第二十四話
直径100mほどの円形のステージに、約50人もの人間が詰め込まれている。
ステージの円周には魔法で作られた網が設置してあり、それに円の外側から触れれば強力な電撃が走る仕組みになっている。
勿論、それを我慢してステージに入れればそのまま試合に参加できるが、戻れなければリタイアとなる。
そんな訳で、試合開始の合図と共に所謂「宣伝目的」の参加者は自主的にステージから降りることが多い。
彼らにとっての勝負は目立つことであるが、ステージに出てから開始までの間に良い宣伝ができれば充分なのだ。
わざわざ痛い思いまでして商売しようとは思わないらしい。
それで約1/3の参加者がリタイアした。
次にあちらこちらで戦闘が開始される。
その中に山奥に集落のある部族の戦士がいるのだが、彼は自らの持つ大きな棍棒をブンブンと振り回していた。
一振りすれば参加者の何人かは薙ぎ倒され、もう一振りすれば何人かの参加者はステージ外に打ち落とされる。
それはまるで腹を減らした獣のようにステージを暴れまわり、幾多の参加者をリタイアさせていくのだが、次の獲物をサラにしたのが運のつきだった。
サラはその棍棒の一撃をヒョイと一歩後ろに避け、次の一撃を下に避ける。
また次の一撃を右に避け、その次の一撃をまた下に避ける。
イラッとした戦士が次の一撃を加えようとサラの顔を見ようとした時、すでにそこにはサラの姿は無く、クリスタが腰につけてある剣の柄を握り締めて身を低くし戦士を睨みつけて剣を抜こうとするところであった。
「……ほう、あの者は抜刀術を使うのか……」
そうフグレルが言葉を漏らした瞬間には戦士はステージ上から消え去っており、クリスタは一瞬にして抜き攻撃していたのであろうその剣を鞘に戻すところであった。
その攻撃の瞬間は本当に一瞬で、観客の殆どはただ戦士が消えただけのように見え、クリスタが剣を抜いただけのように見えていた。
それほどクリスタの剣術は素早く、鮮やかなものだったのだ。
ちなみに防具なし、素手であるサラを狙うものは少なくなかったのだが、同じように避けながらわざとクリスタの陰に隠れる、という戦術を取っていた為狙われても返り討ちにしていた。
それは本当に自然に避けて、自然にクリスタに擦っていき、その後一瞬で片が付くので狙った本人でさえ何が起こったのかわからないまま控室にいる事になっていた。
それを止めたのがジェードだった。
ジェードが繰り出す剣技もまた見事なものだった。
彼の繰り出す剣技は切るよりも突くことが主で、速さもかなりのものであるが急所を的確に突く素晴らしいモノである。
サラは眉を寄せ、その攻撃を紙一重で避ける。
避けてはいるのだがそれは本当にギリギリで、サラ自身楽勝というわけではない。
時には他の参加者を盾にして時間を稼ぎ、体勢を立て直しまた避けるという状態だ。
……さすが我が国の騎士団副団長、といった所。けれど……
サラはそんなことを考えながら、やはり避けるだけ。
見ているのはジェードの瞳。
その色にあるのは焦り。
サラはため息をついて突きをふわりと飛び上がって避け、突き出されたジェードの剣の上にピタリと着陸する。
サラの重みでその切っ先が、ガン!という音と共にステージを作る石のタイルに当たる。
片足は地面、片足は切っ先に乗せた状態でサラはジェードを見、そしてVIP席にいるフレイアをちらっと見る。
「何故戦わないのです?」
その言葉にサラはため息をつく。
「それを聞くなら、何故私はこんなことをしなきゃならないのか聞きたいところなのだが。持ってきていた剣が使い物にならないのを知りながら、よくやってくれる。いい加減人をサンドバックにするのはヤメテほしいんだが」
その声は低い。
正直うんざりしていた。
ジェードと……特にフレイアの機嫌に振り回されることに。
剣がジェードの振り上げようとする力と、サラのその場に抑えつけようとする力でカチカチと鳴る。
ジェードは渾身の力を込めるが、びくともしない。
それどころか、ガン!とその剣先が沈み、ステージが直径30cmほど陥没する。
「聞いてる?」
ぞわり、とジェードの背筋に冷たいモノが走る。
普段とは違う低い声でその言葉を放つサラの目は殺気に満ち、ジェードはまるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「おやおや。あの温厚な我が姫君が怒ってらっしゃるなんて珍しいですね」
そうにこやかに言いながらカツカツと足音を鳴らし、クリスタは二人に近づく。
すでに他の参加者をリタイアさせており、ステージ上にはサラたち三人しかいない。
クリスタはジェードの2m手前で止まり、彼の表情を見た後VIP席にいるフレイアの表情を見た。
そうしてやれやれと両肩を一度上げ下ろして、首を何度か横に振りジェードに向き直る。
「お前、まだ抱いてないのか?」
その言葉にジェードの顔が怒りでみるみる内に赤くなる。
サラはその無配慮な言葉に呆れて、冷たい視線を送る。
「……常々思っているのだが。お前の無神経さはわざとか?天然か?どっちなんだ」
「おや、シアン様ともあろう方がこの私の事をわからないので?」
クリスタは心外だと言わんばかりに胸に手を当て、悲痛な表情をする。
そしてその直後、にやりと笑った。
「わざとに決まっているでしょう?」
その笑みはとても胸糞の悪くなるもので、ジェードを完全にブチキレさせるのには有り余るものだった。
サラはため息をついて剣を抑えていた足を上げ、一足飛びに間合いを取る。
いつもの事だが、クリスタのジェードに対する態度はとても酷い。
からかうという範疇を超え、嫌がらせ、いじめと言ってもいい。
「兄貴と一緒にするな!!!!」
顔を真っ赤にしたジェードは自由になった剣をその場で振り下ろし、ステージに直径1mほど陥没させる。
「一緒にするも何も、夜伽の命を受けてるだろう?して当然じゃないか」
飄々というクリスタに、ジェードは身体を怒りで振るわせ、それに合わせて剣もカチカチと鳴る。
「兄貴に何がわかる!命令と言われればさっさと何でもやってのけられ、仲間にも仕事にも恵まれてさっさと昇進して!!」
クリスタを睨みつけ、地面を蹴る。
そうして突き出した剣はクリスタにいとも容易く避けられる。
いくら繰り出しても避けられてしまう攻撃にジェードは悔しくなる。
半ば自棄になりながら攻撃するジェードを、クリスタは冷たく見る。
「……わからないに決まってるだろう。お前も俺の何をわかっているっていうんだ?」
そうして剣を抜く。
ガキン!という音と共に、ジェードの攻撃が止まる。
そうしてクリスタの表情を見た。
目が合ったのを確認してクリスタは剣ごとジェードを薙ぎ払った。
そうして倒れるジェードを見降ろして不敵に笑って言う。
「さぁ、久しぶりに兄弟げんかを始めようか」




