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彼方への手荷物  作者: 涼詩悠生
第四章 ニイエケとユグとフォレスティ
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第四十五話

「シャル兄!お帰りなさい!」


ギイと音をたてて扉を開いた途端、金髪のツインテールの少女がシャルに跳びかかる様に抱き着いた。

シャルはそれを抱き留めながら「ただいま」と返す。


「グレイスで見ないと思ったら帰ってたのか」

「うん!もうじき交換会でしょ?人手が足らないってお父様が」


そう言いながら視線がシャルからルイに移動する。

ルイにはその一瞬、刺すような鋭い視線になったように見えた。

苦笑して一歩下がる。なんとなく。


「シャル兄、その人は?」

「え、ああ」


そう言って振り返る。


「ルイって言うんだ。キュレスティアで知り合った」


それにルイはおずおずと頭を下げる。


「ルイ、こいつはユラ」

「ユラ・ブロッドウェイです」


ユラはシャルから離れ、スカートのすそをヒョイと摘まんで礼をする。

その姿はまるで人形のように可愛らしかった。


「シャル兄の恋人かなにか?」

「……いや」

「……違うよ」


首を傾げていうユラに、シャルとルイは否定する。

キュレスティアを発ってから何度もしてきた否定。


「そうなんだ」


ユラはにっこりと微笑んで、小さく「よかった」とつぶやいた。

その言葉は近くにいたシャルには聞こえない。

けれども、その唇の動きをルイは見ていた。

ぴくぴくと口の端が痙攣する。

……鋭い視線は気のせいじゃないかもしれない。


「父さんはと兄さんは?」

「工場(こうば)にいるよ」

「……母さんは?」

「ご飯作ってるー。今日の晩御飯はハンバーグよ♪とか言ってたよ。張り切ってたのはシャル兄がくるからだったんだね」


シャルの口の端がぴくぴくしている。


「と、とりあえず工場行ってくる。ユラ、材料が無事だったらちょっと避けといて」


その言葉にピンときたユラは、手を挙げて「はーい」と可愛らしく返事をしてキッチンに向かう。

シャルはルイに向き直り、「こっち」と言うと廊下をまっすぐに進む。

途中にある幾つかの扉の一つにキッチンに続くものがあり、扉につけられたガラス越しにユラがなにやらうろちょろしているのがちらりと見えた。

そうして突き当りにある金槌のレリーフがついた金属の扉を開ける。

開けた途端にもわっとした熱気が流れ込んできて、ルイは思わず「うわぁ」と声を漏らした。

扉の奥には煉瓦で出来た炉が一つと、いぶし銀の炉が一つ。

炉の前ではカキーンカキーンと小気味好い音を立て、がっちりとした体格のゴーグルをつけ、もじゃもじゃと髭をはやした大男が大きな金槌を振り下ろしている。

そしてその隣にある小部屋では、サングラスの様に色のついたゴーグルをつけた青年が作業台の上に置いてある何かをバーナーで炙っていた。

シャルは大男の近くに進み、大きな声で呼びかける。


「ただいま、父さん!」


その声に大男は手を止めないまま言った。


「おう、シャルか。ちょっと待ってろ、もうじき終わるから」


そう言ってカンカンと焼けた鉄を叩き、形を整えていく。

背後ではバーナーの音が止まり、ゴーグルをとりながら青年が歩みよってきた。


「お帰り。そっちはいらっしゃい」


そう言ってゴーグルを様々な用具が置かれている棚につけられている金具に引っかける。


「よしっと。手紙で書いてたのはその子か?」


整形を済ませた鉄を水の中にダブンと入れ、ゴーグルとグローブを外す。


「うん。ルイ、こっちが父さん。あっちが兄さん」


指さしながらそう言うと、ルイは頭を下げた。


「ルイ・ミドルイアです。お世話になります」

「バリューだ。よろしく」


大男……バリューはにかっと笑った。


「僕はシド。シャル、持ってきたなら見せろ」


シドはそう言うとさっさと自分の作業台に向かっていく。

シャルはそれを追いながら、荷物の中にある三つの袋を取り出し作業台の上にポンポンポンと置く。


「……またえらく派手に壊したな」


シドは袋を手に取り、眉根を寄せた。


「……治せる?」

「わからん。駄目だったとしても媒介の方は新しく作ればいい。こっちの二つはやってみないとどうにも言えないけど」


そう言いながらもシドの頭の中では三つの設計図を広げている。


「……頼むよ」

「おう、任せとけ」


心配そうに言うシャルの頭をわしわしと撫でながら、シドは優しく笑って言った。


「じゃあ、見せてもらえるかな?」


シャル達の姿を見ていたルイはバリューの言葉にハッとして、背負っていた剣の入った袋を下ろす。

中から鞘に入った両手剣を出し、そのままバリューに渡した。


「闘技会で壊してしまって……」

「ああ、聞いてるよ。セフィリアにやられたなら仕方ない」


そう言いながら鞘を抜く。

中心部分に入ったヒビや、剣の材質を確認する。

色んな角度から剣を観察してから、ルイににかっと笑いかけた。


「大丈夫。直せるよ」

「ホントですか!良かったぁ」


ルイは涙ぐみながら安堵のため息を漏らした。

バリューは剣を鞘に戻し。自分の作業台の横に置かれている籠の中に入れる。


「ちょっと聞くが、あの剣はどこで手に入れたんだ?」

「え、あ。お爺様にいただいたんです」


その言葉に目を細め、そうか、と言うとルイの頭の上に手を置いた。


「ちゃんと直してやるから」


そう言うとルイの頭の上から手をどかすと、家へと続く扉に向かう。


「ああ、そうそう」


ドリューは何かを思い出したかのように、振り返る。


「にこにこ現金払いか労働払いかどっちがいい?」

「あ、労働払い」


ルイの代わりにシャルが答える。

それに驚いてルイは勢いよく振り返った。


「……は?」

「そうかそうか。いやぁそっちの方が助かる。なんせ人でが足りないからな!」


ガハハハ笑いながら扉を開き、中へと消えていく。


「頑張ってね」


可愛そうに、というような眼差しを向けながら、シドはルイに声を掛けてドリューの後を追う。

ルイはジロリとシャルを睨む。


「お金ないし仕方ないだろ。俺だってやるんだから一緒」


シャルはルイと視線を合わせずそう言う。

その姿に拳をきつく握り、プルプルと震える。


「先に言って!馬鹿!」


怒って繰り出されるストレートは的確にボディをついた。


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