第二十七話
シャルはポカンと口を開けたまま、ルイの踊りを見ていた。
暫くそのまま固まっていたが駆け寄ってきたルイにどう言おうか考えて、深く深くため息をついた。
「とりあえず、エドガー探そうか」
どうしてそうなったのかルイにはさっぱりわからなかったが、シャルの事だから考えがあるのだろうと、素直にコクンと頷いた。
ルイが友人たちと企画していたダンス……というか踊りのリハーサルをしている最中、メンバーの一人が足を痛め踊れなくなってしまった、とシャルに泣きついてきたのは約30分前。
衣装を着て本番さながらやったのはいいが、張り切り過ぎて思いっきり滑ってこけて足を捻ったそうだ。
代わりを探すにも何にしても何を踊るかわからないので聞いたところ、
「んー、リリイのお婆様が小さい時に故郷で踊ってたのらしいんだけど……」
と何とも曖昧な返答を返した。
それでいいのか、と突っ込むのを必死でこらえ、シャルは「もしかしたら知ってるものかもしれないから踊って見せて」と頼んだ次第である。
そうしてシャルはルイを自室に着替えに帰し、キュレスティアの門の前で待ち合わせをすることにした。
「ごめん、お待たせ」
「……遅くない?」
「遅くない!」
少し息を切らしてやって来たルイに、シャルは訝るような視線を送る。
そうして頭のてっぺんから足の先まで見て、眉根を寄せた。
「……な、なによぅ」
ちょっとビクビクした様子で後ずさる。
その様子をくすっと笑い、シャルは背を向けながら言った。
「……そういう恰好普段もすればモテるのに」
「余計なお世話じゃあああああああああああ!!!」
ベシーンと小気味いい音をたて、シャルの後頭部を叩く。
ルイの恰好は普段のルイとは違い、女の子らしく。
いつものデニムはふりふりの柔らかい白い膝丈スカートに。
ボーイッシュなシャツを、水色のキャミソールと桜色のカーディガンに。
足元のスニーカーは小さな白と黒の花がついたヒールのサンダル。
人探しとは程遠い、そんな恰好は友人たちのしつこい助言の賜物。
「たまには女の子アピールなのよ!」
そう言ってぐっと親指を立てる友人たちの顔を思い出す。
……ほんとにそんなんじゃないんだってば!
シャルはいつもより速度を落として歩いた。
はぐれないようにしっかりと手をつなぎ、人ごみを縫うようにして目的の場所へと向かう。
慣れないヒールに転びそうになれば支えたり、時折振り返り「大丈夫?」と聞いたりした。
そのいつもとは違う対応に、ルイは少し顔を赤らめながら戸惑う。
これはとある姉妹の影響がかなり強く、『女の子』に対する対応としてエドガー共々身体に染みついていた。
……それは今までルイを女の子と見ていなかったとも言えるのだが、ルイにわかるわけがない。
ルイはどこに連れていかれるのかと、乙女なハートをドキドキさせながら頑張ってついていく。
かかとが痛い気もするけれど、そんなのはきっと気のせいだ。
そうして連れてこられたのは、子供の泣き声やら笑い声が響き渡る場所だった。
「すみません、呼び出しをお願いしたいんですけど」
「はいはーい。ちょっと待ってくださいねぇ」
シャルは受付の前に立ち、ふぅ、と一息つく。
その姿にルイは呆れたように、じとり、とシャルを睨みつけた。
「何するの?ここで」
「……呼び出し」
その言葉に「いやいや」と言いながらこめかみを押さえる。
何でだろう、軽く頭痛がしてきた。
「はいはーい。呼び出すコのお名前は?」
受付のお姉さんはにこやかに言って、紙とペンを持ってきた。
「エディ・ブロッドウェイです」
「はいはい、エディちゃんね、ちょっと待っててねー今呼び出すから。自力で来れるといいんだけど」
そう言いながら紙に名前を書いて拡声器の前に座る。
その拡声器は町中のスピーカーにつながっていて、放送できるようになっていた。
ぴんぽんぱんぽーん
「お呼び出しいたします。エディ・ブロッドウェイちゃん、エディ・ブロッドウェイちゃん。お兄ちゃんとお姉ちゃんが待っています。この放送を聞いたら迷子受付まで来てください。繰り返します。エディ・ブロッドウェイちゃん、エ」
「誰が迷子じゃ、どあほおおおおおおおおおおおお!!!」
放送中にもかかわらず、どこからか聞こえてくる怒鳴り声を聞いて、シャルはルイに向き直る。
「よかった、見つかった」
「うん、それはいいんだけど。もっと他に無かったのかな?」
顔を真っ赤にしながらこちらに向かっているだろうエドガーを想像し、ルイはエドガーにすこしだけ同情した。
「で、なんだって俺が迷子のお呼び出しをされなきゃなれないんだ」
エドガーは腕を組み、椅子に座って組んだ足をゆすりながら言った。
迷子の案内放送をした直後、本当に真っ赤な顔をしてエドガーは現れた。
その後ろを苦笑しながらサラがいたことにルイは大変驚き、何か言おうとしたところをシャルに肩を叩かれ、本当に残念そうに首を横に振った。
それが一体どういう意味なのかよくわからなかったが、馬鹿にされたような気がして脛にけりを入れておいた。
そんなこんなでとりあえず場所を「巨人と山賊」に移した、という次第である。
シャルは不機嫌極まりないといった様子のエドガーを気にすることなく、注文したカフェラテを飲む。
そうして何度か頷いてエドガーに視線を移す。
「交換会の時にする踊りって覚えてるか?」
その言葉にエドガーは目を丸くする。
「……あの悪趣味な奴か?」
こくりと頷いたのをみてエドガーは眉根を寄せた。
「覚えてはいるけど、何で?」
「……踊って」
「いやだからなんでだよ!」
「俺、女の方踊れない」
「意味が解らねーよ!」
エドガーは思わずテーブルをバン!と叩きながら立ち上がった。
シャルはカフェラテを飲みながらエドガーを見上げる。
「ルイの友人たちと出し物するらしいんだけど、その一人が足痛めて出れなくなって代役募集中」
そう言うと席の端に立てかけてあるメニューを取り出し、デザート欄を開く。
どれもおいしそうな写真が載せてあり、目移りする。
エドガーはそれを見て、イラっとしたが何とか沈め椅子に座る。
ちらっとルイを見ると、ルイもどうしようかと困っているようだ。
天井を仰ぎ、色々思考を巡らせる。
「お前にしか頼める奴いないんだよ」
親友にそう言われては断りたくても断れない。
ここで断ると遅く帰った時の夕飯がなくなる可能性もある。
むしろその可能性の方が高い。
ある種脅しに近いまなざしを向けられ、エドガーは深い深いため息をついた。
「わかったよ……やればいいんだろ、やれば」
半ば投げやりに、そう答えた。
シャルはそれを聞いてルイの頭をぽんぽん叩いて言う。
「よかったな」
ルイはその言葉に安心したように息を吐いた。
エドガーはその様子を見て、仕返しとばかりににやりと笑う。
「ところでルイのその可愛い格好は何?デートでもしてたとか?」
その言葉は仕返しになることは無く、どちらかと言えば逆に痛い目を見る羽目になる。
口は禍の元、というのをいつまでも学ばないエドガーに、サラは苦笑した。




