神殿の試練 4
"我が愛娘と一緒に居る見ない顔のお前達は何者か?"
リリーファルナ皇帝の放った落ち着いた言葉の中にはそう言った警戒の色が濃厚に出ているのを龍真は感じ取った。大事な愛娘なのだ、見知らぬ異性と行動を共にしているとなれば警戒するのも必然だろう。
「父様…この方々はリオンを護衛して下さってるリョウマ様とミアティスさんです。それよりも、これは一体…何故戦をしてるんですか?」
父である皇帝の心配など露知らずといった様子でリオンは龍真達を軽く紹介すると皇帝に詰め寄り戦争を行っている理由を問い詰める。
親子が話す間余計な事をして目立つまいと決めていた龍真は数歩下がり皇帝の前に膝を付き、頭を下げた。マスターの龍真がそうした事でミアティスもそれに習う。
「…それを話す前に、その者は何をしておるのだ?」
案の定、皇帝にはこの動作の意味が伝わっておらず、リオンの問いに答える前に龍真達の動作を訝しげに眺め、姿勢の意味を問い掛ける。
「はい、皇帝陛下…私の居た場所では皇族、国を納める者の前ではこうして膝を着き頭を下ろす事で敬意を払います。ご無礼に感じたのならば大変申し訳有りません」
「いや、よい…他国の礼など新鮮な物を見られた」
試練によって造り出された皇帝は行為の意味に納得すると少しばかり表情を崩した。
ゲームや他の日本の作品では定番の動作も帝都リリーファルナでは通じないことを把握すると共に物珍しい事には興味を示すのだと龍真は思った。
「先程皇女様からご紹介に預りました、龍真と申します。旅をしている最中皇女様と出会い、大変恐縮ですが拙くも期限付きで護衛を務めさせて戴いております。隣に居るのは私の従者をしているミアティスです」
「ほう、期限付き…とな」
「はい、皇女様を安全な場所へ届けるまでの予定となっております」
改めて自身の名を名乗り偶然護衛していて安全を確保するまでだと言うことを皇帝に伝えるとリオンが少しだけ寂しげな表情を見せていたが龍真は気付いてないことにして会話を進めた。
(…成程な、偽者…というか造り物だからか、もちこやメリアのようなステータスの精霊は付いて居ないんだな)
龍真は皇帝と対話しながらも皇帝とその周りの人族を適度に識別していた。余り見渡していると不審な人物と思われ兼ねないので最低限だったが根本的な違いに気付く事が出来た。
もっとも、不審人物と騒ぎ立てられ何かあったとしても自分で切り抜けられる方法は複数思い付いていたのだが面倒事にならないに越したことはなかった為最小限の行動に留めたのだ。
「リョウマ様、リリーファルナでは男性の人族はこうして胸に掌を当てて少し礼をすることで敬意を示しているんですよ?」
「ご教授ありがとうございます、このような形で宜しいでしょうか?」
龍真が差異を調べて居るとリオンが立ち上がり胸に掌を添えて男の敬意を表す所作を教える。さしずめ執事が主人に一礼する格好と酷似していた為、龍真は立ち上がるとリオンの教え通りの姿勢に変更し、上手く出来ているかを確認する。
例え些細なことであってもこの場でリオンを無下に扱う事は許されない、龍真は護衛でこれはリオンの試練なのだから。
「ミアティスさん、女性の人族は両手を前で組んでリョウマ様と同じくらいの曲げ方で礼をします。"貴方方とは友好でありたい"という意味が含まれてるんですよ」
「ありがとうございます、リオン皇女様」
ミアティスは人族ではなく翼人族として話を通しているがリオンは人族として扱い、龍真の時以上に丁寧に説明する。
ミアティスも特に何か言う訳ではなく素直に従い教えられた動作に変更した。
「リオンよ…何故護衛である彼のことを"様"を付けて呼んでいるのだ?」
(…まぁ、皇族なのにそんな呼び方してれば気になるのは当然だな)
「リョウマ様はリオンの命の恩人だからです、父様。リオンと行動を共にした護衛隊の皆さんは勇滅の森の魔物に襲われ、何とか逃走出来たものの今度は盗賊団に襲われてリオン以外全滅してしまいました……リオンもリョウマ様が来てくれなければ今頃非道な扱いを受けていたと思います。それに、リョウマ様はお一人でもリラ・ダルガスを圧倒する力を持っているんです」
「なんと…そうだったのか」
皇帝の短い返事の中には様々な意味を含めていることが龍真には感じ取れた。
娘と共に派遣された部隊の全滅と魔物の襲撃、盗賊団からの追い討ちへの驚き、それを救われた娘に芽生えた感情の理解、そして龍真自身の持つ力。派遣された部隊のことを知っている時点でこの造り出された皇帝達には記憶も投影していると知り龍真は少し戦慄を覚えた。
それと同時にこの会話で龍真はリオンを神殿から帝都に送り届けた後、リオンに誘われたとしても城へは行かないと心に決めた。
リオンは良くも悪くも純粋だと知った為、ここまで包み隠さず起こった事をありのまま伝えられるのは不味いと結論付けた。
万が一今後の試練の中で龍真達が隠蔽している諸々の幾つかが知られ、それをそのまま言われてしまうのは避けたいからである。
「はい、まだお話を沢山した訳ではないのですがリョウマ様に護衛をお願いして良かったと思っています。だから父様……」
「ごほんっ。その話は追々としてリオンよ…何故我々がこうして戦っているかだったな?」
「あ、はいっ」
リオンが言葉を続ける前に皇帝は脱線していた話を戻し、リオンの注意を本題に向ける。
父親としてその後続く話を逸らしたかったのだろうと突っ込みたい龍真だったが気持ちが分からなくもない上に皇帝という立場を考えて言葉を呑み込んだ。
そこで自分の感情のままからかって不快にさせる程龍真は青くなかった。日本から数えて37にもなればその辺は弁える…この世界では17なのだが。
「何故戦うか…それは向こうの国、ザラグセフトがリオン、お前を差し出せと要求してきたからだ…それも婚儀などではなく生け贄としてだ。父としても皇帝としても容認出来る事ではない!断りを入れたら攻めて来おってな…それでこうして戦っておるのだ」
「リオンが…戦の原因ですか?」
「そうではない、誰もお前に犠牲になって欲しくないから結果として戦いになっただけだ」
(2人の会話から察すると随分家族思いか子煩悩な皇帝なんだな…理不尽な要求に理不尽な攻撃なら怒るのは当然か)
「父様、リオンの為にお怒りになってくれてとても嬉しいです。ですがザラグセフトの代表の方とも会談を設けて話し合ってみてはどうでしょうか?きっとあちらにも事情が…」
結果として自分の事が起因となって始まった戦争にリオンはショックを隠せなかった様子だ。しかしそれでも和平を求めるリオンは皇帝に戦いを止めて話し合いすることを申し出る。
リオンの進言を受けた皇帝は直ぐ様首を横に振りその考えを否定した。
「平和を望むのは悪い事ではない…だが攻め込まれて犠牲者が出ている以上、向こうが撤退するまで我々から戦を止める事はない。このような無礼を許す必要はないのだ。お前は子供らしく我々に任せて城へ帰っていろ」
(…これは…随分と意地悪な試練だな。こう言い回されたら余程じゃないと覆せない……仕方無いな)
皇帝は何も和平を望まない訳ではなく、リオンが望む通りに動けない理由まで付け加えてリオンに言葉を詰まらせた。恐らく現実でもこうして傷付かないようにリオンの意見を聞いて貰えてないのだろうと察した龍真は礼を崩し一歩前へ出る。
「皇帝陛下、会話の途中に申し訳ありません。陛下の御気持ちはとても深い物だと感動致しました……ですから我々は護衛として直ちに皇女様を安全な所へお連れ致します」
「え?あ、あのっ、リョウマ様!?」
皇帝に同意を示し称賛を述べた後、龍真は皇帝の指示通り城へ連れて行こうとリオンを引き寄せた。
リオンが慌てるのも無理はない。リオンが何とか皇帝に食い下がろうとしているのを捉えた龍真はこの場から離れる為に引き寄せたリオンを抱き上げたからだ。
それも俗に言う"お姫様抱っこ"で。
「皇女様を送り届けたら我々も微力ながら戦いに加わります…それでは、失礼します。行こう、ミアティス」
「はい、マスター。失礼します、皇帝陛下」
リオンを抱えた龍真とミアティスは皇帝に一礼すると反転し、一気に駆け抜けた。
抱えられてるリオンから"きゃあぁあ…"と甲高い悲鳴が聞こえてくるが敢えて聞かずに走り続けるのはご愛嬌である。
走りながら抱えているリオンの身体は龍真の思ってた以上に軽かった。
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「リョウマ様…っ、何故リオンを父様とお話させてくれなかったのですか?」
皇帝の居る場所からリオンを抱えて離れ、適当に走って人の気配が殆どない外れに到着すると龍真は漸くリオンを地に下ろした。
もう良いだろうと口を開いたリオンの第一声は当然抗議である。
「そうして食い下がるだろうと思ったので少し強引な手を取らせて貰ったんです。あの場で話していても話は噛み合わず時間ばかり浪費していたでしょう」
「もしかしたら思い直してくれるかと思って…」
龍真の指摘があながち間違ってないのを悟ったのかリオンは弱々しく言葉を連ねる。
何となく仔犬みたいだと捉えた龍真は皇女に対して失礼だと思い直し言葉を続けた。
「その可能性は無いとは言いませんが、低かったと思います。ですから自分は離れる事を選択しました」
「リョウマ様、何かお考えが??」
リオンの意見を曲げて他の行動をする時は何か理由がある…龍真の今までの行動でリオンはそう捉えるようになっていた。
「勿論です、相手の狙いは皇女様ですから、このまま3人で話に行きましょう」
「3人、ですかっ?」
驚くリオンを余所に龍真は笑顔を向けて無謀とも言える少人数での潜入を提案した。
気付いたら10000pvを超えていて予想外の早さに驚きました!
これも皆さんのお陰です。読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。




