魔物が増えた生活 5
恥ずかしながら少量の絡み行為があります、苦手な方は飛ばして戴いてもストーリーに影響無いかと。
ミアティスが差し出してきた長剣を手に取り柄から切っ先まで眺める。
《ミアティス、その服でも思ったんだが…どうやって此処まで仕上げたんだ?》
剣に姿を変えたイビルティグレスの牙を【自由保存】に収納すると龍真はミアティスに向き直り、素材だったであろう魔物の皮や継ぎ目の状態を確認してどういう加工をして仕上がったのか問い掛けた。
《んと、生糸と針を貰って合わせて…色々。武器の方は、お母さんに教えて貰ったやり方でやってみたから…上手く説明出来なくて、ごめんなさいっ》
話を聞く限り感覚で加工したらしいミアティスが何とか説明しようと試みていたが結局説明出来ず顔を伏せて謝罪する。
《気にするなミアティス、それぐらいで怒る事も落胆する事も無い。知る事が出来たら良いと思っただけなんだからな》
《え…でも…っ》
ミアティスの懸念を事前に削ぐ為に予め心配無い事を説明する龍真にミアティスが尚も食い下がろうとする。
スレイモンスターに求める事から過剰に活躍してるミアティスが一度説明出来ない事を悔やむ必要は無いのだと伝える為に龍真はミアティスを抱き締めた。
勿論龍真のこの行為にやましい気持ちは微塵も無かった。
自分の親戚の子供が同じように謝ってたり情緒不安定になったりした時、龍真は安心させる為に抱擁していてその子供達とミアティスが重なってしまった為無意識に行った自然な抱擁だったのだ。
見た目は同年代に見えなくもない龍真だったが中身はもうおっさんの龍真である。
この程度で頬を赤らめるような初心な感情もすっかり枯れていた。
流石に自分の娘が居たら同じ位の年頃のミアティスに向けて男として見られてる事は無いだろうと思ってしまい、免疫力の低い女性への無愛想な対応も鳴りを潜めて普通に宥める事が出来ていた。
《今日1日試行錯誤してよく頑張ってくれたな…風呂でも入ってゆっくりしてくれ》
龍真は抱擁したまま労いの言葉を贈り、数回背中を擦ると身体を離して入浴して疲れを癒すように促す。
しかしミアティスは返事もせず狼狽えるばかりだ。
《どうした、ミアティス?》
《あの熱い水に、入るの…?私、水浴びしかしたこと無い、から…ちょっと怖い…》
龍真が覗き込んで視線を合わせて聴いてみると身体を清めるのが嫌なのではなく、温水というミアティスにとって未知の物に触れるのに二の足を踏んでるという状況だった。
《あれはお湯だ、水よりも身体に染みて疲れが取れるから怖い物じゃないぞ?》
龍真が穏やかな口調で怯えないように説明するもミアティスは未だ決心が付かないようだ。
《…マスターが、一緒に入ってくれるなら、頑張れる…かも。一緒、駄目?》
思い悩んでミアティスが口にした入浴への条件は龍真の予想を斜め上に超えていた。
(そういうイベントが此処で来たか…妥当な速度と言えば妥当だし早いって言えば未だ早いな。これは"ペットと一緒に入浴"と捉えるべきか、"親戚の幼子を風呂に入れる"と捉えるべきか…それとも"女の子と混浴"と捉えるべきか…)
龍真は正直ミアティスとの関係性に僅かながら困っていた。
一応ミアティスはフェルスアピナの特殊個体だ、分類的には魔物だしスレイリンクで契約を結んだスレイモンスターでもある。
しかし容姿は人族と殆ど変わらず、龍真は未だ分からないが翼人族と言われても遜色ないのだ。
《それは…いや、誘った俺が入れない状況を作るのは流石に問題だな。入り方を教えるから慣れたら自分で入ってくれ》
ミアティスの母親、レティスのように姿形が完全なフェルスアピナだったのなら割り切って判断出来たのにと頭を悩ませつつ、シオンが出掛けてる隙に入浴させてしまおうと決心するとミアティスの条件に頷き代わりに期間を設けミアティスの手を引いて自作の浴室へ向かう。
────────…龍真達の住居の浴室…といっても龍真が適温で循環してる地下の温泉源を割り当てそこに穴を掘り、石で囲んでスキルの【即死弾】で温泉源まで一直線に撃ち抜き穴を開け、もう一段落とした湯船となる石囲いのスペースに流した自己流の物だったが。
勿論溢れて大惨事にならないように排水口もぶち抜いて洞窟から少しずつ流し出されている。
前日ミアティスとシオンが住人として増えてからは食肉の確保の為不出来な解体を行った魔物の毛皮を木材と繋いで簡易的に間仕切りを作って居るが、龍真は今後ミアティスにもっと良い物を頼もうと思っていた。
《ミアティス、此処では身体を清めるから服は脱いで良い。後で脱衣場所も作るからな》
《…?》
龍真は【自由保存】からタオルを取り出し衣服を脱いで素早く大事な場所が隠れるように巻き付ける。
服を畳みながら意を決してミアティスに着ている衣服を脱ぐように指示して隠れて入浴出来る状態にする事を伝えるもミアティスは小首を傾げながら恥じらう様子など微塵も無く服を脱ぎ始めた。
つい先日衣服を着る生活に変わったミアティスに人族同様羞恥心を持てというのは無理な話だったが出来るだけ早く持って欲しいと龍真は密かに願った。
少女のようなあどけなさを残すミアティスでも成体寸前のその身体は種の繁栄に適する形を作り出す為出る所は出ていて、それを惜し気も無く晒しているので龍真の眼の保養…もとい眼のやり場に困る状況だが龍真を直視したミアティスの頬はみるみる赤く染まり始めた。
《何、だろ…服脱ぐの、何とも無いのに…今のマスター見ると…顔、あつい…っ》
ミアティスが赤面する原因はどうやら龍真の肉体にあるようだった。
異世界転移した時に比べ龍真自身の自覚無く成長し続ける全身は本人の預り知らない所で完成度を高めているのだが、龍真は人族の身体が珍しいからだと捉えていた。
元より自分に自信の無かった龍真が地球時間で1ヶ月にも満たない期間で自信を持てというのも無理なのは明白だ。
《その内慣れるだろ…胸元とその辺をタオルで隠すのが男と女で入る定番だ》
《マスター…私、魔物の雌だけど、隠すの?》
無垢な女児に教える訳でもなく動物として洗い流す訳にもいかずな現状で龍真も言葉を失ってしまうがミアティスは人族に近い容姿だから隠して欲しいと伝えて普通の女性が隠すべき部分を隠させた。
《此処でこうして身体を流して…この液体を頭に付けて泡立てるんだ。今日は俺がするからな》
《ひゃいっ、が…がんばる》
ヤシの実に酷似した木の実をナイフで分割した簡易的な物を洗面器代わりに使い、龍真は湯船から温水を掬うと洗うスペースで自分の頭に掛けながら使い方を説明していく。
龍真の雄としての強さが滲み出す肉体と初めて行う入浴への緊張で変に慌てながら返答したミアティスはやり方を覚えようと龍真を集中して見詰めてしまう為、余計に頬を紅潮させていた。
だいぶ悪循環である。
《…こんな感じだな。先ずは湯自体に慣れて貰わないとな…じっとしてろよ?》
《は…はい、マスター…あぅ…っ》
龍真が髪を洗い湯で流し終えると水気を手で払い器に湯を掬って直立して待ってるミアティスに近付き、背後から緩やかに肩から温水を掛ける。
ギリギリで身体を隠しているタオルが温水を掛けられた事で肌に張り付き、一層鮮明にミアティスの肢体の輪郭を龍真の網膜に刻み付けた。
身体を強張らせ両目を強く瞑り微かに震える様子は庇護欲を掻き立てるには充分だったが龍真は平静を装い少しずつ身体に掛ける水量を増加させていく。
《そろそろ、髪を洗うから眼を綴じて顔を下げてろ》
《んっ…ふ…え?…っ!》
何度か身体に掛けたにも関わらず一向に緊張が解れない様子のミアティスに次の行動を伝えて顔を俯かせたのを視界に捉えると頭から温水を掛けると膝を折ってその場にぺたんと座ってしまった。
《もう少し我慢しろ…続けるからな?》
一度目を堪えたミアティスに早く終わらせる必要が有ると判断した龍真は続いて温水を被せ髪を濡らしていく。
《んんっ…マスターぁ…こわい…っ》
《ほら、此処に居るから大丈夫だ…終わるまで此処に触れてたら良いからな》
眼を綴じたままのミアティスは不安に駆られたのか、タオルを支えてない片手が宙を泳ぎ傍に居る龍真との接触を求める。
変な部分を触られるのも困ると思った龍真は髪を洗う前にミアティスの正面に周り漂うミアティスの手を握り肩に触れさせた。
そのままそこに手を置くように言い聞かせると洗髪作業を続ける。
水だけで清めていた頭皮と髪を解し羽根で覆われた耳に入らないように注意を払いながら作業を終えると流れ落ちるまで温水を掛け流した。
面倒事を押し付けられて幼子の世話をしていた経験がこんな所で活かされるとは完全に予想外だった龍真だが一作業終えて涙目で見てるミアティスを見ると頭を撫でて気分を落ち着かせる。
《マスター…これ、慣れないと駄目?》
《そうだな…次は身体なんだが…自分で出来るか?》
慣れたくないと全力で訴えるミアティスに龍真は極めて簡潔に返答すると次の作業は自分で出来るかどうか問い掛けた。
読んで下さってる皆さん、ブクマして下さってる皆さん、いつも本当に有難うございます。




