本質はそうそう変わらないようだ
「で、今度はシオンの方だな」
「うん、もしかして実はセフォル・ヴォリオス…とか?」
ミアティスの正体を話して龍真が文献上の存在でしかなかったスレイマスターだという秘密を共有出来て興奮冷めやらぬリオンは、龍真がシオンについて話そうとして話を切り出すと自分の予想を口に出した。
シオンがミルガ・ヴォリオスの下位に当たる魔物のセフォル・ヴォリオスだったとしても相当凄いものには違いなかったが、まさか聖獣だということは予想外だろう。
「少し違うんだ。…シオンは聖獣ミルガ・ヴォリオスだ。実際見せた方が早いだろうな」
「っ!!」
《やれやれ…私も窮屈な思いをしなくて済みそうだな。こうして会話を交えるのは初めてだな、リリーファルナの皇女よ》
シオンが聖獣だと告げた瞬間のリオンの驚きは今までの中で一番だった。龍真がシオンに目配せして隠蔽を解くように促すと座っていたシオンは四足で立ち上がり全員に聴こえる念話を使ってリオンに軽く挨拶する。
《我が名はシオン…聖獣にして龍真を主とするスレイモンスターだ》
「えぇ!?聖獣様も龍真君の??」
(シオン…そこは隠しておく予定だったんだけどな)
人族は皇族であっても様を付けて敬っている程聖獣というのは崇高な存在のようだ。初対面の龍真がどれだけ尊顔無礼でシオンにとって興味が引かれる対象であるかが改めて伺えるリオンの反応だ。
龍真はシオンが聖獣だということを話してもスレイマスターになっていることは伏せるつもりであった。事前に打ち合わせておけば良かったと後悔した龍真だった。
そんなことは露知らず、シオンは優雅に漆黒の翼を広げ隠していた自慢の黄金角をこれでもかと晒していた。
「本人が言ったんだし仕方無いか、白状するとシオンも聖獣っていう立場だが訳あって俺と行動を共にしてくれてる」
「ふぁ…こんな秘密知っちゃったら龍真君といる時感覚狂っちゃいそう…。どうして聖獣様が龍真君とスレイリンクしてるのか気になっちゃうけど、聖獣様って人族の言葉を理解して対話することが出来たんだね」
《ふむ…私に掛かれば人族の言葉を理解するなど造作もないことだ》
リオンの興味が一瞬シオンとスレイリンクした経緯に向けられると龍真は個別の念話でシオンに向けて"勝負して決めたとか絶対話すなよ"と注意すると流石に察して同意の返事を返してきた。
幸いリオンの興味が人族と言葉が通じることに移ったから誤魔化す手間が省けたが、聖獣に勝てる人族だと公表するなんてことはトラブルの種にしかならないし、龍真にとってメリットは全くない。秘密にするのが一番平和的なのだ。
「リオンは聖獣と言葉が通じることを知らなかったのか?」
「知るわけないよ、だって聖獣様と言ったら一目見掛けただけでも奇跡って言われる伝説の存在なんだよ?どういう行動をしてるのか、どんな力をお持ちなのか、色んなことが謎に包まれてたの。それを龍真君、簡単に言うんだもん」
(…だもん、か。良い意味で皇女らしくないな…他の相手にも素で話したら親しみ易いだろうに)
"本当に凄いことなんだからね!"と抗議するリオンを余所にリオンの話し方の方に気を取られている龍真であった。
「…まぁ、取り敢えずリオンに知っておいて貰って秘密にしてくれれば旅が楽になる内容はこんなところだな」
「その取り敢えずって、幾つかの国が動くくらいの内容だったけど…」
リオンの人柄を見極めて大丈夫だと思う範疇で軽く話した龍真の秘密内容はリオン達にとって国家が動くレベルの内容だった。
存在しないアイテムボックスと同様のスキルに翼人族と相違無い知識と理性を持ち滅多に見れない魔物のフェルスアピナだったミアティス、物語上の存在でしかなかったスレイマスターだったことに加えて立派な馬だと思っていたシオンが実は聖獣で尚且つシオンも龍真のスレイモンスターだと立て続けに告げられたのだから無理もない話だ。
どれか1つでも公になれば数々の称賛に加えてそれ以上の面倒事が舞い込んでくるだろう。
シオンはどうか分からないがミアティスなんかは捕らえられて生態実験に掛けられてしまう可能性だってある。それを察したリオンは秘密にしなければならないと自分を戒めたのだった。
「そういうことならかえって今の内に話しておいて良かったな…。最後のはお願いなんだが今から俺が立ち上がって皆に立って貰ったら俺に話を合わせておいてくれないか?」
「はい、勿論です。マスター」
《うむ…私も構わん。再び隠蔽しておく必要があるな》
「え?どうして?」
龍真が最後に頼んだのは【断絶結界】を解いて元の状態に戻った後の辻褄合わせだった。
結界が展開していることに気付いていたミアティスとシオンは直ぐに察して頷き、シオンは広げた翼や黄金角を再び隠している。リオンだけは意味が分からず何故そうするのか龍真に訊ねてきた。
「ミアティスとシオンは気付いてたみたいだが、実はこの話を切り出す前に…なんていうかな、姿も声も周りに漏れないように囲っているんだ。もし万が一って話だが何処かの誰かが見ていたりしたら、戻して急に出て来て違和感を感じるだろ?」
「結界魔法……龍真君ってとんでもないことをさらっと言っちゃうよね。でもそっか…そうだよね、もしも何も知らない人がいて急にリオン達が出て来たりしたらびっくりするかも。そういうことならリオンも大丈夫だからね」
リオンはあまり自覚していない反応だったが龍真はある推察を立てていた。
神殿の中で試練を行っている最中はリリーファルナの血を引く者と同行していなければ不法な侵入は出来ないだろうと思っていたが、リオンがこうして龍真達と行動を共にする経緯には心当たりがある。
リオンの存在を疎ましく思っている帝都の誰かが"成人の儀"を利用して亡き者にしようとしている……そう考えて全ての流れが作為的なものだとすると否応にもピースが合ってしまうのだ。
「……それなら良い、じゃあ皆…頼むな」
偶然の重なりが仕組まれていたことだとしても【識別眼】を使って炙り出さなかったのは神殿の試練を受ける前までリオンと深く交流するなど思ってもいなかったし帝都の保護下に送り届ければ面倒事に巻き込まれずに済むだろうと楽観的に見ていたからだ。
しかし、今の龍真は違う。リオンの想いや恋愛感情は置いておいたとしてもこの純粋過ぎる皇女様を平穏に暮らせるように護ってやろうと思える程度には心を許しているのだ。
(……やっぱり居るな。何処の世界でもこういう派閥争いみたいなのはあるのか…犠牲になった人達が可哀想だな)
【断絶結界】を解くと龍真は【識別眼】で"リオンに敵意を持っていて行動を監視している存在"を識別すると数ヶ所から反応が出てきた。
龍真の脳裏を過ったのは学生達の間で後を絶たない虐めや組織の権力争い…地球でも行われている大小の争い事だった。
地球で殺人は罪に問われるがこの世界ではその感覚が薄い。リオンを護衛する為に命を掛けた一団が同じ人族の手引きで命を散らせたのかと思うと【感情保護】を使用している状態でも気分が悪くなる龍真だった。
「…それにしても、突然移動して驚いたな。まさか神殿を管理する存在から追記事項がある上に背負わせてた荷物を送り届けて貰えるなんてな」
「そうですね…それにマスターとリオン様だけかと思ったのに私達まで呼ばれるなんて驚きでした」
「でも結果として見たら良いことだったよね。それじゃ、そろそろ砦街テムジェに向かおっか!」
嫌な気分が沸き上がっていた龍真は本来やろうとしていたことに意識を戻し、急に姿を消して姿を現した一連行動を儀式の神殿の延長だと語り始める。
いち早く自然に反応を見せたのは勿論ミアティスで自分達まで呼ばれたのは予想外だったと驚きを示す。名演技である。
ミアティスが反応している内に流れを把握したリオンが臨機応変に話を締めくくり、龍真達は移動を再開した。
その場で監視している存在を瞬時に倒すことは容易なことだったが、それでは諸悪の根本へ辿り着くことは出来ない。その為龍真はわざと見逃したのだ。
(思えば此処には3年も世話になったんだよな…。スレイモンスターになったミアティスとシオンは勿論なんだが俺が充分な準備を出来たのは此処に居たからなんだ。またいつか戻って来よう)
唐突な異世界転移から今まで、決して抜け出すことのなかった"勇滅の森"から一歩足を踏み出した龍真は振り返って世話になった森を眺める。
恐怖の中から始まった暮らしだったが日本で生活していた頃では考えられない体験を幾つもしてきたのだ、感慨深くなるのも当然だろう。
龍真達が使っていた住居はミアティスの母親であるレティス達に管理を任せているので何かあった時はいつでも帰れるのだが改めてまた帰って来ようと思い背を向けたのだった。
「……あの男、我々に気付いていたのでは?」
龍真達一行が勇滅の森から出て姿が遠ざかるのを確認すると森の茂みから声が漏れる。龍真が感慨深く見ていたのを自分達が見られていたのではないかと戦慄しているようだ。
「まさか、気配は完璧に消しているんだ。有り得ないだろ」
するとまた別な声が岩陰から発せられる。自分達の技術に絶対の自信をもっているような口振りである。
「どちらにしても儂らの計画が邪魔立てされるのは良いこととは言えんな…どうされますかな?」
木の上から発した枯れた老人のような声は不快感を現すも別な相手へ今後の同行を求める。
「気は進みませんが仕方無いですね……我々で直接手を下しましょう」
先の三者三様の声とは別に最後に聴こえた決定を下す声は透き通るような綺麗な女性の声だった。
本格的に夏ですね…皆さん体調崩さないようにご自愛下さい。
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