帝都に入っても続くようだ
「ユージェス、冷静さを欠いたな…これが公になれば無事には済まないことだろう。寛大な皇女様とはいえお咎めは覚悟しておけよ?」
「勿論処罰は覚悟の上です、我ながら醜態を晒してしまいました。申し訳ありません、皇女様」
本来ならば皇族の意に反して手を加えるなどという行為は重罪である。
誠意を示して謝罪を述べた後、ジンヴァは姿勢を元に戻しユージェスを静かに戒めた。
ユージェス本人も先程までの激昂は一切鳴りを潜め、下される処罰を受け止めようと覚悟を決めた面持ちで礼をしたままリオンへ向いている。
「…城下門守衛の方、疑念や哀しみは少しでも晴れましたか?」
「…っ!!」
「リオンを護衛する方々は何度もリオンの命を救って下さいました。それでも、貴方だけではなく他の臣民の中にも納得出来ないと意見を述べる方は少なからず出てくるでしょう…貴方が実際に感じた彼の力は納得出来るものでしたか?」
「それは…私が手も足も出ずに圧倒されたことは認めます。ですが、単独ではどうしようも出来ないこともありますし…正直まだ」
罰を言い渡されるのを覚悟しているユージェスにリオンは別な言葉を投げ掛ける。疑念は晴れたか…と。
リオンは龍真のように相手を見定めた訳ではなく、内に秘められた心の本質を捉えていたのだ。
人を先導する立場としての才覚の片鱗を龍真は改めて見ることが出来た。
(…つまりこのユージェスという男のように今後面倒な絡まれ方をされることが多々あるってことか。そうなると上を納得させるのも1つの手だよな)
「そうですか、正直に話して下さってありがとうございます。やっぱり皆さんが納得出来るようにお願いしてみるしかないのでしょうか…」
「リオン様、それについては自分も同感です。何らかの試練を明示されるなら受けておいた方が無駄な争いに発展せずに済むかと思われます」
リオンがユージェスを裁かなかったのは龍真が戦闘に応じ、そして傷付くことなく交戦を終えたからであった。
己を守るべき鎧と戦う手段の長槍を容易に壊され戦闘出来ない状況に運んだ龍真の気遣い…悪く言えば甘さだが、それを見たリオンは龍真の行動に好感を持ち断罪すべき事柄ではないと判断したのである。
それでいてリオンは龍真に対する追及を最小限に済ませられるように考えていたようだ。
龍真の考えとリオンの考えが一致しているのを知ると龍真はその意見に賛同した。
「龍真様がそれで構わないのなら、リオンもそのように計らってみます。守衛の方…とても参考になりました。貴方に求刑することはしませんし公にもしません、ですからまた、リリーファルナの力になってくださいね」
「…っ!!寛大な処置、身に余る光栄です。皇女様と帝都リリーファルナに一層忠義を尽くします」
龍真の意見に頷き、考えを整理したリオンはユージェスの方を向くと罰することはないし公にもせず、この場だけの秘匿にするという判決を言い渡した。
ユージェスは一度俯くと直ぐに顔を上げ、自国とリオンに尽くすと公言したのだった。
「ありがとう、期待しています。守衛の方…申し訳ありませんがリオン達は至急父である皇帝陛下に報告しなければなりません、門を通して下さいませんか?」
「はっ!大変失礼致しました!ユージェス、門を開けるぞ」
「はい!時間を取らせてしまい、すみませんでした!お帰りなさいませ皇女様っ、ゆっくりと長旅の疲れをお取り下さいませ!」
龍真とリオンの意見が一致したことで瞳に強い意思が宿ったリオンは城下門の通過を2人に求める。許可を取らなくても皇女のリオンが自国に帰れない理由はないというのに律儀なことである。
しかしそれを耳にした守衛2人の反応は早かった。返事を返すと阿吽の呼吸とも言える絶妙な連携であっという間に扉を開けてしまった。
「ふむ、これで漸く入れそうだな。皇女殿には考えがあるようだが、私も楽しめる催しだと良いのだが」
「マスターに降り掛かる面倒なことは私達で対処しましょうね、シオンさん」
龍真達のやり取りが一段落するまで静観を決めて込んでいたシオンだったが門が開くと溜め息混じりに口を開いた。
退屈な人族に紛れる生活の中で刺激的な催しを求めるのはシオンにとってある意味必然的なことであったが、己の主に迫る危険という事柄に関してはミアティスも同意を示す。
「ふふ、では行きましょうか。皆さんリオンに着いて来て下さいね」
「ご案内、宜しくお願いしますリオン様」
シオンとミアティスの会話を聴き、微笑んだリオンは龍真達に出発の号令を掛ける。
帝都に入れば安全だと考えていた龍真だったがそう上手く行かないだろうというのは実証済みなので気を引き締めて城下門を通過したのだった。
「ロディックさんの事は…残念だったな。皇女様の配慮には感謝しないとな」
「ジンヴァさん、自分駄目になった武器を替えて来ますね」
「…あぁ、ゆっくり選んで自分に合うものを見て来ても良いぞ」
そう言って俯き加減に城下門に併設された扉へ向かうユージェスの目尻には光る物が輝いていて、それを見送るジンヴァの表情は温かいものであった。
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「無事に通過出来て良かったですね、マスター」
「そうだな、身分を明かさず中に入れたのはリオン様の協力がなかったら不可能だった。ありがとうございます、リオン様」
「うむ、その点感謝しよう皇女殿」
「そんな、リオンの力が至らないばかりに龍真様に迷惑掛けてしまいました。それに恐らくこの後も…」
城下門を通過して帝都リリーファルナに足を踏み入れた龍真達。
もう日は暮れる時間帯と言っても人家や通りには魔力によって作り出された照明が灯っており、リオンもフードを被り事を荒立てないように人通りが多い場所を避けて歩いていた。
他の人族に話を聴かれないような路地に入り充分警戒した上でミアティスが門を通過出来たことを安堵する。
龍真はそれに同意すると同時にリオンの存在が必要不可欠であったと礼を述べるとスレイモンスターのミアティスとシオンも続いて感謝を表した。
一方リオンの方はもっと容易く門を通過出来るだろうと考えていた為か、その表情はあまり優れずこれから迷惑掛けるであろうことも憂い罪悪感に苛まれているように見えた。
「リオン様がそんなに気に病む必要はありません、感謝はあっても不満に思ったりなんてしませんから」
「龍真様…」
龍真が落ち込むリオンに声を掛けるとたちまちリオンの表情が明るいものに戻る。テンプレのようなフォローでも中々の効果を発揮したようだ。
(リオンの護衛という立場がいつまで続くか分からないが、落ち着くまでは保護しないとな。そこに必要な面倒事は受け入れよう)
「それで皇女殿、我々はこれからどう動けば良いのだ?既に空は暗くなっておる…これでは城へ送り届けても皇女殿は入れるだろうが我々は門前払いが濃厚であろう?」
周りへの警戒を怠ることなく、安全を確保した状態のままこの場にいる者だけに聴こえる絶妙な声量で今後の行動を訊ねるシオン。見た目が幼女なだけに侮りがちになりそうだがシオンはシオンのままだった。
もしも行動や言動まで幼くなってしまっていたら色々と支障が生じていただろう。
自分より身分の低いリオンを小娘だとか皇女だとか適当に呼んでいたシオンも帝都では主の龍真に合わせて呼ぶように決めたらしい。
「せ…シオンさん…そうですね。現状では皆さんの宿泊場所を確保して、それからリオン1人お城に戻って翌日お迎えに上がるのが最善かと思っています」
「成程な…主はどう考える?」
シオンのことを従来通り"聖獣様"、と呼び掛けたリオンだったが全て言葉にする前に名前呼びに切り替え、自分の意見を口にする。
それを聴いたシオンは顎と腰に手を当てて一拍置いた後、龍真の意見を求めた。
「…俺は1人で戻るのは危ない気がするけどな」
「龍真様、此処はもう帝都リリーファルナの中ですよ?いざとなったらリオンだって明かせば大丈夫ですっ」
リオンの話を聴いた龍真の意見はリオンと逆であった。
自国の外ならいざ知らず、自国の臣民は自分を襲う筈がないと信じて疑わないリオンと、これまでの襲撃を総合的に見てまだ危ういと考えてる龍真の捉え方の違いから生じた食い違いである。
(これは言っても伝わらないかも知れないな…この手の流れは大体襲撃が来る。単独でいるところを襲ってくれって言ってるようなものだしな)
《皇女は自分達の臣民を疑ってないようだな…どうする?主よ》
龍真がリオンのことを心配してどうするべきか考えているとシオンが個別の念話で話し掛けてきた。
シオンとしてもどうするのか判断に困っているようだ。ミアティスはというと当然、龍真の意見に賛同する以外選択はない。
《リオンが信じてる人々を一部の為だけに疑わせるのはあまり良いことじゃない…俺達が直ぐに動ける準備してリオンの意見を取り入れるしかないだろうな》
《うむ、良いだろう》
龍真達護衛陣の中での判断を下すとシオンも納得して引き下がった。
「…わかりました、リオン様がそう仰るのなら……───っ!?」
「龍真様?どうしました?」
龍真がリオンの方針に納得し賛同の返答をしようとした時、龍真の脳裏に異変が起きて言葉を詰まらせる。
リオンが龍真の反応に心配して声を掛けるも龍真の耳には入っていなかった。
「なんだ…これは……」
年末此処まで滞るとは予想外でした…。
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