第二十話
パーティー戦の優勝は、セフィリアとエトラのパーティー。
次にシャルのパーティーとなった。
シャル達が準優勝となったのは、セフィリアが参加者を次から次へと倒していったからで、シャルが何かしていたわけではない。
しいて言うならば、引きずり回しながら戦闘され、ひと段落すると「契約魔法を使ったことについて」と散々に説教されたくらいである。
そんなことを繰り返しているうちに参加者はセフィリアとエトラ、シャルを残し全滅となった、という次第である。
ルイは愛剣を抱えてキュレスティア城下町をうろうろとしていた。
表情は半ば泣きそうで、どうしたものかと困っているようにも見える。
そして一軒の鍛冶屋を見つけ、中に入る。
「いらっしゃい」
「すみません、これ見てもらえませんか?」
体格の良い鍛冶屋の旦那が出迎え、剣を受け取った。
それを鞘から抜き、思わず目を細める。
「ほぉ、これはまた素晴らしいモノをお持ちで……っとひびが入っていますね」
ルイは頷き、大きな瞳をうるうるさせて言った。
「おじい様にもらった大事なコなんです。それに個人戦にも出なくちゃいけないし……なんとか直りませんか?」
その必死な様子に、旦那は「ちょっと待ってくださいね」と言ってルーペを取り出し、剣をくまなく観察する。
一通り見終わったあと、困ったように顔を歪め、首を横に振った。
「すみません、うちでは無理ですわ」
「そこを何とかお願いします!もう何件も回ったんですがみんな断られてしまって……も、もう、ここしか……」
泣きそうになって声が詰まる。
旦那は後頭部をポリポリと掻き、天井を仰いで思考を巡らせた後ルイに視線を向けて言った。
「この剣には特殊な鉱石が含まれてまして、うちではそれを加工する炉がないんですわ。この鉱石を扱える鍛冶屋は、この国中回っても数か所しかないと思います。鉱石自体も癖のある奴で加工するには技術もかなり必要でしてね……こいつを扱えれば名も売れるってもんなんですが」
そう言って剣を鞘に納めてルイに差し出す。
「申し訳ない、私には無理です」
と頭を下げた。
ルイは剣を受け取って大事そうに胸に抱き、「……そうですか」と肩を落とした。
そうして無理やりに笑顔を作る。
「すみません、ありがとうございました。失礼します」
そう言って店を出た。
そうしてまたキュレスティア城下町を彷徨う。
……どうしよう。
シャルが闘技会の治療テントから戻るとき、鍛冶屋から出てくるルイを見つけた。
話しかけようかどうしようか迷っている間に、ルイは鍛冶師や鍛冶屋を巡り始めたせいもありタイミングを逃し続けた結果、ストーカーのように後をつけるといった感じになっている。
それに気が付いて首を横に振り、寮に戻ろうと踵を返そうとした時、ルイががっくり肩を落として鍛冶屋から出てきた。
それは風が吹いただけでも倒れそうなほどの落ち込みようで、シャルはひとつ大きなため息をついて頭をガシガシと掻いて早足で歩き出した。
そうしてルイの肩をつかむ。
振り返って見上げてきたルイの顔は涙で濡れていて、思いがけない状態にどうしたものかと固まってしまった。
「……あ、シャル。お疲れ様、今帰り?」
ハッとしたようにルイは涙を裾で拭い、笑顔を向けた。
その様子がとても痛々しく、シャルは眉根を寄せた。
「……どうかした?」
何も答えないシャルにルイは首をかしげる。
……それはこっちが聞きたいのだけど。
思っていても声には出さない。
聞いていいものかどうかも迷う所だった。
暫く悩んだ末、シャルはルイの腕をひいて人ごみを抜けることにした。
「え?何?どこ行くの?」
シャルは答えずにずんずんと歩く。
どこに行こうとかは全く考えておらず、ただ、人通りが少ないところ少ないところへと足を進める。
そうしてついたところは海岸だった。
シャルは砂浜から離れた石垣に座り、ルイにもそこに座るように促す。
日はだいぶ傾いていて、水面は太陽の光を反射してキラキラとオレンジ色に輝いていた。
それをシャルとルイは見つめ、暫く沈黙が続いた。
それを止めたのはシャルのため息だった。
眉根を寄せ後頭部を掻き、もう一度ため息をついてから大きく息を吸って吐く。
「……どうかした?」
「……え?ええ!?いたっ!うぅ……」
思ってもみない言葉にルイは目を見開いて勢いよくシャルの方を向いた。
あまりに勢いが良すぎて首を痛めてしまい、その個所をさする。
その反応にシャルは思わずフッと笑った。
「笑う事ないじゃない!シャルが変なこと言うから悪いんだからねっ!うぅ……まだ痛い」
シャルは手を伸ばし、ルイの首を撫でる。
その行動に再び目を見開き、今度は硬直した。
「何かあった?」
「……いや、それ私が聞きたいんだけど。何、変な薬でも飲んだ?それともセフィリア様にいたぶられ過ぎて変なとこ打った?大丈夫?私わかる?あなたのお名前は?」
あまりの言われように手を引っ込めて眉根を寄せた。
「……別に俺冷血漢とかそういうんじゃないんだけど」
「うん、だれもそこまで言ってないかな。でも、自分から手を差し伸べるとかそういうのはしないタイプだと思う」
そう言われて、あぁそうか、と納得する。
それはシャル自身がしないように心掛けていた事だ。
手を差し伸べたとしても、後々自分も相手も面倒なことになるのがわかっているから。
「……気が向いたから」
「……さようですか」
そうしてまた海を見る。
「……剣にね、ひびがあるんだ」
それを聞いてシャルは大体の予想が付いた。
「……あの時で?」
ルイは頷く。
セフィリアの攻撃を受け止めたその剣は、砕かれなかったもののひびが入った。
通常の剣であれば受け止めた直後へし折られ、持ち主ごと薙ぎ払われているところだ。
サラの剣がいい例だろう。
セフィリアの剣を一度でも防いだその剣は通常のモノではないことが知れる。
「鍛冶師さん回ったんだけど、なんか特殊な鉱石使ってるみたいでさ。みんな無理だって断られちゃった」
投げやり気味に笑い、剣をギュッと抱きしめる。
「私が騎士学校に入るときにおじい様からもらった物なの。みんな反対してたのに、おじい様だけ頑張れって応援してくれて……」
ぽたぽたとルイの手や剣に涙が落ちる。
シャルはその様子を見ずに感じ、どうしようかと考える。
直せそうな人間に心当たりはあるものの、今から会いに行くのでは個人戦に間に合わないのでどうしようもない。
しかし、個人戦に出なければルイはグレイス校に戻ることになるだろう。
達人は道具を選ばないというが、ルイは達人ではない。
すぐに代わりの剣など見つかりはしないだろう。
そうして色んな策を考えて、頼りになりそうな人間に目星をつける。
正直言えば、その人物に頼るのはとても嫌だし癪だった。
後々何させられるかわかったものではないし、面倒くさい。
……それでも。
シャルは立ち上がってルイの前に立つ。
不審に思ったルイが顔を上げるとしゃがみ、袖で涙をぬぐった。
滅多にない行動に目を瞬かせていると、シャルはいつになく真剣な顔をして言った。
「まだグレイス校に帰りたくないか?まだキュレスティアにいたい?」
ルイはこくんと頷く。
「どうしても?」
真意も何が起こっているのかもわからない状態で、ルイはただシャルの眼を見た。
傍目からみればただの黒い瞳なのだが、闇のように黒いもやのような物が瞳で渦巻いている。
それにのまれそうになりながらも、ルイは頷き答えた。
「どうしても。まだまだ魔法剣士にもほど遠いし!なにより魔法も好きだし、知らないことが多すぎるからね!」
それを聞くとシャルは手を離し、立ち上がる。
「行くぞ」
困惑しているルイにシャルは笑いかける。
それは初めて見るシャルの本当の笑みだった。




