テムジェでの一夜
「いや、流石にそれは駄目だろ」
入浴するのは良いとして男女どちらから先に入るか考えていた龍真に一緒に入ろうと提案するリオン。龍真の返答は当然NOだ。
フェルスアピナとして生きてきて水浴び程度しかしたことのないミアティスが入れないということはあって異性との入浴が未経験ではない龍真だったがリオンの提案はそれとは次元が違う。
皇族というのは羞恥心が無いものなのかと龍真は内心ツッコミをいれた。
「駄目かな?リオン、龍真君に少しでも恩返ししたいから背中を流したいなって思ったんだけど…」
「そんなの皇女がやってるのを万が一誰かに見られたら一大事だろ、尚更駄目じゃないか」
リオンが何故一緒に入りたいのかというのは恩返しが目的だと理解はしたがそれで納得する龍真ではない。
周囲の眼があって危ないというのを建前に再度却下すると龍真の服を引っ張る感触を感じた。床に座っていたミアティスが近付き龍真に触れたのだった。
「マスターのことは私がいつも通り心地良くさせながら洗いますから…私もマスターと一緒が良いです。それならリオン様に対する事も何も問題ないでしょう?」
「ミアちゃん…ありがと!」
「いや…色々と問題あるんだが」
自分が流さなくても混浴出来ることに喜ぶリオンとミアティスに龍真の意見押し切られ全員同時の入浴が決定した。ミアティスは魔物だが。
龍真とリオンを進展させた方が良いミアティスにとって如何に龍真が何よりも優先する愛しいマスターだとしてもこのようなイベントで龍真の味方をしないことは明白な選択だった。一重にこれも龍真を想っての行動なのだ。
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──────…
砦街テムジェ・トリスホーカルの冠内、大浴場─…
(…結局連れて来られたか)
リオンとミアティスが結託し龍真は不本意ながら浴場へ足を運ぶこととなった。
ハルエルトの計らいで大浴場は現在貸し切り状態となっておりリオンが入浴するということで警戒体制も強められている。
"リオンの護衛は2人なので両方必要なんです"という一言で納得し龍真が同行することに何の疑問も持たなかったハルエルト達だったが、まさか混浴するとは思ってないだろう。
もしそこまで見抜いて対応していたのなら相当なものである。
(確かに色気有るシーンを作る事も必要だとは思うが…どうだろうか。相手は一国の皇女だからな)
現在龍真は混浴の準備をすると言っていたリオンとミアティスを残し1人湯船に浸かっていた。何か有っては困る為に当然【識別眼】で諸々警戒した上での事だ。
時間が出来て思いに耽るのは自身の作品作りについてだった。
日本で活動していた時の龍真は色気のあるシーンをそこまで重視していた訳ではなかった。
何故なら適切な表現で読者の想像力を触発出来る自信など無かったからである。
「お、お待たせ龍真君…」
「マスター、失礼しますね」
俺の身体など見ても需要など無いだろうし、何度も入浴シーンは要るだろうかと考えていたところで準備を終えたリオンとミアティスが背後から声を掛けて来た。
精神異常攻撃をされた時の為と思って使っている【感情保護】だが、ホテルに入って部屋で寛げるようになってから解こうと思っていたのに盗賊団と戦闘してから現在に至るまで発動しっ放しだった。
「いや、気にするな。それよりも今の状況の方が気にして欲しいけどな」
水気の帯びた足音を響かせて近付いてくる2人の方を振り返った龍真は少し自分の考えを改めることとなる。それはリオン達が準備して着込んできた衣装にあった。
「もぉ、龍真君…意地悪言わないで?それでもリオン、龍真君と入りたかったんだもん。…あ、普通に話してて大丈夫だったかな?」
「リオン様、マスターがリオン様に対して普通にお話してるということは大丈夫だという何よりの証拠です。私も問題無いと感じてますしね」
(…これは、生地は違うが水着じゃないか)
心配するリオンにミアティスがフォローを入れているところに龍真は適当な相槌を打つと別な方向へ思考を向ける。混浴の専用衣装がビキニタイプの水着に酷似しているのだから龍真の興味がそっちの方へ向くのも仕方のないことだろう。
「あ、あんまり見ないで。恥ずかしいよ…」
「ん、悪い…その衣装、似合ってるな」
龍真は邪な気持ちなど全く無かったのだが龍真の視線がずっと自分に絡んでるのに気付いたリオンは擽ったそうに身を捩り顔を朱色に染める。
そうして反応しているリオンの方が妙に男心を擽るのでは…と考えたりもしていたがそのままじっと見続けながら謝罪した後衣装がリオンに似合っていると素直に称賛した。
「そうかな?普通のものだよ?」
「そんなことは無いさ…ミアティスも同じようにしたのか?」
「私はいつも通り素肌で入ろうと思ったんですが、リオン様がどうしてもと言うので…」
皇女が身に付けてる物が一般的に普及されてるか?などと喉の奥まで出掛かった龍真だったがかろうじて呑み込んだ。
隣のミアティスも同様に着用してるのを指摘するとリオンの懇願で着用したとのことだった。普段通り出来ないことが不服らしい。
「だって…リオンだけ着ないといけないなんて狡いよ、不公平だもん」
理由は続くリオンの言葉で判明した。この世界の貞操観念は龍真の予想を超えて薄いのではと心配していたがリオンがそうしたいのは相手が龍真だからである。これだけ積極的な行動を取ることはリオンにとって初めてのことだった。
「さぁ、リオン様。一緒にマスターを癒して差し上げましょう」
「うん…上手く出来ないかも知れないけど、リオン頑張るね?」
妖しい言葉を発して龍真に近付いたミアティスは腕を引いて龍真を湯船から出すと椅子に座らせ身体を寄せて奉仕活動に励むのだった。
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────────…
「本当は一緒に眠っても良いし一緒の部屋に居て欲しいけど、明日も大変だろうから大人しく寝ておくね」
トリスホーカルの冠・リオンの部屋。
皇女であるリオンと自分を知り尽くしているミアティスからの極上のサービスによって身も心もすっきりして浴場を後にした龍真達はリオンの部屋に戻り穏やかな一時を過ごした。
このままでは話し込んで夜が明けてしまうと危惧した龍真が就寝を切り出すとリオンも名残惜しげな表情を見せたが渋々同意した。
「ん、それじゃあおやすみ…ゆっくり休んでてくれ」
「ありがとう龍真君、おやすみなさい」
龍真が就寝の挨拶を切り出しリオンが返事を返すとそれに合わせてミアティスが会釈して部屋を区切る扉を閉めた。
「……やっと1日が終わったな。もう少し簡潔に済ませるつもりだったんだが」
「お疲れ様でした、ですが得られたものも多かったかと思います」
【識別眼】でリオンの状態を確認してみると良好な状態でベッドに反応がある。
龍真もベッドに腰掛けるとリオンに聴こえない程度の声量で口を開き用意されてた飲み物を飲み干した。勿論念の為毒入りかどうかは確認済みだ。
「あの、マスター…そちらに行っても良いですか?」
「ん、あぁ…大丈夫だ」
此処で龍真が何をしようとしているのか機敏に察する辺りミアティスの気遣いの高さが伺えるところである。
ミアティスが隣に座り身体を寄せる頃合いを見計らい、龍真は今まで発動していた【感情保護】を解除した。
「う…ぐ…っ、やっぱり精神的な苦痛はあるか…。平穏に過ごしてた俺が複数の人の命と関わって…殺めたり、試練に挑んだりしたら…当然、負担は半端じゃないよな…」
スキルを解除した龍真は今日1日で行われた密度の濃い出来事が脳裏にフラッシュバックして眩暈を起こし倒れ込んでしまった。ミアティスはそれを先回りして龍真を受け止め胸元に埋めさせ両手で抱き締める。
異世界に転移して若返り、定番とも言えるチート能力を手に入れて基盤を作り更に強くなったと言えど龍真は聖人君子や神や化物、冷血漢ではない。根本的に日本人のままなのだ。
実際その場で来る精神的負荷に比べれば軽いものだとはいえフラッシュバックでも到底直ぐには慣れるものではなかった。
龍真が呼吸を乱し恐怖や嫌悪、自責の念に囚われているとミアティスは優しい手つきで頭を撫でて背中を擦っていた。
「私達のような魔物にも対話して無駄に争ったりしない強くて優しいマスター…大好きなマスター、私は貴方の傍に居れてとても幸せです」
ミアティスは真剣に、けれども微笑んで自らの気持ちを龍真に伝える。母親から言われてスレイリンクした訳では無い、自分が龍真を大好きで傍に居て幸せなのだと。
「マスターだから私は全て捧げて尽くしたいと思えるんです…今も、これからも。私は絶対、マスターを独りになんてさせませんよ」
「あぁ、ありがとう…ミアティス」
自分の見知らぬ世界に飛ばされ命のやり取りを何度も行う危険の中生きることになった主人を支えて何が起こっても自分は離れたり裏切ったりしないのだと。
ミアティスの言葉に龍真はスキルを使って確めるようなことはしない。そんなことをしなくてもスレイリンクの繋がりとこれまでの信頼関係で嘘偽りのないものだと伝わるからだ。
異世界に居ても孤独ではない安心感を得られると龍真の震えや悪寒は止まっていた。
リオンを護衛するという本分を忘れずミアティスに癒され、テムジェの夜は更けていくのだった…
8月中に更新しようと思ってたのですが中々思うように行かないものですね。
読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、評価して下さってる皆さん、いつも本当にありがとうございます。




