第六十三話
交換会は物凄い熱気だった。
人間以外の種族がフォレスティに居るのはほんの少数だが、それでも故郷に何かしら持って帰ろうと広場の競りに参加している。
特に魚人族の女王は気に入ったものすべてに手をあげた。
勿論彼女が全て手に入れられるほどのお金も物品も持って来てはいない。
結局、ババと巨人族の長が止めにかかり、気をそらし、それでも聞かずにアップロックがタライを持ち上げて強制退場、と相成る。
毎年の事なので他の参加者は彼女の事を横目で見送るだけだ。
その様子を見ていたシャルとルイは苦笑して彼女を見送り、競りに出される様々な物を見ていた。
そして、その中で一つの鉱石……『グレスティル鉱』と呼ばれる金にも銀にも虹色にも輝く不思議な鉱石が壇上に上がる。
大きさは人の頭ほどもある。
おおーという喚声があがりかなりの高値が叫ばれていく。
これぐらいの大物を売れば家一つは買えるからだ。
ソレを聞いた巨人族の長がしたり顔をした。
グレスティル鉱はとても珍しい鉱石で、取れても年に1、2個ほど。
それもコインほどの大きさが殆どで、ここまで大きなものが取れるのは滅多にはない。
しかし、少量であっても合金にすればとても丈夫で様々な道具に使われ重宝されている。
とは言え、その丈夫さを手に入れるための加工がとても難しい。
世界中で使われている炉……魔法炉と呼ばれる魔法具の一種の炉ではうまく加工できず、消し炭のようなものができるだけ。
「よっし、来たな!待ってたぞ!」
そんな鉱石を手に入れるために手をあげたのはバリューだった。
腕まくりをして競りに挑む姿はさながら狩人のようで、ニヤリと不敵に笑っている。
「おう、バリュー。これだけの大きさの物だ。ちょっとやそっとの物じゃ譲れねぇ。カカアにも顔向けできねぇ。分かってんだろうな?」
巨人族の長が言うのに、バリューはガハハハと大きな口を開いて笑った。
「この俺を誰だと思っていやがる!ほらよ!!!」
そう言って渡したのは一枚の紙きれ。
訝りながら受け取って、そこにびっしりと、紙が黒くなるほど書かれた文字に目を通していく。
最初は余裕そうな顔をしていた長も中ごろになると目を見開き、ある程度まで進むと噴き出して笑った。
「アハハハハハハ!こりゃあいい!!確かにお前とお前の息子の物がこれだけあればコレに釣り合う!何よりこれだ。お前の嫁さんの指のサイズを教えろ、息子が指輪を作るからソレを嫁にやれ。これはカカアが泣いて喜ぶ!!なんてったって『ふぁん』ってやつだからな!」
そう言うとグレスティル鉱をバリューに押し付けた。
「今からコレの持ち主はお前だ!」
バリューはそれを受け取ると同じように笑い、広場の端で見ていたシドに手を振った。
「シド!!うまくいったぞ!!!用意しろ!」
シドは小さく笑って手を振ると工場の方に歩いて行った。
バリューはグレスティル鉱を持って壇上を降り、他の参加者たちに揉みくちゃにされながらルイの方へ歩き、そして目の前で止まるとニカッと笑った。
ルイは訳が分からず首を傾げると、ルイの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「今すぐ直してやるから待ってろよ。何なら今までよりもうんと丈夫にしてやる」
そう言うと「ガハハハハ」と愉快そうに笑って工場へと向かった。
その言葉にルイは目を丸くしてバリューを見送ると、ぽつりとつぶやいた。
「……もしかしてあの鉱石って」
「ああ、使うみたいだな。フランシスカ“ちゃん”に」
「あの鉱石っていくらくらい……?」
「物にもよるけど……以前あの輝き方と色でこれ位のが出た時は、父さんの倉庫の中身の内、半分は出してたから100万くらいかな」
親指と人差し指で丸を作り、そう説明する。
「その大きさで100万って……あれだとどうなるの……」
その鉱石の価値と、そんな高価な鉱石を剣の修理に使う事に頭痛がしたルイだった。
競りが休憩に入るとシャルは工場へ手伝いに行った。
その間広場では子供たちの合唱とミュージカルが披露されルイは広場のベンチでその光景を見ていた。
そのミュージカルは以前ルイたちがフェスでやったモノに似ている。
正しくはルイたちがやっていたのはごく一部、森の花嫁の舞だけで他の命の神や人間、獣たちの舞は一切ない。
しかも歌詞がかなり違う……というか知らない言葉で聞き取れない。
けれど、見ているだけで自分が知っているモノとは違うというのは見て取れる。
「ほんっと、人間も馬鹿だけど大父君も大馬鹿よねぇ。人間に心を許したばっかりに。今代の苗は人間だって言うし、どれだけ肩入れして傷つきたいのかしら」
そう言うのは魚人族の女王。
女王の入っているタライの後ろにはずるずると引きずったような跡が見られ、女王の入っている水が少し汚れているだけでなく、額からだらだらと汗を流している。
どうやら退場先からここまで自力できたらしい。
その事に驚きながら、ルイは首を傾げた。
「やだ、アナタ。あの人間の子供と仲良いくせにほんっと何も知らないのねぇ。これだから人間は嫌なのよぉ。ただ数が多いってだけで情報の共有も助け合いもしないんだから。まぁ同種で殺し合いするような種族だしぃ、仕方ないかもしれないけどぉ。だからこそ信じられないわ」
「……話が分からないのですけど」
その言葉に女王は大袈裟にため息をついて、やれやれと肩と手をあげ首を横に振る。
「シャル、だっけ?あの子、もうすぐ『彼方送り』になるわ」
「彼方送り?」
「そ。あの子は『苗』だからねぇ。精神を彼方へ渡り次代の命の樹になるの。まぁ、肉体は滅んじゃうから此方的には死んじゃうんだけどねぇ」
「……え?」
ただ驚いているだけのルイに、女王は信じられないと不快そうな顔をして言った。
「本当に何も知らないのね、オトモダチなのに」




