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神殿の試練 8


「話…ですか?自分に応えられることでしたら構いませんが」


リオンの小休止の提案を受け特に異論も無かった龍真はリオンの近くに腰を下ろし着座する。いつ何が起こるか分からない状況なのは変わりないので周囲の警戒を続けながら、というのが前提だが。


「ありがとうございます、リョウマ様はリオンを帝都まで護衛して下さった後どうなさるかお決まりですか?」


「護衛の後……ですか…」


リオンが切り出した話は神殿での儀式を終えて帝都リリーファルナまで送り届けた後の龍真達の行動予定だった。

正直な話、龍真は未だ帝都リリーファルナに入る予定は毛頭無かった。リオンが成人の儀を無事に果たし勇滅の森を抜け、城下辺りに到達でもしたらそこの衛兵や街の人族に引き渡して帝都から一度遠ざかる予定でいたのだ。

しかし今回の護衛をしていて一連の動きに作為的な物を感じたのも確かだった龍真は自分の考えていた予定を変更して城の直前まで護衛した方が良いのではないかと思い始めていた。


「そうですね、無事に送り届けることが出来たならそのまま旅を続ける予定です」


「それでは、城下や城へは立ち寄られないんですか?」


一度思い悩んだ結果龍真が口にした返答は最所に決めた予定通りに行動する方だった。一方リオンの方もなんとなく予想は出来ていたようで、大して驚くこともなく念の為確認という感じで問い掛ける。

龍真は声に出さず頷いて返答した。


「困りました、リオン自身何のお礼も出来ていないし…恐らく父様…皇帝も窮地の護衛をされたリョウマ様には恩賞を出す筈ですし。…もしかして、立ち寄れない理由はミアティスさんと関係していますか?」


「っ!何故、そうだと…?」


リオンとしてはどうにかして龍真一行に帝都に滞在して欲しそうだった。最後に何の脈絡もなく尋ねた"ミアティスが原因"という言葉に過敏に反応した龍真は、平静を装い内心警戒心を強めリオンにその理由を追及する。


「すみません、リョウマ様…本来旅をされてる方にはそれぞれ事情があるのだからそこに出会ったばかりのリオンが軽々しく踏み込むのは失礼に当たるのは承知しているのですが、実はリオン…"ステータスを司る精霊"を姿が消えていても視認出来る能力があるんです。ミアティスさんの精霊は何処にも居なかったので…」


「そうだったんですね…それならそう思っても当然だと思います。分かっているなら隠していても仕方無いですね、皇女様の仰る通りミアティスは翼人族の従者ではありません。全てお話する事は出来ませんが特殊な環境・特殊な状況で産まれ育ったので彼女の身分を証明する物が無いんです…自分もですけど」


リオンが暴露した事実はミアティスを指摘した理由としては充分納得出来る内容だった。そこまで言われてはしらを切ることも出来ないと腹を括った龍真はミアティスだけではなく自分にも身分を明らかにする物が無いというところまで話す。


「な、ですが貴方の職業は…」


「あらら、皇女様がそんな能力あったら仕方無いよねぇ…メリア、それ以上突っ込んじゃ駄目だよ?」


完全に誤算だったリオンの能力でどうしようもないと苦笑いを浮かべたもちこだったが隣のメリアが龍真の隠蔽ステータスを覗き見た時の職業のことを口に出そうとすると真剣な顔に変わり漏洩は駄目だと制止する。

龍真とリオンがお互い開示し合ってるのなら兎も角、そうでない場合は情報漏洩は原則禁止のようだ。


「リョウマ様もですか?でしたら、お礼の一つとしてリリーファルナで身分を保証し証書の口添えをするというのは如何でしょう!リオンの護衛としてなら門を通る時も簡単に通過出来ますし」


リオンは龍真の身分がないことを聴いても無駄に追求することはなかった。それどころか今後の不便さを憂い、皇族のリオン自らが協力して龍真達の身分を確約すると提案してきたのだ。大したお人好しな皇女様である。


(…どうしたものかな。皇女様の申し出はありがたいことに変わりないんだが…ミアティスやシオンに聴いても結局任されそうだしな。問題は俺の気持ち次第…か)


「あの、どうでしょうか?」


「分かりました、詳細も話していないのにそこまで考えて下さる皇女様の配慮に甘えることにします…宜しくお願いします」


自分のスレイモンスター達に相談を持ち掛けたところでこの手の話の最終決断を下すのは自分だということを重々理解していた龍真は簡潔に自分の心と葛藤する。リオンの出している条件は龍真が皇族達への警戒を意識し過ぎなければ得でしかないのだ。

不安そうに見詰めるリオンの声で我に返った龍真は帝都への警戒を残しつつ首を縦に振りリオンの厚意に甘えることに決めたのだった。


「良かった…それともう1つお訊ねしたいんですが、リオンと話す時だけ丁寧な言葉を使うのは話し難くないですか?」


「いえ、決してそのようなことは…。第一一国の皇女様なのですから敬意を払うのは当然かと」


結果的に同行して帝都に入ることを決めた龍真に安堵の表情を見せるリオンだったが大した間も開けずに次の質問を投げ掛けてくる。色々なことを知りたくて仕方無いといった感じだ。

今度の内容はリオンにだけ敬語なのは気が引けるといった内容だった…龍真から見れば皇女相手の会話だし別に苦労はしてなかったがリオンとしてはそうでもないらしい。


「そんなことありません!リオンはリョウマ様ともっと仲良くなりたいんです…リオンはリリーファルナの第一皇女ですから、友達と言っても皇女であることを意識されてて…それが凄く悲しかったんです。リョウマ様は皇女としてではなくリオン個人として意見して下さったり此処まで付き合って下さいました、だからリョウマ様の普段の話し方でお願いしますっ」


「…分かりました…いや、分かった。皇女様にそこまで言わせて恥をかかせる訳にもいかないが公私の区別は付けるぞ?それでも良いならこういう場では普通に話す」


「ありがとうございます!あ、それと…良かったら呼び方も……」


リオンの話を聴いた龍真は皇女と一般人のありがちな展開に多少なりとも可哀想だと思ってしまった。本人は対等の関係を望んでいたとしても周りから見ればどうしてもリオンの事は皇女として見てしまうだろう。

そういう間柄で終わらせたくないと本心から願っていると【識別眼】で判別してなければ龍真も恐らく裏があると読んで断っているところだ。


「呼び方…?」


「はい、その"皇女様"っていうのはリオンの肩書きです。リオンの名前はリオンです、リョウマ様」


「う…成程。じゃあ…リオン…様、で良いのか?」


「"リオン"です、リョウマ様っ」


敬語を外して話すことに同意した龍真を見て心底嬉しそうな表情を見せたリオンだが今度は呼び方の修正を希望してきた。

親しい間柄になろうというのに名前で呼び合うのではなく皇女という役職で呼ばれるのはおかしいというリオンの方が一枚上手だったが流石に馴れ馴れしく呼ぶのもどうかと思った龍真は妥協の意味を込めて"リオン様"と修正したがそれでもリオンは納得いかないらしい。

強調するリオンと龍真が少しの間見詰め合う。


「…一度妥協してるしな、分かったよ…リオン。だけどリオンだって俺を"様"付けして呼んでるじゃないか…それは良いのか?」


「それは……っ、だってリョウマ様はリオンの恩人ですから」


「そうか…でも俺が丁寧な口調を元の喋り方に戻した上にリオンの我が儘で"リオン"と呼ぶようにしたんだ。対等を求めるなら割に合わなくないか?」


自分が言われた要望を受け入れたお返しとばかりにリオンを問い詰める龍真。

自分より遥か上の立場でこんな状況でもなければ会話を交えることもなかったリオンが、こんなに近くで自分の言葉に反応している状態に少しばかり悪戯したくなる衝動…所謂加虐心を触発されてしまった龍真だった。


「そんな…でも、リオンはリョウマ様と呼びたいですしそれにリリーファルナの皇族では男性を立てるのが美徳とされていて…うぅ」


「皇族は関係なく…って言ったのはリオンだろう?これじゃあ俺ばかり危険性を負うことにならないか?」


リオンが弁解しようとすればする程問い詰める龍真。今のリオンは一国を左右する国の上の存在ではなく1人の年頃の少女に見えていた。


「………っ」


無言で龍真を見詰めるリオン。


「……………」


此処で折れてはいざ友好関係が露呈した時皇女より偉そうになってしまうのでそれは何としても避けておきたい龍真も無言で見詰め返す。


「……───えっと、龍真…君…で良い、かな…?」


「リオンが畏まらない呼び方なら、好きに呼んでくれれば良い」


これ以上頼んでも龍真が折れないと察したリオンは様々な感情で赤面した顔で"龍真君"と呼び掛け、敬語も外したが此処が限界のようだ。

龍真としては呼び捨てで呼び合って対等かとも考えたが弄られ慣れてないリオンをこれ以上追い詰めるべきじゃないと判断し潮時とした。


「ん…なんだか龍真さ…君とこうして話すの、リオンちょっと恥ずかしいかも…。慣れない内は話し方が戻るかも知れないけど…許してね?」


恥ずかしさの方が勝っているのか口許に手を添えて普通の会話をしようと努力するリオン。

早速様付けで言い掛けていたがそれも微笑ましく感じる龍真は口許を緩め頷く。精霊達はというと、もちこは和んだ表情で2人を眺め、メリアの方は信じられないという驚きの表情を晒している。


「…これはっ!」


会話の区切りを待ってましたと言わんばかりのタイミングで乳白色の霧が吹き出してきた。

龍真は咄嗟にリオンの手を引き抱き寄せ、分散されないように防ぐがお互いを視認出来ない程の濃霧に2人の姿が包み込まれた。



読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当にありがとうございます。



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