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神殿の試練 7


「出来るか出来ないかを答えて貰えれば良いのです、それか回復出来るアイテムをお持ちなら譲って貰えませんか…?」


「メリアは俺のステータスを覗き見たんじゃないのか…?」


「……私が思わず覗いてしまったのは貴方がどのような人族なのかという部分だけです。所有しているスキルまでは知り得てません」


メリアは無自覚ながら龍真の今後を左右する質問を続ける。

何故今後を左右する質問なのか……それはこの世界において回復スキルや回復魔法が一般的な力では無いからだ。

その貴重な力を持っているのと持っていないのではどうしても待遇に雲泥の差が出来てしまう。

そして龍真も聖獣であるシオンもフェルスアピナの特異個体のミアティスも回復スキルを持っていて、龍真は【状態無効(オールクリア)】がこれに該当する。

【秘匿隠蔽】を使ったステータスにも【回復術】という項目があった為覗き見た筈のメリアからそんな質問が出るとは予想外で聞き返した龍真だったが、続くメリアの返答で選択の余地が残されていることを理解した。


「済まないが回復出来るような力は持ち合わせていないんだ、回復出来るアイテムの方なら持っているからそっちなら出そう」


「此方こそ大事な回復アイテムをすみません、リオンや護衛団も用意してきていたんですが…」


龍真が選んた返答は回復スキルを持っていないという方だった。

回復スキルが貴重なのに比べて回復アイテムの方は一般的な人族が気軽に購入出来る程普及されている。メリアが"大事な"と言ったのは龍真が旅をしていると話していたからに他ならない。


「…言わなくても分かってる。気にするな」


言葉を詰まらせたメリアを見て龍真は言葉を言い切る前に制止した。魔物に襲われ何人も犠牲者を出した挙げ句追い討ちで盗賊団に襲われてリオンを残して全滅したのだ、護衛される側の立場であるリオンが充分なアイテムを準備してなかったとしたもやむを得ない状況だった。ある程度回収した物も今は神殿の入口で待機してるシオンに持たせている。


「ねぇねぇ、龍真さん。前にミアちゃんにしたみたいな方法は使えないの?」


龍真が偽装の為に用意していたアイテムバッグの中から回復アイテムを取り出そうとしていた矢先、メリアに続いてもちこが姿を現し龍真に助言を加える。


「いや、流石にあの方法は…な」


その方法とはこの世界には浸透し普及されてない人工呼吸のことだった。龍真達が"勇滅の森"の深部で生活していた時、今後人族と関わることになれば一人で入浴することも必然的に起こると思った龍真は入浴の知識が乏しかったミアティスを単独で入浴させたのだ。

恐る恐る湯船に入ったミアティスは不意に足を滑らせてしまい、湯船で溺れてしまった。

冷静に考えれば立って足が着く深さの湯船だったのだが軽いパニック状態に陥り大量の湯を飲んで意識を失ったのだが、その時龍真が行ったのが人工呼吸なのだ。


本音を言えば人命が関わってるのだし出来ないことはない…しかし現在その状態に瀕しているのは出会ったばかりの異性であり、それも第一皇女という立場だ。

ミアティスの時は既にフェルスアピナの発情期を迎えており口付け以上のことも済ませていた為何ら抵抗無く人工呼吸を行えたが、リオンの場合は状況が明らかに違う。龍真が躊躇するのも当然だった。


「先輩…その方法とはなんですか?」


リオンの事を案じるメリアは回復アイテム以外にもリオンの現状を救う方法もあると聞いて堪らずもちこに食い付く。パートナーが命を全うすれば違うパートナーの元へ移るのがステータスを司る精霊達だがメリアは基本的にパートナー思いの良い精霊なのだろうと龍真の眼には映った。


「水に落ちて意識を失った人に効果的な方法なんだって。私も一回見ただけだからどういう原理か知らないけど、された方は直ぐに回復してたよ?」


「ということは、龍真さんは医術を嗜んでいる…ということですか?でしたらその方法でリオンを救って下さい!」


「…やれやれ、別に医術っていう程大した物じゃないけどな。やる前に1つ言っておくが…今からする事は全て治療の一環だ。そこは勘違いするなよ?」


龍真の言葉通り医学を学んで知識を得た訳ではない。知っている応急処置が出来るだけなのだがメリアの剣幕に根負けするような形で龍真は渋々人工呼吸を了承する。

行う行為の全て治療の為だと念を押すことも忘れずに伝えるとリオンの直ぐ傍に近付いた龍真は呼吸状態を確認してリオンの顔を少し上に向けた後、意を決して唇を重ね息を吹き込んだ。


「っな!」


「メリア、大丈夫だよ。あれは治療の流れの1つだって龍真さん言ってたでしょう?」


突然行われた口付けにメリアが過剰な反応を示したことからやはり人工呼吸ではなく回復アイテムを渡すべきだったかと若干後悔した龍真だったが今更遅い。

今後のことは考えないようにしようと気持ちを切り替えてリオンに充分息を吹き込むと唇を離し、今度は両手を重ねて胸に添える。

ミアティス以上に豊かな胸の感触を掌に感じ一瞬躊躇った龍真だったが直ぐに作業を始めた。


「女性の胸になんてことを……先輩、これは本当に治療なんですか!?」


「今から回復アイテムを使っても良いが…もうすぐ終わるぞ?」


メリアが龍真の行動に疑念を持って止めに入ろうとした時リオンが咳き込んで息を吹き返した。


「リョウマ様、ここは……?」


「落とし穴の着地地点に充分な水がありました。そこに落ちた後皇女様は意識を失われていたのです……意識を取り戻したので一安心ですが油断は出来ませんね。何処か痛むところとかはありますか?」


「リオンは大丈夫です…っあ、リオンよりリョウマ様こそ落ちてる時のお怪我は…??」


うっすらと瞳を開けて一番最初に視界に映った龍真を見たリオンは完全に意識を取り戻し龍真に何処に居るのか訊ねると龍真は起こったことをありのままリオンに伝える。

龍真の眼を通してリオンを見た限り何処も異常はなさそうだったが万が一のこともあるのでリオンの容態を確認するも、穴から落ちた時のことを思い出したのか急に身体を起こし龍真の状態を調べられた。

龍真が"平気ですよ"と笑顔を見せるとリオンは胸を撫で下ろして着座した。裏表なく他人を心配出来る心優しい皇女だった。


「それにしても…リオン、またリョウマ様に命を助けて戴きましたね」


「皇女様をお守りすることが護衛の務めかと思います。自分は皇女様の護衛ですから」


「ふふ、そうですね。リオンがリョウマ様にそうお願いしたのでしたっ…でも、ありがとうございます。これからどうしましょうか…?」


「皇女様はどうしたいと思っていますか?」


頼まれたとは言え一度リオンの護衛を引き受けたのだから命を守って救うのは当然と言い張る龍真にそれでも感謝を伝えるリオン。

周りを見渡して落ちた穴の遥か上空に見える神殿の広場の光を一瞥するとリオンは龍真に今後の行動を相談しようとしたが質問された龍真の方が逆に聴き返した。


「…リョウマ様はずっとこの神殿での試練でリオンに…リリーファルナの血族に何を求めているのか分かっているように感じました。ですから、今回の意図も何かしら掴んでいるのでは…と思ったんです」


「いえ、簡単な推察ですよ。此処は皇族が成人と認められる為の神殿じゃないですか…ということは皇女様の行動や言動が試される試練だと容易に考えられます。後は試練を与える側の立場になって考えてみれば…といった感じですね」


「相手の立場に…リョウマ様は大人の考えをお持ちなのですね。リオン、自分の事で精一杯でお恥ずかしい……」


「皇女様、そんなことはありません。相手の立場に立って考えてらっしゃるじゃないですか…っと、済みません、肝心なことを忘れてましたね…これで良し」


龍真の眼のスキルについて言及された訳ではないがリオンは龍真のことを良く見ていたらしく、何かしらの能力があって試練の本質を理解していてそれに合わせて行動しているのではないかと予想し指示を仰いだのだと告げた。

良く見ていると感心した龍真だったが必要以上の情報を与えてしまうと実際の皇帝に知られるネタが増えてしまうと思い、違和感のない推察だけだと説明して能力の漏洩を避ける。

リオンはその言葉を噛み締めるように繰り返し龍真への率直な尊敬と自分の稚拙さを呟いて俯いてしまった。


反省するのは悪いことではないが試練の途中でネガティブになるのは悪影響だし、自己評価が低いように見えるリオンにはフォローが必要だと直感した龍真は自分で気付いていないであろう優しさを指摘しようとしたが大事なことを忘れていたのに気付いてしまった。

水に落ちた2人は当然着ている衣服もびしょ濡れである…つまりリオンの着ている衣服は濡れて重みも増し、身体のラインが明白に分かる程張り付いて密着した上に薄く透けて肌の部分が見えていたりするのだ。


流石にその格好のままでは目のやり場に困るしリオンが可哀想だと思った龍真は自分とリオンの衣服に着いた水を対照に【万物集束】を使い全ての水分を抜いて乾燥させ落ちる前の状態に戻した。

洗浄魔法の効果と違和感ないようにする為、集束させた水はそのまま【万物離散】で散らしていくのも忘れない。


「ありがとうございますっ、リョウマ様は色々な魔法をお使いになるのですねっ!」


「旅をするのには欠かせない種の魔法ですから…色々と必死に覚えました」


服が張り付いて濡れているのは流石に気持ち悪かったのだろう、不快感は表に出していなかったが龍真が服を乾かしたことで明らかに声が弾んでいた。

自分が旅する目的があったから様々なものを覚えたと伝えておけば他の事をしても大概はそれで通るだろうと先読みして苦労を噛み締めるように話すとリオンは感心した表情を見せる。

皇女のリオンが裏表なく接するのに対してあれこれ手を回す龍真は少し胸が痛んだが、平和を求めている龍真としてはやむを得ないことなのだと割り切った。折れてしまっては根回ししたことすら意味がないのだから。


「リオン、今どうしたいのか決めました。少しだけ…リョウマ様とお話する時間が欲しいです」


成人の儀に挑んでいるリリーファルナの皇女様はこの辺で小休止することを選択したようだ。




見てくれる方を増やすには定期的な更新は不可欠…だと個人的には思っているので最低でも週一更新は定着したいと思っているのですが、私生活との両立を慣らすのは中々思うようにいかないものですね。

更新してない間も見て下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。


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