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自分の感覚で考えてたら皇女様から抗議された


「ミアティス、あいつらの話は聴こえたか?」


「はい、勿論です。あの人族達はマスターとリオン様を直接狙おうとしているみたいですね…とても無謀だと思います」


「龍真君、ミアちゃん、どうかしたの?」


"勇滅の森"から少し離れた平野の道で龍真はミアティスに完璧に隠れていると思っている存在達について訊ねた。

ミアティスの聴覚は肉眼で確認出来る程度の距離の会話なら聴こうと思えば完全に聴こえる為、大丈夫だと思って始めた会話はこちら側に筒抜けだったのだ。

龍真とミアティスが並んで前を歩き、その後ろをリオン、後方にシオンという隊列で護衛を続けながら歩いていたので龍真とミアティスの会話はリオンの耳に殆ど入らず、リオンは疑問符を浮かべる。


「ん、護衛のことに関してちょっとな。それよりリオン、あそこに見えるのがテムジェだろ?」


余計な心配と不安を煽らないように龍真は自分達を狙っている存在がいることをリオンに伝えずはぐらかすと、遠巻きに見える建造物を指差してリオンの意識を別な方向へ誘導した。どれくらい離れているかといえば地平線の先の方に薄く見える程度…といえば想像し易いだろう。


《ミアティス、取り敢えずこのまま泳がせて様子を見る。その分警戒は必要だけどな》


《マスターの思う通りに動いて下さい、私はそれに着いていきます》


龍真はリオンに指差し訊ねた後、ミアティスに念話を送り様子見の決断を下す。それに対するミアティスの返事は即答だった。忠犬的な反応である。


「んん…多分、そうだと思う。龍真君、眼が良いんだね…リオンには黒い小さな物体にしか見えないよ」


リオンは眼を凝らして龍真が指差す方向を見ると曖昧な答えが返ってきた。龍真には建物の特徴を捉えられる程度には視認出来る距離でもリオンには小さな物体があるようにしか見えてないというのだ。


(…日本で暮らしてた時はギリギリ眼鏡を掛けなくて良いって言われてたくらいの視力しかなかったはずだけどな。レベルとかと一緒に知らず知らずの内に視力も上がってたのか)


同じ人族のリオンが同行したことでミアティスやシオン達と生活していただけでは気付けない誤差を少しずつ知っていく龍真であった。


「あまり人と視力比べたりしなかったからこの見え方が普通だと思ってたな。普通に歩いてたんじゃ夜になるか?」


「そうだね、リオンがテムジェを出た時も1回シャンフィの中で泊まったから、帰りも1回夜営しないといけないかも」


(シャンフィ…確か此処でのテントのことだったな。【多言語理解】で直訳されるのとそのままの言語で違いがあるのはなんでだろうな…"聖獣ミルガ・ヴォリオス"が"聖獣ブラックペガサス"とかになるより良いか)


リオンが発した聞き慣れない単語の意味を思い出し自分のスキルの中に生じてる差異を気に掛ける龍真だったがそれはそれで面白みがあると感じてしまい追求するのを止めた。


「成程な、折角シオンが居て荷物も無いんだし…乗るか。リオン、夜の門番は煩かったり面倒だったりするか?」


「皆優しくしてくれたしリオンと護衛ってことなら大丈夫だろうけど、龍真君…ほんとに乗っちゃうの?」


意識をリオンの話に戻した龍真はこのまま夜営するよりはシオンに乗って夜までにテムジェに行こうと提案し、夜の通過に問題無いか確認する。

皇女のリオンは兎も角龍真達には身分が無いのだ、日中入るより夜入る方が警戒も強くなるだろうと予想して対策を取っておかなければならないがリオンの護衛なら大丈夫だと言うので信じることにした。

一方リオンはテムジェへ入門することなどよりもシオンへ乗ることの躊躇の方が大きかった。伝説的な存在の聖獣と旅するだけでなく堂々と乗ろうというのだ、リオンが躊躇するのはもっともなことだ。


「勿論乗る。元々そうやってたし今のシオンは"ただの馬"だからな」


《うむ、皇女リオン、今の私は主が言うように馬なのだ。本来ならば私が認めた主以外乗せるつもりはないのだが、主が許可したのだから乗せてやろう》


「シオン…様を認めさせた龍真君ってほんと凄い。儀式の神殿で簡単に済ませちゃうわけだね」


伝説の聖獣をただの馬扱いしてそれを許容するシオンを目の当たりにしても聖獣と知らされたばかりのリオンは到底龍真と同じようには接することが出来ず、龍真が試練を易々とクリアしていたのも完全に納得してしまっていた。


「取り敢えずリオンは振り落とされないように俺の背中に掴まっててくれ」


「う、うん…っ」


そうこうしている内に龍真は慣れた動作でシオンに跨がり乗馬するとリオンに手を差し伸べる。リオンはシオンに乗ることを一度躊躇い動きを止めたが龍真とシオンを見て観念したように龍真が差し伸べ続けている手に自身の掌を添え龍真の後ろに乗ると指示された通りに背中にしがみついた。


「よし、それじゃあ行こうか。ミアティス、シオンの速度に合わせて着いて来てくれ」


「はい、マスター」


龍真とリオンがシオンに跨がりミアティスが合わせて浮遊すると速度を合わせて移動するように指示を下す。シオンの速度を知らないリオンでは振り落とされる可能性が高いと感じた龍真は右手に巻いていた布を解いて伸ばし、リオンの胴体と自分の胴体を巻いて結んだ。

密着箇所が増してリオンが女の子らしい悲鳴をあげ、豊満な乳房が龍真の背中に押し付けられるがそれらは全て無視である。


《…では走るとしよう。1日じっとして待っていたから加減出来ぬかも知れんな!》


自分の背の上で龍真達の準備が整ったのを確認したシオンは一息吐き出すとフラストレーションを発散する勢いで平野を駆け抜けた。

これによって一番大変な思いをしたのは当然だがリオンであった。



─────────────────────────────────

───────────────────

──────……


…──砦街テムジェ 門外


「…この辺で良いだろう。シオン、止まってくれ」


《おお、そうか?少し走り足りないが仕方あるまい》


龍真達はシオンのストレス解消を兼ねた走りのお陰で日暮れには砦街テムジェが間近に見える範囲まで辿り着いた。此方の単位で言うところ数百m先に中国で有名な長城の如く防壁が延びていて、所々に住居密集地と伺える建物がそびえ立っていた。


「リオン、大丈夫か?」


門番達や他の人目に付かない目立たない位置でシオンが足を止めると龍真はリオンと自分を結び固定していた布を解き、後ろを振り向いて無事を確める。


「───……っ」


「リオン??」


深く息を吐いて深呼吸するリオンからは返事が返って来ない。龍真がもう一度名前を呼ぶとリオンは顔を上げ龍真の服を握った。


「ひ、酷いよ龍真君っ、リオンびっくりして死んじゃうかと思ったよ!」


(…俺のせいなのか?)


走る速度はシオンに任せていた為何も抑制しなかった龍真に抗議するリオンを見ると涙目であり、余程怖かったのだと見て取れる。服を掴む手も震えていた。


「まぁ、シオンに任せてたし俺も特に何も感じてなかったからな…悪かったよ」


《私も主以外人族を背に乗せるという経験が無いのでな、平気なものだと思っていたぞ》


リオンの抗議にも大して悪びれた様子もなくシオンの背から降りると続いてリオンに手を差し伸べ地面に下ろす。龍真達が降りたのを確認して滞空していたミアティスも地上に降りた。


「聖獣様は何も悪くないですっ…うぅ、龍真君の感覚が可笑しいだけなんだから」


このままでは伝説とされる聖獣に謝罪させそうな勢いだと感じたリオンは慌ててシオンにフォローを入れ、謝罪を口にする龍真にもこれ以上抗議出来ず溜めていた涙を拭うと龍真から顔を逸らした。


「リオン様、不慣れなことで恐怖した心中はお察しします…ですけどマスターを悪く言うのは許容出来ませんね。マスター、リオン様に罰を与えますか?」


「止めてくれ…」


リオンに近付き背中を擦り介抱するかのように見えたミアティスだったが龍真に抗議したことは看過出来るものではなかったようだ。身分を隠すシオンを馬として扱えばこの中で一番立場が上の皇女様がこれでは形無しである。



「シオンに乗ったから平野で一晩明かさずに済んだが、本当に門番達は大丈夫なのか?」


頬を膨らませたリオンを宥めながらテムジェへ向かって歩き、門番達の姿が鮮明になって来ると龍真はリオンに再確認する。

元々龍真の予定では近隣の盗賊団を倒し資産と功績を蓄えた上で盗賊団に困っていた小さな村辺りで身分と信頼を確立させ、いずれ帝都に行くつもりだったのだ。

その予定を全て無いものとして帝都リリーファルナへ赴くのだから不安要素が多いと感じるのは当然だった。


「そんなに心配しなくても龍真君達はリオンの護衛をしてくれてるんだから大丈夫だよ、話すのはリオンに任せてね?」


「あぁ、任せる。それとテムジェの中では皇女と護衛の立場として話すからな?」


「ん、残念だけどそういう約束だもんね」


此処まで来たらもうリオンの言葉を信じるしかないと半ば諦めた龍真は元々するつもりのなかった門番との対話をリオンに任せる。

こうして親しく話すのは公私の分別を付けると最初に約束を交わしていたので戻すと伝えるとリオンは心底残念そうな顔を見せて渋々納得した。リオンの気持ちを考えれば可哀想なことをしてると思うが仕方無い、龍真は面倒事は極力避けたいのだ。


「では、お願いします…リオン様」


せめてもの対応としてリオンを皇女様と呼ぶのではなく名前の方で呼ぶとリオンは少し眼を見開いて驚き、続いて笑顔を見せた。大抵の男はこれで落ちるだろうなと冷静に分析していた龍真は次のリオンの言葉で衝撃を受けることになる。


「任せて下さい、龍真様(・・・)!」


その呼び方に戻るのか、と心の中で突っ込まずにはいられない龍真は結局面倒事は避けられないかも知れないと大半諦めて先を歩き始めるリオンに着いて行くのだった。


「っ!お、皇女様!?もうお戻りになられたのですか!」


門へ近付いて来るのが誰か分からず眼を凝らして眺めていると1人の門番がリオンだと気付き、慌てて姿勢を正すとあからさまに緊張した声でリオンに話し掛けてきた。




読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、評価下さる皆さん、いつも本当に有難うございます。


…挿絵のメイキングとかって載せたら需要とかあるんですかね…。



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