スキルは応用して使うだけでなく進化もするらしい
リオンが定めた方針に従おうと思っていた龍真だったが浮かんだ映像に思わず左眼を掌で抑える。
これは龍真のスキル【識別眼】が引き起こしたものであった。
時間にして10秒にも満たない程度で映像が終わると静かに掌を離す。
「マスター…大丈夫、ですか?何処か痛みますか?」
「龍真様、どうかなさいましたか?」
龍真の異変に気付いたミアティスは真っ先に駆け寄り、顔を覗き込んで身を案じる。
傍にいたリオンも同様に声を掛け、シオンも何事かと首を傾げ龍真が口を開くのを待っていた。
「済まない、少し驚いたが今は大丈夫だ。リオン様、リオン様の意思に従おうと思いましたが予定変更です…我々と行動を共にして、朝になったら城へ向かいましょう。夜道は危険です」
「え…でも、此処はもう城下町ですしそんなに危険は……─っ、龍真様!?」
平常に戻った龍真は駆け寄り心配してるミアティスの頭を撫でると笑みを向け自身の無事を伝える。
そしてリオンの方を向くと真剣な眼差しで同行するように願い出たのだった。
リオンはこの領地の中なら龍真が心配するようなことは先ず起こらないと主張を続けようとしたが、途中で言葉を詰まらせる。龍真がリオンの手を取り離すまいと引き寄せたのが原因だ。
「…それでも危ない兆候があります、お願い…致します」
吐息が触れ合う程の至近距離でリオンを視界に捉えた龍真には異性との交流が苦手という雰囲気など微塵も感じられず、過保護とも捉えがちになりそうな程安全策を…という意見を曲げずにリオンへ食い下がった。
「……もぉ、龍真様にそんな顔で頼まれたら断れる筈ないじゃないですか。それじゃあ龍真様が安心だって思うまで、リオンを守ってくださいね」
頬を朱く染め龍真を見上げていたリオンは少し2人で見詰め合うと眉尻を下げて困ったような笑みを浮かべ龍真の意見に賛同を示したのである。
何故そうするかも問い詰めずに龍真の方針に同意する辺り実にリオンらしい。
「勿論です、必ずリオン様をお守りします」
リオンの恥ずかしげな笑顔を見ても至って真面目な返答をする龍真にリオンが俯いてしまうものの、此処にいては埒が明かないので龍真達はこの場を後にして帝都リリーファルナ城下町の宿泊施設へと向かい、テムジェで受けた振る舞いより手厚い歓迎を受けながら揃って一夜を明かすのだった。
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朝食を済ませて宿泊施設を後にした龍真達は近くの路地を歩き城へ向かい始めていた。
《主よ、昨日話していたスキルの成長とそこで出たモノが事実なら漸く私にも出番があるということだな?》
《そうなるかも知れないしそうじゃないかも知れない…いずれにしても城の衛兵達とかに任せるより俺達が護衛した方が遥かに安全だからな。シオンにも闘う機会はあると思う》
昨晩リリーファルナの宿泊施設に泊まった時のことである…。
リオンと担当精霊のメリアが龍真達の部屋の奥へ入り、寝静まったのを確認すると龍真はミアティスとシオンに我が身に起こったことを打ち明けた。
龍真担当精霊のもちこは龍真の持つスキルの変化にいち早く気付いていた為会話に参加せず惰眠を貪っていた。
《マスターはあの時何を感じたんですか?》
《うむ、最初は皇女の意見通り動こうとしていたが明らかな態度の変貌、主が余程のことを察したからであろう?》
外部に情報を洩らさないように気遣って念話で問い掛けたミアティスとシオンは、当然ながら龍真が過保護だからリオンの意見を曲げてまで同行しただけとは微塵も考えていない。
だからその事は聴きもせず内容の方を訊ねたのだ。
《察したというより、"視えた"の方が正しいな…そして視えたのは、リオンの死だ。それも俺達と離れた後、俺達が追い付けない内に一瞬で》
《確かに危機の察知とは違いますね…》
《実際案内された場所も一致してたしな…それでリオンを引き留めたのは正解だったと確信したんだ》
《ふむ、それは特異な人族が持つ未来予知・先見などの能力と酷似しておるな》
龍真の話を聴いたシオンは龍真が視たものと過去自分が得た情報を照らし合わせて意見を述べる。
《未来予知か、毎回出る訳じゃないだろうがこれも使いこなせれば今後楽になるな》
龍真の【識別眼】が先の未来で振り掛かる危険にまで感知能力を延ばしたことに龍真自身素直に喜び、進化を止めずに自分のものにしようと決意を固める。
自分の仲間をそれで失ったり傷付けたりしなくて済むのならそれが一番望ましいと考える龍真であった。
…場面は戻り現在。
龍真達はリオンに危険が及ばないように周囲に注意を向けつつ、他愛もない会話を交えてリオンの案内に従い城の門前までやって来ていた。
「一度足を止めて戴きたい、此処から先は帝都リリーファルナの皇帝陛下のお住まい…城にどんなご用事か?」
龍真達が門に近付くと精悍な顔立ちの門番達が進行を制止する。
城下町へ入ることの出来た者に対しての対応は外から城下門に入る時と比べて随分と物腰の柔らかいものだと龍真は感じた。
それだけ帝都全体の治安が安定しているということだろう…大半の部分は。
「お勤めご苦労様です。アイシス・リオン・リリーファルナ、"成人の儀"を終えて戻って参りました」
「え!?あ…っ、これは皇女様!随分早いお帰りでしたね!」
制止した門番を前に、リオンは被っていたフードを取って自分が皇女であることを明らかにする。
リオンの姿を見て一度固まってしまった門番だったが本人だと理解が追い付くと直ぐに表情が綻び笑顔を浮かべ、リオンを出迎えるのであった。
「色々あったんですけど先ずは父様に報告しなければなりません、急ぎなので通して戴けますね?」
「はっ!畏まりましたっ!どうぞお通り下さい!」
城下門に比べて対応が柔らかく丁寧とはいえ、この門を潜れば皇族の住む城内になる為、本来ならば得体の知れない龍真達は幾らリオンに同行しているといっても充分なチェックが入るのが必然だ。
それを見越していたリオンは急を要する報告なのだと衛兵達に伝え、見事チェック無しで通過することに成功したのだった。
父親である皇帝のことを出したリオンの作戦勝ちである。
(…彼等は味方側だな。他の門番で暗殺者側の息が掛かった奴がいたら色々と厄介だろうけどな)
リオンが衛兵の相手をする一方で龍真は敵対する相手の有無を見定めていた。
安全で堅固な城内にこそ、最大の危険があると踏んでいたからだ。
リオンの死に直面した時から数時間、今のところ【識別眼】の予知能力は発現していないが、帝都の領地内でそんなものを見てしまえば龍真がそう考えて警戒しても仕方無いことだろう。
もっとも、龍真はそれを苦としていなかったが。
「さぁ皆さん、急いで謁見の間に行きましょうっ!」
衛兵達に不要な詮索をされない内にとリオンの出した号令に従い龍真達は門を後にして城の中へ入って行った。
「───……ふぅ、今回は何事もなく通過出来て良かったです。何度も龍真様達に迷惑掛けられませんから」
城に入り人の気配が遠退くとリオンは安堵の溜め息を吐き出す。
衛兵が調査するのは決して悪い事ではないのだが自分の住む城に恩人として招きたいと思っているリオンとしてはこれ以上龍真達との歩みを滞らせたくなかったようだ。
「リオン様、気になさらないで下さい。こうして通過出来てるだけでも充分です」
「そうだな、私も姿を秘匿として人族の城を覗けるのは中々楽しい」
リオンが心配することなど微塵もないのだし衛兵達は職務を全うしようとしていただけなのだから大して気にする必要もないと龍真とシオンがそれぞれフォローを入れるとリオンは微笑みを浮かべたのだった。
「……この向こうがリオンの父様、リリーファルナ現皇帝が職務を務めている謁見の間です。本当は"白帝殿"という名前なんですけど、皆さんそう呼んでます」
「成程、人族らしい考えではあるな」
龍真達は城に入るなり重鎮的なポジションの人間か衛兵、若しくはリオンが皇女という立場から女性の誰かが迎えに来て皇帝の居場所まで同行するものだと思っていたのだが、そのようなこともなくリオンと龍真達だけであっさり謁見の間の門前まで来てしまっていた。
(何か裏があるのか、単純に城の中だからと安心してるのか…伝達されてないってことは考えにくいしな)
「龍真様?何か気になることでもありましたか??」
シオンやミアティスが反応してるのを他所に龍真がリオンの説明に返答せず、黙り込んで扉を見ているのに気付いたリオンは龍真に問い掛ける。
「…いえ、何でもありません。皇帝陛下の下へ参りましょうか」
リオンの問い掛けに首を振り、気にするようなことではないと伝えると龍真は扉を開けてリオンの父親に合う覚悟を決めた。
それを聴いたリオンは頷いて扉に手をかざすと門の縁が光り輝き、緩やかに開いて行くのだった。
特定の魔力に反応して開く仕組みになってるようだと【識別眼】で理解した龍真は、門番がいないという疑問も同時に解消出来た。
「皇女リオン、そして守護する者達よ…よくぞ"成人の儀"を終え務めを果たした、ご苦労だったな」
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多忙時期を抜けたので更新頻度を少しずつ増やしていきたいと思います。




