まったく主は面倒なことが好きだな
「魔帝とやらよ…攻撃しては来ないのか?」
龍真と剣帝が刃を交えている頃、シオンと魔帝は闘技場で両者とも動かず出方を伺っているのか、向かい合って動かなかった。
シオンの方はわざと魔帝先手を打たせて自分が楽しむ為の沈黙であったが。
「このような戦い…僕は無意味だと思っています。そもそも、貴女は従者でそのように幼い身柄ではありませんか。大人しく闘技貴臣に降参を申し出て……っ!?」
「帝都の長たる皇帝を守護する立場の者が、何と惰弱な…。そのような台詞は私を戦闘不能に出来てから言うのだなっ」
闘技貴臣というのは開始の合図を告げた男のことを指している。こちらで言えば大臣と同意味の言葉である。
魔帝の言うこの場合だと"闘技に関わることを一任する大臣"ということだ。
その闘技貴臣に降参を申し出て安全なところへ少女…シオンを戻そうとしたのは魔帝なりの優しさだろう。
だが刺激を求め、戦いたがっているシオンにしてみればありがた迷惑な話である。
戦う前から避難を提案する魔帝に対しシオンは右手をかざし、光を収縮させた閃光弾を放つと魔帝に挑発的な笑みを送る。
シオンから放たれた閃光弾は魔帝の頬を掠め、その後闘技場の外の観客に直撃することなく空中で霧散した。
「そうですか…その見た目にそぐわない精錬された力、遠慮は要らないということですね」
一連の動きを見送っていた魔帝は冷汗を滴しシオンの能力を評価する。
その頬には閃光弾が掠めた影響で浅い切傷が出来ていたのだった。
「次はもっと力を強めて行くぞ?落胆させるなよ、魔帝とやら」
「力を振るう相手に出会うのはいつ以来でしょうか…僕は今から貴女を好敵手と見なしてお相手しましょう…!」
シオンは尊大な口調で魔帝に楽しませろと命じ、無邪気に笑って手を掲げると複数の属性を纏った閃光弾を作り出した。
その様子を見た魔帝は杖を両手で横に構え、シオンを幼い少女ではなく戦う相手だと認識を改めると全身から光を放ち魔法陣を展開する。
当然シオンにはそれがどんな効果を及ぼすか分かっている為静観したままだ。
「先ずは周りの安全確保から…ですね。此処には陛下もいらっしゃいますから」
「おお、中々の結界だな。個人で作る結界としては充分だろう」
「…まるで貴女自身はもっと質の高い結界を作り出せると言ってるような言動ですね。自信は成長に不可欠ですが、過信は己を滅ぼしますよ!?」
魔帝は杖を構え直し正面に突き出すと再び魔法陣が展開され、魔力が集束される。
「おおっ!あれは魔帝殿の…っ!なんだ、急に弾けたぞ!?」
「………今、何を…っ?」
繰り出そうとしていた魔帝のスキルに観客も歓声を挙げたが魔法陣が展開している途中で弾け、そのまま消えてしまった。
発動しようとした魔帝自身も予想外の事態に驚きを隠せておらず、堪らずシオンの方を向いてシオンが何かしたのではないかと問い詰める。
「なんだ、魔帝ともあろう者が【魔法解除】も味わったことがないのか?」
「…その魔法は…うっ!」
魔法陣をかき消したシオンはその場で黙っているはずもなく、早々と次の行動に移っていた。
魔帝がシオンのいた位置に目を向けた時には既に遅く、回り込んだシオンは魔帝の死角から急接近して耳元で使ったスキルについて尋ねると魔帝は明らかに動揺を現し、一歩も動かず視線だけシオンのいる方へ動かした。
当然、聖獣のシオンから見れば如何にリリーファルナの皇帝を守護する三帝と云えど所詮格下の相手である。
魔帝を見る観客達の見えない位置から圧縮した閃光弾を放ち問い掛ける魔帝とシオン自身の間に爆発を起こした。
「まぁ!魔帝様が少女の接近に気付いて吹き飛ばしましたわ!」
「なんと早い対応…流石三帝の1人よ」
爆発といっても破壊するような威力ではなく、両手で不意に背中を押される程度の威力だ。
同じ力で押されれば身体が華奢なシオンの方が激しく飛ぶのは明白である。
その様子を離れて見ている観客の貴族や臣下の者達からはあたかも魔帝がシオンの接近に気付き、即座に対処して弾き飛ばしたように見えたのだろう。
観客からは歓声が挙がったが当の魔帝の表情は優れない。
(周りへの欺き方や身のこなし、力加減といい…この強さ、こんな少女のうちに得られるような強さじゃないでしょう…っ。一体何故…彼女はこれ程の力を…)
「戦いで相対してる最中に考え事とは感心出来ぬな。そんなことが許されるのは優位な者の方だと思うが?」
シオンは魔帝がシオンの強さについて考えている隙に再び懐に飛び込み、戦闘中の注意散漫を指摘するとまた爆発を起こして距離を離し、死角から接近する…この動作を繰り返して魔帝の方がシオンの動きを読んでことごとく潰しているように見せ掛けた。
重心が崩れたところに気配を殺し、死角から絶妙なタイミングで入ってくるシオンに魔帝はされるがままの状態である。
(僕が赤子のように遊ばれて…いや、彼女は僕で遊んでいる。なんてことだ…)
時々声を漏らしながらよろめく魔帝は自分が倒れ込むことも、自分の魔法を放つことも許されなかった。
シオンがそれらを全て封じた動きで魔帝を圧倒していたのだから無理もない話だった。
シオンに弄ばれている最中、魔帝は"もしもこれが命を掛けた戦闘だったら…"と考えが回り、次第に恐怖が沸き上がっていた。
三帝と称される自分がこうも容易く弄ばれるのだ、並の騎士や魔法部隊などでは一溜りもないだろう。と理解するのにはこれで充分なやり取りであった。
同じ動作を繰り返していたシオンが不意に爆発を大きくさせ、シオンと魔帝を観客達から遮断し、噴煙が立ち上る中で2人きりの空間を作り出すとシオンは魔帝を見て口を開いた。
「…魔帝よ、私の実力は皇女の護衛として充分なのは理解しただろう?我が主の龍真は私以上に強いぞ」
「っ、剣帝との動きを見ていると…とてもそうは思えませんね。実は貴女が指南をしている、とかではないのですか?」
魔帝はシオンの言葉に内心戦慄を覚えた。
だからこそその事実を信じられず、今見ている動きを分析の元
にシオンが一番の手練れではないか…と尋ねたのだ。
「愚か者め、あれは主が剣帝の力量に合わせて戦っているだけだ。まったく…主も圧倒的な力を見せて終わらせれば良いものを、面倒な戦い方が好きだな」
魔帝の問い掛けにシオンは当然首を横に振って否定する。
シオンが続けた言葉に魔帝は冷や汗を滲ませた。
(…この少女が言ってることがもしも事実なら……)
「普段の主なら、お前達三帝とやらが束になっても決して敵わないだろうな。命のやり取りを行う戦場ならば瞬殺されるだろう…ふふっ」
魔帝の思考を読み取ったようにシオンは悪戯好きのニヤけた笑みを浮かべ自信満々に龍真の強さを断言したのだった。
「私の言ってることが嘘だと思うなら、剣帝に合流して試してみると良い。直ぐに主の力が分かるだろう」
明らかな挑発を残してシオンは煙に紛れ、魔帝の傍から姿を消した。
後に残された魔帝はシオンを追うことが出来なかった。シオンよりも龍真の方が気になってしまったからだ。
「我々三帝が力を合わせて敵わない相手なんてそんなに存在する訳がないとは思いますが、不鮮明なことは明白にしないといけませんね…剣帝と合流して…っ」
噴煙が晴れ掛けて隙間から剣と剣がぶつかり合う音の方を見た魔帝は動きも言葉も止めて自身の状態に気が付いた。
良く身体を見渡すと致命傷や行動不能になりかねない部位の衣服に亀裂が入っていたのだ。
(…あの少女は、いつでも僕を倒せた…ということですね。悔しいですが実力は本物、その少女が仕える彼も……直ぐに確めなければっ!)
シオンの力を肌身で感じた魔帝は杖を正面に構え、両手で持つと魔法で衣服の亀裂を元に戻し、剣帝のいる方へ向かったのだった。
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