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神殿の試練 3


「…貴方は、先程の門でリオン達を招き入れて下さった方ですか?」


『如何にも…この神殿を管理している存在と認識すれば良い。それよりも…そこの男、恐らくリリーファルナの護衛なのだろうが、何者だ?我が見識でも限界直前の戦力を測り切れなかったばかりかリリーファルナの血を引く者の力まで引き上げるとは…』


響いた声が誰の物か問い掛けたリオンに対して肯定を示す声の主は神殿の責任者的な存在だそうだ。

自分の正体を簡単な説明で済ませた声の主は明らかな動揺を表して龍真の事を探っている。


(管理者か…そもそも人族なんだろうか。だとしたら"代々続く…"とかになるんだろうけどな。他の可能性として挙げるなら人工知能とか魔導アイテムとか、後は人族以外の高位な存在…なんかだろうな)


神殿からの声という事で最終的に用があるのはリオンの方だろうと思った龍真は自分の事を詮索されてるにも関わらず管理している存在の正体を考察していた。


『そなた、聞こえてない訳ではあるまい?それとも、我が問いには答えられんか?』


「ん…?あぁ、失礼しました。別に答えられない訳では有りませんが面倒事に発展しそうなので返答は控えておきます」


仮にも皇族の重要な神殿を任されてる存在ともあれば龍真より立場が上の存在なのは明白なのだが、龍真は構わず己の秘匿を貫き通した。


『そうか…今でも試練の難度は高い方だが、そういう事ならばそなたが同行する限り加減は出来ぬぞ?』


「……自分は皇女様の護衛ですのでその判断は皇女様に一任致します」


「リオンは…リオンは試練が難しくなってもリョウマ様に着いて来て欲しいです。駄目…でしょうか?」


龍真の正体を問い詰めた神殿を管理する存在はこれといって突き詰める事はなく、あっさりと引き下がったが代わりに試練の難度を限界迄上げなければならないと困ったような声を出して龍真に語り掛ける。

その言葉を受けて龍真は考える事も無くリオンに判断を丸投げした。

元々助けた成り行きで護衛してるのだ、リオンが不要だと言えば直ぐに出て行けば良いだけの話である。

もっとも、龍真が出るのであればミアティスも護衛する意味が無くなりリオンが単独で試練に臨む形になってしまうのだが。


案の定リオンが下した判断は同行の継続ということだったので"分かりました、皇女様の意向 でしたらこのままお供します"と応え頷く龍真だった。


『ならばリリーファルナの血を受け継ぐ者とその仲間よ、引き続き第2の試練へと移らせて貰う…気を引き締めて掛かるが良い』



……神殿を管理する存在が第2の試練への移行を告げた瞬間、広間の空間が裂け龍真達を呑み込んだ。


(…識別した限り害は無さそうだ。試練なんだから当然かも知れないけどな)


「皇女様とミアティスは後ろへ…何が起こるか分かりませんので」


呑み込む直前龍真は【識別眼】で害悪の有無を調べたが試練という性質上、有害な物ではなかった。

とは言え難度が上がった危険性を考えてリオンとミアティスを自分の背後に寄せると空間の歪みにも対処出来るようにエアル・ブレイカーを右手に携える。

ミアティスをリオンの横に配置させる事で万が一リオンが背後から襲って来ても防ぐ事が出来るという徹底振りを発揮していた。


程無くして別な空間が龍真達の視界に拡がって来ると、なんとそこは…人族同士の争う戦場だった。


(これは…凄いな)


中世ヨーロッパのように近接武器や現代ならコスプレでしか纏わないような鎧やローブ、弓矢や砲弾、果ては魔法に至るまで入り交じり混戦していたのだ。


(この世界のも地球のも合わせて始めて見る人同士の戦いだが…これは壮観だな。この神殿だけの技術なのか、それとも他にも存在するのか…創作意欲が掻き立てられる)


【識別眼】で目の前で繰り広げられる戦場の全てが造り出された偽物だと認識出来ていた為楽観的な目線で現状を眺めていた。

ミアティスは落ち着いて眺めている龍真に習い取り乱す事もせず傍に付いている。まるで主人に付き従う忠犬のように。


「そんな……父様、母様…皆さん、どうして…っ?」


「…皇女様の身内、なのですか?」


「…は、はい…。あちらの人達は、リオンが住むリリーファルナの臣民なんです。あんな小さな子まで…っ」


一方リオンの方は龍真のように悠長に眺められる状態ではなかった。

自分が見知った人々が老若男女問わず血相を変えて各々武器を手に戦っているのだ、無理もない。

転移する前の龍真がリオンと同じ状況に立たされたとしたら、恐らくリオン以上に恐怖し動揺していた事だろう。


(…この試練の意図は、"皇族として突如起こった不祥事にどう対処して解決するか"…か。俺がいる事で難易度が上がってなければこんな面倒事を解決する必要はなくてもっと小さい揉め事で済んだんじゃないか…?)


国同士の戦争、それもリオンに所縁の有る人物達を出してリオンに何を求めているか把握した龍真は自分が居る事で試練の難度が上がったことに今更ながら後悔を覚える。

リオン本人が望んだことなのでそれを無下にするつもりはなかったが、無理矢理にでも連れて帰った方が良かったのではないかと脳裏を掠めるのも仕方無いことだ。


「マスター、リオン皇女様の国を味方として相手側を倒す…という単純な解決方法ではなさそうですね」


「それも1つの解決策では有るんだけどな。問題は皇女様がどうしたいか、だろ…皇女様」


「は、はい…っ?」


火薬の匂いや人の叫び声、戦独特の風の流れなどを肌身で感じ此処が現実だと強調するような状況でミアティスは最初の試練同様、リオンへの試練であり戦う以外の回答が答えではないかと予測を立てる。

龍真以外の人族に大して興味を持たず、仮に襲われても対処する術を身に付けたミアティスだからこそ魔物目線で客観的に捉えることが出来た。

龍真は何を答えとするのかはリオンの意思が最優先されると理解した上で涙を溜めて現状を嘆くリオンを呼び寄せる。


「大変不躾では有りますが幾つか質問させて下さい。単純に答えて貰えれば結構です…皇女様は今のこの状況をどうしたいですか?」


「この争いを止めて、皆さんで仲良くして欲しいです!でも……」


「答えだけで構いません、続けますね。この状況はどちらが仕掛けた戦いで起こったと考えますか?」


龍真の投げ掛けた質問に誠実に答えるリオンだったが表情は優れないままだ。ネガティブな発言を続けようとしたリオンだったが龍真はそれを許さず質問を続ける。


「っ!リオンはどちらとも判断出来ません。双方の事をもっと良く知って、それでもし相手の方々が攻め入って来たのなら帝都の臣民を全力で守り和平に繋がる道を考えますっ。逆に帝都が攻め込んだと言うのなら、リオンは全力で和平に持って行きたいです……理想に過ぎないって言われますけど、それでも…」


「良いじゃないですか、その理想を貫いても」


「えっ?」


自分の考えが如何に理想の話だと切り捨てられて育ったリオンは龍真に自分の考えを話してもそんなのは理想だと一蹴されるに違いないと思っていた。しかしそれをあっさり肯定され拍子抜けした声を上げてしまった。


「誰かの例に従う事も悪い事じゃない…国を統べるのならしきたりやしがらみもあるでしょう。助言を得て判断する事だって多いと思います。ですが、一番大事なのは皇女様がどうしたいか…だと思います」


「リョウマ様…」


「和平を最優先に考える国の長…素晴らしいじゃないですか。少なくとも闘いばかり行われる血気盛んな国より余程良い考えです。自分は皇女様の理想に賛成なのでやりたいように動いて下さい…ミアティスも、構わないよな?」


「はい、マスターが決めた事ですから。どこまでもお供しますっ」


「リョウマ様…ミアティスさん…2人とも、ありがとうございます!」


自然な肯定に驚くリオンを余所に龍真は賛成の意思を示す。龍真から話を振られたミアティスは龍真優先思考なので議論になることすら無かった。


「皇女様、お礼は試練を終えて無事帝都に帰ってからにしましょう。個人的な意見を申し上げるなら皇女様の父…現皇帝陛下の方にお会いするのが得策かと」


「あ、リオンもそう思っていました!」


「では急ぎましょう…時間が勿体無いですからね」


龍真との問答で落ち着きを取り戻し自分の意思を固めたリオンには一皮向けて成長した感があった。これからどうするか動く方針を決めるに当たり、リオンは2人の意見が合致していた事に内心喜びつつ父であるリリーファルナの皇帝を探し始める。

龍真とミアティスはリオンを挟むように少し後ろに付き、移動中も護衛の役割を果たしていた。


(まさか偽造とはいえ、こんなに早く皇族と接点を持つことになるなんてな…実際のだったら断ってたかも知れない)


龍真はリオンの後ろを走りながらこんな事を考えていた。

恐らくリオンの知り合いは性格も全てトレースされているというのが龍真の確信だった。そうなると偽物とはいえ国の長と対面するといってもなんら変わりはないとすれば気乗りするものではなかったのだ。


戦う人々を素通りして掛けるリオンは時折苦しげな顔を見せていたがその一つ一つに手を差し伸べるには自分だけでは力不足だと実感してるからだろう、脇目も触れずに見知った街並みを掛けて行く。

入り組んだ通りを抜けると大きな広場にたどり着いた。


「リオン、よくぞ帰って来てくれた…彼等は誰なのだ?」



いつも読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、本当に有難うございます。



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