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道中に出てくる魔物は問答無用


ミアティスと共に"トリスホーカルの冠"で一晩過ごした龍真は隣部屋で休んでいるリオンに何かあれば反応があるように【識別眼】を使ったまま休んでいたが、結局何事も起こらず夜が明けた。


「ん…あぁ…いつもの場所じゃないんだったな」


「マスター…?おはよう、ございます」


眼が覚めた龍真は天井を見上げて自分が"勇滅の森"の住処を後にして旅立ったのだということを思い出す。身体を起こして口に出すと隣で眠っていたミアティスもそれに反応して眼を開き眠たげに意識を覚醒させた。


「おはよう、ミアティス…一晩何もなかったな。そろそろ着替えてリオンを起こしに行くか」


「んぅ…はい、良かったです。起こしに行くなら少し待って貰えますか? 」


「いや、急がなくて良いんだ。俺が先に起こしに行ってくる」


龍真はミアティスに朝の挨拶を返すと最低限倫理的な姿になるまで衣服を着替え、リオンを起こしに行こうと促したがミアティスは未だ準備出来ていなかった。布団を身体に絡め上半身を起こしているだけで着替えを済ませていないのだ。

ミアティスは同行しようと慌てて準備を始めたが龍真はそれを制止する。ただ起こしに行くだけなら1人でも問題無いだろうというのがそう判断させた理由だった。

謝罪するミアティスの頭を一度撫でると龍真はリオンの部屋に繋がる扉を開けた。


「…………寝てる、な」


龍真がリオンの部屋に入ると真っ先に入って来た光景は…穏やかに寝息を立てて無防備な状態晒しているリオンの姿だった。暗殺者が乗り込んで来たら間違いなく瞬殺出来てしまうだろう。


「すぅ…すぅ…んっ、んん……」


龍真はリオンが寝ているベッドに近付いてみる。穏やかな寝息と共に口端が綻び笑顔を見せてるところから見て、何か良い夢でも見ているのだろう。

こうして見ていると起こすのも気が引けてしまいそうになるが帝都に送る兼ね合いもある為心を鬼にして起こす事に決めた。


「……リオン、起きてくれ。朝だぞ」


「ん…もぅちょっと……」


龍真が肩を叩いてリオンの起床を促し声を掛けるが、リオンは明らかに覚醒してない声色で睡眠の延長を呟くともぞもぞと身体を動かして寝返りを打つ。


(無防備にも程があるだろ…まぁ、こうして安心出来る状態ってことは、帝都リリーファルナの防衛が相当堅固だっていう裏付けかも知れないけどな)


リオンにとって異性である龍真が声を掛け、その上肉体的な衝撃を与えれば多少なりとも意識覚醒には充分だろうと考えていた龍真にとってこれは予想外の事だった。

再度起こそうと近付いてみるとまたリオンが寝返りを打った。これには龍真の方が心を乱す程の衝撃を受ける。

掛け布団を追いやり仰向けになったリオンの格好は衣服がはだけているというにはあまりにも露出箇所が多かったからだ。


「──────…っ!」


「マスター、どうしました?」


龍真の心が乱れたのを感じてか着替えを済ませたミアティスが慌てた様子で部屋に入ってきた。


「何かあったかと言えばあったんだが、無いと言えば無いな…。こんな状況なんだ、リオンを起こすのを任せて良いか?」


「はい、マスター。ですがリオン様は恥ずかしがるかも知れませんが、マスターに見られる事を嫌だとは思わない筈ですよ?」


龍真がリオンの方を指差し、それを見たミアティスは納得したものの昨晩入浴まで共にしたリオンは嫌がらないだろうと確信していた為、遠回しに龍真が起こした方が良いと進言する。


「んん、ふぁ…?りょーまさま?」


「ん、おはようリオン、起きたのか?」


「おはようございます、リオン様」


龍真が言葉を詰まらせてる間に龍真とミアティスの声に反応したリオンは瞼を擦りながら2人を見上げ、それに反応した龍真達もリオンを覗き込み声を掛ける。


「おはよう…ございますぅ……」


「リオン様、私達は護衛ですけど身の回りのお世話もなさった方が良いですか?」


未だに上手く意識覚醒が出来てない様子のリオンにミアティスが近付き本来頼まれた護衛としての役目以上の事、即ち着替えや身仕度まで行った方が良いのか問い掛けた。

するとリオンの眼が完全に開いてみるみる赤面していくのが龍真達から見ても明白に捉えられる。どうやら現状を理解して完璧に目覚めたようだ。


「……───っ!ご、ごめんなさいっ、自分で用意出来ます!」


衣服が乱れたままの状態で身体を起こしたリオンは慌てて寝具から飛び起き、龍真達が居るにも関わらず脱衣を始めてしまい、龍真は何かあった時の事をミアティスに任せ一度部屋に戻った。皇族だから羞恥心が薄いのかこの世界の人族は皆こうなのか観念の心配が尽きない龍真だった。


─────────────────────────────

───────────────────

──────…



仕度を終えて部屋から下のフロアに降りると、龍真達は料理人自慢の物と称された豪華な朝食を食べてそのまま受付へ足を運んだ。

支払いがあると思い内心幾ら掛かるか心配だった龍真がこっそり支払いの有無を尋ねたが、皇族御用達の宿泊施設は既にリリーファルナ皇帝から報酬を貰っていたようでこれは取り越し苦労に終わった。


一安心した龍真が中庭へ向かい不機嫌そうなシオンを宥めて入口へ戻ると、来店した時と同様に支配人のハルエルトを始め殆どの従業員が見送りに出て来て整列していた。


「それではリオン皇女様、護衛の方々、道中お気を付けて安全に帝都リリーファルナまでお帰り下さいませ」


「ハルエルト、今回の成人の儀でのご助力…大義でした。これからも変わらずリリーファルナを宜しくお願いしますね」


「有り難き御言葉…現在の皇帝並びにご兄弟に続いてリオン皇女様の成人の儀にも携わることが出来てこのハルエルト、大変至福にございます」


"トリスホーカルの冠"の一同が揃ってリオンに笑顔を向けていた。龍真の眼で視ても内外変わらぬ喜びの感情を目の当たりにしてリオンが、そしてリリーファルナを治める皇族が臣民から好かれているのが垣間見えた。

ハルエルトに至っては一世代前の皇族の成人の儀から見てきているという話らしい、相当凄い事だ。


「それでは皆さん、リオン達はそろそろリリーファルナへ戻ります。またお会いしましょう!」


リオンの出発合図を皮切りに龍真達は一礼し"トリスホーカルの冠"を後にしたのだった。




《主よ、人族の宿屋は息が詰まるな!》


「シオン、あまりそう言うなよ…リオンが落ち込む。これは俺達で決めた行動なんだからな?」


リオンを帝都に送り届ける為、龍真達はテムジェの中を見て回る事なく"勇滅の森"とは反対側の門から外に出た。

帝都リリーファルナへ続く道はシオンの脚で駆け抜けた平野とは違い、アスファルトのような舗装こそされていないものの、整備された道があった。

砦街テムジェの中で馬として過ごしていたシオンだったがその一泊が余程居心地悪かったのだろう、テムジェを出て暫くした後念話で愚痴を溢したのだ。

その瞬間リオンの肩がびくんと跳ねたのを見て、龍真だけでなく仲間内全体に放った念話だと理解した龍真は、自分が下した判断なのに聖獣への扱いを気にしていたリオンが少しでも罪悪感を感じないようにフォローを入れシオンの前脚辺りを肘で小突く。


「聖獣様、龍真君、リオンが適切な判断を出来なかったから不快な思いをさせてしまいました。リオンが罰を受けますからテムジェや国を滅ぼすのはお許し下さいっ」


《むぅ…私としてはこの程度で一国を滅ぼすような狭量は持ち合わせて居ないのだがな…だが次からは別なやり方を考えておこう》


畏怖の対象でもある聖獣のシオンが馬と同等な扱いで過ごしたことは大概不愉快な対応だったのではないかと感じていたリオンは落ち込むのを通り越して国の粗相の罰は自分が受けるなどと、日本で言えば土下座する勢いで頭を垂れた。

端から見ればリリーファルナの皇女が多少逞しいだけの馬と冒険者に頭を下げているのだから良いことではない。直ぐにリオンを落ち着かせ頭を上げさせるとシオンもそれほど気にしているわけではないし、滅ぼしたりもしないと返事を返す。…良からぬことを企んでいそうな意味深な言葉を呟いてはいたが。


「何を考えてるか知らないが帝都で問題起こさない程度にしておいてくれよ?」


《なに、主や皇女の小娘を困らせるようなことではない。期待していて良いぞ》


シオンの言葉を耳にして帝都での不安要素が1つ増えた龍真だった。


「マスター、皆さん、前方に魔物が」


「…こっちでも捉えてる。あれは…ブルーガの群れだな」


テムジェを出て大して歩いていたわけでもないのに龍真が常時展開している【識別眼】とミアティスの感知に敵の反応を捉えた。

儀式の神殿でも交戦したゴブリンに酷似している魔物、ブルーガの群れである。神殿で出てきたのは管理している存在の作り出した紛い物なので実際のブルーガと交戦するのは龍真にとって初めてだとも言えなくはない。


「はぁ…やっぱり皆凄い。リオンには未だ見えないよ」


敵と言われても何処に居るか捉えていないリオンと既に敵意を向けてるブルーガの群れを比較した龍真は、弱い魔物だとしても人族より感知や視力が優れているのだということを実感したのだった。


「リオンを護衛する為に俺達が居るんだ、気にすることじゃない…取り敢えず撃退するにもこっちが過剰戦力だな」


遭遇した魔物の数から見て誰か1人でも余裕で倒せる戦力だというのは明白だった為意思疎通を謀ってみようかと考えていた龍真だったがブルーガの群れは奇声を挙げて接近してくる。

対話は無駄かも知れないと諦めていた龍真の前にシオンが一歩踏み出して身体で遮り、息を吐き出す。


《ならば主よ、大した気晴らしにもならぬが私の気分転換に使わせて貰うぞ?》



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