最後の試練は大体大物が来る
「龍真君、改めて本当にありがとうございます!龍真君がリオンを助けてくれなかったらこの神殿に辿り着くことも出来なかったし、此処まで来ることだって出来なかった…龍真君はリオンの恩人です」
「本当に改まって、だな。俺達がどんなに頑張ったところでこの神殿が見定めるのはリオンなんだ…俺達は少し力を貸しただけで一番頑張ったのはリオン本人なんだから自信を持って良いと思う」
大きな扉を見て立ち止まり、最後の試練に挑む前に後ろを歩いてきた龍真の方へ振り返ると、リオンは綺麗な姿勢で会釈をして感謝の気持ちを伝えた。
短時間の内に色々な事を経験したリオンは何かしら思うところがあったんだろうと思いつつ、龍真は自分達より当人のリオンの努力を評価するべきだと返答する。自分達が行ったのは実力の中の僅かな物での協力なのだから当然だろう。
そうとも知らないリオンは"龍真君は謙虚なんだね"と笑みを浮かべる。実際協力している力など微々たるものなのだが。
「それよりもリオン、こういう試練の終盤は気を付けておいた方が良い。何か面倒なのが出てくると思う」
「うん、龍真君の予想って凄く当たるからちゃんと気を付けておくね」
感謝されるような大したことをしてるような自覚がまるで無い龍真はリオンの意識を最終試練の方へ引き戻すと細心の注意を払うように促す。
既にかなり信頼を寄せているのか、リオンは指摘されたことを疑うことなく受け入れ杖を構える。僅か1日にも満たないのにそうした関係になるとは龍真も予想外だった。そもそも盗賊団を退治した時リオンと遭遇したことから予想外だったので今更である。
「試練だから恐らく扉を開けた瞬間、何か攻撃が来るとは思い難いが…護衛してる俺が開けよう。少し離れていてくれ…」
龍真は想定した幾つかの展開パターンの中でも面倒な出だしの"不用心に扉を開けた瞬間、魔法なり武器なり薬品なりが飛んで来て試練を始める前から傷を負う"という展開は流石に試練だし無いだろうとは思ったが万が一ということもあるので対処出来る自分が扉を開ける役を買って出た。
「…それじゃあ、開けるぞ?」
リオンが頷き扉の前から下がると龍真は左右の取っ手を握り、【識別眼】【感情保護】の発動に加えて【万物離散】を全身に纏わせ扉に力を込める。
扉が開いていくと外に風が吹き抜けて来た為、龍真は扉を一気に開いた。
ガゴンッ!…と音が鳴り扉が全開状態で固定されると、中から攻撃が放たれることはなかったが、代わりに身の毛もよだつ程のプレッシャーが龍真達へ襲い掛かった。
「…………」
「あ…うぁ……」
凄まじいプレッシャーだと言っても3年前に龍真と聖獣のシオンが対峙した時のものとは程遠く龍真は適当に流して眺め、またそんな龍真に付いて慣れたもちこも大した影響は無かったのだが、リオンとメリアのペアはそうはいかなかった。
産まれて初めて受ける強大な力を前にメリアは愕然として地面に立ち尽くし、試練を受ける筈のリオンは戦意を完全に失ってしまい腰が抜けたようでその場に座り込んで奥を見ていた。
(未だ何も出てないが…あまり良い状況じゃないな)
龍真の位置からは中の全貌が見渡せるが敵らしい姿は見受けられない。
扉の中の造りは神殿の面影はなく、どちらかといえば地球の洞窟に酷似していた。上に連なる剣山のような鋭利な大小疎らな棘は戦闘中崩れて当たれば普通の人族ならば即死は確実だろう。唯一床だけは何かで踏み固められたかのようで平坦になっていた。
一瞬視線を向けた先でリオンが戦意喪失しているのが理解出来ると最悪リオンを守りつつ自分1人で相手にしなければならないだろうと気を引き締める。…必要無い程度にはスキルを所持しているが念の為だ。
龍真がそんなことを分析していると洞窟の中心から光が溢れ、線上の光が走り始めると目測でも直径10m以上はあるだろうと判断出来る大きな円が描かれる。
そして円の内部が光輝き岩肌と同質の色と質感の物体が姿を現し始めた。
(ボス出現ってところか…もう少し魔方陣的な表現とか出現エフェクトなんか出さないと見映えしないだろうな。序盤のボスだからこんな物か?)
心身共に余裕のある龍真は最後の試練の相手の出現をゲームやアニメの感覚で評価していた。もっとも、今自分自身がいる場所は現実で倒されれば命はないという自覚は忘れてなかったが。
『リリーファルナの血を引く者よ、そなた達を見極め選定した結果試練として用意出来る最大の相手が最後の試練となった…少人数な上に試練を受けるのが皇女とあれば選定も簡易なものにしたかったのだがな』
「護衛の身で差し出がましいのですが、1つ聴かせて戴いても構いませんか?」
『何を問う?』
召喚には時間が掛かっており、その間に神殿を管理する存在が龍真達へ話し掛ける。
試練の難度は最終試練でも最大の難度で決まりそういう結果は不本意だったと悔やんでいるような管理する存在を尻目に龍真は一歩前に出てフロアの中へ入り、召喚されるボスから視線を外さず質問の許可を求めた。
リリーファルナに関係する者以外の質問は断られるかと思ったがどうやら聴いては貰えるらしい。
「ありがとうございます、問いたいのは…"この試練はリリーファルナの血を引く者が前線で戦わず、また圧倒的な力の差で倒してしまっても試練は合格になるか"ということです」
『それは面白いな、我が神殿での力量判断は正常な物で受けに来た者達の総合力を見定めて試練を下している。それで用意された相手を皇女を抜きに、実質そなた1人で…しかも圧倒して勝利を収める…というのだろう?』
「恐れながら、そういう形になります」
身動き出来ないリオンとメリアを残し召喚されてる最後の試練の相手は徐々に姿を現していく。
龍真はそんな相手など眼中になく、神殿の判断は本当に正確なのだろうかという方に思考が傾いていた。
隠蔽しているステータスを元に今までの動きを見て判断してるのか、隠している部分まで知られているのかは龍真にとって重要な問題である。それによっては今後の行動も変わってくるのだから当然だろう。【識別眼】で召喚されてる見てみるとどうやら隠蔽されてる状態の力量と今までの試練の動きを換算したものだったようで大した驚異にはならなかった。
仮にゲームならスキルを使いまくったらボスも強くっていうのは悪くないなどと考える始末だ…余裕である。
『良いだろう…そのようなことが本当に可能ならば見せて貰おうか。その代わり護衛のそなたが敗北した時点で惚けていた正体を話して貰うことが条件だ』
「分かりました、それで構いません」
半ば馬鹿にしたような物言いで許可を出した管理する存在はそのような大口を叩くのなら…と、敗北した場合は龍真の正体を話せと条件を加える。
リリーファルナの皇族の試練を護衛の龍真が行って合格を貰えるのだからそれくらいのペナルティはあっても当然だと思えた為、龍真は潔く条件を飲み込んだ。
『では最終試練の開始だ…そなたが我が試練を前に何処まで食い下がれるか、見届けてやろう』
神殿を管理する存在は自ら課してる試練の最高難度の最終試練に絶対の自信を持っているようだ。少なくとも龍真単独で勝利することなど不可能だろうというのが言葉の随所から伝わってくる。
その自信の理由は直ぐに理解出来た。光輝く円の中から姿を現したのは全身鉱物で出来たドラゴンだったのだ。
「……ゴラムゾッド……カイレン…?そ、そんな……」
(日本風に言ったらストーンドラゴンとか鉱岩竜とか、そんな感じだろうな。…ん?)
出現して相手の全容を視界に捉えたリオンはその場から動けないどころか、全身を震わせて顔色が蒼白になり、絶望的な声を上げる。
カイレン種といえば聖獣ミルガ・ヴォリオスのシオンよりは劣るものの太古から存在し続ける高位の魔物の一種だ。竜と言っても様々だがどの世界でもドラゴンは定番で強いのだとシオンとの勉学で理解した時のことを龍真は思い出していた。
リオンのこの様子では、どの道戦えなかっただろうと自分の判断が正しかったのを確信した龍真は【識別眼】でゴラムゾッドカイレンを分析する。
岩石で出来た翼を広げ浮遊したゴラムゾッドカイレンは咆哮すると、その全身が漆黒に彩られた。
ゴラムゾッドカイレン…状態変化:硬質化
(成程、一般的に考えたら少人数、それも単独で倒せる相手じゃないんだろうな)
分析結果で龍真は相対する相手が本物のカイレン種ではなく、鉱石で出来た造り物だと把握している。しかし本物と殆ど差異がない上に更に禍々しく強力になると龍真は心が昂るのを実感した。
「何…あれ?ね…り、龍真君……無茶、だよ。人族が1人で太古から存在するカイレン種に…勝てる訳ない。試練とかどうでも良いから、止めよ?龍真君、死んじゃうよ…?」
ゴラムゾッドカイレンが変化して硬質化する現象はリオンの知識にはなかったようだ。試練に挑む為に失った護衛部隊の為にも絶対に試練を乗り越えて儀式を完遂させようとしていたリオンの強い意思は今や見る陰もなかった。
「試練であって殺戮が目的じゃない以上、死ぬことはないと思う…じゃないと正体を聞き出す条件が無になるからな」
神殿を管理する存在の会話を照らし合わせて見て龍真が死ぬことは考えられない故にリオンにその心配はないと返答し心配事を1つ消化する。
そもそも元から命を失う状況になり得ないのだから問題ですらないのだ。
「そうかも知れないけど……」
「リオン、じゃあ俺達も交換条件を出そう」
成り行きとはいえ、リオンは龍真を1人で戦わせることになってしまい負い目を感じているようだ。死ぬような心配はないと理解しても納得出来ずにいる。
納得させるために龍真が取ったのは神殿を管理する存在が龍真に課したのと同じく、リオンと約束をするということだった。
「…交換、条件?」
「俺はリオンの成人の儀が無事に終わるように戦う、仮にリオンに危険が降り掛かってもそれを振り払う。…だから、リオンはここでの俺の戦いをリオンだけの秘密にして欲しい」
「秘密に?」
「そうだ、自分の出来ることとかをなるべく大勢に知られたくないんだ…リオンの父親や母親…周りの親しい人達にも」
龍真が後ろで座り込むリオンと会話している間ゴラムゾッドカイレンは区切り良く待つ訳でもなく翼を羽ばたかせ、まるで弱者を追い詰めいたぶるかのように緩やかに龍真の方へ接近してきた。
よくありがちな変身や合体や泣ける会話が全て終えるまで律儀に待ってくれるという訳ではないらしい…現実とはそんな物である。
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