神殿の試練 6
国王の機嫌を損ねた結果になってしまい、周囲を囲まれた上武器を突き付けられた龍真達だがそれに恐怖する者のは誰一人いなかった。
(取り敢えず、国王とどう接するか皇女様に委ねてみよう…このまま攻撃するなら防げば良い話だしな)
武器を突き付けて取り囲んではいるが攻撃する気配は見受けられない。脅迫のつもりで行ったのだろうと判断した龍真はこの状況での対応もリオンに委ねることにした。
「国王様、私からの要望が多かったのは大変失礼なことでした、申し訳ありません。ですが私は私を生贄にするのは何なのか…貴国ザラグセフトと手を取り合い協力して解決出来れば、と考えてます」
「この状況…この手を振り下ろせばそなた達は物言わぬ屍となるのだぞ?怖くはないのか?」
一度深呼吸したリオンは気分を落ち着けて口を開くと先程と同じ程度の抑揚でザラグセフト国王に謝罪し、生贄を捧げずとも争わずとも問題解決に協力したいと申し出る。
国王は眉間に皺を寄せ手を掲げたまま更にリオンに恐怖を与えようと煽ってくるが、リオンは首を横に振る。
「国王様…私達は和平を求めてやって来ました。此処で刃を向けられても私の意思は変わりません。非力な私では出来ることが限られてますが、それでも私は協力を望みます!」
切迫した状況に置かれているからか龍真の後押しが引き金となったか定かではないが、自身の親の前の時とは異なりリオンは国王に食い下がることが出来ていた。
「………死に直面する状況でも己の意向を貫くか、一見愚策にも見えるが潔いな」
リオンの和平への頑なさを受けた国王は束の間黙り込むと口端を吊り上げ緩やかに掲げた手を元の位置に戻す。
その動作が攻撃の合図かと思ったリオンが一瞬身構えたが取り囲んでいた兵達が武器を下ろし当初見た構えに戻ると害は無くなったのだと理解する。
「ならばその強い意思で何処まで出来るか、見定めて貰おう!」
「っ!」
国王がリオンの意思を汲み取り両手を拡げるとこれまで殺伐としていた戦場やその場の人々が一気に霧散していき、元の神殿の広間に姿を変えた。
「あ、え?此処って儀式の神殿…ですよね?」
「もう少し掛かるかと思ってたが、予定より早めに戻れたみたいだな…」
「良かったですね、マスター」
突然場所が変わり混乱するリオンを眺めつつ、龍真は予想より早い試練の通過に安堵する。あのまま試練が続いた場合、最悪ザラグセフトが生贄を欲する根本を解決するまで続くのではないかと考えていたからだ。
(ゲームイベントとかなら中途半端だよな。選択次第でザラグセフトと戦うか問題の根本を叩きに国に赴くかしないと内容が薄い…かも知れない。いや、試練って考えればこれで区切り良いのか?)
『リリーファルナの血を引く者とその護衛達よ、第2の試練も合格だ』
龍真が職業病で現状の分析を行っていると再び神殿を管理する存在の声が響き試練の通過を言い渡される。
「リオン、あれで良かったのでしょうか……?」
「皇女様は今合格されたのだと告げられています、自信を持って次に進みましょう」
『もう切り替えとは逞しいことだな……ならば此方も直ぐに次の試練を用意しよう』
何故試練を通過出来たのか分からず実感がなく、所在なさげなリオンを見て龍真がフォローに入るとリオンは表情を和らげた。
気持ちの切り替えを聞いていた管理する存在は早々と次の試練への移行を言い渡す。
するとミアティスの背後に空間が現れ全身を包み込んだ。
「っ、マスター!」
「…大丈夫だ、危険は無い!抗わなくて良い」
「はい、マスターっ」
包み込まれた瞬間困惑したミアティスだったが龍真は瞬時に【識別眼】で空間を判別する。
危険性の無い外部への転送用の空間技術だと把握した龍真は必要最低限の情報をミアティスに伝えた。
するとミアティスは落ち着いた表情に変わり龍真の指示通り空間に委ね広間から姿を消す。
「リョウマ様っ、どうして落ち着いているんですか!?あれではミアティスさんが!」
「皇女様…恐らくミアティスをどうにかした事も次の試練に関係しているのだと思います。此処が皇女様の試練を行う場所である限り無事でしょう」
「そ、そうだと良いのですが…」
神殿の外に出されたミアティスが待機しているシオンと合流するのを捕捉していると何も理解出来ていなかったリオンが龍真の両手を掴みミアティスを案じて声を荒げるが、龍真は対応を変えず"空間の性質を理解した"という事実を語らず推察で判断したというように隠蔽して見せた。
いくら龍真の事を信じているリオンとは言え仲間が危険に晒されてるのではないかと考えれば当然納得出来ないものではなく半信半疑だったが。
『そこの護衛の男…瞬時に見抜くとは流石と言うしかないな。では第3の試練だ、リリーファルナの血を引く者よ…見事打開出来るかな?』
神殿を管理する存在は龍真がミアティスを外に排出したことまで見抜かれるのは予想外だったようで率直な称賛を口から溢すが直ぐに切り替えて試練の継続を告げる。
「っ、皇女様…失礼します!」
管理する存在の台詞が終わらない内に龍真とリオンが立っている一帯、ジャンプしても届かない程度の広さで円が作られ一度輝くと龍真達を残しその円の中の物質が全て消滅した。つまり巨大な落とし穴である。
ジャンプして避難するのは充分可能な円だったが行動に制限が多い龍真は目に見えるようなスキルを使うことなく両手を掴んでいたリオンを抱き締めたのだ。
「え、リョウマ様なにを…きゃあっ!」
腕の中に包まれたリオンは頬を染めてどうしたのか問い掛けるが確かに地に着いていた脚が宙に浮いた状態になると流石に置かれた状況を理解したようで悲鳴を挙げる。そして落下。
(…随分深い穴だな。でも下は水か…着地方法は幾らでもあるだろうが余り苦労せずに着地したら不自然か?少し痛いが仕方無いか)
試練として開いた大穴の深さは相当な物で下に視線を向けても着地点が見えない。着地点には深く水が溜まっておりそのまま落ちても大した怪我にはならないだろうと識別した龍真はリオンの悲鳴が穴全体に響く中、この後どうやって着地しようか考えていた。
・風の魔力を集めて纏い、飛ぶ。
・着地の際衝撃を無くして無傷で済ます。
・落下最中に身体を当てて速度を殺し背中を盾に着地して接触の時に防御を固める。
──……最初の選択肢では試練そのものが台無しになるだろうし一般的な人族と掛け離れた行動だから却下。次の選択肢も同様で疑いが高まる為避けておいた方が良いのは確かだった。
「皇女様、少し衝撃が来るかも知れませんが2人共無事着地出来るようにします。必ずお守りしますので」
「~っ!リョウマ様、信じますっ!うっ、えっ!?これでは、リョウマ様の身体が!」
最後に考えた着地方法が不自然じゃなくて無難なものだと選択した龍真は早速リオンに一言伝えると身体を傾け落下位置を逸らし壁に身体を接触させジグザグの落下に切り替えた。
龍真の肩や足が壁に接触する度リオンにも衝撃が来るので途切れ途切れ声を漏らしていたが龍真のしていることに気付くと頭を上げて見上げようとしていたが龍真は掌で後頭部を抑え危険が及ばないように保護する。
皇女に怪我でも負わせたら重罪犯として国に追われるのではないかと余計な考えが浮かぶ龍真は過保護だった。
「頭を出すと…っ、危険です。自分を信じると言ったじゃないですか、お任せ下さい…っ!」
接触面積と回数を増やし降下していく龍真だったが実際のところ大したダメージは受けておらず、衣服が傷み汚れが増えているだけだった。
スキル【瞬眼成長】のお陰でこうした状況の最中でも成長しているのだ、元々強靭な身体へ変貌していた上に衝撃への耐久力が増えて龍真には得でしかない。寧ろリオンの方が強い衝撃を受けているのではないかと思った龍真はこの方法は失敗だったかと脳裏を過り少しだけリオンに罪悪感が生まれた。
何度も衝撃を受けて降下していくと着地場所の水溜まりが見えてきた。薄明かりが灯っているのはこれも試練の一環で神殿の構造だからだと納得した龍真は肉眼で確認出来る高さならこれ以上リオンに衝撃を与える必要はないだろうと思い足蹴りで位置を調整し垂直に姿勢を整えて水の中へ飛び込む。
数メートルという高さの水飛沫が立ち上がり龍真とリオンは着水する。水中で落下速度が完全に殺されると今度は浮き上がる為に水の底の岩を蹴り上げて足を動かし上に泳いで浮上した。
衣服が水を吸えば当然重量が加算されてしまいゆっくり泳いで上がろうとすれば衣服や武器、装飾品が身体に絡まり溺れてしまうのでリオンを抱えている状態なら尚更迅速な対応が必要なのだ。
「っは!皇女様、ご無事ですか?」
「………」
着水してから10秒程で水面に出ると目の前に見える神殿の床と同じ材質の整えられた床に泳いで地面に上がり、抱き込んでいたリオンに安否を問い掛けるがリオンからの反応は何もない。
どうやらどの場面かで意識を失ってしまっているようだった。
「何をしてるんですか、早くリオンを横にして下さいっ!」
リオンの顔を覗き込んでいた龍真に鬼の剣幕と呼んでも遜色ない顔で姿を見せたリオンを担当するステータスの精霊・メリアがリオンへの応急手当を促す。
言われるまでも無く寝かせようと思っていた龍真だったが何も言わずリオンを仰向けに寝かせた。
「龍真さん、貴方は回復の魔法を使えますか?」
「それは…」
取り敢えずリオンを横にするとその周囲をメリアが飛び回る。医師が外傷を診察するような眼でリオンを見ていたメリアが振り返ると龍真に回復スキルの有無を確認してきたが龍真はそれに即答することは出来ず言葉を詰まらせた。
宣伝というのは何気に難しいものですね。
もっと沢山の人に読んで戴けたら嬉しいですし評価も戴きたかったりしますが…がっついても良いんでしょうかね。
読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。




