砦街テムジェ
(8人か…門番として考えれば多い方だよな。森から魔物が出てきた時とか襲われた時何人か中に知らせる役だろう…現実的だな)
リオンの帰還に驚きを見せるテムジェの門番達の人数を数え、ゲームなどでは大抵2人体制で務めていて対処役と伝令役は必要じゃないかと思っていた龍真は此処では現実的な配置人数なのだと1人納得していた。
「皆さん、夜もお疲れ様です。ご覧の通りリオンは無事に成人の儀を済ませてきました」
リオンは1人前に出ると門番達に成人の儀を終えた時に刻んだ紋様を見せる。すると門番達から"おおっ!"と歓声が上がった。
龍真は打ち合わせの通り完全に話をリオンに任せ、【識別眼】で外装や服装、内面に至るまで詮索していた。
(…装備はあまり充実してるように感じないな…関節以外結構覆われてるが石と鉄で外側を硬くして内側は木や皮を使ってるのか。服は皮と布と…魔力?服も専門家が作るってシオンが言ってたがそういうことか)
何故龍真が今こんなことを分析しているかというとシオンの知識だけでは補えない部分を実際の人族を介して理解する為だ。
盗賊団との戦い…という名目の蹂躙では暇が無く、リオンと会ってからは犠牲者と試練だったのだ。そんな事を出来る状況ではないし犠牲者を調べるのは抵抗があった。
リオンで調べることも出来ただろうと何処からか突っ込みを入れられそうになるだろうが此処を調べる対象にしなかったのも龍真にはちゃんとした理由がある。
良くも悪くもリオンは皇女なのだ。リオンの持つ外装は帝都上位レベルの素材と質だろう…それでは一般的に持たれるレベルの物を理解出来ない。
それに今も全て理解している訳ではないがリオンの持つスキルが未知数だったのも大きな理由だった。実際儀式の神殿でミアティスにステータスの精霊が居ない事を知られてしまい、本来なら帝都リリーファルナまで送り届けて終わりだった筈のリオンとの関係もこうして進展している。【識別眼】を認識出来る能力は無いかも知れないが【秘匿隠蔽】で創られた龍真の偽装ステータスで【鑑定眼】というものに変わったのを考えれば確実に無いとは言い難い。
(身体の中は………地球人と変わらないんだな。良かった、これでもし臓器の位置が違ってたら万が一の時が困るところだった)
続いて龍真が調べたのは人体の中身だった。懸念の1つの中に"臓器の違い"があったのでこれは真っ先に確認しておきたかったのだ。
仮に心臓が下腹部や頭部にあったり脳が別な位置にあったり知らない臓器があった場合、万が一自分が致命傷を負って意識が無いまま調べられでもしたら困るからである。その結果地球人と人体が同一だったのはご都合主義としか言いようがないが。
これも真っ先に出会ったリオンを対象から外したのは単純に女だから、だった。特殊な能力があるかも知れないと思って注意していたのが大前提にあったのは確かだが、兎も角一般的な人族の男で把握しておきたかったのである。
「龍真様、もう通って大丈夫…ですので、テムジェの中へ入りましょう?」
「…っ、はい。リオン様にお供します」
龍真が【識別眼】で確認している間にリオンと門番の会話は終わってしまったようでぎこちない会話を行いながらリオンが先導する。
テムジェの中に入るのには少し手続きなどあって時間が掛かるのではないかと思っていた龍真だったが予想以上に早くあっさりと入れて若干拍子抜けだった。"皇女の護衛"なのだから疑わしき人物では務まらないという判断なのかも知れないが。
「おい!アンタ達!!」
「…なんでしょう?」
リオンに続いてテムジェの中に入ろうとした龍真達は不意に後ろから呼び止められる。何か不備があったのかと内心警戒する龍真だったが表向きは極めて平静を保ち、門番の方へ振り返る。
「…アンタ達、皇女様の護衛部隊が全滅してしまった後たった2人で皇女様を護衛してくれて、その上成人の儀も無事終えてきたらしいじゃないか!我等がリオン皇女様を救い、守ってくれて感謝する!」
門番のリーダーのような役割であろう精悍な顔つきの男が前に出て龍真達に感謝を告げた。どうやら護衛部隊がいなくなり代わりに龍真達がいる大まかな経緯をリオンから聴いて礼を言いたかっただけのようだ。実際はシオンを含め人族1人と魔物2体だが。
「いえ、偶然通り掛かって困っていたので僅かばかりでもお力添え出来たのなら幸いです。実際一番大変だったのはリオン様でしょうしね」
「まぁ、それでもだ。リリーファルナが誇る砦と街が融合したこのテムジェでゆっくり疲れを癒してくれ!」
神殿の試練は容易なものだった龍真は何かを追及されるわけではないと分かると、自分達の負担より試練に挑んだリオンの方が遥かに大変だっただろう事実をそのままリーダーと思わしき男に伝えただけだったがそれが好ましく映ったらしく、一層破顔した笑顔になり快く龍真達を見送ったのだった。
「……変な尋問とかされずに済んで安心しました」
「龍真様、あれほど凄い力を持っているのに人族の彼らにそんなに警戒したり謙遜したりしなくても良いんですよ?」
「こう言ったら失礼かも知れませんが、ある意味人族の方が恐ろしかったりします。リオン様もある程度の警戒は必要だと思いますよ?」
「ん、そうですね。分かりました龍真様」
龍真が神殿の試練で出てきたゴラムゾットカイレンより遥かに劣る人族に対して必要以上な対応を取っているのを見ていたリオンは苦笑いを浮かべ龍真の隣を歩く。
龍真としては魔物を模した巨大な作り物の生命体より人間の方が警戒対象なのは当然の反応だった。謙虚になってた訳ではなかったのだが。
自分に比べて無警戒過ぎるリオンを見て少しは警戒するように示唆するが何故か笑顔で返された。
「でも今は龍真様がリオンのことを守ってくれてるから、とっても安心して振る舞っていられます」
「……っ、不在の時は困りますから気を付けて下さいね」
「ふふっ…はいっ、気を付けます」
今こうして無防備でも大丈夫なのは龍真が、そしてミアティス達が護衛しているからだと率直に伝えるリオンは龍真を赤面させるには充分な魅力を放っていた。何処まで純粋なのだろうかと突っ込まずにいられない龍真だったがもう一度念を押して注意するとリオンは微笑んだまま頷いたのだった。
直ぐ後ろを歩くミアティスは龍真とリオンのやり取りを静かに微笑ましく見守っていた。
《ミアティスよ、随分嬉しそうではないか。主がリリーファルナの小娘と夫婦になっても良いのか?》
《シオンさん…私は何処までも何があってもマスターに着いていくだけですよ。マスターがどう決めるのかは分かりませんけど、マスターが仲良くしても良いと思える存在が増えるのは嬉しいことです》
普通の女性であれば少なからず嫉妬の感情が沸き上がるであろう状況だと見て暇潰しに念話で茶々を入れてきたシオンだったが平常運転のままのミアティスだった。
裏を返して言えば"例え誰がどうなって自分の主人にどう関わって来ようと自分の居場所は揺るがない"という自信の現れとも言えるが。
「それでリオン様、もう夜ですが何処かに行かれたりするんですか?」
リオンが警戒心を持つように試みていた龍真は今の状態なら変わらないだろうと判断すると早々に切り上げ、テムジェの中での今後の予定について訊ねる。
今の時間は通りに人の気配はなく、コンクリートのような鉱物と硬化材を混ぜ合わせた小さ要塞に近い家の中に反応があり所々に灯りが点いていた。
こんな状態なら普通の店は既に閉店しているだろうし営業しているのは宿屋や酒場、それから夜の店辺りだろう。
「いえ、このテムジェには中継地点として立ち寄っただけなのでこのまま宿屋で朝まで休んだ後帝都に向かおうかと思っています」
「成程、もう泊まる場所は決まっているんですか?」
「はいっ、龍真様達は未だ居ませんでしたが成人の儀に向かう時にお世話になった"トリスホーカルの冠"という宿泊所に行きます!」
リオンは宛もなく歩いている訳ではなく、目的地である宿屋に向かっていたようだ。
一国の姫と言えば常に監視があって窮屈な生活をしている分こうして自由が利く時くらい羽目を外して色々遊びそうなイメージが強い龍真だったが目的を忘れないリオンは随分しっかりしているように見えた。
自ら率先して宿へ向かおうというリオンを護衛している龍真が脱線して足を引っ張るのは本末転倒だと思い情報収集に回るのを諦めて大人しくリオンに着いて歩いた。
(……異世界の宿の名前って言えば"何とかの何とか亭"とか"何とか亭"、それから仰々しい名前が結構定番なんだけどな)
龍真がそんな事を考えたのは暫く他愛もない会話を続けて閑静な街並みから豪華な装飾品が点在し始めて視線の先に宿泊予定の宿屋が見えた時であった。
街並みが変わったのは恐らく貴族や皇族の関係者が立ち入る場所なのだろうと推測を立てたが不要な事に首を突っ込むのはやめておこうと詮索するのを止めた。
(そう言えば、リオンって宿代ってどうなってるか言ってなかったな…金とか大丈夫なんだろうか…?)
宿泊する宿が近付くにつれて龍真に1つの不安が浮かび上がってくる。
それは公共施設を利用するに当たって金銭が必要かどうか、という問題だ。
もし無一文で入ってしまったら困ると思いリオンに訊ねようと思っていたところで宿屋の門前まで着いてしまっていた。
「龍真様、此処ですっ。さぁ…入って疲れを癒しましょう?」
立ち止まる事無く扉に手を掛け開いてしまったリオンを見て、龍真はいざとなれば自分が盗賊団から回収した物で支払おうと心に決めたのだった。
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