神殿の試練 2
「最後くらい俺も参戦しようか……皇女様、自分が隙を作ります。ですから皇女様は決めの一撃をお願いします…」
リラ・ダルガスを交えた最後のグループと相対したリオンとミアティスは向かい合ったまま攻撃に転じる機会を伺っていた。ミアティスに関してはリオンに合わせていただけだったが。
「リョウマ様…危険な事をお願いしても良いのですか??」
「構いません、先ず周りの魔物を倒して集中出来るようにしましょう。皇女様が集中して魔法を使って下さればブルーガなどは容易に倒せるでしょうから…お願いします」
心配そうに確認するリオンに向けて大丈夫だと応えると龍真は戦闘の流れを提案し討伐を頼み込む。杖を構えて頷くリオンから魔物達に視線を戻すが、会話中魔物達が攻撃を仕掛けて来ることはなく様子を見ているだけだった。
神殿の魔物は此方の都合に合わせたご都合主義な存在であるのが判明した。
行きます…とリオンに告げた龍真は最後の魔物の群れへ向かって歩き出し、それを合図にと示し合わせたかのようにブルーガの群れとギリアが動き出す。リラ・ダルガスはあくまでもボス的役割らしい。
《「その傲慢さ…命取りになるぞ?」》
龍真は念の為神殿の魔物にも意思疎通出来るか試してみたがやはり反応は無く、鳴き声を上げて近付いて来るだけだった。
「リョウマ様っ!早く剣をっ…攻撃を受けてしまいます!」
「リオン皇女様…マスターには考えがありますから自由にさせてあげて下さい。それに素手でもあの程度なら遅れを取る事はありません。魔法を使えるように集中して下さい」
エアル・ブレイカーを引き抜いて構える前に龍真に襲い掛かって行く魔物の群れを見たリオンは魔法を放つ準備もせずに声を上げるが隣のミアティスに諌められる。
それどころか魔法の事まで指摘を受けてしまうと龍真の事は心配だったが魔法をいつでも放てるように杖を構えたのだった。
龍真にとってブルーガ達の動きは欠伸が出る程単調で鈍重な物だった。こうなってしまうと5体で来ようが50体で囲もうが関係なかった。
【識別眼】で全体の動きと弱点部分を識別し、【万物纏合】でミアティスのように手足に空気を纏わせ保護、相手の攻撃を【叛転】で返す時に【手加減】で調整すれば容易に隙が作れるのだ。この程度では苦戦には程遠かった。
(皇女様はアイコンタクトと指差しで伝わるだろうか…一度やってみるか)
リオンと戦う時は前方からの攻撃しか行わず、取り囲む事はなかった神殿の魔物達だったが龍真と戦う時は今までが嘘だったかのように取り囲んでいる。
恐らく神殿にもある程度力量を測れる機能が備わっているのだろうと予測を立てた龍真だったがどうとでも対処出来る物事だったので追及は控えることにした。
それよりもリオンと連携を取るのが重要だった龍真はいつでも魔法を放てるように待機しているリオンに目配せと指差しで"このブルーガを攻撃して倒して下さい"と伝えて試してみる。
「っ!行きます!貫け…"アクアショット"!」
龍真の動きを凝視していたリオンは動きの変化に気付いていたようで直ぐに魔法を繰り出した。リオンが技名を言い放つと杖の先に水の渦が生まれ水の球体を作り出し、水の球体がブルーガの身体を貫いた。
(…これで伝わるなら大丈夫だな。それにしても…一見当たって飛散するような小さな水の球でも貫けるのか…教わった通りだな。でも技名を言って発動させるのはお約束って感じだ…)
リオンの水属性魔法が龍真の指差した目の前のブルーガに炸裂し間近で貫いた瞬間を捉えた龍真は魔物グループの攻撃に対処しながら使う事のなかった水属性魔法を実際見れて評価を改めつつ、攻撃する時に名称を言うのはこの世界でも一緒なのだと親近感が湧いたのだった。
龍真がある程度ダメージを与えて隙を作り、リオンに合図する動作を繰り返して数体のブルーガを倒して行くと取り囲んで攻撃している龍真に向かってリラ・ダルガスがゆっくりと動き出し、交戦している群れへ合流しようと近付いてきた。
それに気付かない龍真ではなかったが折角相手が近付いて来るのにわざわざ攻撃して警戒させる事もないと思い放置を選択する。
「リョウマ様っ!リラ・ダルガスが近付いて来ますっ!一度こちらに戻って下さいっ!」
「心配要りません、皇女様。あの魔物を加えた方が都合が良いですし、自分が戻ってしまっては皇女様に危険が及びます。それでは護衛の意味がないですから…さぁ、こちらも倒して下さい」
「そんな……っ」
リオンにとって龍真と同行してから起こる事一つ一つが驚きの連続だった。
盗賊団を物ともしない剣技や強力な魔法に始まり、護衛隊長だったロディックの変化に気付いた観察力と対処、神殿内部の意図に気付き指示を出す統率力や帝都の精鋭でも人数を掛けて倒すリラ・ダルガスの行動にも物怖じしない胆力など、どれもリオンからしてみれば信じられない物ばかりだ。
驚愕するリオンを余所に端から見ればリラ・ダルガスの接近に興味無いように振る舞う龍真が倒すように促すとリオンは言葉を詰まらせながらもアクアショットでブルーガを貫く。
第一皇女として帝都で生活してきたリオンには今まで意見を出して来たり優しく諌めるような相手は居たとしても、正面から向き合い悪い物は悪いとはっきり告げるような相手…それも同年代に近しい存在は皆無だった。
リオン自身が純粋で素直な上に容姿人徳品位に優れた想像のプリンセスを体現したような存在だからというのも大きな要因ではあったが。
(…同じダルガスでもリラ・ダルガスはグラ・ダルガスより非力だと聞いていた通り、随分弱く感じるな…これなら皇女様だけでも行けるんじゃないか?)
龍真が加わったリラ・ダルガスと戦い学んでいた能力と実際の能力を照らし合わせながら対応してる内に着実にブルーガの数は減少し、ついに負傷したギリアと息が上がってるリラ・ダルガスを残すのみとなった。
「皇女様、残る魔物はあそこに居る魔物だけです…危険な時は護衛しますから一緒に挑んで見ませんか?」
周りに注意を分散しなくて済む状態を作った龍真は傷付いたギリアの腹部を蹴りリラ・ダルガスに向けて飛ばし接触させた後、間合いを取ってリオンの隣へ戻ると共闘撃破を提案する。勿論メインで闘うのはリオンの方だが。
「リオンがリラ・ダルガスと…ですか?が、頑張ってみますっ」
「リオン!幾ら何でも危険です!」
提案を受けたリオン本人は龍真を信じたのか、やる気を出していたのだがその言葉を聞いていたメリアが姿を現し、リラ・ダルガスとの戦いにストップを掛けた。
「貴女は第一皇女という存在なんですよ?その命はあのような怪物に明け渡しても良い物じゃない筈です!」
「自分の力で切り開けないと、次の試練には行けないと思うけどな…」
リオンに対して自分を大事にするように…遠回しに龍真達に戦わせようとするメリアに軽く息を吐いてこの試練が意図してる事を伝えてみたがメリアには逆効果だったようで龍真を睨み付けてくる。
「貴方はあのリラ・ダルガスという魔物がどれ程強力か分かってないでしょう!?決して1人2人で挑んで良い魔物ではないんです!全員で力を合わせて全力で切り抜けるしか方法はありませんっ!!」
(…困ったな。俺の感覚が可笑しいのか、このメリアっていう精霊が皇女様に過保護なのか…倒せると思うんだけどな)
食い掛かってくるメリアに曖昧な返答を返す龍真だが、何も適当に倒せると言ってる訳ではない。
これまでのリオンの動きや使っているスキル、そして相手側のリラ・ダルガスの力量を体感した上で識別して倒せると判断したのだ。
(仕方無いな…)
「…確かに、自分はこの魔物と相対するのは始めてです」
「なっ…ちょっと……!」
メリアの様子を見てこのままだと無駄に時間を浪費すると思った龍真はメリアとリオンに返答を返しながら単独でリラ・ダルガスに向かって歩みを進める。
予期せぬ行動に驚いたメリアが龍真を制止しようとしたが構わず聞き流した。
「ですが、皇女様を護衛すると言った以上危険に晒すつもりはないんです。このように…っ!」
無防備に近付いた龍真をギリアとリラ・ダルガスが挟みほぼ同時に拳を振り上げるが龍真は意に介さず話を続ける。
拳に力を乗せて放ったギリアとリラ・ダルガスの攻撃は龍真の顔面に直撃…する事なく間接の反対方向へ綺麗に曲がり宙で揺れていた。
魔物達が自分の身体に起きた異変に完全に気付いて苦痛に悲鳴を響かせる前に龍真は連撃を叩き込む。
先ずはギリアとリラ・ダルガスの腹部に拳を叩き込み、そのままギリアへ…元々ダメージを追っていたギリアの顎、肩、そして胸部に攻撃して各部位を破壊しギリアを沈める。3度繰り出した筈の攻撃音は1つに纏まって響いた為、リオン達には一度の攻撃に映っていたが。
続いて腕と腹部に衝撃を受けたリラ・ダルガスに向かい腹部を片手で抑えて前屈みしている顔面を躊躇無く蹴り上げ、身体を垂直にさせると身体の中心線に4連撃を加える。
立て続けに攻撃を受けたリラ・ダルガスは反撃する暇も与えられず吹き飛ばされ広間の壁際に仰向けで倒れてしまった。
「………まぁ、自分が倒してしまっては試練にならないかと思うのでこの辺にしておきましょう」
「…………」
一区切り着いた段階で唖然として言葉を失っているメリアとリオンに向き直りこんな物だと肩を竦めてみせる。
「…龍真さんだからね、つまりこの手の事はメリアが心配しなくても良い話って言う事だよ」
「先輩…何だか、何の危機感も感じてないんですね」
「メリアも付き合いを重ねていけば取り越し苦労だって実感するよ」
「はぁ…そうなんですね」
言葉を詰まらせているメリアの横に現れたもちこは達観した顔で後輩精霊にアドバイスする。メリアの方はというと複雑な顔で尊敬対象の先輩精霊を見返していたのだが無理矢理自分を納得させるしかなかった。
「リョウマ様、リオン…一緒にならリラ・ダルガスと戦うのも頑張ってみます…っ」
「分かりました、皇女様に危険が及ばないように護衛します」
リオンにとって数人掛かりで倒す魔物を2人で挑むという行為には未だ恐怖も抵抗も残っていたが、龍真の攻撃を見て戦う決意を固めてくれたようだ。
龍真が護衛すると言った言葉に頷いたリオンは先手必勝と言わんばかりに未だ倒れているリラ・ダルガスに向けて杖を構えると先程放ったアクアショットを発動させ始めた。
「皇女様、貴女の技術に難癖を付ける訳では有りませんが助言させて戴いても宜しいですか?」
「っ、はいっ、なんでしょうか??」
「皇女様はこれを使う時、水の球を練り出してそのまま放ってるんですか?」
「そうですね、リオンはそうやって使っています」
「でしたらもう少し圧縮するイメージで練ってみてくれませんか?渦を巻いて中心に集めるような感じです」
「ん…と…こ、こうですか?」
龍真の連続攻撃で中々立ち上がれないリラ・ダルガスを尻目にアクアショットの発射準備を整えたリオンの傍に龍真が接近する。
皇女が持っている攻撃方法に口を出すのは無礼にならないかと心配し念の為一言確認を入れると水の球体の圧縮を助言した。
自分の簡単な説明がリオンにちゃんと伝わったのか若干不安の龍真だったがどうやら無事に伝わったようで、リオンが作り出した水の球体は渦を巻いて更に小さな球体へと圧縮する事に成功していた。
「この状態を維持して狙いを絞りましょう…そうですね、最初は胸の中心が良いでしょう」
「はいっ、立ち上がった時の胸部…ですよね?」
「流石です、皇女様。そのようにお願いします」
身体を震わせて緩やかに立ち上がるリラ・ダルガスを眺めながら圧縮されたアクアショットの狙いを指摘するとリオンは今放つのではなく身体が通常の形状になった時に攻撃するのだと理解して起き上がるのを待った。
「…今です、攻撃を」
「っ!アクアショット!」
程なくして立ち上がったリラ・ダルガスだが、龍真の合図と共に限界まで圧縮された水の球体が放たれる。
最初に放ったアクアショットに比べて圧縮されたことで推進力も増したようで、弾丸のような速度で飛んで行く魔法にリラ・ダルガスは成す術も無く狙い通りに胸部を貫かれ前のめりに倒れ込んだ。
「やった、やりました!」
「成功したみたいで良かったです」
『驚いたな…そなた、一体何者だ?』
アドバイスを受けたとはいえ、自分の力で強い魔物を倒すことが出来て喜びを表すリオンと安堵の表情を見せる龍真やミアティスの頭上に、門を通る時に聞いた声が響き渡った。
大型連休もあって更新が遅くなってしまいました、皆さんは如何過ごされたでしょうか?
いつも読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、本当に有難うございます。また更新していきますので今後とも宜しくお願い致します。




