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彼方への手荷物  作者: 涼詩悠生
第四章 ニイエケとユグとフォレスティ
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第四十八話

「じゃあ。お暇します。ごちそうさまでした」

「ごちそうさまです」


アップロックとユラは地下へと続く扉の前でにこやかに言った。


「はい、お粗末さまです。また明日ね」


そうエナが言ったが、アップロックもユラも動こうとはせず、ルイの方をじっと見ているだけ。

ルイは訳が分からず首を傾げた時、シャルが部屋からルイの荷物を持ってきてアップロックに手渡す。


「これ、ルイの」

「はい、確かに。では参りましょうか、ルイさん」

「……へ?」


どこに参るのか分からず、ルイは大きく目を見開いた。


「ルイさんは教会に泊まっていただくことになっているのですよ」


アップロックが優しくそう言うと、エナは胸の前で手を合わせる。


「ごめんね。うち部屋少なくて……それに男ばっかりでしょ?何か間違いがあっても困るじゃない?」


間違いがあったらいいのにと言うような表情で、全く正反対の事をエナは言った。

シャルはそれを聞きながら、「襲おうものなら返り討ちにあう」とか一瞬頭をよぎったが、ルイにキッと睨みつけられさっと視線を逸らした。

最近ルイの読心術が上達している気がしてならない。


「じゃあ……お言葉に甘えて」

「はい、また明日ね」


ルイが頭を下げるとエナは笑顔で手を振った。


「では、おやすみなさい」

「おやすみなさーい」

「おやすみなさい」


そう言ってランタンを持つアップロックに続いて地下への階段に足を踏みだす。

背後でパタンと扉の閉まる音が寂しく響いた。


「足元気を付けてくださいね。心配なら手を貸しますよ」


アップロックがルイの足元を照らしながらゆっくりと階段を下りていく。


「大丈夫です、ありがとうございます」


ルイも一歩一歩確実に階段を降りながら、にっこりと微笑んで答えた。

階段が終わると少し開けた所に出た。

そこの壁はレンガで覆われていて、まるで家の中の様に綺麗にされている。


「すぐそこの階段をあがれば教会です。鐘が鳴る前なら地上から行くんですけど」


そう言って正面にある階段をランタンで照らす。


「……どうして鐘が鳴ったら家から出てはダメなんですか?」


その問いにアップロックは困ったように微笑んだ。

ユラはルイの問いに気にとめることもなく、教会への階段を上っていく。

そして扉が開閉する乾いた音が聞こえると、アップロックは一つ息をついて答えた。


「このフォレスティの夜は、ヒトの領域ではないのですよ」





シャルはルイ達を見送ると自室に戻った。

月明かりだけが室内を照らし、まるで先ほどの馬鹿騒ぎがなかったかのようにシンと静まり返っている。

シャルは窓から外を見る。

そこには小さな妖精や精霊たちが、楽しそうに元素の花を抱えていたり談笑していたりしていた。

それはまるでヒトのように。

ヒトの形をしているモノ、獣の姿をしているモノ、形のないモノ、決まった形を成していないモノ。

その中で精霊も妖精も近寄らない、黒いコールタールの水たまりのような、スライムのような蠢くモノ。

それからは幾つもの黒い、様々な大きさ形の手が次から次へと湧き出ては消えていく。

時折頭のような形のものがごぷりと生えたかと思うと、キョロキョロと辺りを見回すように振った後またごぷりと沈んだ。

まるで、ナニカを探しているように。





「精霊や妖精ならまだいいのです。彼らはこちらが害を与えなければ襲ってくることはありません。どちらかと言えば友好的なモノ達が多い。けれど、問題はソレとは別の存在です」


アップロックは教会への階段を上り、扉を開いてルイを招き入れる。

そのまま二階、三階とのぼるとそこは広間になっていた。

四方をガラスで覆われたその部屋は、月明かりに照らされ白い石で覆われた床は青白く輝いている。

アップロックはランタンの火を消し、町を見渡せる位置へと移動する。

そしてルイの方へ手を伸ばす。


「さぁ、こちらへ。見えますか?不自然に精霊たちがいない場所があるでしょう」


ルイはアップロックの横に立ち、言われた場所を見る。

そこは異様に暗く、闇が渦巻くようだった。

そしてその中心には黒い水たまりのような、スライムのようなものが蠢いていて、手が生えては沈み、また違う大きさの手が生えては沈み、幾つかの手が生えてきたと思えば、ゆっくりと這うように動いたかと思うと頭のようなものが生えゆらゆらと揺れる。

そして頭が沈み、また手が生える。その繰り返し。


「あれは……シャル君が言っていることが本当ならば、なのですが。世界のありとあらゆる絶望、虚無、憎悪などの負の感情の塊なのだそうです。命の樹やホーリーガーデンで浄化できなかったモノがああやってこちら側に来てしまうことが多々ある、と。森へ還るなら森があれを吸収しまた彼方側に送りますし、町の中に居ても日の光を浴びれば溶けてなくなってしまうそうです。ただ、寄ってはダメだと」




捕らえられたら、闇から抜け出せなくなる。




……ずる、ぴちゃん

……ごぷり、ぴちゃん

くらい、さむい、なにもみえない。

なにも、ふれない、きこえない。

……ずる、ぴちゃん

……ごぷり、ぴちゃん

こんなはずでは。

ひかりに、つつまれるのでは、なかったのか。

……ごぷり

ドコダ、ドコニイル。

ナエハ、ドコニアル。


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