純粋な皇女様の前で力を使ってみた
「龍真君、リオン…約束出来る。龍真君は会ったばかりのリオンを何度も守って救ってくれたんだもん、されたくないことしないなんて当たり前でしょう?」
「ん…ありがとう。じゃあ遠慮なく戦えるな」
何度目かに及ぶリオンの言葉や心情への【識別眼】の使用だったが、相変わらず嘘偽り無い感情だった。
龍真が礼を告げると"命を守って貰うのにこんな簡単なことことで良いの?"と少し困ったように笑みを向けたのを見た龍真は恐怖は残っているものの、リオンはもう大丈夫だと確信すると迫ってくるゴラムゾッドカイレンに意識を集中する。
(俺の攻撃にせよボスの攻撃にせよ、斜線上にリオンが居るのは宜しくないな…場所は変えるか)
ゴラムゾッドカイレンと龍真の間にはまだ充分な間合いがあったがドラゴンであればブレス攻撃などの遠距離攻撃もあるだろうと予測し、リオンを巻き込んでしまう危険性が大きいと考えた龍真は入口付近から右側の岩壁の方に移動して位置を変更する。
《龍真さん龍真さん、安請け合いして倒すって言っちゃってたけど結局どうするの?》
リオンから距離の離れたところへ移動するともちこが姿を現し龍真へ話し掛ける。
本来ステータスの精霊はこのような切迫した場面で契約者を注意散漫にさせることは行わないのだが、龍真ともちこの場合その危機にはまだ至ってなかった。
《どうするって、何がだ?》
《龍真さん、メリアは兎も角皇女様の前で強いの見せる訳じゃないんでしょう?あのカイレン種、滅茶苦茶硬いよ?しかも…わわっ!》
念話で突然話し掛けてきたもちこに龍真も念話で答える。会話を遮断するかのようにゴラムゾッドカイレンは腕を振りかぶり空中から龍真目掛けて鋭利な爪を突き刺す。
攻撃の軌道を【識別】していた龍真は攻撃地点から離れ、その直後繰り出した爪と地面が衝突した。
大きな音を立てて地面が粉砕し砕けた破片や粉塵が巻き上がる。
「っ、龍真様!?」
驚愕の一撃で巻き上がった粉塵のせいで龍真の姿が視界から消えてしまったのを見たリオンは、最小限の動きで回避している龍真がゴラムゾッドカイレンの攻撃に直撃してしまったと勘違いして悲痛な声で龍真の安否を確めようと呼び掛ける。
《リオンは恐らく約束を守って口外しないでくれる筈だ…それに粉塵が巻き上がったのは好都合だな。よし、瞬殺しよう》
《ええ~っ?》
龍真がこれから行うことに気付いたもちこが間の抜けた声をあげるが、龍真は構わずゴラムゾッドカイレンの攻撃で飛び散った小さな破片を手に取り、人差し指と中指の間に挟むとゴラムゾッドカイレンに向けて挟んだ右腕を掲げ【識別眼】を発動させた。
(位置確認…ゴラムゾッドカイレンの弱点………捕捉。2点あるのか…それなら!)
龍真が識別して捉えた弱点は左右の胸部にあった。同時に貫かなければ意味がないというところまで理解した龍真は【自由保存】から小石を1つ取り出し、今度は中指と薬指の間に挟み2連発射にして構え直す。
「序盤のボスだし長引かせるのはちょっとな…俺の小説構成の為に潔く負けてくれ」
一撃で倒すのは忍びない姿のゴラムゾッドカイレンに多少申し訳無さは残るものの、時間を引っ張って戦う予定のなかった龍真は、巨大ブレスを放とうとエネルギーを蓄積する標的に向けて容赦無く【即死弾】を発射。
抵抗する暇も回避する暇も与えず2本の閃光がゴラムゾッドカイレンの弱点である左右の胸部を貫き、一瞬停滞したかと思うと次の瞬間、滞空していたゴラムゾッドカイレンは何の反応も見せなくなりそのまま地に落下した。
『何…?』
「え…龍真君…?もしかして、倒しちゃったの?」
あまりに一瞬の出来事でリオンは愚か、神殿を管理する存在までもが驚きの反応を示す。
舞い上がった粉塵が晴れる前にリオンの方へ歩いて戻ってくる龍真は撃沈したゴラムゾッドカイレンに見向きもせず目立った外傷もなく平然としていたのだ。
リオンが今にも起き上がって後ろから攻撃されるのではないかと肝を冷やしても無理はない程早い決着であったし、神殿を管理する存在が生命反応が突如無くなり試練を終えてしまったことに思わず突っ込んだとしても何ら不思議なことではなかった。
「久しぶりに使ったがちゃんと効果は出てたみたいだな…スキルなんだし衰えとか無いんだろうけどな。リオン、見ての通り最終試練の相手は倒した。もう心配ないぞ」
龍真が【即死弾】を使うのも約3年振りである。
聖獣のシオンが誇っていた黄金の角を破壊した時以来使用するような危機的状況に遭遇することもなかったのだ。便利だと思って得たスキルも今の龍真にとって戦うのが面倒な時や過度な演出をする為のお飾り的なスキルとなっていた。
「う、うん…龍真君……凄いね。リオン何をして倒したのか全然分からなかった…何か光ったと思ったらもう倒してるんだもん」
「あまり何度も使えない奥の手…みたいなものなんだ、成功して良かった」
自身のスレイモンスターであるミアティスやシオンにはある程度視認出来ていた【即死弾】も人族のリオンには訳の分からない攻撃に映ったようだ。
龍真は今後スキルの乱発が行われないようにと、何度も使用出来ない上に成功確率の低い奥の手なのだとリオンに説明したが特に言及されることもなく納得してくれた。
地に伏したゴラムゾッドカイレンに近付き龍真が貫いた穴の状態を確認したメリアはこれを自分に放たれては堪らないと悪寒が走り龍真に関する秘密を絶対に話すまいと心に誓ったのだった。
『馬鹿な…あのゴラムゾッドカイレンには最初から硬質化を施し自己再生も備わっていたのだぞ。それに2つの核を同時に破壊しなければならないというのに…瞬時に見抜き一撃だと?』
「約束に見合う条件で討伐を果たしました…事前に申し上げた通り最終試練はこれで合格にして戴けますか?」
龍真は戦闘の前に変色したゴラムゾッドカイレンの状態を識別して硬質化の方は頭に入れていたが今神殿を管理する存在が言った自己再生能力は知らなかった。言ってしまえば再生してもしなくても一撃で済ませられるのだから必要無い情報だったのである。
本来ならば逆に一撃で倒されるか限りなく長期戦になって消耗していくか、どちらにしても龍真一人でゴラムゾッドカイレンを倒せるなど神殿を管理する存在は微塵も思っておらず、今までの厳格な雰囲気が若干失われつつあったが龍真はそれに突っ込んだりせず合否の判定を求めた。
『む…未だに納得出来ない部分はあるがそなたの宣言通り倒したのだ、リリーファルナの血を引く者とその護衛よ…最終試練の合格を認める』
疑念の残る倒し方だと言われ再戦を求められるかと思っていた龍真だったが約束を破ることなく合格を得られ内心安心していた。仮にもう一度戦うことになってたとしても同じように一撃で倒していたのだろうが。
「良かった…ありがとうございます。リオン、これで成人の儀を成功させられるな。怪我はないか?」
「うん、大丈夫だよ。最後は完全に龍真君に頼りきっちゃったけど…」
神殿を管理する存在に礼を述べると龍真はリオンに手を差し伸べ、念の為外傷の確認をする。ゴラムゾッドカイレンの剛爪で飛散した鉱物の破片が万が一にもリオンに当たってしまっているかも知れないと思ったからだ。
龍真の手を取り立ち上がったリオンには目立った外傷は見られず、本人も大丈夫だというので龍真の心配は杞憂に終わった。
『よくぞ最終試練まで乗り越えた…リリーファルナの血を引く者よ、これより成人の儀を執り行う場所へ導こう。護衛の者と触れ合いはぐれぬようにするが良い』
神殿を管理する存在は試練の制覇を称え、場所を移動すると言葉を続ける。
どうやら試練を終えて成人の儀が終わるのではなく、試練をクリアするとそこで儀式が行われるという流れのようだ。
皇族と護衛が触れ合わなければ同時に移動出来ない仕組みのようでそれを聴いたリオンはすかさず龍真の手を握る。
別に手を握らず肩や腕に触れるだけでも良い筈だと思っていた龍真は不意に繋がれた手の温もりに異性への耐性が少ない龍真は心臓の鼓動が跳ね上がるのを自覚した。【感情保護】が発動している影響で赤面したり動揺することはなかったが。
先程欲望の解放の試練で過度な密着をしていた2人だったがあれはリオンを正気に戻すのに必死だったので別な話である。
見るとリオンも恥ずかしいのか頬を赤らめていた。こんな初々しい場面を見せて一体誰得になるのだろうかと内心突っ込む龍真だったが諦めてリオンの手を握り返した。
『準備は出来たようだな、では洗礼の間まで誘おう…』
神殿を管理する存在が移動を告げると龍真達は空間の歪みに包まれる。
(この空間移動技術が日常でも頻繁にあるとしたら、日本の…いや地球の技術よりよっぽど進んでるんじゃないか?)
空間に続いて2人の全身も歪み空間移動が行われる直前龍真は未だ見ぬ異世界の文明に想いを馳せて創作意欲を湧かせながら最終試練が行われた場所から姿を消した。
後に残された召喚されたゴラムゾッドカイレンの亡骸は出現した時と同じようにその全身が光の円で囲まれ、砂のように散り散りになり周りの鉱物と同化してその場に静寂が訪れたのだった。
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