第十八話
「パーティー戦決勝の観戦チケットあるよ!もううちでしか売ってないよ!」
「にーちゃん、観戦するならうち寄ってきな!酒もつまみもあるよ!!」
闘技場前はパーティー戦決勝ということもあり、かなりの賑わいとなっていた。
闘技場前の店舗からの呼び声の響き、ダフ屋がチケットを売りさばく。
クリスタは片手に飲み物、片手にお菓子がたくさん詰まった紙袋を抱えて闘技場に入る。
その足取りは軽い。
闘技会パーティー戦の決勝が始まろうとしていた。
シャル達は森の中に転送された。
シャルが周りを見渡すが、やはり人の気配はない。
「とりあえず、森を抜けるところからだな……」
エドガーの言葉に他の三人は頷いた。
サラ以外の3人はこういった障害物の多い場所での戦闘に慣れていないからだ。
エドガーは空を仰いで太陽の位置を確認する。
ドーン!という大砲の音が聞こえ、4人は媒介を起動させた。
そしてエドガーは走り出した。
「え、ちょっと!!」
「後について大丈夫だから」
焦るルイにそう言ってシャルも駆ける。
慌てて後を追うルイとサラは意味が分からないといった感じだ。
エドガーは何かを確認しながら方向を決めているようで、時折止まっては空と草木を観察してまた走る、という動作を繰り返していた。
木の根や少し大きめの石に足を取られて転がるように転ぶという事を2、3回繰り返し、草や落ち葉、水たまりに足を滑らせて横に転ぶというコントのような事も2、3回繰り返していた。
そうして駆けて辺りが明るくなってくるころには、エドガーの身体は泥と切ったり擦りむいたりしたときに出た血液でとても汚らしくなっていた。
「ようやく出てきたわね」
森を抜けた瞬間に、そう言われた。
それを見た瞬間にエドガーとシャルは「っげ」と思わず言ってとっても嫌そうな顔をした。
直後、パシンと鞭を地面に振るう音がしてその表情を引っ込めたのだが、どう頑張ってもひきつったままだった。
森の前で待ち構えるようにして立っている二人の女性はとても独特の雰囲気を持っていた。
所々に赤黒いシミがある純白のベールと修道服を纏っている女性はとても大きな両手剣を片手で担ぎニヤリと笑っていた。
それとは対照的に、黒のレザージャケットと丈が腿までしかないレザーパンツを着て網目の大きなタイツとヒールのパンプスを履き、柄に真っ赤な石がひとつ付いた黒く長い鞭を持った女性は顔に蝶の形の仮面をしていたが明らかに不機嫌である、といった表情でシャルとエドガーを睨んでいた。
「森を抜けるのが遅いわよ。都会暮らしで勘が鈍ったのかしら?それとももっと鍛錬が必要なのかしら?どちらかしら、エディ」
エドガーは答えなかった。
否、答えることができない、という方が正しいのかもしれない。
目の前に仁王立ちしている二人には、どう返しても同じ事にしかならないからだ。
シャルはどうにかして逃げようと辺りを見回してみたが、人どころか小動物でさえも居ない。
「ちょっと、二人とも。早いってば。サラが居てくれなかったら私完全に迷子だよ迷子」
少し息を切らして森から出てきたルイとスタッと木から飛び降りたサラに、修道女の女性は「あら」と視線を向けた。
そして満面の笑みを浮かべる。
「……あ」
「サラ、ルイ!逃げろ!!!」
「まああああああああああ!可愛らしいお嬢さん!!!」
エドガーが大声で言ったのと、修道女が目にもとまらぬ速さでサラとルイを抱きかかえたのは同時だった。
戸惑う二人に、修道女は腰に手を回しにっこりと微笑む。
「あなたたちお名前は?どうしてこの闘技会に?よかったらこの後お茶しない?お姉さんが楽しい事じっくり教えてあ、げ、る」
軽くウインクしてそう言う姿をみて、蝶仮面の女性とシャルとエドガーはげんなりした様子で頭を軽く横に振ったり、こめかみに指を当てて苦い顔をしたり、イライラした様子で腕を組み貧乏ゆすりしたりしていた。
「え、えっと……」
同性にナンパされるという状態に戸惑っているサラとルイはエドガーとシャルに助けを求める視線を送るが、二人して目があった瞬間にさっと逸らされた。
あわよくば、二人をエサにして置いて逃げようとまで考えていた。
「あら、女性を放って逃げるつもり?男の風上にも置けませんわね」
そう言って蝶仮面の女性はパシンと鞭を鳴らす。
「いえいえ、そんな、滅相もありません。なぁ」
エドガーに振られてシャルはうんうんと頷く。
事態を呑み込めないルイは、一向に助けようとしない二人にしびれを切らして暴れた。
「うおっと」
あまりの暴れぶりにバランスを崩した修道女は手を離して一歩下がり、体勢を立て直した。
「助けてくれたっていいでしょ!それなのにビクビクして動きもしないで!いったい何だって言うのよ!!巨人族と戦うのにもそんなビビらなかったくせに!」
ルイの言葉にエドガーとシャルは顔を見合わせ、頷き合った。
「……びっくりするなよ」
シャルがそうルイに言った。
ルイはそれに不審に思いながらも、イライラした様子で両腕を組み、指で腕をとんとん叩く。
「何に」
エドガーは修道女、蝶仮面二人を順に指さし「俺の姉」と言った。
「……は?」
意味が分からないといった様子で眉根を寄せる。
「だぁかぁらぁ!!!その二人は俺の姉なの!!そこの蝶仮面つけてるのはエトラ・ブロッドウェイ」
「……へ?」
ルイは首を傾げた。
その名はキュレスティアの学園長の名前だ。
蝶仮面の容姿をよくよく見ればそう見えなくもない。
まじまじと見ていたらにっこり微笑まれた。
「んでそこの女ったらしの血染めの修道女が、セフィリア・ブロッドウェイ。ここの闘技会個人戦5回連続制覇の記録も持ってる」
バッと驚いた様子で振り返る。
セフィリアはにっこりと微笑んで手を振っている。
「良かったな、憧れのグレイス校の英雄だぞ」
シャルの一言でルイの眼が落ちそうなほど見開かれる。
「よろしくね、子猫ちゃん」
そう言ってウインクして投げキッスとかする。
「う、う……うそだあああああああああああああああああああああああ」
ルイの絶叫が裏山に響き渡る。
ルイの憧れのグレイス校の英雄像が、ガラガラと音をたてて崩れていく瞬間であった。




