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神殿の試練 10


龍真とリオンが同時に煙幕に包まれた頃、外に取り残されたもちことメリアは何とかコンタクトを取ろうと試みたものの特殊な煙幕は中に入ることも出来ず呼び掛けにも応じない為、中から2人が出てくるのを待っているしか無かった。


「私達が出来る方法は全部試してみたけど、結局駄目みたいだねー…」


「そう…ですね、悔しいです」


「まぁ、中に居るのは龍真さんだし頃合いを見て出てくるだろうから、私達は暫く待っておこうか」


一応形だけ何かしらの合流方法があるのではないかと試していたもちこだったが、実際のところ大した心配はしていなかった。

自分が担当することになった異世界人の龍真は3年前の段階で聖獣を圧倒してるのだ、殺したって死なない位に思っていたが皇女と2人きりなのが唯一の懸念だった。


「そんな適当な……」


「大丈夫だよ、試練を受ける場所なんだから最悪リオン皇女は命を奪われることはないだろうし、護衛してる龍真さんはこの程度じゃどうなることもないから」


もちこが悠長に構えられるのには確かな根拠がある。

反対にメリアの方は心配ごとが多いのだろう、そわそわ動いて落ち着かない様子だった。


「あの……先輩、彼は武器を扱いスキルを使用していた上に教養もある、本当に従者持ちの小説家なのですか?」


「メリア…またその話?仕方無いなぁ…メリアが盗み見た事を漏らさない代わりに此処での話は口外しないって誓える?」


「交換条件ですか…余程の事情なんですね、分かりました…誓います」


自分ではどうしようもない上に先輩のもちこが悠長に出てくるのを待ってるのを見て一緒に待つしかないと諦めたメリアはもちこの隣に座り、これ幸いとばかりにリオンの前では話すことが出来ない盗み見た龍真のステータスについての疑問をもちこにぶつける。

…隠蔽したステータスの方だが。


生真面目な後輩はこうなると納得するまで譲らないのを知るもちこは面倒臭いと思いながら頬を指で数回掻くとメリアの違反行為を咎めないことを質問への返答の交換条件として提示して、更に知っても口外しないというのを念押しした上で約束出来るなら教えると返答する。

本来ならば違反になる行為を重ねて質問に応える義理もなく、駄目だと言われればそれまでで言及出来ないにも関わらず譲歩してくれた先輩に感謝の念しかないメリアは己に課せられた誓約など軽いものだと秘密厳守を即答したのだった。


《うん、それじゃあ話してあげる……》


もちこは龍真が別の世界から来たことや特別な力を持っていること、別の世界では小説家として生計を立てていたことなど必要最低限の情報をメリアに話した。万が一何処かに情報が漏れてはもちこの身にも危険が及ぶだろうと判断すると念話に切り換えて。ステータスの精霊は担当した人族のことを考えるのが彼女らの中で常識だった。


「そういうこと…でしたか、これで先輩の次の担当がこれ程早く成長していたことも隠していることも理解出来ました。確かにそれは口外出来る事柄ではありませんね」


「でしょう?だからちょっと保険として龍真さん本人には言ったことを伝えておくからね!…メリア、もしも喋ったら消滅しちゃうかもね」


「厳守します。先輩、それ…冗談になってませんよ?」


最低限の情報を聴いたメリアはそれ以上深く追求することもなくもちこの説明で納得し、龍真にそれを報告すると言われても秘密厳守を口にした上で了承した。

もちこが冗談混じりに指摘した消滅という言葉に龍真ならやり兼ねないのではないかと内心恐怖したメリアだった。


そうこうして精霊同士で会話を弾ませているともちこの予想通り2人を包み込む隔絶された煙幕が薄れていきシルエットが浮かび上がってくる。

どうやら煙幕の中と外では見え方が違っているようだ。


「どうにか無事、乗り越えられたみたいだな…」


「龍真…君、その…ごめんなさい」


「気にするな、あの煙幕は神殿の試練だったんだし、お互い無事だったんだしな」


「えっと、そ、そうじゃなくて……」


煙幕が晴れて行くにつれもちことメリアの姿もシルエットから鮮明度を増していく。

リオンの謝罪は試練を受けている最中欲望の解放で迷惑を掛けたと思ってのものだと思っていたがどうやら違うようだ。


「…っ、龍真君…リオン乗ってて、重たくない?」


「ん?あぁ…。いや、全然重たくないぞ?それよりリオン、さっきの試練で心も身体も支障は無いか?」


リオンが心配していたのは自分が馬乗りしていて龍真は大丈夫なのか…というところだった。

龍真としては真っ先にリオンの心身が心配だった為、態勢を変えることなく瞳を見詰め瞳孔を確認しながら質問する。

一方のリオンはそれどころではなく、見る見る顔が紅潮していく。欲望の解放という試練で自分が口にしたことは未だ良かった。一緒に居たいと思うのは本心本心だったし、このことをきっかけに一緒に居れるなら願ったり叶ったりな結果になるからだ。

しかし肉体同士がゼロ距離で触れ合っている現状の態勢は別だ。


「成程、これは俺が悪かったな…済まないリオン」


「………っ、ううん、リオンこそごめんなさい…」


リオンの状態を早く確認する為にそういう事情をそっちのけで凝視していた龍真だったが、2人の密着度とリオンの格好を見てリオンがどうして赤面しているのかに気付き、謝罪すると同時に掴んでいたリオンの肩を離して膝の上から解放した。

自由に動けるようになったリオンは恥ずかしがりながら立ち上がり、服装の乱れを整えると自分で脱ぎ捨てたマントを拾い再び装備する。


「龍真さん、龍真さん、今の格好ってもしかして…皇女様と一線越えちゃった?」


「先輩っ!?」


「馬鹿言うなよ…勢いに任せてそんな事をしたら俺は極刑、それか一国を敵に回すことになるんだ。それくらいの理性は働いてる」


龍真から少し距離を取り服装を正すリオンを見てもう大丈夫だろうと一安心して立ち上がると、煙幕の外にいたもちこが近寄ってきて煙幕が薄れて現れた2人の格好に茶々を入れる。

リオンを案じて飛んで行ったメリアとは大違いである。そのメリアももちこの言葉に過敏に反応していたのだが。

冗談にしては笑えないことを平然と言うもちこに呆れて溜め息混じりに否定すると思いの外残念そうな顔を浮かべていた。


『各々準備は整ったようだな…第3の試練"欲望の解放"に打ち勝ち、よくぞ理性を取り戻した。それにしてもそこの護衛の男、そなたには欲は無いのか?あれ程の濃度の煙幕を受けて平然としているとは』


「欲が在り過ぎて、1つには絞れなかったのではないでしょうか?」


まるで見ていたかのように区切りの良いタイミングで神殿を管理する存在が脳裏に声を響かせて来た。

なんの試練だったのかを説明する以前に把握して挑んだ龍真にとって対処は容易であったし、これまでの傾向から管理する存在が龍真の反応に興味を示すことは予想出来ていたのでそれに対する言い訳も不自然にならないように出来ていた。それが通じるかどうかは別な話である。


『…ふむ、まぁ良い。これより最後の試練を行うが覚悟は出来ているか?』


「はい、もう大丈夫ですっ!」


『そうか、ではリリーファルナの血を引く者とその護衛よ…この先を進んで見事最後の試練を乗り越えて見せよ』


神殿を管理する存在は龍真の誤魔化しを流した。説明を求めても無駄なら話を進めようという魂胆だろう。

続く言葉を聴くには次の試練で最後のようだ。

気合いを入れたリオンの返事を受けた神殿を管理する存在は奥へ向かうように促し、リオンもそれに従って奥へ向かって歩き始めた。


(…こういう展開の時の最後の相手は大抵その場所のボス的な存在だと相場は決まってる。これがリオンに任せず協力してってことなら良いんだけどな)


リオンの後に続き龍真も最後の試練を行う場所まで向かうが、最後の試練は【識別眼】で見定めるまでもなくボス戦になるだろうと考えていた。異世界モノのお約束である。


「龍真さん、ちょっと良い?」


向かうとなって姿を消したもちことメリアだったが途中もちこが姿を現し龍真に語り掛ける。何かと思いもちこの方へ視線を向けると少し気まずそうな顔を見せリオンの耳に入らないように耳元で小声になって話を続けた。


「あのね、皇女様に付いてるメリアと私、煙の外に居たんだけど…」


「あぁ、そうだったな」


「ステータス盗み見たメリアがどうしても納得行かなかったみたいで、理解して貰う為に龍真さんのこと教えちゃった。あ、でも勿論本当に最小限のことだけだよ?」


また茶化してくるのかと思っていた龍真だったが予想の斜め上な内容に一瞬だけ表情を強張らせる。幾ら最小限だと言っても場合によっては拡散される恐れが一番高いと言っても過言ではないステータスの精霊に知られてたのだ。


《 …もちこ、質問して良いか?》


《う、うん…》


龍真の雰囲気が変わったのを間近で捉えたもちこは緊張した面持ちで姿勢を正す。リオンにまで知られると困ると念話に変更するともちこも同調する。


《どういう形で喋ったんだ?》


《今みたいに念話でだよ、中に聴こえてたら困ると思って》


《精霊同士の知識は他へも共有されるのか?》


《ううん、担当する人族への守秘義務もあるしそんな能力があったら頭が可笑しくなるからね。私達は同一の存在じゃなくてそれぞれ個として存在してるんだから》


《そうか…こう言った形の念話は神殿の管理者に聴かれてると思うか?》


《私は聴かれてないと思うよ?そうだとしたら突っ込まれてそうだし。知ってるかどうか、龍真さん調べられるじゃない》


龍真はもちこ達がどういう状態で喋り、精霊同士が直ぐに共有出来るのか問い詰めたが龍真の描く最悪な状態にはなっておらず胸を撫で下ろした。

最悪な状態とは他の全ての人族に龍真が本当は異世界人だと知れ渡ってしまうことだ。

そうなれば余計他人との関わりに警戒を持たなければならなくなると思っていただけに安堵の気持ちも相当な物だった。

人族のリオンは聴いてないだろうが神殿を管理する存在は特別な存在だと判断する龍真は楽観視して考えることはあり得ないことで、そこへの情報漏洩も厳守されてるか訊ねる。

最後の試練の前に突っ込まれてないのを聴いて大丈夫だと答えるもちこが数有るチート能力の中でも龍真が一番多用する【識別眼】で見れば確実だと指摘すると、それもそうだとスキルを発動させ、神殿全体に"自分が異世界人だと知り得たか否か"の識別を掛ける。


結果もちことメリア以外知らないと出ると再度一安心する龍真であった。


《はぁ…そうなると後はメリアだけだな》


《大丈夫、メリアにはちゃんと秘密厳守の言質も取ったし万が一言ったら違反行為を伝えるって言ったからね》


《…それだけじゃ危ない、俺からも制約しよう》


龍真が納得するように交換条件で厳守を約束させたもちこだったがそれだけでは甘かったようだと判断の誤りに苦笑いを浮かべる。

試練が一区切り付いたところで更に制約される後輩を思うと可哀想にと同情するもちこだったがそれも自業自得だと諦めるしかなかった。


「此処みたい、きっとこの扉の向こうが最後の試練なんだよね……」


もちことの念話を終えて更に直進すると数歩先を歩くリオンが立ち止まり、重厚で年代を感じさせる大きな扉を見上げて呟いた。



読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。



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