神殿の試練 9
「龍真さん!」
「リオン!大丈夫ですか!?無事なら返事をして下さい!」
2人を担当するステータスの精霊すら置き去りにして蔓延する煙幕だったが龍真とリオンはお互いをはっきり視認出来る状態にいた。単純に密着しているからというだけではなく鮮明に見えているのだ。
「…次の試練か、厄介だな。リオン、出来るだけこの空気を吸わないようにするんだ……リオン?」
龍真は煙幕の効果を【識別眼】で理解するとリオンに極力吸い込まないように注意するがリオンの反応が薄い。どうやら既に煙幕を一定量吸い込んだ後で伝えるのが遅かったようだ。
因みにもちことメリアの声は隔絶されてるかの如く煙幕の中に届いていなかった。
(この試練…"欲望の解放"って厄介だな。多分本来なら本人に自制が利く程度の軽い物で、それに対して誘惑、とかで済むんだろうが…)
リオンに呼び掛けを続けながら今回の試練は最大難度で行うと言っていた神殿を管理する存在の言葉を思い出す。
皇女のリオンがどんな欲望を秘めているのか見当も付かなかったが抑圧されて生活しているのはどの姫も一緒だろうと思うと龍真としては面倒なことに変わりはなかった。
「龍、真…様……」
「リオン?大丈夫か?」
うっすらと瞳を開けて見上げるリオンは明らかに様子が変わっている。龍真は無事を確認しながら解放された欲望を識別してみたが龍真の予想を超えた欲望だった。
「龍真様、リオンの旦那様かリオンの専属騎士になってリオンとずっとずっと一緒にいて下さいっ!」
理性から解放された剥き出しの欲望は目の前の龍真に向けられたものだったのだ。こういう形で欲望を露呈された龍真は思わず頭を抱えてしまった。
「あー………困ったな」
「それが駄目だというのならリオンも龍真様の仲間に入れて下さい、リオン離れて欲しくないです」
リオンは龍真の腕に自分の腕を絡めどういう形でも一緒に居ようと訴える。当然リオンの柔肌は龍真の腕を圧迫し煙幕を吸い込まないように片手を使ってる分、もう片方をリオンに絡められるとどうしようもない状況だった。
(リオンの欲望がこういう形で解放されるなんてな…まだ殺意とか不満の吐露とかの方がまだ対処し易かっただろうに…これは面倒だな)
現状両手が塞がっているので何かに襲われたらどうしようもない…こともないのだがスキルの多用をリオンに見せてしまうと事態が悪化しそうなので判断が難しいところである。
「龍真様、聴いてるんですか?リオン、沢山力になりますよ。父様だって説得しますから、リオンと一緒にいて?」
龍真が考え込んでる間にもリオンは煙幕の空気を吸い込んでおり欲望の解放状態が進行していく。
息を荒げて潤んだ瞳へと変貌したリオンは何処となく発情した獣のようにも見えた。
「リオン、第一皇女のリオンに対して俺は軽々しく良いと言える程無責任な選択は出来ない。勘違いしないで欲しいが決して嫌いな訳じゃないんだ、今は試練を乗り越えることの方が大事だろ?」
「皇女…リオンが皇女だから、そんなに気を遣ってくれてるんですか?」
「いや、まぁ…」
「とっても嬉しいです、リオンの事考えてくれて。そういう龍真様だからこそ余計一緒にいて欲しいって思うんです。そういえばお城のメイド達が"殿方は子を身籠っていた方が説得し易い"と話しているのを聴きました!龍真様もリオンと子を成したら一緒に居てくれますか?」
何とかリオンに落ち着いて貰おうと説得を試みるが、龍真が何を言っても良いように捉える勢いだった。
話の内容から察するにメイド達が盛り上がって話しているのがリオンの耳にも入ったのだろう、俗に言う"出来ちゃった"状態にして既成事実を作ってしまえば一緒に居れるなどと片寄った知識を変な力に持ってしまっているようでマントを脱ぎ出す始末である。
一方の龍真も龍真で結論から言えば皇族貴族は未だに警戒対象だがリオン個人に関しては嫌いではない、寧ろ好ましく思う方だった。どれだけ調べてもまるで幾らでも調べて下さい、と言わんばかりに打算や魔性などの悪い感情を持たず清らかで真っ直ぐなのだ…好意を持たない方がどうかしてると言える程純粋なリオンは、迫っている今も龍真の戦力とか希少性といったものは完全に無視で心から龍真個人と共に居たいのだと必死になっていると識別出来る。
「リオン、そういう事は軽々しく同じ年頃の異性にやっちゃいけない。もっと自分を大切にするんだ…」
「大切にしてますっ、考えてますっ!龍真様が思ってる程リオンは軽い気持ちで言ってるわけでもないし子供でもありません…。リオンは龍真様だから一緒に居たいんですよ?」
迫るリオンを本気で突き放す訳にもいかず龍真はマウントを取られてしまう。
これで龍真の方も理性が働かなくなり欲望を解放されてしまっていたらなし崩し的にリオンと一線を越えた関係になっていただろう。
そう考えると単純な戦闘などに比べて実はこの試練は恐ろしいものだったのではないかと戦慄する…一瞬だが。
「じゃあ尚更この状況に流されちゃ駄目だろ?」
とっさの事で思わず口を塞いでしまった龍真だったが自分のスキル【感情保護】で無効化出来ていることを思い出し口と片腕が同時に自由になるとこれ以上接触出来ないように両肩を掴んでリオンの理性が打ち勝てるように説得を続ける。
繰り返すようだがこれはリリーファルナの皇族としてリオンが乗り越えなければならない試練の一環なのだ、龍真が煙幕を霧散したりリオンの状態を正常に回復させたりするのは簡単だがそれでは試練達成とは言えず無意味になってしまうので龍真としてももどかしい気分であった。
「ミアティスさんからは龍真様と最後まで交わったと聞いてます、リオンはやり方とか何をすれば良いのか分かりませんが…"跨がって迫ってお願いすればマスターは受け止めてくれます"って言ってましたっ」
(…何だそれは。俺は誰彼構わず交わる節操無しじゃないんだが…)
「それに"但しそうするならそれなりの覚悟を持つことですね"とも言ってましたけど、今がその覚悟を決める時です!さぁ、龍真様…リオンを受け止めて下さい」
龍真はやたらリオンを引き入れようと薦めるミアティスの言葉を思い出していた。龍真第一主義のミアティスは外聞はどう偽っても自分が龍真のスレイモンスターなのを理解し弁えて同行しているのだ。そして魔物だからか強い雄は雌を幾ら引き連れていても強さの象徴の一部でしかないと考えている。
龍真に味方する人族は多い方が良いと考えての根回しだということは理解出来ていない訳ではないが、それが今回の試練に悪影響を及ぼす形になっているのは否めなかった。
「リオン、成人の儀が終わって…リオンを帝都に送り届けて、それでももし気持ちが変わってないならその時はちゃんと受け止める。約束するから正気に戻ってくれ」
リオンの本心が暴走して歯止めが効かない状態でどう迫られても龍真は出会って初日にそういう関係へ発展する行動に移ることはなかった。ミアティスの時は信頼を築いており絶対に裏切らないのを分かった上で受け入れてるのであって今回の関係性とは雲泥の差があるのだ。
そもそも成人の儀を行って帰ることで漸く大人の皇族として認められるこの試練で先に身体が大人になってしまったらそれこそ本末転倒である。
「龍真様…いえ、龍真…君。本当?」
「ん?」
「帝都に戻って気持ちが変わってないならリオンを受け止めてくれるって、本当?約束?」
返答が少し先に延びたものの龍真が約束すると言った声に反応したからか、リオンの欲望の解放が治まる兆しが見える。龍真の呼び方を変えたのが明白な証拠だ。
最初小声だった為に龍真が聞き返すと今度はしっかりと聴こえるようにはっきりとした口調でもう一度龍真に訊ねる。
(…手早く正気に戻す為とは言え我ながら愚策を取ってしまったな。これじゃあリオンの周りがどんな状況下でも受け止めるしかなくなる。曖昧にしたらまた暴走しそうだし予定通りにはいかないものだな)
「本当だ、約束する。だから今は成人の儀を成功させよう、リオン」
今回の試練に関しては龍真が皇族と否応なしに接することになり皇族貴族との面倒事を予想すると頭を悩ませたが自分で描く小説の物語のようには進まないのは34年の日本での人生とこの世界での3年の生活で重々承知していた為、もう一度リオンと約束すると気持ちを切り替え自分に言い聞かせるように儀式の継続を促す。
「うん、約束ね?」
再確認して龍真が答えたのを聴くとリオンは安堵の表情を浮かべ信頼した笑顔を見せる。
龍真が帝都に到着しても約束を反故にするとは微塵も思っておらず完全に信じて喜んでるのが龍真にも伝わり僅かにだが頬が熱くなるのを感じていた。
『リリーファルナの血を引く者とその護衛よ、第3の試練突破を此処に認める』
リオンが完全に欲望の解放から理性を取り戻すと神殿を管理する存在からの声が脳裏に響き、龍真達を覆う煙幕が一気に霧散した。
話を更新するごとに文章構成が上達していけば理想なのですが、相変わらず稚拙な文章なのが悔しいですね。
にも関わらず読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当にありがとうございます。




