盗賊退治
時は少し遡りリオン達がヘルストドグマに襲撃されてる頃、龍真達は"勇滅の森"の入口付近にまで到着していた。
最初こそシオンの背に乗り空中移動で面倒な所を短縮していた龍真だったが現場に近付いてくると地面に降りて徒歩で向かっていた。
「この辺の道を通る盗賊が出るのはそろそろだろう?」
《うむ、間違いない。今日は帝都から成人の儀で神殿に足を運ぶ一行が居るからな、奴等は必ず狙ってくるであろう…女ならば尚更な》
今の龍真達には盗賊団など相手にならない存在だったが龍真達が盗賊を狙う理由は充分にあった。
「儀式とか面倒事とかに巻き込まれるのは嫌だから早く倒して服や金品を入手しないとな。話し合いで譲ってくれたら一番なんだが…」
「マスター…人族の盗賊は悪い人しかなりませんよ?」
「そうそう、ミアちゃんの言う通りだから気にしちゃ駄目だよ」
3年経っても変わらない龍真の平和主義的な考えは隣を歩くミアティスともちこの女性陣に一蹴されてしまった 。…とは言っても魔物と精霊だが。
「まぁ、そうなんだけどな………ん?盗賊団が移動してるな。魔物と遭遇して経路を変更してるのか…」
女性陣の意見に渋々納得する龍真の脳裏に【識別眼】でマーキングした盗賊団が経路から外れて移動したという情報が流れた。
そのまま周囲を識別していくとヘルストドグマの群れが認識出来た為、盗賊団が襲う標的の一団と盗賊団本体が避難して別の場所に移動したのだと理解した。
死傷者が出てる一団を助けに入る事も出来たのだが龍真は助けに入らず計画通りに動く事を選んだ。
正義感丸出しで不特定多数を助け、後先考えず強さを見せびらかせる程龍真の精神年齢は若くはない。盗賊団を倒してこの世界の衣装と金品を手に入れられれば人の少ない町辺りで身分を取得出来るだろうとシオンから学んだ龍真は冒頭から皇女と接触する気はなかった。
龍真が読み知った作品の傾向からも姫という存在は良し悪しだった事が警戒心を強めた要因だろう。
《して主よ、奴等を追うのだろう?私に乗るか?》
「いや、シオンに乗ると目立つしな…歩いて行こう」
龍真達が接近した事でヘルストドグマの群れは危険を察知し、リオンの一団から離れていた。
しかし盗賊団の方は危険な物に鈍かったのか、それとも"勇滅の森"に慣れていたのか、定かでは無いがリオンの一団へ襲撃を始めていた。
シオンの圧に恐怖を感じて一団から離れていれば理想的だったが欲に目が眩んだ盗賊団には効果が薄かったようだ。
歩いて向かえば丁度数人生き残る辺りで到着するだろうし、いざとなればスキルを使って龍真の存在を漏洩しないようにさせれば良いと判断すると、気乗りはしない物の盗賊団の反応がある方へと向かって行った。
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「捜せ!未だそんなに遠くへは逃げて無い筈だっ!森の魔物に喰われる前に生け捕りにしろ!!」
再び視点はリオンの方へ戻る。盗賊団は既にリオンが隠れている場所の周辺に散らばり、残ったリオンの捜索を始めていた。周囲は盗賊、森全域には魔物が棲んでる状況で味方の居ないリオンが発見されるのも時間の問題だった。
《……アレが盗賊か、見るからに野蛮そうだな。それと獣臭い》
《マスター…あぁ言う人族は私達より非力ですけど、雰囲気が嫌な感じですね。前の私だったらきっと怯えてました》
《今は大丈夫か?》
《はい、マスターのお陰です》
現在龍真達は盗賊団がリオンを捜索している周辺の茂みの中に隠れていた。魔物の方の会話を使って話しているのは人族接近を悟られず堂々と会話する為である。龍真とミアティスがそれぞれの感想を述べるとシオンは鼻で笑っていた。
《…ボスはあの辺の奴だろうな、服装が明らかに豪華だ》
龍真がスキル【識別眼】を使うまでもなく、盗賊団のボスや幹部といった身分のグループは直ぐに見付かった。他の男達が必死に探す中、自分達の積み荷から下ろした簡易的な造りの椅子に座り酒を片手に談笑しているのだから明白なのも当然だろう。
よく見ると1人の男の四肢を拘束して猿轡を噛ませ数人の男が玩具にしていた。
《…俺の居た世界の虐めとかが可愛く見える惨さだな。気分が悪くなる…手早く片付けるか》
《マスター、気を付けて…》
《うむ…主なら問題無いと思うがな》
無慈悲で残忍な扱いをする盗賊団の連中を見ると龍真は【感情保護】を発動させ平静を保つ。ふと3年前に転移する前の日本のニュースを思い出し多少怒りの感情を覚えた龍真は手負いの1人なら治療すれば口を滑らせないだろう判断し、ミアティスとシオンに盗賊団と交渉に入ると伝えて立ち上がった。
万が一に備え腰に装備しているエアル・ブレイカーに片手を添えている辺り用心深さを伺えたミアティスとシオンは、いつでも龍真の有事に対応出来るように準備しつつ龍真の事を送り出した。
「なぁ、そこで酷い扱いを受けてる人を解放してやる事は出来ないか?大人の男が寄ってたかって見るに堪えない…」
「あ!?なんだてめぇはっ!どっから現れた!」
龍真が静かに近付き盗賊団に交渉を持ち掛けると背後から声を掛けられた男が驚き武器を構えながら龍真を威嚇する。
「いや、旅に出たら道に迷ってしまってな…声がするから来てみたらこんな状態だったから虐めは良くないと思って…で、どうだろうか?」
武器を構えられて驚かないのは不自然だと思われないように、驚いて身を強張らせた振りをして両手を上げ抵抗の意志が無い事を示すと、道に迷っただけで盗賊団とは知らない物として話を進めていく。
「へっ、道に迷ってこの森に入るとはお前さんも運がねぇなっ」
「いやいや、それよりも俺達に話し掛けちまった方が運の尽きってモンよ!」
「ちげぇねぇ!!そんなに欲しけりゃくれてやるよ…死体だけどな!」
二人の男が龍真の事を嘲笑い、同意した男が乱暴に扱っていた衣服も布切れに変えられ血塗れになった傷だらけの男の頭を掴むと龍真の前へ放り投げ、再び地に着く前に剣を心臓へ突き立てた。
「始めから分かってたが交渉の余地無し、か…生命の扱いが本当に軽いんだな…」
安心させておいて絶望に落とされ命を失った男の無念そうな表情を視界に捉え、改めて無情な扱いを認識した龍真は、腰に装備したエアル・ブレイカーに手を掛け一瞬鋭い眼光を向けた後手を離した。
「なんだぁ!?抵抗しようと思ったもののもう諦めたのかよ!お前1人じゃこの人数はどうしようもねぇもんなぁ!」
「へへ、安心しろや。今殺した奴みてぇに直ぐ殺さず暫く玩具にしてやるからよ」
盗賊の幹部達は龍真の動作に一瞬身構えるも直ぐに剣から手を離したのを見て完全に諦めたと思い、新たな玩具として認識していた。
(…こんなシーンも漫画とかゲームとか、ありがちな展開だよな。…と言うことは)
「残念だけどお前達には不可能だな。今その場を一歩でも動いたら命は無いぞ?」
お約束の展開で注意してもどうせ聞かずに動くんだろうと諦め半分で忠告し、案の定それを聞かずに動いた男達は綺麗に横に分割され呻き声を上げて絶命した。龍真がエアル・ブレイカーに手を掛けた後、【識別眼】で一番分断し易い部分を見定め抜刀して納刀するまでの動作を見せずに抜いて一閃、戻す時に一閃斬撃を放ったのだった。
「てめぇ…何をした…只の旅人じゃねぇな?」
残った幹部の1人が笛のようなオカリナのような物を取り出し甲高い音を周辺に響かせた。龍真は仲間の招集だと気付くもお約束を重ねる為に敢えて放置する。
焦る幹部に引き換え頭領と思わしき人物は堂々としていた。部下が得体の知れない状況で倒されても動揺する事は無く、正体を突き止めようと見定めていたのだ。自分の判断で団全体を危険に晒す事になるのを理解しているような行動に少しだけ龍真は評価を上げていた。
「…いや、只の旅人だ。それは間違いじゃない……貴方は会話での交渉が出来そうだな。どうだろう、衣服を何点かと金品を少し譲ってくれないだろうか?」
「しらを切るつもりか?まぁ、良い…被害が大きくなる前にその程度の物ならくれてやるよ。代わりにお前さんは何を差し出すんだ?」
先程の音を聞いて盗賊団のメンバーが集まって来る中龍真は大して気にも止めず昔の自分ならこれでも怖かっただろうな…と客観的に考え座っている頭領に話を持ち掛ける。
対して頭領も龍真の交渉を受け入れた物の代わりの物を要求してきた。物を得る為に他の物を差し出すのは日本の売買でも一緒だが一方的に奪ってきた盗賊が求めるのは何か違うと龍真は気分を曇らせる。
「一方的に奪う行為を繰り返してるのに他人から奪われるのは嫌か……何を求めるんだ?」
「…今俺達は人を捜してんだ、そいつは国の姫さんでな…それを見付けられたらくれてやるよ」
「姫を捜して見付けたとして、その後どうするつもりだ?」
龍真に対して頭領が持ち掛けた条件は概ね予想通り皇女であるリオンの発見だった。見付ける事もその後で何をされても対処出来るだろうとは判断していたが龍真は敢えて発見後の扱いを尋ねてみた。【識別眼】で他人の虚言を見抜く事が可能か試すのにうってつけの相手だったからだ。
「なに、俺達は姫の周りの無能さを国民に見せ付けて国に仕返ししたいだけだからな。姫本人は保護して帝都に連れて行くだけだ」
「………それは嘘だな、本当は連れ帰って辱しめた挙げ句壊れたりでもしたら奴隷商にでも売り渡して、自分達で買い占めて救ったと見せ掛け国の重役に収まり好き勝手するつもりなんだろう?」
頭領の思考と口から出た言葉が全く違う事を理解すると一度溜め息を吐き出し、本人が計画している事を突き付ける。真実を言い当てられた盗賊団の頭領は忌々しげな表情を浮かべて立ち上がると舌打ちして自身の武器である武骨な槍を構えた。
「…交渉決裂、本当に救いようが無いな……生憎と俺は傷付けるのを見るのは御免だしハッピーエンドの方が好きだ」
「訳の分からねぇ事をごちゃごちゃと。敵は1人だ、やっちまえ野郎共!!」
槍を構えた頭領に続いて盗賊団が龍真をぐるりと取り囲み武器を向ける。通常この状態なら多勢に無勢だが幾らでも対処出来てしまうようになった龍真は初めての対人戦闘で何からしておこうかと思考を巡らせていた。
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