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成人の儀


(ど、どうしてこんな事に…)


暗い空間に閉じ込められた少女は突然我が身に降り掛かった不幸を嘆いていた。一緒に居た者は皆理不尽で自分勝手な暴力で命を散らしてしまった…少女を守る為に。


(ごめんなさい、皆……)


少女はもう帰らぬ人となった仲間達を思い自分の無力さと判断を誤った事に心から後悔してこれから起こるであろう惨事から現実逃避するように眼を綴じた。


────────────────────────────

───────────────────

──────…


事の始まりは少女が出発する日の朝からだった。

今日はこの少女、"アイシス・リオン・リリーファルナ"の16歳の誕生日である。彼女は龍真達が生活してる"勇滅の森"から一番近くにある大都市"迷宮帝都リリーファルナ"の第一皇女だ。今日は帝都も城下町も総出で誕生日の前夜祭を祝って誕生日の当日、皇族が16歳になると行う"成人の儀"を済ませる為に"勇滅の森"の入口付近にある神殿へ赴く日だ。


彼女の容姿は一般的に連想されるプリンセスというような物では無かった。身長は155㎝を少し越えた辺り、髪は明るめの茶色で胸元辺りの長さだが全体的に巻きを入れていた。出る所は出ていて締める所はしまっていたが平均より大きな胸部であるのは特長の1つだろう。日本で言う魔法少女が持つような杖を装備している事から魔力に特化している事が察せられる。


「…いよいよですね、リオン。大丈夫ですか?」


「メリア…リオンは16歳になったんです、皇族の皆様の為にもリリーファルナの民の為にも必ず成功させますよ」


リオンの身を案じて尋ねたのはリオンを担当するステータスの精霊で名をメリアと呼ばれていた。当然ながらリオンが生まれた時からの付き合いだったがメリアはリオンに対して敬語を使っていた。姫とも様付けでもリオンを呼ばず呼び捨てにしてる事を見て仲の良さが伺えたが、もちこと龍真のような関係の方が珍しいと言えた。


「リオンが平気なら良いですが、"勇滅の森"はとても危険な所です…貴女は第一皇女、もしもの事があれば帝都自体に影響が出るんですからね」


「分かってます、幸い護衛の方達は皆腕利きの方達です。無事に終わらせて帰りましょう」



そうしてリオンを中心としたおよそ30人余りの儀式の一団は帝都を出発して"勇滅の森"へと向かったのだ。

皆余裕を持っていた…

これだけの戦力で臨めば楽に儀式が終わる、と。

近衛の兵士達や腕利きの冒険者達は愚か、当のリオン本人も簡単に切り抜けられるだろうと周りの人族を信じ切っていた。

そして悪夢の出来事が幕を開ける…───


「う、うわぁぁあああっ!!」


最初に異変が起きたのは後方で警戒していた兵士達だった。

森に入るまでリオン達の旅は順調だった。何事も起こらず道中魔物が出現しても難なく撃退して勇滅の森まで辿り着いたのだが、森に足を踏み入れた瞬間、一団は得体の知れない威圧感に襲われた。まるで何かに押し潰されそうな重圧に耐えながらリオン達は森を進んで行く。神殿に向かうにつれて恐怖も膨らんでいった。まさにその時を狙ったようなタイミングで襲撃を受けたのだ。



「なんて事だ、ヘルストドグマの群れに遭遇するとは…っ」


「隊長っ!討伐しましょう!」


一際厚い装備で大剣を背負った一団の隊長は自軍の戦力と群れの戦力を冷静に分析した。背後からの奇襲を受けて既に死者も負傷者も出しているのだ、一瞬の判断の誤りが自分ばかりか国の大事な皇女まで命の危険に晒すともなれば慎重になるのも頷ける話しだ。

因みにヘルストドグマとは龍真がこの世界に転移して一番最初に遭遇した魔物である。

当時の龍真にとって脅威的な魔物であるヘルストドグマの群れだったが皇女を護衛する一団としても脅威である事に変わりなかった。


「馬鹿を言うな、我々の役目はリオン様の護衛で魔物の討伐ではない。迎撃しつつ安全圏へお連れしろ!」


「はっ!!」


隊長は討伐を求めた兵士の意見を却下するとヘルストドグマの攻撃を回避し迎え撃ちながらリオンの安全を最優先にして逃げ回った。


「…もう、追って来なくなりましたね……」


「その…ようだな。何人、残った?」


「自分を入れて…およそ、半数です…」


リオンを護衛する一団は何とかヘルストドグマの追撃から逃れる事が出来た。しかしその為に払った犠牲も少なくはなく、冒険者と兵士数名とリオンの身の回りの世話をする侍女だけが生き残っていた。


「隊長、リオンは構いませんから貴方達の命を大切にして一度引き上げて形勢を整えてからもう一度神殿に向かいませんか?」


「何をおっしゃいますリオン様、これは貴女の責任では有りません。我々なら平気ですからどうか構わず進む事をお考え下さい!」


本来なら森の入口に居ない筈のヘルストドグマの襲撃で予想以上の被害が出てしまった事にリオンは心を痛めていた。自分の事より他人を思いやって提案したリオンに対して隊長を始め他の兵士や冒険者達は一歩も引かず進行を求めた。

代々リリーファルナの皇族が行う成人の儀は此処数世代に渡り少数の犠牲者は出した物の一度の遠征で無事完遂されている。名誉ある儀式の選抜隊の中で自分達だけおめおめと帰還してしまっては翌日から帝都を歩けなくなると囚われた重圧もあって此処で引き上げる訳には行かなかったのだ。


「姫、俺達がちゃんと終わらせるから信用して下さいよ」


隊長から意見されても尚返事をせずに悩んでるリオンに今度は冒険者代表の青年が本当に大丈夫だと笑顔を向けて後押ししてきた。冒険者としても依頼の失敗は同業者からの侮蔑の対象となる為何としても避けたい所だし、腕利き冒険者パーティーで名を馳せているという自尊心も重なって無意識で冷静な分析に欠けてしまった結果だった。


「分かりました、リオンは皆さんを信じます。最後まで力を貸して下さい」


リオンは部隊全てから醸し出される撤退は不名誉で許されない愚行だと追い詰められた心情を捉える事が出来ず部隊の意見を信じて進行の継続を許可してしまった。その判断が更なる悲劇を巻き起こすとは知らずに…。


「正規のルートに奥地の魔物が出現するのでしたら迂回路を使いましょう」


1人の兵士が今のルートを通って向かうのではなく、別の道をと提案したのはこのまま進行することに決まって直ぐの事だった。

神殿への正道には森の奥地の魔物が出現する可能性が高いと判断するや否やもう使わない物と切り捨て、地図を拡げて別ルートの方が安全だと進めたのだ。


「分かりました、それが皆さんの安全に繋がるのならリオンもその意見に賛成です」


"成人の儀"を行うリオン本人から了承を得られると一団は迂回路を辿り神殿に向かった。




「この道は…少し険しいですね…。大丈夫ですか?」


「は、はい…ありがとうございます、リオン様…」


何とか迂回路に入り、かなりの遠回りをしながら山道を歩く一団は神殿に到着する前に既に疲弊していた。長時間魔物から逃げ回り人員を失っただけではなく荷物の一部や怪我を治療する道具、そして最後までやり遂げる、という気持ちも奪われてしまっていたのだ。

自尊心を守る為に強行して進行を続け誰もが表に出していないものの仲間を信じてるリオン以外の足取りは重かった。

リオンが気遣って声を掛けた態勢を崩した侍女もリオンに心配を掛けまいと笑顔を浮かべるも返事する声に力は無かった。ある程度整備された道ではなく草木が生い茂る山道なのも要因の一つだろう。


「皆、もうすぐだ!最後まで気を抜くなよっ……う…ぐふっ!」


冒険者の1人が今の位置と神殿の位置を地図で確認して喝を入れた矢先、急に口から血を吐き出して前のめりに倒れた。


「な…っ!!」


突如倒れた冒険者の男の背中には複数の矢が突き刺さり、今も流血していて血溜まり広がっていた。


「きゃあっ!」


「馬鹿な、こんな所に…盗賊だと!?」


至近距離で絶命したのを見た侍女は悲鳴を上げて腰を抜かしている。一団を率いる隊長は倒れた冒険者に刺さっていた矢の方向に視線を向け眼を凝らす。そして森の草木に同化していて接近に気付かなかった盗賊の一味を20人程視界に捉え驚愕の表情を見せる。


「有り得ん、こんな場所で盗賊ごときが生き残って生活出来る訳が…っ!」


未だに自分の眼を信じられなかった隊長は自らの心の整理が追い付かず、少数となった味方への指示が遅れてしまった。敵対する卑下た笑みを浮かべる盗賊はざっと見渡しただけでも20人は越えていて数的にも不利な状況で致命的な失敗を犯してたのだ。


「お逃げ下さい!リオン様っ!」


隊長に出来る事はリオンと残った侍女を逃がす事だけだった。多勢に無勢だが生き残った兵士や冒険者は覚悟を決めて盗賊団に立ち向かう。


「リオン様、こちらに!」


「皆さんっ!」


必死な面持ちの侍女達に手を引かれ逃げるリオンが護衛の者達の身を案じて一度振り向くと、矢を撃たれ腕や足、身体の至る所に矢を刺され盗賊達に囲われて切られ殴られぼろぼろになりながらもリオンを少しでも遠くに逃がす為に戦う隊長や兵士、冒険者達の姿があった。


「リオン様、このままでは盗賊達に追い付かれてしまいます。此処に隠れてほとぼりが覚めたら森を出て逃げて下さい…後は、私が」


「そんな、貴女まで…」


侍女達を引き連れ逃げていたリオンだったが今はこの侍女と2人だ。追っ手に迫られた侍女達はこの侍女にリオンを任せ自分達は盗賊団の犠牲になってしまったのだ。そして最後の侍女も追い付かれると感じるや否やリオンを木と岩の窪みの中に隠し、護身用として持っていた短刀を握った。皇女を守る為とは言え年頃の娘だ、単独で立ち向かうには相手が悪くリオンの連れた手は震えていた。

木の葉や枝で窪みの入口を塞ぎ猛々しく声を上げ走り出した侍女だったが、暫くすると物音は聞こえなくなり、代わりに複数の足音がリオンの方へ近付いて来る。魔の手は直ぐそこまで迫ってきていた。





読んで下さってる皆さん、ブックマークして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。



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