第二十三話
ジェードは闘技場の出場者控室に居た。
身に着けているのはいつもの黒の鎧。
それはカドリアの騎士団副団長の証。
自分が誇りに思い、同時に悔しさをにじませるものだ。
自分の実力でここまで上り詰めたと思ったのは、就任した時。
それが違うと思い知らされたのはその翌日。
『王女抱いて出世できるなんてホント羨ましいよな』
同僚たちのそんな噂を耳にし、どうして今まで本当の意味での仲間に入れなかったのか理解する。
ちらっと視界の端に入っていた白の鎧をつけた同じ顔の人物と、自分が仕える者と同じ顔をした人物を見る。
なにやら真剣に、時折可笑しそうに話しているのが見て取れる。
その様子が余計にジェードの心を荒ませる。
どうしてあのような関係をあの方と築けなかったのか。
どうしてあいつは俺とは違い、仲間に囲まれるのか。
同じ生まれで同じ境遇で同じように鍛錬していたのに。
「えーと、シングル第五グループのみなさーん!そろそろ闘技場ステージに移動してくださーい!!」
スタッフの声にぞろぞろと参加者が移動していく。
サラとクリスタもそれにならい移動しようとする時、黒い鎧の男がいたことに気が付いた。
「また陰気な顔をしてますね。あ、あいつの場合はいつもですけど」
クリスタはにこにことしながら言った。
「……弟が沈んでいたら楽しい?」
呆れたように言うサラに、クリスタは「滅相もない」と大袈裟な素振りで、それでも顔は心底楽しそうに言った。
「弟が暗くなっていたらそれは心配になります。けれどいつまでもグズグズウジウジしてるやつって嫌いなんですよね。さっさと折り合いをつけるなり、逃げるなりすればいいモノを」
サラはその言葉に何も答えず、ただ歩いた。
……みんながみんな、そんな風になれたらいいのに。
階段を登り、二つの甲冑が向い合せでいくつも置かれた通路を通り、龍のアーチをくぐり外にでる。
割れんばかりの大きな歓声が聞こえ、太陽の光に目がくらむ。
額の前に手を置き日陰をつくり、辺りを見回し状況を確認する。
ステージの上には、とある物語の主人公を基にしたであろう恰好をした者が数人、ただ目立つ為だと思われる派手な格好をしている者が数人、肉体を見せたいのか無駄に露出の多い者が数人、男女問わずいた。
他にも山奥の部族の衣装をまとった戦士や、フェード国の騎士を表す紋章をつけた者等、力のたつ者もたくさん見受けられる。
どちらかと言えば後者の方が多いのであるが、そちらの方に目が行くのは仕方のないというという所か。
その中にジェードもいたが、VIP席をただ見つめているだけで表情はつかめない。
サラもその視線を追いVIP席に目をやる。
フレイアと青い髪の男が並んで座っているのが見て取れた。
「あの方はキュレスティアの城主、フラン様です」
「……そう、あの人が……」
そう言った直後、フランの唇が動いたのが見えた。
それを見てサラは眉根を思いっきり寄せた。
勿論、フレイアの表情は不機嫌そのものだ。
「どうかされました?」
クリスタは不審に思ってサラの顔を覗き込む。
サラは何か言おうかと口を開きかけるが、思いとどまって「何でもない」と言って首を横に振り、フレイアたちから目を離した。
それでもフランの唇の動きが頭に焼き付いて、離れなかった。
『キミハイッタイ、ドチラノキシヲ、オウエンスルノカナ』
……思いっきりためらいもなく、面白そうに地雷を踏まないでほしいな……
エドガーはがたりと立ちあがり、その拍子に持っていたお菓子がバラバラとこぼれた。
「あ!もったいなーい!ちょっとエドガーさん!お菓子こぼれてますって!ポップコーン!!」
ルイの言葉にエドガーはハッとしたように座り直す。
「ご、ごめん」
「いいですけどっ!あーでも良くないかも……いったい何があったんですか?セフィリア様の登場は明日ですよ」
こぼれたポップコーンをごみ入れ用にと持ってきていた紙袋に入れながら、ブツブツと言う。
エドガーは苦虫を噛み潰したような顔をして答えない。
ただ視線の先には白い騎士がこちらに視線を向けて、にっこりと笑っているだけだ。
……とても楽しそうに手を振って。
「そっち系の趣味でもあるのかな?」と不審に思いながら首を傾げるルイの肩を、シャルはトントンと叩く。
「なぁに?」
そう言って席に座り直し、シャルが指さした方を見る。
「え?……ええええ!?」
そこにはサラの姿があった。
格好は普段着のまま、なんの防具もつけず、武器すら身に着けていない。
「出るなら言ってくれればいいのに!っていうかあの装備で大丈夫なの?」
「大丈夫じゃ、問題ない」
後ろからフグレルがズイと顔を出し答え、ニヤリと笑う。
ルイが「うわぁ!」と驚いたのを見て満足したようで、席に座り直しポップコーンをポリポリ食べながらサラを見つめて言った。
「あの嬢ちゃんは先のパーティー戦を見た所、暗器を使うのが得意のようじゃ。それには外に着ける装備は邪魔になることが多いからの」
ルイはフグレルの説明を聞いてまた首をかしげる。
それを見て横に置いていた杖でポカリと頭を小突いた。
「暗器は大抵服の下に隠すものじゃ。その上に装備があっては取りたいものも取りづらかろ。背中がかゆいのに届かないあの歯がゆさみたいなものじゃ。その点、孫の手を考えた人間は頭がいいのう」
「……は、はぁ……」
そのわかっていないような様子に、ポンポンと頭を叩きフグレルは言う。
「何事も上っ面で見てはならぬ。もしかしたら自分が知らぬような事が隠されているかもしれんからの。何事も疑ってかかれとは言わぬが、色んな方面から見れる様に日ごろから心がけるとよいの」
そうすれば、自分の理解できぬ事に直面したとき役に立つかもしれんからの。
そういうフグレルは遠い日を思い出すように目を細めていた。
ルイにはまだよくわからないことだったが、長い年月を生き幾多の戦いを潜り抜けてきたフグレルがそう言うのであればそういう事も必要なのだろうと、半ば無理やり納得する。
「始まるみたいだぞ」
シャルの言葉にステージに目をやる。
進行役の女性が魔法具の拡声器を持って、メインステージから少し離れた場所にある高台にあがる。
その姿はバニーガールなど露出度の高いベタなモノではなく、体のラインがわかるほどピッタリとしたワイシャツにスリットの入ったミニスカート、顔には黒ぶち眼鏡をかけ、高いヒールのパンプスを履いていた。
それはそれでイイと多くの客から好評だったりする。
「さて、それでは第五グループの試合を始めたいと思います!ご存知かと思いますが、個人戦では予選をバトルロイヤル方式、決勝戦をトーナメント方式で行います!予選の制限時間は2時間!勿論、パーティー戦同様死が確定した瞬間に脱落者控室に飛ばされますので死ぬことは一応ありません。が、いたぶって遊ぶなんてことしないでくださいね!それでは始めたいと思います!皆さん、張り切ってどうぞ!」
進行役の女性が手を上げ、下ろした時、銅鑼の音が響き渡った。
個人戦予選第五クループの試合、開始である。




