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冷静さを欠いてはいけない


「本気の攻撃ではないといえ、こんな娘が私の拳を避ける…だと?」


「そうでしたか、では早めに本気を出してこちらの力を認めて下さい」


視点は変わりミアティスと武帝の戦いに移る。

龍真が剣帝と一度目の刃を交わらせた時、ミアティスは直ぐに武帝の前に立ちはだかり翼を拡げて切迫する。

それに武帝が反応し正拳を繰り出したが直撃の寸前でミアティスが回避して懐へ入り込んだ。

ミアティスは龍真の方針に習い、武帝を圧倒することはせず反応出来る程度の力量を見極めて飛び込んでいたのだが、何も知らない武帝は驚きの声を漏らした。


これに対してのミアティスの返答は早く本気を出してくれ、という素っ気ないものである。

ミアティスの方から本気を出すつもりはないし武帝という存在に興味も無いので仕方無いことであった。


「身の程知らずの娘だ…三帝という称号がどういう意味を持つのか、味わいたいらしいな」


「……………」


"そんな物の意味なんて知る必要ありませんが"と突っ込みたいミアティスだったが、余計な挑発すら面倒なことになるかも知れないと思い無言を貫いた。


肌身で理解させてやると言った武帝は深紅の両手甲を重ね鈍い音を響かせる。

すると手甲が淡く熱を帯び始め湯気が立ち上ってきた。


「我が【熔塵(マグナダート)】の力…特と味わうが良い!」


淡い熱が発光する程濃厚に変貌すると武帝は合わせた拳を離しミアティス目掛けて突進してくる…かと思えばミアティスから見て左方向へ飛び、変則的な動きで初撃と比べ物にならない拳速の連撃を重ねてきた。


(…触れれば最後、みたいですね。試験という名目上、力の調整は出来るのかも知れませんが触れない方が得策です)


武帝の不規則な攻撃を見切っているミアティスはスキルの分析を平然と済ませ、紙一重で直撃するかという至近距離で最小限の動きで連続回避を行っていた。


「武帝の技を見れるとはな、これだけでも見に来た甲斐があるというものよ…」 


「まるで踊っているような鮮やかで無駄の無い動きに少女は手も足も出ませんね…可哀想に」


貴族の女性が漏らした言葉通り、武帝の動きは不規則かつ優雅な動きで正に演舞しているような動きだったがミアティスが故意に直前で避けているのには気付いていない。シオンと魔帝の戦い同様の状態である。


「どうした、少しは攻撃して来んのか?これでは皇女様の護衛とは認められんな」


シオンが行った行動と異なることと言えば、ミアティスは武帝すら欺いて回避しているということだ。

自分より完全に格下の相手だと誤認した武帝は更に攻撃速度を速め、手数を増していく。

奇しくも武帝が使用しているスキル、【熔塵(マグナダート)】の炎熱で周りの大気が蜃気楼で揺らめいている為ミアティスの行動や表情が捉えにくい状態なのも読み取れない要因だろう。

いずれにしても武帝の行動は完全にミアティスを侮った行動であった。


武帝が次の連撃に繋げる為に構えを取ったタイミングに合わせたかのように丁度良く別方向で爆発が巻き起こる。

シオンと魔帝が交戦している場所だ。


「なんだ?強力な魔法でも放ったか?幼子相手に大人げない奴だ」


(これはシオンさんの仕業ですね…それにしても、偉い方を守護する凄腕の実力者といえど注意を怠り別なところに意識を向けたりするんですか。マスターを見習って欲しいです)


ミアティスと交戦している筈の武帝は爆発した方向へ視線と意識を向け完全に隙だらけの状態だった。

しかしミアティスは自分から攻撃を加えたりせず、その気になれば致命傷を与えられる部位を眺め三帝と敬愛する主人を比較し静観を貫いている。


「ミアティスよ、魔帝は主の方へ行くように仕向けてやった。後は奴だ」


しばらくすると爆煙の中からシオンが現れミアティスの横に並び武帝を見据える。


「シオンさん…マスターはそれを承知で?」


「なに、我等の主なら軍勢と対峙しようと心配無用。そうだろう?」


爆煙の中の状況も周りの状況も発達した聴力で把握していたミアティスは勿論シオンの行動に気付いていないわけがない。

並列したシオンに視線を向けず、任された武帝から眼を離さずに龍真と打ち合わせしたのか尋ねたものの、シオンの返答に納得したミアティスは"それもそうですね"と柔らかな笑みを浮かべ肩の力を抜いた。


「成程、動ける男に2人を任せて私を従者2人で抑え各個撃破していく算段か…舐められたものよ!」


真意を確かめず自分の中で判断した武帝はシオンという援軍が来たことでミアティスが安堵したのだと思い込み手甲から噴き上がる【熔塵(マグナダート)】の炎熱を増大させる。


自分なら2人掛かりであれば倒せる…と自己完結した上に自尊心を逆撫でされたようだ。


「愚かなり武帝よ、貴様は主どころか私達従者1人にも及ばんだろうな。貴様だけではない、三帝とやらが結束したところで主には敵わんだろう」


「…っ!戯れ言を!」


感情が揺れたところに畳み掛けるようにシオンが挑発を続けると案の定武帝は2人に向かい攻撃を仕掛けようと距離を詰める。

ミアティスはそのタイミングで左手を上に掲げ、3人を包み隠す竜巻を発生させた。


「む…これは…?」


「そんなに警戒しないで下さい。シオンさんの爆煙と同じように周りの視界を遮っただけです」


「…何?」


ミアティスが発生させた竜巻は武帝の【熔塵(マグナダート)】の炎熱を乗せ、徐々に朱く染まっていく。まるで武帝が起こしたものかと認識させるように。


武帝はミアティスが放った言葉がにわかに信じられなかった。

"あの爆煙は魔帝が起こしたもの"として捉えていたからだ。


「今からシオンさんが言った言葉は真実だと一瞬だけ体現します。その上でマスターの凄さを肌身で感じて下さい…行きます」


朱い竜巻は姿を隠すだけでなく、中での会話も遮断していた。近付いて耳を澄まさなければ聞き取れない状態なら気兼ねなく会話出来ると判断した結果である。

もっとも、ミアティスは武帝の技に興味がないので武帝自身がこのような芸当を出来るかなど考えてもいなかったが。


武帝に険しい視線を向けたミアティスは自分が攻撃を加えると告げるも武帝はその姿を捉えることは出来なかった。

言葉が終わると同時に武帝は宙を舞っていたからだ。


「…っぐは!」


空が見えたと認識した刹那、武帝の腹部に強烈な痛みが走り呻き声を漏らす。

此処で武帝は自分が格下と思っていた少女から攻撃を受けたのだとやっと理解することが出来たのだ。


態勢を立て直そうとしてもあまりの威力にどうすることも出来ず武帝は竜巻の外に弾き出され、その直ぐ後に竜巻は霧散した。


「…大丈夫ですか?」


「っ…!」


武帝が飛ばされた先に居てその身体を軽々と受け止めたのは剣帝と魔帝の連携攻撃を潜り抜け、適度に攻撃を加えていた龍真であった。


「ふっ…ミアティスよ。あれでは武帝とやらがダメージが残って可哀想ではないか」


「そうですか?傷付かない程度に軽く弾いただけですよ」


朱い竜巻が消えて姿を見せたミアティスは片膝を地面に着いて姿勢を保つ形を取っていた。

酸欠で膝を着いたかのように見せ掛けたミアティスにシオンが近付くと武帝を飛ばした方法に対して指摘する。

武帝への気遣いを見せる言葉とは裏腹にその表情は愉快げであり、ミアティスを咎める気は毛頭ないというのが伺えた。


「まぁ良い、これで三帝全てが主のところへ揃った。奴等が如何に自分が小さい存在なのかを理解するにはうってつけの方法だろう…主は面倒臭がるだろうがな」


ミアティスは武帝の腹部を軽く小突いただけである。

その証拠にシオンが見定めたミアティスの右手は風を纏った残留を見せていたがその部位は2本の丸めた指先だけであったのだ。


闘技場の上で龍真に三帝が集まるという端からみれば過剰戦力な状態に視線を向けたスレイモンスターのミアティスとシオンは、龍真に万が一の事があった時の為にいつでも動ける状態を保ちながら静観に入ったのだった。




どんどん大変な状況になってきますね…どうなるか心配です。

読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、評価下さる皆さん、フォロワーの皆さんいつも本当に有難うございます。



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