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城下門守衛の考え


手に持った長槍を構えたユージェスはこの中で唯一男だった龍真に切っ先を向けた。


「一体何を…?」


ユージェスの行為に驚愕するリオンは諌めようと声を掛ける。だがユージェスは槍を降ろす素振りを見せず静止したままだ。


「ご無礼申し訳ありません、皇女様。しかし私にはどうしても信じられないんですよ…。だってこの荷物持ち如きと女子供が護衛部隊の一団より勝り、それでいてロディックさんでも出来なかったことをやり遂げたって言うんでしょう?どう考えても可笑しいですよ!」


ユージェスの行ってることは只の八つ当たりであった。

その気になれば幾らでも鎮圧出来る龍真はユージェスの怒りを受け止めておいてやろうと考えていた。

深い悲しみを湛えていたからである。


「…貴方失礼な人族ですね。私達は兎も角、マスターを侮辱するなんて」


龍真の考えとは裏腹にミアティスは敵愾心剥き出しで構えていた。マスターの龍真に対しての沸点は限りなく低いミアティスの迫力は中々のものだった。


「マスター??この荷物持ちしてる男が主人だって言うのなら貴様の方が無礼だろ。主人に荷物を持たせるなんてな!」


「っ!」


ミアティスが荷物を持ちたがった理由はこれだった。

主従関係が明白なこの世界において例え女子供でも従者が主人に荷物を預けるなど有り得ないのである。

龍真にとっては気遣ったのだとしてもミアティス、そしてシオンにとっても罪悪感の大きい行動だったのだと龍真はこの時気付いたのだ。


「門番の方、これは彼が気遣っただけで従者の彼女はずっと自分が持つと言ってました。あまり責めないであげて下さい」


言葉を詰まらせるミアティスを見てフォローを入れるリオンだったがユージェスには逆効果なようだ。


「皇女様が庇ってらっしゃいますが、実際どうですかね?主人としての尊厳もあったものじゃないですしどっちにしても怪しいですよ…ジンヴァさんもそう思うでしょう?」


リオンの言葉にすら信憑性を持てなくなってるユージェスは悪態をつきながらジンヴァへ同意を求める。

ジンヴァは少し黙ってユージェスを見詰め、やがて溜め息を吐いて口を開いた。


「…いや、俺はそうは思わないな。だがユージェス、お前が好きにしたいなら気の済むまでやれば良い…」


「そんな、何故ですか!?」


てっきりユージェスに同意して敵意を剥き出しにするかと思ったジンヴァの返答は極めて否定的であった。

返答を受けたユージェスは心外だと驚き声を荒げる。


(あの男…冷静な判断が出来てるみたいだな)


龍真の【識別眼】で見てもジンヴァには感情を抑えている様子はない。全くといって良い程平静なままだった。


「考えてみろ…こうして護衛部隊が居ないのは事実だし、そんな適当な虚偽の報告をする皇女様だと思うか?我々に出来ることは事実を受け止め、無事お帰りになった皇女様を少しでも早く城へ戻して差し上げることだ」


「う…」


「そして皇女様のお命を救い護衛を引き継いで此処まで来た者達には先ず感謝の意を示すのが筋だろう?もしかしたら帝都リリーファルナとは真逆の方向へ向かいたかったのかも知れないのだからな」


ジンヴァが連ねる正論過ぎる正論に構えは解かないもののユージェスは完全に言葉を失い勢いも失速した。

龍真達は余計な口を挟まずに成り行きを見守る。


「……それを踏まえて尚お前が納得出来ないなら、好きにすると良い。俺は手出ししない」


「ジンヴァさん…」


納得出来ないのなら好きにしろと言い残し、ジンヴァは背を向けて城下門に併設された小さい扉の中へ入ってしまった。

恐らくその扉の中が城下門守衛の居る場所なのだろうと龍真は推察する。

そして龍真達の前にユージェスを1人残したのも否定したジンヴァ本人がその場にいては素直になれないだろうという気遣いからだった。


「…2人とも、少しこれを持っててくれ」


きっかけを逃したユージェスを前に龍真は自分が持っていた荷物をミアティスとシオンに手渡す。


「はい、それは全然構いませんが…マスターが戦うんですか?」


「勿論だ。シオンも悪いな」


「主ばかり美味しい思いをするのは少々羨ましくもあるが、従者は主を立てねばならんからな。仕方あるまい」


先ず始めに荷物を受け取ったミアティスが漸く自分の役目を果たせると快く荷物を受け取り尋ねると龍真は即答で肯定する。

好戦的なシオンは自分がお灸を据えてやろうとでも言い出しそうな状況だったがスレイモンスターとしての節度を持って了承し荷物を受け取った。

外見が少女なので龍真としては違和感満載の光景である。


「…本当は争いたくないんですが、信頼を得ないと納得出来ないのも必然でしょう……誤解を招かれない為にも手合わせお願いします」


荷物を2人に預けた龍真は腰に携えた盗賊団の剣を引き抜き、ユージェスが向ける長槍の切っ先の方に向けて構えを取るとそのまま距離を詰める。


「苛つく奴だ…俺を、侮辱するなぁっ!!」


龍真がユージェスに応じたことが逆に火に油を注いだ形になったのか、一度抑えられた怒りが爆発したユージェスは声を張り上げると構えた長槍を引き戻し、龍真に向かって渾身の突きを放つ。


「…っ!?」


しかし放った攻撃は空を切り龍真を捉えた感触はなく龍真の姿も視界から姿を消していた。ジャンプして回避したかと思い上を見上げても姿はなく、動いた微弱な衝撃で自身を守る鎧がバラバラに落ちていった。


「まだ、続けますか?」


龍真の声が聴こえたのはユージェスの背後からだった。

鋭い突きの攻撃が放たれる前に攻撃行動を識別し、その動きに合わせて攻撃対象を鎧だけに定め交差しながら剣撃を走らせ背後に回ったというのが一連の流れである。


「こ、この程度…ロディックさんだって可能だ…っ。たったこれだけで証明になるか!」


「成程、このまま継続するなら次は武器を失うことになるかも知れませんよ?」


背後を振り向き長槍を構え直したユージェスは、自身の鎧を攻撃されたと認識出来ない内に破壊されるという行為は護衛部隊の隊長だったロディックでも出来ると断言した。

当然続けるという意思表示を受けると今度は生身ではなく武器を狙い破壊すると告げた龍真だったが、ユージェスは脅しとも本気とも捉えず侮辱と受け取ってしまった。


「貴様…っ、戦士を侮辱するのも大概にしろよ!」


「侮辱ではありません…ただこちらには戦闘の意思がない。私怨も何もないので戦闘する意思さえ制することが出来ればそれで良いのです」


「…っく!俺の槍をこうも簡単に…」


怒りが最高潮のユージェスは長槍を頭上に構え、両手で回して遠心力を上乗せして龍真目掛けて振り下ろす。

しかし今度も攻撃は当たることなく空振りし、長槍の先が地面に衝突する前に涼しい顔で"長槍の傷付いた微細な弱点"に斬撃を放った龍真によって鎧同様空中でバラバラになったのだった。


「一撃で戦闘不能にも出来るであろうに…主は回りくどく戦っておるなぁ」


「マスターが相手を傷付けずに戦っているのは今後の守衛に影響が出ない為でしょうね。武器や防具の交換は利きますがあの人族の代役を立てるとなると色々と動くでしょうから」


「…龍真様…っ」


龍真の強さを知るシオンから見れば今の戦い方は大層焦れったい内容であった。

この世界において今の龍真の戦い方は一般的に見ても腑抜けていて回りくどい内容である。

命のやり取りをする筈の戦闘で無力化するだけなどというやり方は効率最悪なのだ。よって龍真の戦い方をユージェスが侮辱と捉えるのもやむを得ないことだと言える。


戦う得物を無くしたことと龍真の考えを耳にしたところでユージェスも攻撃を止める。流石に素手で立ち向かうようなことはしなかったようだ。

龍真の効率悪い戦い方を見ていたミアティスは己の主人の考えを察し、静観していたリオンは龍真の考え方を微笑ましい表情で見守っている。誰も何の心配もしていない和やかムードである。


「勝負あったようだな。鎧も武器もなくなっているのにユージェス自身は無傷で無力化…か」


「ジンヴァ…さん」


「充分とは言わないまでもこれで彼等が護衛してきたことに納得出来ただろう。これ以上の越権行為は看過出来ないぞ?」


ユージェスの行動が区切りの良いタイミングを見計らったかのように先程姿を消していたジンヴァが再び交戦場所に戻り、切り上げ時を把握してないユージェスのことを諌める。

今度は止めておけというジンヴァの意見に反抗することはなく静かに頷いた。


「皇女様、並びに護衛の方々…大変失礼致しました」


「…失礼、致しましたっ!」


ユージェスが同意したのを見てジンヴァは再度礼を示して謝罪し、ユージェスもそれに続くのだった。




読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、評価下さってる皆さん、いつも本当にありがとうございます。



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