと思ったが…リオン皇女様を護衛したという強さは本物のようだな」


「いや、流石に三帝は本気を出していないだろうが、力を抑えた状態でもあそこまで渡り合えておるのだ。今後護衛の任に就かせるのも悪くないのではないか?」


評価に変化が見られた頃合いで龍真に1つの感情が沸き上がる。


(…この様子ならそろそろリオンの護衛としての試験とか充分だろ。これ以上は面倒臭いな)


もう充分だと判断した龍真は三帝との戦いが面倒になってしまったのである。

元々龍真と彼等の間には雲泥の実力差があるのだ、彼等の動きに合わせ同等の力に落とし、尚且つ相手に恥を掻かせないように動くのは多少ストレスを感じるやり方だった。


「ふふ、そろそろ主が面倒臭そうな顔になってるな。どうする?私達と同じように圧倒してしまうか?」


「シオンさん…彼等と戦っているより良い顔してますね」


「予定より楽しめる状況ではなかったからな。主はこのまま終了を告げるまで手加減しながら立ち回るか、もう圧勝してしまうか…それとも別な方法を取るか。主を知る私達だけの楽しみ方だろう?」


「私は本当は、マスターにあんなことをさせずに代わりに私が戦って、マスターにはゆっくりしていて貰いたいですけど」


龍真の戦いを一番近くで並列して眺めているシオンは主人の些細な表情変化から感情を読み取り、楽しげに次の行動を予想していた。

ミアティスはというと今発した言葉通り自分が龍真に代わって三帝を相手取り、早急に終わらせてしまいたくて仕方ないといった状態だ。


しかしこのやり方を提案したのは他ならぬ龍真自身である。マスター第一のミアティスは自分の意思を通すより龍真が望む国の要人に目立たず済ませる戦い方で決着を待つ以外なかった。


(向こうも攻め切れなくて段々必死になってるしな…終わらせるか)


空中で身体をひねり攻撃を避けていた龍真は此処が頃合いだと見切り武帝の手甲を蹴ると距離を取って着地する。


「そっちか…逃がさんぞっ」


距離を取ることで消耗した体力を回復していると勘違いした三帝は好機だと勘違いして一気に畳み掛けようと一斉に詰め寄ってきた。


(範囲対象は…これで良し。【神圧】…)


「…っな、これは…うぅ」


「何故だ…急に脚が、動かん」


龍真がスキルを発動させると詰め寄って来た三帝の動きが急にぴたりと止まる。

効果の範囲を絞り込み発動した【神圧】は相手を威圧するだけのスキルだ。但し聖獣であるシオンの威圧も凌駕する重圧なので三帝は本能で脚を止め、心臓を握り潰されるような感覚と恐怖に陥っていた。


「苦しい…く、貴様…一体、な…何を……」


龍真に眼を向けて問い詰めようとした剣帝は重圧で萎縮し問い詰めることもまともに龍真と見合うことも出来なかった。

たった今まで見下してた相手が一瞬で下手に何かすれば殺されてしまうかも知れないと思わせる雰囲気を纏って自分達の方を見ているのだ、信じられないのも無理のない話である。



「…我々がリオン様の護衛として問題無いというのはもう充分証明出来たと思います。三帝の皆様の方から終了を伝えてくれませんか?でないと……」


"大勢の臣下の方の前、陛下の前で恥を掻くことになりますよ?"

龍真がそう告げ終えて剣を軽く動かしただけで三帝からは血の気が失せ、顔面蒼白状態で震えていた。


代表して剣帝が微かに頷いたのを確認しても龍真は【神圧】を解かない。

この状態のまま試験終了を伝えるまで待つ気でいるのだ。


《成程、流石主だ。この方法なら力を見せず、時間も掛けずに相手の戦意を奪い取ることが出来るな…あの重圧を受けて平然と出来る存在はそういないだろう》


《彼等が発狂しない程度に抑えてはいますけどね。効果の範囲は私達と彼等だけでしょうか…?》


手を出せず震える程の恐怖に包まれた三帝を余所にスレイモンスターのミアティスとシオンは龍真が放った重圧の中で平然としていた。

スキルの効果を三帝が発狂しない程度に抑えていればその力より上の2人が大した効果を受けないのは当然のことだろう。


ミアティスは闘技場の上で龍真が三帝以外の誰かにもこの重圧を与えていないか耳を済ませ、瞳を凝らし観客を観察した。


「…父様?どうなさいましたか?」


「た、戦いはこれまでのようだな…リオン、お前は…何ともない、のか…?」


ミアティスが見回して気付いた時、隣に座っていたリオンも変化に気付き声を掛ける。

三帝同様に表情を険しくさせ微かに震えながらも気丈に振る舞っていたのは皇帝だった。

他の城内関係者とは明らかに異なる表情を見せ龍真の重圧を肌身で感じていた皇帝は同じく動けない三帝を見て戦いの終了を察し、間近にいる娘のリオンは影響がないのか尋ねたが変化が見られないのを確認すると一層戦慄を覚えた。


「効果を受ける対象を選別…出来るのか…?あの若さで、本当に末恐ろしい男だ…」


父親である皇帝の変化に疑問符を浮かべ首を傾げるリオンの横で皇帝は龍真の強さの可能性に畏怖すら感じていた。

儀式の神殿からこの戦いまで見て龍真の強さを体感したのだ、国を守る立場の皇帝として龍真達を敵に回すリスクを減らそうと頭を働かせるのは正常な判断である。


「闘技貴臣よ…彼等は皇女様を護衛するに相応しい力を持っているようだ。この辺で合格として試験を終わらせて問題無いだろう」


「…ふむ、武帝殿と魔帝殿も剣帝殿と同じ意見か?」


重圧で恐怖が支配する中、闘技場で判定している闘技貴臣の方を向いた剣帝は龍真の進言に同意を示し龍真達の合格を提案する。

剣帝の提案を耳にした闘技貴臣は顎に手を当て考え込んだ後、近くの武帝と魔帝に視線を向け2人の意見はどうか尋ねる。

聴かれた2人はほぼ同時に頷くだけで精一杯だった。


「全員一致の意見ならば問題無いだろう…陛下宜しいですかな?」


「うむ、三帝を相手取り此処まで健闘した彼等を評価すべきだな」


三帝が揃って同じ意見だと確証が取れた闘技貴臣は次に皇帝に判断を委ねる。

龍真はこの少し前に三帝と皇帝、そしてスレイモンスターの2人を対象内にしていた【神圧】を解いていた。

このタイミングで皇帝の重圧がなくなったので闘技貴臣から振られた質問に皇帝は平常通り返すことが出来たのだ。


「はっ!ではこれにて護衛認定試験を終了として、正式に第一皇女の護衛と認めることとする!!」


闘技貴臣の終了号令が響き渡ると闘技場に拍手が巻き起こったのだった。




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